Natureの論文
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature08736.html
ネズミの精子はヒトと少し違って頭が鉤状になっているのですが,それが塊になって受精に向かう意味についての研究です.
精子が受精するまでに経験する競争は苛烈です.無事に生まれてきた私たちは2億分の一の競争を生き残ったのです.
論文では,野生のネズミの精子の集合についての詳細な研究がおこなわれています.精子が協力してひと塊りになることによって,卵まで到達する確率があがるのですが,反面,塊を形成する過程で受精機能をなくしてしまうリスクもしょっています.
ただ,同じ遺伝子型を持った精子同士であれば,たとえ自分が失敗しても同じ遺伝子型を持った仲間が先に進んでくれるので,進化上は有利であると考えられます.したがって,精子が塊になって
面白いことに,乱婚型(一匹のメスが多数の雄と交尾する)であるネズミの別個体の精子を競争させてみると,同じ個体同士の精子が集まり合い易いことが分かりました.つまり,精子が自分の仲間と敵を見分けて協力し合っていることになります.(実際には表面のタンパク質の相互作用か何かで結合能力が決まってくるのだとは思うので,協力というのは擬人的な表現ですが.)
更に面白いことに,この自己,非自己の認識は一夫一妻型のネズミでは見られなかったということです.つまり,精子の敵対・協力システムは,乱婚型にとって有利であるために進化した形質であると考えられます.
この先,どうやって精子が自己・非自己を認識しているのか分子レベルまでさかのぼれると非常に面白いのではないでしょうか.もし見つかったとしたらどのような分子進化のパターンを示すのか興味がわきます.