2008年10月30日木曜日

日本人類学会

11月2日に行われる日本人類学会シンポジウムにて発表します.

タイトルは,「ヒトゲノム中の塩基配列多型と遺伝性疾患との関係について」.最近機会があるとよくしている話です.内容は現在投稿中.

人類学会の参加は大学院生のときに発表して以来となります.久しぶりなので楽しみなところ.人類学というとどうも骨とか遺跡とかのイメージが強いですが,遺伝を扱う分野ももちろん存在します.人類学とは,自然科学としてヒトを研究する学問分野です.

医学と違って人類の健康のためにではなく,知的探求心から研究を行っている人が多いでしょう.もちろん医学の発展によって寿命が延びれば幸せな人は増えるでしょうが,人には知的な探求心が満たされることによる幸せも大切である,僕はそう思っています.

「人類遺伝学会には入っていないんですか?」と最近よく聞かれます.僕は人類学会と遺伝学会には入っていますが,人類遺伝学会には入っていません.紛らわしいですね.

入った方がいいなとは思ってるんですが,会費が高いのが難点.アメリカの人類遺伝学会大会には一度出てみたいとは思っています.

2008年10月29日水曜日

久々にアクセプツ

半年ぶりくらいの論文受理

Duplication and Gene Conversion in the Drosophila melanogaster Genome.
Naoki Osada and Hideki Innan. PLoS Genet.

実は,去年出版された12種のハエゲノム論文の前に完成していたのですが,それが出るのを待って,さらにリジェクトやらリバイスやらで結構かかってしまいました.もう少し遅くなるとタイムリーな話題ではなくなってしまうので,なんとかなって一安心です.

内容はD.melanogasterのゲノムを調べて,最近起こった遺伝子重複をしらみつぶしに見ていったものです.遺伝子変換の検出法や,重複遺伝子の機能分化が重要なときには遺伝子変換を抑制する淘汰がかかる例を示しています.

ハエのゲノムには重複遺伝子が少ないので,一つずつ
丁寧に重複を見ていくことが可能でした.線虫のほうが重複遺伝子はずっと多いんですよね.こういった研究はコンピュータで大量のデータをスクリーニングして結果をだして終わり,なことが多いのですが,一歩進んで泥臭いことをやっている仕事です.

2008年10月27日月曜日

PCRの増幅率と数列


来週に近所の中学校で簡単なDNA実験を教えることになっています.先週に別の講師がPCRの増え方の細かいところを教えたのですが,少し難しかったようなのでもう一度復習しようと思います.

さて,教科書的にはPCRによってDNA分子は倍々,つまり2のn乗で増えていくということですが,実際には違います.鋳型のゲノムからは1サイクルあたり常に2n本のプライマーから下流にのみ増幅されたDNAが合成され,さらにその2n本のDNAからプライマー間のみを増幅した短い断片が合成されていきます.図は3サイクル目の増幅を示したものです.

と,ここまで来ればDNAの分子数をnで簡単に表せるなぁと思ってたのですが,高校の数学を忘れてしまったので教科書を読みなおす羽目に...

漸化式を立てるとnサイクル目の短いプロダクトの分子数は,an+1=2an+2n.

両辺を2n+1で割ってbn=an/2nと置くとbn=bn-1+(n-1)/2n-1,

上の式を1からnまで両辺を足し合わせていくと,

bn=1/2+(2/22)+...+(n-2)/2n-2+(n-1)/2n-1,

両辺に2分の1をかけてもとの式から引くと,

bn/2=(1/2)+(1/2)2...+(1/2)n-1-(n-1)/2n

bn=(2n-2n)/2n,

したがって,an=2n-2n,ということになります.短い断片は4サイクル目で8分子,5サイクル目で22分子,以下52,114となるはずです.

高校の数学って結構忘れてしまってますね.いい勉強になりました.ただ,毎回2倍で増えていって,そのうち2n分子は半分の長さのDNAなので引き算する,って考えるだけでも実は良かったりします.結果を見てから気づいたのですが.

2008年10月22日水曜日

論文の別刷り

海外から論文の別刷りを下さいというメールが.しかしよく読んでみると全く身に覚えのない論文です.

おそらく似た名前の人と間違えているのでしょう.検索してみると,確かにN Osadaさんが著者に入った論文でした.で,Googleの検索先はJ-stageの論文アーカイブだったので,PDFがダウンロードできました.すぐに返事を書きます.

「人違いだよ,PDFを添付するからここに載っている連絡先にお願いしてね」

送ってから気づいたのですが,相手が欲しいのは論文の別刷り.PDFを添付したので既に目的は達成されてますね.あれ?

「人に聞く前にググれ」.これは僕のやり方です.

「調べる前に人に聞け」.TV局のADはこう習うという話を聞いたことがあります.

2008年10月16日木曜日

名前を明かす査読者

長らくペンディングになっていた論文がそろそろ通過しそうな感じです.3人のレビュワーとも細かいコメントが少しなので,おそらく通るでしょう.最近は机の上に論文がたまる一方なので,少しずつでもはけてくれると助かります.

共著の論文と自分がメインの論文のバランスを取るのはなかなか難しいです.手伝いで論文数が増えるのはエネルギーコストの面からもうれしいですが,それも数が増えすぎると手に負いきれません.もう少しシニアになってラボのボスになってしまえば割り切れるのでしょうが,若いうちは自分が計画を立てた研究で論文を書きたいという欲望がふっきれません.

と,一人のレビュワーは,いつもそうしているとのことでわざわざ最後に自分の名前を書いてくれていました.フェアな精神が感じられます.ボロクソにけなす時も自分の名前を明かすのですから,相当な覚悟が必要でしょう.

少しかっこいいと思いました.でも真似はしません.

2008年10月14日火曜日

柏の葉キャンパス

久しぶりに柏の葉キャンパスを訪問して,大学院生向けの講義をしました.

僕が一年弱通ってたころは周りに何もなかったのですが,随分開けて過ごしやすくはなっていそうです.特につくばエキスプレス駅の周辺は2年前ですら想像もつかないほど開発が進んでいました.さすが東大パワー.

講義ではおそらく普段習わないような進化の話を中心に進めました.柏の葉キャンパスの学生さんは割とテクノロジーオリエンテッドなところがある印象ですが,バイオロジーオリエンテッドであってほしいという願いが込められています
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2008年10月12日日曜日

人類学絵葉書

右の写真は,学生の頃に学生室の大掃除で見つかった絵葉書です.危うくゴミ箱に捨てられそうになっていたものを救い出しました.台湾の先住民族の写真で人類学会発行と書いてあります.

人類学の歴史はとても古く,明治時代の坪井正五郎先生にさかのぼります.最近はJournal @chiveで人類学雑誌創刊号も見ることができます.

しかし,これは貴重な資料かもしれませんが,何故に絵葉書なのか.こんなものを送りつけられて喜ぶ人はいたのか.なぞは深まるばかりです.

2008年10月10日金曜日

2008年ノーベル賞

理論物理にGFPと,今年は日本人のノーベル賞受賞が多くて話題になりました.めでたいことです.

しかし,マスコミの加熱報道を見ていると,逆に日本の科学の将来はどうなるのかと心配になってきます.

資源の乏しい日本が成長を続けるには科学技術の発展と人材育成が重要である.もっともです.しかし,日本のために働こうと思って科学者になった人はごく少数でしょう.科学の世界に国境が無いのは当然のことです.

2008年10月3日金曜日

Figures

論文を読むと必ず目にする図表,時間がないときは図と表だけざっと見てその論文の主張を理解しています.

僕が研究をやっていて一番面白いのは図を作っている時です.出てきた生のデータを加工して直観的に何かを主張できる図ができた時の喜びはひとしおです.データ解析をやっていて思うことは,生データを如何に処理するか,そして図を見たときどれだけひらめきがあるか,が重要だということです.

これはまさに,乱雑な自然を抽象的な概念にまで落とし込むという自然科学研究の過程そのものであると思います.今まで書いた論文の図の中にもいくつかお気に入りがありますが,最近は色々とテクニックも身についてきたのでついつい凝りすぎてしまうことも.派手な図もいいですが,やはり一番なのはシンプルで直観的なものでしょうか.

というわけで僕は図は論文の命だと思っているので,たまにExcelそのままの図が載った論文なんかを見るとがっかりしてしまいます.見てくれではなく,Excelのグラフをそのまま使うということはそれだけデータの扱いをぞんざいにしているように見えるからです.とはいえちょっとしたデータを扱うときはExcelは便利なんですよね.

とりあえず,「背景がグレー」「棒グラフの色が左から水色,黄色,紫」「横に罫線が入っている」「意味のない立体棒グラフ」はアウトだと思っています.

逆に「背景を白に」「棒グラフの色をディフォルトから変える」「横罫線は消す」「棒グラフの枠線を消す」「プロットエリアの枠線をグレーから黒に」とExcelのグラフっぽく見えなくなるのでOKかと思います.フォントはもちろんMSゴシック以外で.