2011年3月25日金曜日

メールサーバー

地震の影響により遺伝研のメールサーバーが頻繁に止まっています.

GMAILのアドレス(nosada17@)までメールを送っていただければすぐに見ることができます.

2011年3月21日月曜日

リスクと確率

原発の事故に対応して,多くのニュースが放射線の生物に与える影響について解説しています.ちなみに僕は放射線取扱主任者の第一種免許を持っていますが,原発についての知識はあまりなかったので(随分前に,結局は蒸気で発電していると聞いて随分原始的だなと思った記憶はありますが),今回の事故で改めて原発というものについて考える機会を持つことができました.

この問題で難しいのは,放射線の影響の多くは確率的影響だということです.臨界事故などで 一度に大量の放射線を浴びれば,放射線を浴びた人にはほぼ確実に健康被害が出ます.それに比べて確率的影響というのは発癌のリスクが浴びた量にしたがって上がるというものです.また,ある人が後々に癌になった時に,それが放射線の影響だったのか,それともそうでなかったかの区別は本質的につきません.ヘビースモーカーが肺癌にならなからかったといって,タバコが体に悪くないという証明にはならないのも癌という病気がそもそも確率的に起こるものであるからです.

もちろん,リスク上昇がかなり高い場合は迷わず避難・防御行動をとった方が良いでしょう.しかし,リスクが比較的低い場合はそれぞれの人に判断が求められます.また,個人のリスクは少なくても公衆全体でみてみると無視できないリスクがある場合もあります.

例えば,隕石が降ってくるかもしれないので外を歩かないとか,交通事故が怖いので一生自動車に乗らないという人がいたら周りから笑われるかもしれませんが,肺がんになりたくないのでたばこを吸わないとか,肥満を防ぐために高カロリーの食事を控えるというのは社会では一般的な考えです.どこかにこういったリスクの一覧表があると便利なのかもしれませんが,われわれは普段からこういったすべての数値についての知識はないわけですから,個人の経験と感覚で判断します.実験動物のデータでは,あまりカロリーを取らずおとなしく生きることが寿命を延ばすことが証明されていますが,じゃあそういう生き方がいいかどうかというのはまた別の話です.

ある程度の量の放射線が体に与える影響については,完全ではないにしろ統計がとられているので,どれくらいの被ばくによりどれくらいの確率でわれわれの寿命が縮むかということがわかっています.現在報告されているレベルの放射線量は,それよりも相当低いレベルですから,東京に住んでいる人が放射線を恐れて家の中でカップラーメンばかり食べていたら,そちらの方が寿命を縮めているという皮肉なことになるかもしれません.

僕自身はリスクにはあまり頓着しないおおざっぱなタイプです.程度の差こそあれ,人間は誰でも寿命を縮めながら生きているからです.何もしなくて寝ているだけでも,寿命は一秒ずつ少なくなっていきます.ただ,まったく頓着しないというのではなく,常にある程度のリスクのイメージを持っていることは,間違いなく将来のリスクを減らす行動であると思います.

2011年3月19日土曜日

帰国します

当初東京経由で帰国する予定でしたが,交通事情も考えて関空経由で帰国することにしました.来週から岡崎でシンポジウムに参加する予定でしたが,残念ながら延期となってしまいました.シカゴ時代のボスのChung-I Wu教授が来週台湾に寄った後に日本に来る予定だったのですが,残念ながらすれ違いになります.

一週間の台湾出張も本日で無事終了です.最終日の台湾大学(NTU)医学部でのセミナーは,急な告知なのと進化の話ということで参加者はあまり期待していませんでしたが,予想に反して30人ほどの人が来てくれました.Academia SinicaのWen-Hsiung Li教授のラボからも数名話を聞きに来てくれました.

写真はNTU医学部のキャンパスです.台北駅の目の前で目の前に公園と博物館があり,なかなか良い立地条件です.

2011年3月14日月曜日

台湾にて

木曜日の巨大地震.最初はこれほど被害が大きくなるとは思っていませんでしたのでただただ驚くばかりですが,一人でも多くの方が助かることを祈っています.

さて,一時は中止も考えましたが,日曜日から台湾に来ています.月曜日からの停電に引っかからなかったので,割とスムーズにこちらに来ることができました.おもに台南の成功大学に滞在する予定です.

こちらの大学に顔を見せるようになってからかれこれ4年ほど経ちます.共同研究も行っていますが,一番時間を割いているのはこちらの学生さんに集団遺伝学とバイオインフォマティクスを教えることです.集団遺伝学は日本でもなかなか学ぶ機会が少ないと思いますが,台湾では尚更です.成功大学は南部の名門大学で,学生さんは暖かい地域に特有のいい加減さを持っていますが,割と熱心に話を聞いてくれます.ホスピタリティが高いので,いつも楽しく滞在させてもらって恐縮の限りです.

2011年3月5日土曜日

Shifting Balance Theory

遺伝研で行われている集団遺伝学の輪読会,今回はMatthew HamiltonのPopulation Geneticsを読んだのですが,先日無事に終了しました.初版だったので色々と(中には酷い)間違いもあり,もう少しこなれた教科書のほうが勉強になるのかもしれませんが,トピックの選び方といい内容の構成といいなかなか独特の教科書で,読んでいて結構楽しめました.

 特に,最後の章ではWrightのshifting balance theory(平衡遷移説)について数ページを使って解説しています.普通の教科書では数行で終わってしまうこの理論の解説を丁寧にしているところは興味深いでしょう.

生物進化が複雑な適応度地形をどのように局所解にとらわれずに大局解に近づくかという問題は常に進化学者の頭を刺激し続けています.環境が変われば最適値も変わるということは明らかですが,果たしてそれだけで説明ができるのか.先日のカウフマンのモデルもそのようなものを意識しているわけですが,数ある理論の中で,集団遺伝学を勉強した僕としては,やはりshifting balance theory自体には疑問符はつくものの,遺伝的浮動と自然選択のバランスを考慮するWrightのモデルに一番ひかれるわけです.

2011年3月2日水曜日

褒めるということ

先日五條堀さんがブログで褒めるということについて述べていたので一言.

科学者にとって批判的なものの見方が大事なことが言うまでもないことですが,肯定的なものの見方はさらに高度な能力を必要とすると思います.褒めることは叱ることよりも難しいのです.

たぶん,一番難しいのは「具体的に褒めること」ではないでしょうか.人の仕事を見て,この仕事はこういう意義があるということを評価するのはとても難しいことです.「具体的に批判すること」は科学者の基本的な行為というか日常的な業務ですが,褒めることに比べると簡単です.特に方法論について具体的な批判を行うことは,ちょっとした知識と論理があれば簡単です.

一番いけないのは,漠然とした批判,何も考えずに肯定,これは誰でもできます.無条件の肯定は最悪の部類に入るでしょう.

褒めることと批判することのバランスが大事なことは言うまでもありませんが,褒めることのほうが重要であることの理由の一つは,われわれ科学者は評論家でもありますが,基本的にはクリエイターを目指さなければいけないということに尽きると思います.否定ではなく肯定のほうが新しいものを生み出す確率は高いでしょう.

僕自身はついつい評論家に陥りそうな性格をしているので,年を取って左団扇になるまでは創造的な仕事にかかわっていきたいと意識しています.