2018年9月21日金曜日

We are Yaponesian!

新学術領域「ヤポネシアゲノム」がスタートしました.

世間への波及効果が重要視されるプロジェクトですので,半凍結状態であったTwitterを利用してヤポネシア関連の活動報告をすることにしています.

「日本人の起源」という言葉には僕も若い時から違和感を感じていました.国家という近代的な意識を排除(完全には排除できていないですが)した,ヤポネシア(日本列島)人という表現は,とても良い表現なのではないかと思います.ヤポネシア人(Yaponesian)というのは,歴史的に日本列島に共住したすべての人類を意味します.

もともとは作家である島尾敏雄さんが考案された,「日本列島」を示す言葉です.領域代表の斎藤先生のこだわりで,英語名はJaponesianではなく,読み方通りのYaponesianとなっています.

現在,公募研究の募集も行っています.多くの応募をお待ちしております.ヤポネシアンの一員へようこそ!

2018年9月10日月曜日

レビュー世界ランキング

Publonsというサイトをご存知でしょうか.論文のレビュー(査読)システムに関するいろいろな機能を集めたサイトなのですが,特徴的なのは自分が行ったレビューの証明を行ってくれることです.

研究者として一度論文を出すと,それに関連した論文の査読依頼が来ることになります.査読に対する謝礼を払ってくれるものもたまににありますが,基本的には論文査読はボランティアで行われており,自分が論文を投稿したときに誰かが査読してくれることに感謝しつつ,自分が査読を頼まれたときは快く引き受けることが建前となっています.

しかし,一般的に論文の査読は守秘性が高く,一部の雑誌を除き,自分がこの論文の査読者であるというような情報を公にすることはありません.したがって,どれだけボランティアとして査読作業に貢献したかということを証明することは困難でした.

このような面倒な確認作業を全部引き受けてくれるのがPublonsの機能の一つです.査読を完了すると,多くの雑誌では「査読してくれてありがとう!」という自動返信メールを送ってきます.サイトに自分のアカウントを作ってそれを転送するだけで,自分のプロフィールに査読数が加算されます.

前置きはここまで.Publonsのサイトでは,どの研究者がどれだけ査読を行ったのかをサーチすることができます(恐らくアカウントを持っているのは限られた研究者だけとは思いますが).現在,査読数で世界ランキング一位の方は,二位を大きく引き離して4700(!)の総査読数を誇っています.分野は医療統計学のようです.投稿が多い分野で幅広い範囲をカバーできる方だとこのようなことになるのでしょうか.

査読を引き受ける人がいないと,論文がアクセプトされることもないので,査読者のコミュニティに対する貢献はもう少し評価されてもよいかと思います(ネガティブなときの心理的ダメージが大きすぎるので,一般的に研究者は査読者に対して良いイメージを持っていませんが).そういった意味では面白い試みであると思います.アカウントが無い方は暇つぶしに作ってみてはどうでしょうか.

2018年6月13日水曜日

Comprehensive phylogenomic analysis reveals a novel cluster of simian endogenous retroviral sequences in Colobinae monkeys.

Comprehensive phylogenomic analysis reveals a novel cluster of simian endogenous retroviral sequences in Colobinae monkeys.

今年の4月に修士を卒業した池田君が中心となって作業を行った,SERV(サル内在性レトロウィルス)の分子進化に関する研究です.Vero細胞ゲノムのなかにあるSERV配列については,以前の記事で触れていますが,その発展として,国立感染症研究所との共同研究として行ったものです.

旧世界ザルはオナガザル亜科のサルとコロブス亜科のサルに細分化されます.SRVとSERVの研究はこれまで主にマカクザルを材料に行われてきましたが,いくつかの旧世界ザルゲノム配列を調べてみると,これまであまり調べられてこなかったコロブス亜科のサルのゲノムに多数のSERVが存在し,マカクなどのオナガザル亜科にみられるSERVよりも,外来性のSRVに近縁であることが分かりました.

また,感染に重要な役割を果たすenvタンパク質を見てみると,コロブスがもつSERVはオナガザルがもつSERVよりも,機能に重要なアミノ酸が保存されていることが分かりました.コロブス亜科のSERVは今後,SRVの研究を進めるにあたって重要な役割を果たすことになるかもしれません.

2018年3月1日木曜日

雑誌出版の闇

最近は知名度も上がったpredatory journals,所謂ハゲタカ雑誌と呼ばれるものですが,それ以外にも実態が怪しい国際シンポジウムなどからの勧誘メールが頻繁に来ます.今年になって特に多くなった気がします.

少し興味があったので,ほとんど実態がなさそうな国際シンポジウムのコミッティーメンバーの一人について調べてみました.

まずはオンライン雑誌のエディターの紹介記事
https://www.omicsonline.org/editor-profile/Dr_Alireza_Heidari/

ここではSouth California Universityのポスドクとなっていますが,教授バージョンのウェブサイトも沢山あります.無数の雑誌のエディターとして名前が出てきます.写真の背景にはアカデミック感が漂っていますが,オフィスというより図書館で撮った写真に見えます.

ちなみに,South California Universityという大学をサーチすると,
http://calsu.us/
所謂ディプロマ・ミルと呼ばれる,実態のない大学のようです.

更に怪しいのがGoogle Scholarでの業績,
https://scholar.google.com/citations?user=2yKnXwYAAAAJ&hl=en

2017年に1000回弱論文が引用をされていると出ているのですが,個々の論文の引用数をどう足しても1000回にはほど遠いようです.

predatory journalsへの出版についてNIHも警告を発しているようです.公的な研究費を使って怪しい雑誌に論文を出すことは極力避けるべきでしょう.
https://grants.nih.gov/grants/guide/notice-files/NOT-OD-18-011.html

世の中の闇を見たような気がします.

2018年2月20日火曜日

Novel endogenous simian retroviral integrations in Vero cells: implications for quality control of a human vaccine cell substrate

感染研との共同研究の内容がパブリッシュされました.
https://www.nature.com/articles/s41598-017-18934-2

Vero細胞のゲノム解析によるサル内在性レトロウィルスの同定に関する論文です.

日本語の解説が感染研ウェブサイトにあります

SERVの研究については引き続き行っていく予定です.

2017年9月8日金曜日

9月の学会・研究会

9月10-11日に札幌で行われる生物学機論研究会で少し話します.生物哲学の話が中心です.
https://sites.google.com/site/colloqfoundbio/home

今年は色々と用事が重なって,学会レベルの発表は行えていませんが,9月の末には生命医薬情報学合同大会が我々の研究科を会場にして開かれます.自分で発表はしませんが,当研究室の学生はほぼすべてポスター発表をする予定です.

9月12日に事前参加登録が締め切られますので,是非参加していただければと思います.
http://iibmp2017.ibio.jp/2017/

2017年6月16日金曜日

Cis- and Trans-regulatory Effects on Gene Expression in a Natural Population of Drosophila melanogaster

先日のG3論文に続き,首都大学東京の高橋先生らとの共同研究の成果をGenetics誌に発表しました.

遺伝子発現の進化がどのように起こっているかを知ることを目的に,ショウジョウバエを用いて特殊な交雑システムを作り,発現に直接影響を与えるcis変異と,間接的に影響を与えるtrans変異の効果を定量しています.

また,トランスポゾンの挿入が周囲の遺伝子の発現に影響を与える現象が,卵巣において特に強く見られたことにより,生殖細胞におけるトランスポゾン活性の制御が,周辺の遺伝子の発現に二次的に影響を与えていることが示唆されました.

Cis- and Trans-regulatory Effects on Gene Expression in a Natural Population of Drosophila melanogaster

2017年5月31日水曜日

生命情報解析学テキスト

現在学部生に行っている講義,生命情報解析学のテキスト資料を公開します.

まだまだ未完成なところや勘違い・間違いなどあるかと思いますが,バイオインフォマティクス,遺伝学,ゲノム科学などの基本的なところから勉強を始めるために,少しは役立つのではないかと思います.実際の授業ではこの半分以下しか教えられていません.

こういったものはいつまでたっても未完成なので,とりあえず前半部分を公開します.前半部分が基礎的な内容になり,後半がより応用的な内容になっています.インターネットで公開するにあたっては,図版の著作権が重要になってきますので,フリーライセンスまたは再配布が許可されたものだけを使っているつもりですが,お気づきの点があれば指摘いただければと思います.

PDFファイルはこちらのページで公開しています.

2017年5月30日火曜日

A generalized linear model for decomposing genetic, parent-of-origin, and maternal effects on allele-specific gene expression

今年修士を卒業した高田君が行った仕事がG3誌で公開されました.

A generalized linear model for decomposing genetic, parent-of-origin, and maternal effects on allele-specific gene expression

Reciprocal cross(正逆交雑)された個体間のアリル特異的遺伝子発現をみることにより,ゲノムインプリンティングによる遺伝子発現への効果を検証する研究が行われてきましたが,本研究ではそれに加えて,cis制御による変異の効果と母親の遺伝子型の違いによる母系効果を同時に推定する方法を考えたというものです.

G3誌はGenetics誌を発行するアメリカ遺伝学会が発行しているもので,PLOS ONEなどと同じく,メガジャーナルと呼ばれるものの一つです.

2017年2月7日火曜日

本棚:サピエンス全史

久しぶりの更新,しかもお正月休みに読んだ本の話で自分の怠慢さがよくわかります.

さて,この本は色々なメディアで取り上げられたようですが,一点だけ遺伝学者として指摘しておきたいところがあります.冒頭の方で,われわれホモ・サピエンスはただ一人の祖先に行き着く,といったような表現がありますが,これはよくある誤解です.

ゲノムに組み換えがなければミトコンドリアのように一つの共通祖先(所謂ミトコンドリア・イブ)にまでルーツを遡ることができますが,ゲノムには組み換えがあるので,異なったゲノムの場所は異なった共通祖先をもちます.したがって,我々のゲノムの祖先は一人に帰することは無く,無数にいると考えてよいでしょう.

そのほかの部分はとても楽しく読めた本でした.作者独自の視点が心地よく,いつもと違った観点から人類の歴史を眺めることができるでしょう.