2008年5月30日金曜日

台湾行脚

一週間台湾に滞在していました.今日が最終日.台南の成功大学,台北の台湾大学,中央研究院をまわって学生やポスドクとそれぞれ1時間ずつ,合計20人くらいとディスカッション.疲れ果てました.

台湾は実は進化生態関係のゲノム解析に結構力が入っていて,Solexaとか454のラージスケールのシークエンサーが日本に負けない数あります.中国にはその数倍ありますが.日本ももう少し頑張らないとヤバいですね.

中央研究院を訪ねて思いがけずシカゴ大学のWen-Hsiung Li教授に遭遇.メシを奢ってもらいました.彼が多くのゲノムプロジェクトを指揮しているようです.秋頃にもう一度訪れることになるかもしれません.

2008年6月2日追記

最近になって日本にもSolexaや454がある程度の数入ってきているようです.沖縄に沢山あるという話を聞きました.

2008年5月21日水曜日

捏造というより虚構

鹿児島大学での論文の不正騒動について,大学からの調査結果がありましたので,暇なときに目を通してみました.主として関わった方はすでに亡くなられているのでこれ以上の真相は闇の中です.

http://www.kagoshima-u.ac.jp/html/files/1079/080516gakuchokokuji.pdf

その内容に驚きました.

僕は捏造というとちょっと図をいじったとか,余計なサンプルを省いたとか,逆にサンプル数を増やしたりとか,そういうレベルで想像していたのですが.ほとんどの図が使いまわしの論文があったり,いないはずの患者がいたり,ここまでくると捏造というより虚構の世界です.誤差を示すエラーバーがどのサンプルでも計ったようにキッチリと一緒だったり,よく査読を通ったなと逆に感心してしまいます.知らずに捏造データを渡された共著者を被害者ととらえることもできますが,ものによっては粗雑なデータを見抜けなかった責任もあるでしょう.



話は変わりますが,本人は不正を行っていなくても,「実は全く別のものを見ていた」または「解釈が全く違っていた」という例は不正の数とは比べ物にならないほど多いでしょう.有名な論文であれば追試によって検証されますが,見過ごされているものも多いでしょう.ただ,後になってみれば間違いであったとわかったことなどはたくさん存在します.というよりもむしろ科学という手法が後の検証によって誤りを見つけていく営みだととらえることができるかもしれません.つまり,明らかに故意の不正がない限りは誤った結論を導いた論文を撤回する必要はないと思います.

そうなると,業績の評価は論文数やIFなどで評価するよりも,研究の内容がわかる専門家が,「あの人の論文は有名だけど再現性が低いからNG」というように研究成果を評価できるのが理想ではないでしょうか.したがって,適切な評価ができるように分野ごとに一流の専門家を集めるべきだと僕は考えています.ただ,人的リソースの少ない日本でそれをやるとお手盛り評価のお山の大将集団になってしまう可能性が心配になりますので気をつけなければいけないでしょう.

2008年5月16日金曜日

アドホックなプログラミング

僕はプロのプログラマでは無いと自認しているので,かなり適当にプログラムを作っていきます.試行錯誤で加えたり,直したり.コメントはほとんどなし.

ちょこちょこやってたつもりでも気がつけば物凄く複雑になっていて,いろいろな関数が絡み合って自分でも何が何だかわからなくなってしまいます.最近,
しばらく中断していた研究を再開させたのですが,前書いたものを理解するのにしばらく時間がかかりました.

まさに単純なものから複雑なものが生まれてくる進化を体現しているのではないでしょうか.進化は試行錯誤によるアドホックな改善なのです.

近況その一
共著論文がアクセプト.ケモカイン遺伝子が淡水魚(ゼブラフィッシュ)で爆発的に増えているのをアノテーションしたものです.淡水魚はバクテリアに浸潤されやすいから,獲得免疫が原始的な魚類はこういった戦略を取っているのかなと予想.
Hisayuki Nomiyama, Kunio Hieshima, Naoki Osada, Yoko Kato-Unoki, Kaori Otsuka-Ono, Sumio Takegawa, Toshiaki Izawa, Yutaka Kikuchi, Sumio Tanase, Retsu Miura, Jun Kusuda, Miki Nakao, Osamu Yoshie, Akio Yoshizawa. Extensive Expansion and Diversification of the Chemokine Gene Family in Zebrafish: Identification of a Novel Chemokine Subfamily CX. BMC Genomics 9: 222 (2008) .

近況その二
再来週から一週間,台湾に出かけてきます.Arabidopsis thalianaの近縁種の遺伝解析についての共同研究です.

2008年5月1日木曜日

本棚:ヒトの変異

スポラディックな変異で起こる奇形から遺伝性の代謝異常まで,幅広くヒトに起こりうる突然変異とその生物学的,文化的解説を集めた本です.

結合性胎児から両性具有などともすれば俗物的な興味が中心になってしまいそうな内容ですが,それをわかりやすくまとめているのは著者が現役の分子生物学者だからでしょう.それぞれの表現型の突然変異についての分子生物学的説明は,概ね正確で的を射ています.しばしば誤解を持って理解される集団遺伝学についても正しい知識があるようです.また,この著者は歴史(特にヨーロッパの)についてもものすごく造詣が深く,その博識ぶりには驚かされます.

科学的内容もかなり良質でありますが,それとともに語られる著者のヒトの多様性に関するものの見方にも共感できるところがあります.

「私たちはみなミュータントなのだ,ただその程度が,人によって違うだけなのだ」

ヒトの変異―人体の遺伝的多様性について