2009年11月26日木曜日

バーター論文

今週のPNASより,

Caterpillars evolved from onychophorans by hybridogenesis
Donald I. Williamson

上の論文は昆虫の幼虫の形態がonychophora(有爪動物?)からのgene introgressionによるものではないかという説のようです(斜め読みなので間違っていたらすいません).

もちろん単なる仮説に過ぎなく,普通ならあっさりリジェクトされる論文なのですが,メンバーの推薦が大きな力を持つTrack Iなのでうっかり載ってしまったという感じでしょうか.賢い編集者が考えた手は,その下に次の論文を並べることだったようです.

Caterpillars did not evolve from onychophorans by hybridogenesis
Michael W. Hart and Richard K. Grosberg

間違い探しみたいなタイトルですね.

個人的にはこういった夢のある話は大好きです.ただ,致命的に証拠不足だと思いますが.

2009年11月19日木曜日

研究費の見直し2

朝日新聞より「計算基礎科学コンソーシアム」のコメント,

--

「実験や観測で調べることのできない領域を探索する唯一の方法は、スパコンを使ったシミュレーション」

--

唯一の方法かどうかは別として,この主張は理解できます.スパコンが要らないと思っている人はほとんどいないでしょう.しかし,事業費が適切に使われていたのか,事業がきちんと進んだのか,そもそも最初の計画に無理はなかったのかについての説明にはなっていません.「事業中止=スパコンの開発中止」ではないはずです.

本来は失敗した事業は取りやめて,トップに責任を取らせ,改めてスパコン事業を展開すべきだと思います.しかし,日本のシステムでは一度失敗した事業はそのままお蔵入りになってしまう可能性も高いです.失敗したプロジェクトは責任の所在をはっきりさせてスッパリ解散させることが必要ではないでしょうか.

何が失敗で何が成功だったのかを決める研究成果の評価は確かに難しいです.費用対効果なんてものでは測れませんし,研究の成功の度合いを如何に客観的に評価するかが問題であるでしょう.論文の数だけで評価というのも色々と弊害がありそうです.一番マシなのは論文のピア・レビューのような,匿名性のある同業者の評価ではないかと思います.

今回を良い機会として,研究費のシステムを大きくつくりかえたほうがよいのではないでしょうか.

2009年11月17日火曜日

研究費の見直し

先日に引き続き事業仕訳の話題です.

確かに研究費の補助金は各省庁が色々なものを立てていて重複も多く,省庁内でも複雑な仕組みになっているものがあります.これをスッキリとさせるのはいいことでしょう.


しかし,一本化するならそれに応じて年数回の応募チャンスが必要になってくるかと思います.採択率が二割ちょっとの研究費が,一年に一度しか応募できずに,それが落ちたら一年を棒に振るというのは効率が悪すぎます.


また,下の資料を見たところ,若手研究も削減の対象になりそうです.今年はすでに公募が終わってしまったのですが,どうなるのでしょうか.会議の内容を見ても,ポスドク問題の補助金と若手研究の補助金がごちゃまぜになって議論されているようです.

額が減るのは仕方なくても,採択率が悪くなるのは勘弁してほしいところです.研究者として大事な時期の一年がかかっているわけですから.

http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov13kekka/3-21.pdf

2009年11月13日金曜日

科学技術にかけるお金は無駄か

このブログではあまり政治の話題はしていませんが,現在行われている事業仕訳で色々と科学研究費関係が挙げられているのでちょっとコメントします.

今日は科学予算がいくつか仕訳対象になっていました.科学の世界で何が無駄か,無駄じゃないかなんてのが判断できるわけはありません.「国民の目線で言うと世界一にこだわる必要があるのか」などというコメントを読むと目まいがします.しかしその一方,科学研究と公共事業の区別がつかないようなプロジェクトがあるのも事実です.

槍玉にあげられたスパコンの開発などは,途中経過を聞く限りは,確かに一度仕切り直しが必要な気もします.

実際には研究に失敗はつきものです.企業だと見込みがない事業はすぐに切り捨てますが,基礎研究にはある程度長い目で投資することが絶対に必要です.

しかし,
国家プロジェクトの特徴は,失敗をなかなか認めないことにもあります.失敗を認めるとファンディング元が責任を負わされる可能性があるからです.長い目で投資をするのと,失敗をうやむやにするために金をじゃぶじゃぶつぎ込むのは,傍目には一緒ですが,中身はまったく違います.

と,今回一番びっくりしたのは,政府のウェブサイト

http://www.cao.go.jp/sasshin/

で,配布資料などが公開されているのですが,なぜか白黒コピー.読めない図もあるし,ウェブに載せるのになぜ白黒なのか.ちょっとこれはお粗末ではないでしょうか.

2009年11月12日木曜日

FOXP2を変えてみた

読売新聞より抜粋

--
 人間の培養細胞で両者のFOXP2を働かせてみたところ、人間のFOXP2はチンパンジーに比べて、61個の遺伝子を活発化させ、逆に55個の遺伝子の働きを抑えることが分かった。実際の脳組織でも、こうした働きの違いを確認した。
--

ここまで読んでいるのになぜ次のような見出しになるのでしょうか.専門知識云々のレベルではないような気がします.

「人間の高い言語能力はチンパンジーと遺伝子わずか1個の差」

高い言語能力がその変異のせいかどうか,ましてやその一個の差が唯一の違いなのか,今回の実験だけでわかるわけがありません.発表したグループは,昔からヒトとチンパンジーの脳での遺伝子発現比較を行っているグループです.やりっぱなしが多い業界のなかで,きっちり実験系にまで持っていってるのは偉いと思います.

最近よく思うのですが,ネットのニュースのタイトルは短いもので注目をひかせてクリックさせようとしているのか,中身と全くかけ離れているものが結構ありますね.

原著はこちら,

Human-specific transcriptional regulation of CNS development genes by FOXP2
http://www.nature.com/nature/journal/v462/n7270/full/nature08549.html

2009年11月11日水曜日

A Genealogical Interpretation of Principal Components Analysis

PLoS Geneticsの記事

最近,ゲノムワイドのSNPデータについて主成分分析(PCA)を行う解析方法が流行っておりますが(過去の記事),そもそもそれが何を意味するのかは明らかになっていませんでした.方法としては,サンプルのハプロタイプとSNPの有る無しのマトリクスを作ってそれについて主成分分析をするという単純なものです.

広く使われているにも関わらず,何となく気持ち悪い方法だったのですが,この論文では,Genotypeデータを用いたPCAは二つのアリルの平均coalescent timeをもとに成り立っているという理論的根拠が与えられました.当たり前のように感じる結果ですが,きちんと証明されることは良いことだと思います.