2008年12月31日水曜日

論文校正

12月30日に北海道の実家に帰省したわけですが,ゆっくり休む暇もなく一通のメールが.

アメリカでは年末休みはないせいで,12月30日に論文の校正依頼がきてしまいました.こういうのは大体48時間以内に返事をしないといけません.ひどい話です.

数式が間違っていたり,引用文献が一つ抜けていたりと色々とヘマをやったおかげで,修正にめちゃくちゃ時間がかかってしまいましたがなんとか終了.こんな時期なので共著者に電話をかけて確認するわけにもいかず,あぶなく徹夜するところでした.

最近印刷された方の論文は,最終校正がなかったために,色々と細かいミスがあったのがあとになってわかりました.訂正版を出すほど致命的なものではないのですが,ちょっとした間違いを見つけるたびにヒヤリとします.

2008年12月26日金曜日

仕事納め

今年は27,28日が土日なので,今日が正式な仕事納めです.

今年の出来は割と良かったと思います.共同研究もたくさんすることができ,色々知り合いが増えたのも良いことです.来年も手を抜かずに頑張りたいところ.

ちなみに,来年から台湾の成功大学で非常勤ですが准教授を務めることとなりました.ちょっと手を広げ過ぎているような気もしますが,今のところなんとかなっているようです.

2008年12月18日木曜日

本棚:Handbook of Human Molecular Evolution

Handbook of Human Molecular Evolution

ヒトの分子進化に関する教科書です.いわゆる分子進化だけではなく,集団遺伝学やゲノム解析,遺伝子発現と扱っている内容は多彩です.冗長でまとまりがないところもありますが,これまでにないくらい野心的に色々な内容の項目を集めているので,知識を広げたり頭の中を整理するのには良いでしょう.

ちょっと個人で買うには高すぎるし,すべて読むのが不可能なくらい分厚い本ですが,学生さんの勉強用にはとても良いのではないでしょうか.僕もヒトとチンパンジーの遺伝子発現の違いについて1セクションだけ書かせてもらっているので宣伝だと思われかねませんが,分子進化やヒトの進化を研究するラボなら一冊あっても良い本だと思います.



2008年12月17日水曜日

ペーパーレス計画

大したことではないのですが,年末に向けてこれまでたまった論文の整理をし始めました.アメリカから段ボールに詰めて持ってきたものもたくさんあります.

いい機会なので,PDFがあるのについつい紙に印刷してしまう癖をやめようと思います.そのために,キャビネットいっぱいにたまったここ5年くらいの論文の束をチェックして,PDFがPCに保存されているものについては処分しました.

ついでにEndonoteの体験版を入れて論文データとPDFをリンクさせる作業を暇なときに続けています.今後はPDFファイルのある論文はできるだけ紙に印刷しないようにしようと思っています.

ところが,解析中のデータの図をペタペタ壁に貼りまくることはやめられません.何かの映画で,犯罪心理捜査官が自宅の壁やら風呂やらに殺人現場の写真を貼りまくるシーンがありましたが,そんな感じで図を印刷して周りに貼りまくっています.データに囲まれて生活しているとある時ふといいアイデアが浮かんだりするから不思議です.あとは忘れてほかしてあった仕事を思い出したり.

コドン表とアミノ酸の一文字略字もよく忘れてしまうのでいつも壁に貼っているのは内緒です.

2008年12月16日火曜日

全ゲノムSNPのPCA解析

近頃の技術の進歩により,一度の実験で200,000~500,000程度の個人のSNPを安価に決められるようになりました.それらのデータから人類遺伝学的な考察を行うために最近盛んにつかわれている方法が主成分分析です.

もちろん,主成分分析(PCA)自体は多次元データを直感的に理解するための古典的な手法で,集団内のサンプルを階層化する目的でつかわれてきました.が,それをヨーロッパのサンプルにあてはめた時の論文が衝撃的でした.第一主成分と第二主成分を使ってデータを2次元平面上に落とし込むと,個人の分布が地図とピタリと重なります.

同じ方法で日本人のサンプルを解析した論文もありますが,今回のPLoS ONEの論文ではより広いアジアのサンプルを扱っています.相変わらず美しい絵です.

一連の解析でわかる重要なことは何でしょうか.もちろん,個人の出生地をかなりの割合で推定できる,ということは重要なことでしょう.さらに,「距離による隔離でヒトのランダムではないSNPパターンはほとんど説明できる」ということがあるかもしれません.

ただ,主成分分析の性質を理解したうえでこのことを議論しないといけないでしょう.主成分と地図が一致したのはやってみたらたまたまそうだっただけであって,理論的根拠は少ないのです.移住率の偏りとか遺伝子にかかる淘汰などによってこのパターンがどのように変わるのか,第三主成分以降に含まれている情報は何なのか.色々と検討すべきことがあるのではないでしょうか.

2008年12月16日追記

「距離による隔離でヒトのSNPパターンはほとんど説明できると書いてしまいましたが,たぶん不正確なので少しいじりました.

余談ですが,こういった研究は非常に面白いと思いますが,僕は主成分分析はあまり好きではないのです.主成分分析はデータからヒストグラムを書いて眺めてみるのを高級にしたような感じで,記述的な印象があります.もちろんデータの記述は重要な要素ですが,そこから先にもう一歩欲しいと思ってしまいます.


2008年12月17日追記

このブログでは図版についての版権はきちんと守ろうと努めています.PLoSシリーズの素晴らしいところは,論文の図もパブリックドメインになっていることです.逆に,PLoSに投稿する場合にはその図がどこからかパクッたものではないことが求められます.

2008年12月14日日曜日

BMB2008(了)

分生に出てきました.業務で行っているバイオリソースの宣伝で忙しかったのですが,久しぶりに会うことができた方もたくさんいて楽しめました.

若者の発表が非常に多いので,学会に出るたびに自分が年をとっていくのを感じます.会場も広く歩きまわるだけでもなかなか大変な学会ですが,なんだかんだ言って熱心な人は要旨集を見てきちんと発表に来てくれるようです.

さて,年の瀬も近づいてきてバタバタしています.一日に二本も論文投稿してみたらオンラインの投稿サイトが不調でスタックしたり,別の共著の論文がリジェクトされたので次の雑誌を探したりと大忙しです.

とりあえず週が明けて一本はアクセプト,共著の一本は9割通る感じのマイナーリビジョンで帰ってきましたので,安心して年は越せそうです.

2008年12月3日水曜日

過去の記録

2002年に渡米するときに,実験のデータやら教科書やら,諸々の書類は実家のほうに預けていたのですが,暫く行方不明になっていました.先日やっと発見され,こちらに送ってもらったところ色々と懐かしいものが.

初めて投稿した論文に関するレターも見つかりました.当時はまだオンライン投稿がなかったので,郵送でアクセプトの通知を受け取った時は嬉しかったものです.E-mailだとあのドキドキ感はないですね.読み返すのも嫌なくらいしょっぱい論文でしたが,原稿からエディターとのやり取りまでほとんど一人でやったので,アクセプトの時はとても嬉しかったのを覚えています.

他にも,修士論文のコピーが出てきました.僕は修士の時は手探りで実験に明け暮れていて,何をやったのかもほとんど覚えていなかったのです.久しぶりに読み直してみると,今では陳腐な内容も含まれていますが,当時としてはデータも豊富でなかなか頑張っています.惜しむらくは英語の原稿まで練習がてらに書いてみたものの日の目を見ることがなかったことでしょうか.もう少し統計をきちんとやっていれば,マイナーな雑誌には載ったクオリティでしょう.図などをスキャンしておいたので機会があったらウェブに晒したいと思っています.

2008年11月29日土曜日

筒デビュー

学会のポスター発表ではこれまで頑なにA4のものを並べて貼っていたのですが,今年の分子生物学会からは筒デビューを果たそうと思います.

A4のメリット: 持ち運びが簡単,飛行機でも手荷物,安価
A4のデメリット: 貼るのが面倒,はがすのが面倒
A0のメリット: 見栄えが良い,貼るのが簡単,はがすのが簡単
A0のデメリット: 持ち運びが面倒(飛行機は場合により手荷物OK),高価


筒で問題なのは国際学会ですね,万が一積み荷に預けた荷物がきちんと届かなかったら最悪です.

筒持ち歩くのめんどくせぇと思いつつも,最近は周りがほとんどA0形式なので,そろそろ負けを認めます.

2008年11月21日金曜日

ダーウィン生誕200周年

来年はダーウィン生誕200周年,種の起源が150周年ということでいろいろなイベントがあるかと思います.それについてのNatureの特集です.

色々とよくまとまった記事が書いてあります.また,著名な進化学者からのコメントも載せられています.面白いのは進化生物学の様々な分野の統合に関して,Niles Eldredgeは悲観的な見方をしていますが,その下のMichael Lynchは建設的な意見を述べています.

僕は建設的な意見に賛成です.すべてのエキスパートになることはできませんが,広い見通しを持ったうえで専門を確立することに対しては努力すべきです.もちろんそんなことは誰でも考えていることですが,実践するのはなかなか難しいことだとは思います.バランスは重要で,専門バカは時代に合わないし(良し悪しは別として),わかっているようで実は何もわかっていないジェネラリストにもなってもいけないでしょう(少なくとも科学者を名乗るならば).

これは自分への戒めでもあります.

2008年11月19日水曜日

JoVE

頼んでもいないのに宣伝メールが送られてきました.

なんとPubMedにも載ってしまうビデオジャーナルの登場です.ピアレビューはあるみたいですね.分野は違うのですが,暇つぶしに見ても結構面白いです.果たしてこれからどうなるのか.楽しみです.

http://www.jove.com/

Journal of Negative Resultsと共に要チェックの雑誌です.

2008年11月17日月曜日

2008 分子生物祭り

先日の一般公開は多くの方に来ていただいて盛況でした.普段から大勢の人の相手をしていないので,慣れない仕事は疲れます.

ちょっと早いですが,再来週に神戸で行われるの分子生物学会でのポスター発表です.発表は12月9日.

「カニクイザル骨髄,脾臓,膵臓胸腺由来cDNAライブラリーの解析」

バタバタしたなかアブストラクトを提出したので,タイトルを間違えていますがご愛敬.サルのcDNA解析のプログレスレポートです.あと,本業(?)の生物資源の宣伝のためのブースにも顔を出している予定です.

2008年11月13日木曜日

論文投稿用画像の解像度

最近立て続けにこの問題について聞かれたので,自分のやり方を少しメモ.

僕は基本的にイラストレーターとフォトショップの黄金コンビで作図をしています.最近は実験の写真をほとんど使わないのでイラストレーター一択です.

雑誌が受け付けるフォーマットでメジャーなのはTIFF,PDF,EPSでしょうか.TIFFはビットマップデータなので情報は点が集まった画像として扱われますが,EPSはベクトルデータなので元の形の情報がすべて含まれています.PDFは場合により両方の情報を含みます.

実際の論文では図の大きさは9cm(シングルカラム)か18cm(ダブルカラム)の幅で表示されることが多いかと思いますが,作図をするときに最初から実寸でつくってしまうと非常にやりにくいと思います.また,論文のレビュー段階では画像の大きさの制限はないので,A4いっぱいの画像を編集している人も多いかと思います.

PDFとEPSは便利なのですが,環境によって不具合が起こる可能性があります.なのでTIFFが一番確実なフォーマットだと思います.主要なドローソフトはTIFFへの書き出しに対応しているはずです.しかし,TIFFの画像を奇麗に印刷するには高い解像度(ふつうは600dpi程度,場合によっては1000dpi)が必要です.ところが,A4いっぱいにつくった画像を600dpiのTIFFに変換するとものすごい大きなファイルになってしまいます.

解決策としては,アートワークを原寸大に縮小してから高解像度のTIFFに書き出す.それかいったん高解像度のTIFFにしたのち,フォトショップで開いて印刷サイズを設定する.フォトショップだと解像度と印刷サイズを同時に変更できるのでとても便利です.

ほかにもいろいろやり方はあると思いますが,僕はこんな感じでやってます.印刷物がしっかりしているような雑誌だと編集者がかなり念入りにアートワークをいじってくれますが,最近流行りのオープンアクセス雑誌は編集がかなりいい加減なものもあり,きちんとこちらで印刷サイズを指定してあげないと論文のPDFファイルの見栄えが悪くなってしまうと思います.

2008年11月11日火曜日

いくらをつくる

秋はいろいろ大変.今週末は研究所の一般公開です.僕のラボでは人工イクラをつくります.

アルギン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液を混ぜるだけのとても簡単な実験です.写真のようにいろいろな色の絵具で着色してみました.

2008年11月6日木曜日

中学校での授業

明日は近所の中学校で生物に関する授業を行ってきます.内容はDNAと生物の歴史について.

DNAに関する基本的なことを2週間前の授業で学んでいるという前提で,

1. 生き物はそれぞれ違うDNAの暗号を持っている.
2. 生き物はそれぞれ共通の祖先から枝分かれて進化した.
3. 進化の過程でDNAが変化してくる.すなわち最近分かれた生物は,DNAの暗号も似ている.

ということを学んでもらおうと思います.そのうえで,

1. ヒト,サル,ネズミのDNA暗号を比べて,どれが一番似ているかを自分たちで調べる.
2. ヒトとサルのDNAの違いをDNAを制限酵素で切ることによって区別し,電気泳動で目に見えるようにする.

という作業を行おうと考えています.自分で言うのもなんですが,ここまで習う中学生は日本にいないでしょう.願わくばわかりやすい説明ができればと考えています.

努めている研究所の性格上,ヒトの個人の体質の差とDNAの変異を結びつけた授業を行った方がいいのですが,思春期には氏と育ちの問題は割とナイーブな問題かもしれません.したがって,
お気楽な進化の話にしようと思いました.

2008年11月3日月曜日

人類学会(了)

久しぶりの人類学会でした.言いたいことが伝わったかどうかは別として,このような形のシンポジウムが人類学会で行われたことは非常に意義のあることだと思います.

僕は古典的なことをリスペクトしつつ新しいものを取り入れるというスタンスなので,人類学などの歴史のある学問分野には非常に価値があると思っています.

さておき,名古屋で学会終了後,私用で東京まで行ったのですが,帰りの新幹線の自分の席になぜか職場の事務の方が座っていました.どうやら席を間違えて座ってたみたいなんですが,隣に座ってたならいざ知らず,間違えて自分の席に座ってたなんてどんな確率で起こりえるのでしょうか?

「席間違っていますよ」と言ったのですが,相手のほうは何が起こっているのか理解できず.お姉ちゃんのいる店に遊びに行ったら自分の娘が働いていた,という事象が起こる確率よりも低いかもしれません.

ちなみに,東京では大学の友達の結婚式に出てきました.同期の女性はほとんど結婚して子供がいるのですが,ついつい人類学会の気分が抜けず,授乳を止めると本当に月経が来始めるのかどうかみんなに聞いてしまいました.まあ,ここら辺が平気で聞けるのは便利であります.

僕は恥ずかしながらこの話は最近まで知らなかったのですが,出産後に生理が止まる期間は決まっているのではなく,授乳が刺激になっているらしいんですよね.3-4歳まで授乳する民族などでは授乳が終わればすぐに次の子供を作るので,生涯経験する生理の回数はものすごく少なくなります.この生理学的メカニズムは解明されているのでしょうか,気になります.

2008年10月30日木曜日

日本人類学会

11月2日に行われる日本人類学会シンポジウムにて発表します.

タイトルは,「ヒトゲノム中の塩基配列多型と遺伝性疾患との関係について」.最近機会があるとよくしている話です.内容は現在投稿中.

人類学会の参加は大学院生のときに発表して以来となります.久しぶりなので楽しみなところ.人類学というとどうも骨とか遺跡とかのイメージが強いですが,遺伝を扱う分野ももちろん存在します.人類学とは,自然科学としてヒトを研究する学問分野です.

医学と違って人類の健康のためにではなく,知的探求心から研究を行っている人が多いでしょう.もちろん医学の発展によって寿命が延びれば幸せな人は増えるでしょうが,人には知的な探求心が満たされることによる幸せも大切である,僕はそう思っています.

「人類遺伝学会には入っていないんですか?」と最近よく聞かれます.僕は人類学会と遺伝学会には入っていますが,人類遺伝学会には入っていません.紛らわしいですね.

入った方がいいなとは思ってるんですが,会費が高いのが難点.アメリカの人類遺伝学会大会には一度出てみたいとは思っています.

2008年10月29日水曜日

久々にアクセプツ

半年ぶりくらいの論文受理

Duplication and Gene Conversion in the Drosophila melanogaster Genome.
Naoki Osada and Hideki Innan. PLoS Genet.

実は,去年出版された12種のハエゲノム論文の前に完成していたのですが,それが出るのを待って,さらにリジェクトやらリバイスやらで結構かかってしまいました.もう少し遅くなるとタイムリーな話題ではなくなってしまうので,なんとかなって一安心です.

内容はD.melanogasterのゲノムを調べて,最近起こった遺伝子重複をしらみつぶしに見ていったものです.遺伝子変換の検出法や,重複遺伝子の機能分化が重要なときには遺伝子変換を抑制する淘汰がかかる例を示しています.

ハエのゲノムには重複遺伝子が少ないので,一つずつ
丁寧に重複を見ていくことが可能でした.線虫のほうが重複遺伝子はずっと多いんですよね.こういった研究はコンピュータで大量のデータをスクリーニングして結果をだして終わり,なことが多いのですが,一歩進んで泥臭いことをやっている仕事です.

2008年10月27日月曜日

PCRの増幅率と数列


来週に近所の中学校で簡単なDNA実験を教えることになっています.先週に別の講師がPCRの増え方の細かいところを教えたのですが,少し難しかったようなのでもう一度復習しようと思います.

さて,教科書的にはPCRによってDNA分子は倍々,つまり2のn乗で増えていくということですが,実際には違います.鋳型のゲノムからは1サイクルあたり常に2n本のプライマーから下流にのみ増幅されたDNAが合成され,さらにその2n本のDNAからプライマー間のみを増幅した短い断片が合成されていきます.図は3サイクル目の増幅を示したものです.

と,ここまで来ればDNAの分子数をnで簡単に表せるなぁと思ってたのですが,高校の数学を忘れてしまったので教科書を読みなおす羽目に...

漸化式を立てるとnサイクル目の短いプロダクトの分子数は,an+1=2an+2n.

両辺を2n+1で割ってbn=an/2nと置くとbn=bn-1+(n-1)/2n-1,

上の式を1からnまで両辺を足し合わせていくと,

bn=1/2+(2/22)+...+(n-2)/2n-2+(n-1)/2n-1,

両辺に2分の1をかけてもとの式から引くと,

bn/2=(1/2)+(1/2)2...+(1/2)n-1-(n-1)/2n

bn=(2n-2n)/2n,

したがって,an=2n-2n,ということになります.短い断片は4サイクル目で8分子,5サイクル目で22分子,以下52,114となるはずです.

高校の数学って結構忘れてしまってますね.いい勉強になりました.ただ,毎回2倍で増えていって,そのうち2n分子は半分の長さのDNAなので引き算する,って考えるだけでも実は良かったりします.結果を見てから気づいたのですが.

2008年10月22日水曜日

論文の別刷り

海外から論文の別刷りを下さいというメールが.しかしよく読んでみると全く身に覚えのない論文です.

おそらく似た名前の人と間違えているのでしょう.検索してみると,確かにN Osadaさんが著者に入った論文でした.で,Googleの検索先はJ-stageの論文アーカイブだったので,PDFがダウンロードできました.すぐに返事を書きます.

「人違いだよ,PDFを添付するからここに載っている連絡先にお願いしてね」

送ってから気づいたのですが,相手が欲しいのは論文の別刷り.PDFを添付したので既に目的は達成されてますね.あれ?

「人に聞く前にググれ」.これは僕のやり方です.

「調べる前に人に聞け」.TV局のADはこう習うという話を聞いたことがあります.

2008年10月16日木曜日

名前を明かす査読者

長らくペンディングになっていた論文がそろそろ通過しそうな感じです.3人のレビュワーとも細かいコメントが少しなので,おそらく通るでしょう.最近は机の上に論文がたまる一方なので,少しずつでもはけてくれると助かります.

共著の論文と自分がメインの論文のバランスを取るのはなかなか難しいです.手伝いで論文数が増えるのはエネルギーコストの面からもうれしいですが,それも数が増えすぎると手に負いきれません.もう少しシニアになってラボのボスになってしまえば割り切れるのでしょうが,若いうちは自分が計画を立てた研究で論文を書きたいという欲望がふっきれません.

と,一人のレビュワーは,いつもそうしているとのことでわざわざ最後に自分の名前を書いてくれていました.フェアな精神が感じられます.ボロクソにけなす時も自分の名前を明かすのですから,相当な覚悟が必要でしょう.

少しかっこいいと思いました.でも真似はしません.

2008年10月14日火曜日

柏の葉キャンパス

久しぶりに柏の葉キャンパスを訪問して,大学院生向けの講義をしました.

僕が一年弱通ってたころは周りに何もなかったのですが,随分開けて過ごしやすくはなっていそうです.特につくばエキスプレス駅の周辺は2年前ですら想像もつかないほど開発が進んでいました.さすが東大パワー.

講義ではおそらく普段習わないような進化の話を中心に進めました.柏の葉キャンパスの学生さんは割とテクノロジーオリエンテッドなところがある印象ですが,バイオロジーオリエンテッドであってほしいという願いが込められています
.

2008年10月12日日曜日

人類学絵葉書

右の写真は,学生の頃に学生室の大掃除で見つかった絵葉書です.危うくゴミ箱に捨てられそうになっていたものを救い出しました.台湾の先住民族の写真で人類学会発行と書いてあります.

人類学の歴史はとても古く,明治時代の坪井正五郎先生にさかのぼります.最近はJournal @chiveで人類学雑誌創刊号も見ることができます.

しかし,これは貴重な資料かもしれませんが,何故に絵葉書なのか.こんなものを送りつけられて喜ぶ人はいたのか.なぞは深まるばかりです.

2008年10月10日金曜日

2008年ノーベル賞

理論物理にGFPと,今年は日本人のノーベル賞受賞が多くて話題になりました.めでたいことです.

しかし,マスコミの加熱報道を見ていると,逆に日本の科学の将来はどうなるのかと心配になってきます.

資源の乏しい日本が成長を続けるには科学技術の発展と人材育成が重要である.もっともです.しかし,日本のために働こうと思って科学者になった人はごく少数でしょう.科学の世界に国境が無いのは当然のことです.

2008年10月3日金曜日

Figures

論文を読むと必ず目にする図表,時間がないときは図と表だけざっと見てその論文の主張を理解しています.

僕が研究をやっていて一番面白いのは図を作っている時です.出てきた生のデータを加工して直観的に何かを主張できる図ができた時の喜びはひとしおです.データ解析をやっていて思うことは,生データを如何に処理するか,そして図を見たときどれだけひらめきがあるか,が重要だということです.

これはまさに,乱雑な自然を抽象的な概念にまで落とし込むという自然科学研究の過程そのものであると思います.今まで書いた論文の図の中にもいくつかお気に入りがありますが,最近は色々とテクニックも身についてきたのでついつい凝りすぎてしまうことも.派手な図もいいですが,やはり一番なのはシンプルで直観的なものでしょうか.

というわけで僕は図は論文の命だと思っているので,たまにExcelそのままの図が載った論文なんかを見るとがっかりしてしまいます.見てくれではなく,Excelのグラフをそのまま使うということはそれだけデータの扱いをぞんざいにしているように見えるからです.とはいえちょっとしたデータを扱うときはExcelは便利なんですよね.

とりあえず,「背景がグレー」「棒グラフの色が左から水色,黄色,紫」「横に罫線が入っている」「意味のない立体棒グラフ」はアウトだと思っています.

逆に「背景を白に」「棒グラフの色をディフォルトから変える」「横罫線は消す」「棒グラフの枠線を消す」「プロットエリアの枠線をグレーから黒に」とExcelのグラフっぽく見えなくなるのでOKかと思います.フォントはもちろんMSゴシック以外で.

2008年9月18日木曜日

Resolving Individuals Contributing Trace Amounts of DNA to Highly Complex Mixtures Using High-Density SNP Genotyping Microarrays

PLoS Geneticsの記事です.出た時はあまり注目していなかったのですが,その後色々なメディアで取り上げられているようです.

疾患の原因探索などで数人のDNAをプールしたサンプルの遺伝子解析がしばしば行われています.こういった情報はこれまで個人を特定できないので割とゆるいポリシーで公開されてきていました.

ところが,Homerらは全ゲノムレベルでのSNPデータがあれば,ある個人がプールされたDNAサンプル集団の中に入っているかどうかというのが判別できるということを示しました.アイデアや方法は非常に単純なのですが,0.1%しか入っていない個人の特定までできたというのだからその方法の強力さには驚きです.

これを受けてNIHは早々とプールされた遺伝子情報の公開を取りやめ,きちんと管理された形に変えたとのことです.これに関する議論がScienceなどでも取り上げられています.(http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1165490; http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/sci;321/5894/1278)

これから個人ゲノム解析などが実用化されると,倫理的な問題も色々と湧き上がってくると思います.ただ,この方法はもともとそういった倫理的なことを騒ぎ立てるよりは,犯罪捜査などに有効な方法ではないかと考えられているようです.

2008年9月10日水曜日

論文の査読

論文の査読がたまに回ってきます.自分の勉強になるし,わざわざ指名してくれてるのはありがたいので丁重に受けていますが,モノによっては結構時間を取られてしまいます.数式が多かったりすると最悪ですが,自分が論文を投稿するときはレビュワーの意見はとてもありがたいので(たまにすごくむかついたりへこんだりしますが),できるだけ手を抜かずにやっています.

で,自分がレビュワーの過去の論文のアクセプト率を見てみたら滅茶苦茶低い.自分が辛口すぎるのかなぁと思って少し悩んでしまいましたが,はたと気づきました.エディターがパッと見て落ちてもいい(重要度の低い)論文が優先的に自分に回ってきてるんですね.納得.さすがにこの内容でこの雑誌は無理だろう,というものがちらほら.

一度だけ結構な大御所の論文が回ってきたことがあります.結論が納得いかなかったのでかなりクリティカルな意見を出してリジェクトしました.そうしたら今度は結論を180度変えてきて,「レビュワーに励まされてすべて書き直した,これは新しい論文だ」,と再投稿してきました.前の自信満々な結論はどこへ行ったの?

やはり強引なポジティブさはアカデミアで生き残るのに必要なことのようです.

2008年9月8日月曜日

Repeated Adaptive Introgression at a Gene under Multiallelic Balancing Selection

PLoS Geneticsの記事です.最近のNature Geneticsは所謂人類遺伝学的な疾患原因遺伝子の同定に関する論文に偏っている印象を受けます.確かに医学として人類の健康に役立つというインパクトは強いのですが,もっと生命現象に直結した遺伝学の論文の方がインテレクチュアルで僕の好みです.そういった意味ではPLoS Geneticsには良い論文が集まっていると思います.

表題の論文ですが,少しマイナーながら現在研究している事柄と近いのと,自分の論文を引用してくれていたので紹介します.シロイヌナズナ(A. thaliana)の近縁種でA.halleriA.lyrataという種がいるのは前にも紹介しましたが,ヨーロッパで生息域が重なっているこの二種のDNAについてmulti-locus解析をしたというものです.

その結果,ゲノムのバックグラウンドでは両者には遺伝子交流はほとんど見られなかったが,自家不和合にかかわる座位では両者に共通に見られるアリルが多かったとのことです.自家不和合にかかわる遺伝子のアリルはMHCとも近い感じで,多くのアリルが集団内にあることが有利になります.したがって,遺伝子交流が有利になるような状況では,たとえバックグラウンドの遺伝子交流の確率が低くても,一度多種に移ったアリルが反対の種で有利になる選択圧がかかるので,結果としては種間で共通のアリルを多くもつようになります.

同じようなことをヒトとヒトの古代種の間で起こったと言っているのが,別のグループの論文であります(過去の記事).この場合は,種間を超えた遺伝子が,急速に他種で広まるというのを仮定しています.

先日の遺伝学会で僕が話させていただいたのは,「遺伝子交流があると,環境に適応した遺伝子は種間の壁を越えられずに高い種差を持つ」というものでした.隔離がゲノム全体に働くと,種を超えるアリルが自然選択の証拠となり,遺伝子交流がゲノム全体に働くと,種を超えらないアリルが自然選択の証拠になる.裏表のような話だと思います.

2008年8月29日金曜日

本棚:数値で見る生物学

ゾウの脳の重さ(4925g)からポップコーンの重さ(80-130g/1000粒),ブロンドの人の髪の毛の本数(150,000本)まで,古今東西様々な生物の数値に関するデータで埋まっています.

暇な時にパラパラとめくってみるとそのたびに新しい発見があるでしょう.最近はインターネットで色々なとリビアを知ることができますが,ネット上にすらない情報もたくさん存在します.

こういったトリビアを知ることに喜びを見出さない人が読んでも全く面白くない本ですが,きちんと参考文献が載っているので,研究の際にも実用的です.

書いているのはドイツ人.なんとなく納得がいきます.

数値でみる生物学

2008年8月25日月曜日

進化学の懐の深さ

学会は日曜の夕方まででしたが,最近疲れ気味なので月曜日に代休を取ってゆっくり帰ってきました.が,東海道新幹線が大雨で大幅に遅れたために駅で立ち往生するはめに.結局結構疲れてしまいました.誤算です.

進化学会の方は,新今西の人が大声で叫んでいました.自説を主張するのは構わないのですが,紳士的に質問できないのはいただけないですね.

ある程度シニアの研究者なら適当に受け流せるでしょうが,せっかく一生懸命発表の準備をしてきた学生さんに対して,「あんたね!そもそもダーーウィンはねっ!」なんてのは可哀そうでしょう.まっとうな発表の進行もさえぎっているし,あちこちで問題を起こせば除名されても仕方ないかと.

しかし,それでも普通に出入りさせている進化学会の懐の深さに感動です.進化学の懐の深さは貴ノ浪以上.

2008年8月20日水曜日

本棚:フェルマーの最終定理

最近になって文庫本が出たようなので紹介いたします.

一度は名前を聞いたことがある数学の定理,それが最近になってある数学者に解かれるまでの仮定をドラマチックに描いた作品です.こういった分野は数学でも数論という分野に入るのですが,ピタゴラスの時代からの数論にまつわる話題を絡めながら,問題解決までの長い道のりが非常に読みやすくまとめられています.

数学者というと我々自然科学者から見ても遠くにいる存在ですが,彼らの考えや研究生活が生き生きと伝わってくるところが面白いです.また,こういった一見単純そうな定理であっても,沢山の人が少しずつ少しずつ回り道をしながら最終的な証明に近づいてきたというのが良いところです.

証明過程に日本の数学者が深くかかわっていたところは全く知らなかったことなので勉強にもなりました.数学だけはもっと大学で勉強しておけばよかったと今になって悔やんでいます.

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

2008年8月19日火曜日

遺伝子ドーピング

なんだかんだ言ってちょくちょく見てしまった北京オリンピックですが,遺伝子ドーピングという言葉を聞いたので調べてみました.

どうやら身体能力を向上させるホルモンなどのタンパク質をコードしたベクターを体内に注射することを指しているのですが,うーん,本当にやってるのかなぁというのが感想です.ベクターを調整するのにも大がかりな研究設備が必要ですし,そもそもどれだけメリットがあるかわかりません.また,発がん性などのデメリットも考えられるでしょう.そんなに効くんだったら,今頃は臨床での遺伝子治療がもっと普及しているに違いありません.

しかし,オリンピックに絡む市場の大きさを考えると,やれるものは何でもやってしまう人がいないとも限りませんね.

と,考えていくとドーピングの定義とは何でしょうか?

現在は競技が行われる時点で薬物検査が行われ白黒が付けられますが,たとえば成長期の間にずぶずぶに薬剤を与えられて異常な発達をした人は,競技の時点で薬剤が検出されなければOKなのでしょうか.酸素カプセルも一時期問題になりましたが,微妙なところですね.

常識的に考えろと言われると終わってしまいますが,実際のドーピングの定義は,「禁止リストに載った行為を行う」ことのようなので,万人を納得させる定義はないようです.

2008年8月18日月曜日

予定外の帰郷

夏休みは9月に取る予定だったのですが,先週に北海道の祖母が他界したので帰郷してきました.

春先に末期がんの宣告を受けていたので覚悟はしていたのですが,極度の病院嫌いのために一切の治療や通院を拒否して自宅で往生したとのことです.我が祖母ながら頑固すぎる終わり方です.自分だったら痛み止めくらい打ってもらいたいと思いますね.

と,バタバタしているうちに今週末は進化学会です.駒場キャンパスは何年ぶりでしょうか.シンポジウムで話しますが,前回の中立進化論の時からは少し進歩させました.とはいえまだ自分でもなんだかなぁというできなので,ほかの部分でなんとか興味の引ける話ができればと思います.

タイトルは,

Deleterious Mutations and Human Diseases: Genomic Perspective.

病気の遺伝子の進化に関する研究です.こういった話はよもやま話になりがちですが,だからこそできるだけカチッとした解析をしたいなと思っています.カチッとしすぎると数式が並んでみんな寝てしまうので,発表はできるだけ面白くやりたいのですが.

医学と進化という話になると,ダーウィン医学という言葉が一番にあがると思います.好きな話ですが,これから先もっと応用に役立つような方向性はあるのでしょうか.知の追及なのか,実用を目指すのか,どうも中途半端な印象があります.これからゆっくりと考える題材としてみたいです.

2008年8月5日火曜日

iPS細胞研究

所属する研究所で新たに組織されたiPS・幹細胞創薬基盤研究プロジェクトというものに併任されました.少々畑違いな分野ですが,トランスクリプト解析などでお手伝いできないかと思います.

iPS細胞については世間で色々騒がれていますが,再生医療への応用にはまだまだ時間がかかるでしょう(根本的に無理だという意見もありますが).ただ,それ以外のアドホックな用途によっては使い道はあると思います.個体差を考慮した創薬のスクリーニングや疾患患者由来の細胞なんかは治療法の開発に役に立つでしょう.

ヒトの組織が分化するに従って,表現型に現れる個体差というものは大きくなると予想されます.そういうのがしっかりと見られると面白いのではないかと思っています.

2008年8月4日月曜日

集中講義

Arabidopsisについての研究を行っていることは以前書きましたが,そろそろ論文にまとめるかという話になっています.

すると,共同研究者である植物学者から大量の論文リストが送られてきました.合計85本.僕は植物の系統自体は素人に近いので,論文を書く前に全部読めということなのでしょう.

これだけ一気に読めばある程度の体系的な知識は身に付きそうです.

2008年7月30日水曜日

中立論研究会

7月28,29日と国立遺伝学研究所で行われた「中立進化論の現在」という研究会に参加してまいりました.非常に濃い内容で面白い発表も多く,とても勉強になりました.開催のためにご尽力された先生方には感謝いたします.

僕は弱有害突然変異に関する発表をさせていただいたのですが,提唱者である太田先生から論文のコピーも頂くことができて恐縮の極みです.

頂いたのはDNAデータが出る前なのでタンパク質のステップワイズ変異モデルについての論文でした.ふと考えてみると,DNAレベルの仕事ではそれぞれの突然変異が適応度に与える影響は独立(Epistasisが無い)という前提が多く,したがってランダムポワソンフィールドの概念などが適用できるのですが,ハプロタイプの情報を利用して突然変異の組み合わせをモデルに組み込むと,突然変異の蓄積が表現型に与える影響のようなものを定量化できるのかもしれません.暇なときに考えてみる予定です.

2008年7月22日火曜日

2008年度分子生物学会

いつの間にか生化学会と分子生物学会の共催は当たり前になったのでしょうか.ちょっと大きすぎる感じの学会ですが,うちのラボは毎年ここに出すのが慣習なので,簡単にポスター発表をします.といいつつも締め切り延長のお知らせがメールで来て初めて締め切りが過ぎていたことを知りました.場所は神戸なので日帰りです.早く福岡でやらないかな.

(演題)カニクイザル骨髄,脾臓,膵臓由来cDNAライブラリーの解析

毎年粛々と進めているcDNA末端配列解読の進行状況の報告です.現在開発中のカニクイザルゲノムブラウザの発表もできると良いかなと思っています.

2008年7月14日月曜日

本棚:Numerical Recipes Example Book (C++)

あえて間違って買ってしまった本の書評をしてみます.

割と有名なアルゴリズムの教科書を買ったつもりだったのですが,届いて読んでみると何か違う.どこを読んでもアルゴリズム本体のコードが書いていない.

と,よく読んでみると"Example Book"と書いています.つまり,関数を実際にどうやって使用するかというサンプルプログラムが載っているだけです.メインの本と表紙の色が似ているから間違ってアマゾンでクリックしてしまいました.結構高かったのに...

クリックする前に本のタイトルはよく確認しましょう.合掌...

Numerical Recipes Example Book (C++)

2008年7月10日木曜日

オープンアクセスの展望

霊長類学会の発表が終了.次は遺伝研で行われる「中立進化論の現在」という研究会で発表いたします.まだ手探りの段階の研究なので,色々と意見をいただきたい内容です.

さて,先日のNatureのNewsでPLoSシリーズに対する記事が載っていました.かなり挑戦的な内容なので,案の定色々とコメントが付いています.

http://www.nature.com/news/2008/080702/full/454011a.html

そもそもPLoSシリーズとは,Natureなどの商業誌に対抗して,投稿者が一定の額を負担することによって論文の内容に誰でもアクセスできるシステムを作ろうというのが目的です.しかも一流のものを作ろうと.インパクトファクターの方は順調に推移しており,2007年のものは,

PLoS Biology - 13.5
PLoS Medicine - 12.6
PLoS Computational Biology - 6.2
PLoS Genetics - 8.7
PLoS Pathogens - 9.3

となかなかのハイレベルを維持しています.

Natureの記事の要点は,

一流の雑誌を維持するのにはお金がかかるので,PLoSの経営はこれらの雑誌の掲載料だけでは赤字である.

PLoS ONEというアクセプト率をあげてクオリティーの低い雑誌の掲載料でコストを補っている.

ということです.本来の意図はともかく,もともとクオリティーの低い論文を集めるなんて意図はPLoS ONEにはないわけですから,PLoSの編集者にとっては言いがかりもいいところでしょう.編集者直々のコメントも多数ついています.

とはいえ,PLoS ONE自体は玉石混合でとても良い論文もあればそうでないものもあり,クオリティーは一定ではありません.コメント機能が活かされていないのも当初の予想からは大きく外れているでしょう.

そういった雑誌の特性をちゃんと把握して投稿している人が良いのですが,PLoSという名前に釣られてPLoS ONEに投稿した人は,おそらくそれほど高くならないだろうインパクトファクターにがっかりして今後の投稿を敬遠するかもしれません.そういった投稿がなくなった場合にはたして現在の財政状況を維持できるのか.

せっかくトップの雑誌の評判は良いのですから,財政破綻で雑誌廃刊なんてのはやめてほしいですね.財政破綻をしたら,Scienceあたりが買い取ってくれるかもしれませんが...



本日はもう一本NatureのNewsを紹介.ナイスガイをフィーチャーしたエッペンドルフのオートピペットシステムのプロモーション映像についてです.

http://www.nature.com/news/2008/080709/full/454149a.html

Youtubeの映像はこちら.It's Called epMotion


こんなイケメン揃いのラボがあったら女子の進学率も増えるでしょう.

2008年7月4日金曜日

霊長類学会

7月4日から6日にかけて東京で行われる日本霊長類学会に参加いたします.東京はサミットのせいで警備がとても厳しいようですね.

事前の要旨では実際に発表できる予定の倍くらいの内容を書いてしまいました.後半の種分化の理論の話を端折ってサルの集団地域構造を中心に話そうと思っています.種分化の話はデータを足して9月の遺伝学会でゆっくり話そうと思っています.

2008年6月15日日曜日

似非植物学者

共同研究でハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri gemmifera)の遺伝子解析の仕事をしているのですが,近所に咲いているというので採取してきました.割と高い所に生える種なのですが,箕面の滝にも生えています.フィールドでのサンプル採取は学生の時にフィリピンで(自称)裸族の血液をサンプリングして以来です.

ただし,花が咲いていないと素人には同定が難しいので,現在分類学の先生に写真を送って鑑定をお願いしています.全然違うものを取ってきちゃってたりして.かなり低い所に生えているので別亜種という可能性もあります.

最近は色々な生物に手を出しているので無節操と言われかねませんが,生態学的な研究のコラボレーションはこれからもどんどんやっていきたいと思っています.次世代シークエンサーは分子生態学の研究には大きなブレークスルーになるのではないでしょうか.

2008年6月10日火曜日

SMBE2008

2008年のSMBEに参加してきました.参加者は約1000人.ポスター発表が700強.ものすごい盛況ぶりでした.学会誌がMBEなのに,オーラルの発表にはNatureやScienceに載った話が多く,面白いものが結構ありました.

次世代シークエンサーを使った面白い研究もどんどん進行中でした.進化というフレームワークが今現在は最もこの技術を使いこなせているひとつと感じます.

自分の発表は割と小規模のセッションだったので無事終了.大きなラボの発表に比べると小規模な仕事ですが,短い時間でメッセージがうまく伝っていれば成功だったと思います.

2008年6月2日月曜日

WinXP SP3をXPS1210にインストール

防備録

自宅で使っているDELLノートのXPS1210にXPのSP3をインストールしました.てっきりすんなり済むものと思ったのに連続でブルースクリーン.インストール失敗と修復に1時間くらいかかりました.

調べてみるとポイントデバイスかグラフィックのドライバが引っかかっているようなので最新版に更新したところ,無事に更新完了しました.意外と面倒なので,SP3が自動更新されるようになるとトラブル続発の予感が...

ところで,Vistaではいくつか英字フォントが追加されたのですが,Calibriはなかなかスマートで気に入っています.今までArialとTimes New Romanを使っていたのですが,それぞれCalibriとCambriaに置き換えればOKそうです.

2008年5月30日金曜日

台湾行脚

一週間台湾に滞在していました.今日が最終日.台南の成功大学,台北の台湾大学,中央研究院をまわって学生やポスドクとそれぞれ1時間ずつ,合計20人くらいとディスカッション.疲れ果てました.

台湾は実は進化生態関係のゲノム解析に結構力が入っていて,Solexaとか454のラージスケールのシークエンサーが日本に負けない数あります.中国にはその数倍ありますが.日本ももう少し頑張らないとヤバいですね.

中央研究院を訪ねて思いがけずシカゴ大学のWen-Hsiung Li教授に遭遇.メシを奢ってもらいました.彼が多くのゲノムプロジェクトを指揮しているようです.秋頃にもう一度訪れることになるかもしれません.

2008年6月2日追記

最近になって日本にもSolexaや454がある程度の数入ってきているようです.沖縄に沢山あるという話を聞きました.

2008年5月21日水曜日

捏造というより虚構

鹿児島大学での論文の不正騒動について,大学からの調査結果がありましたので,暇なときに目を通してみました.主として関わった方はすでに亡くなられているのでこれ以上の真相は闇の中です.

http://www.kagoshima-u.ac.jp/html/files/1079/080516gakuchokokuji.pdf

その内容に驚きました.

僕は捏造というとちょっと図をいじったとか,余計なサンプルを省いたとか,逆にサンプル数を増やしたりとか,そういうレベルで想像していたのですが.ほとんどの図が使いまわしの論文があったり,いないはずの患者がいたり,ここまでくると捏造というより虚構の世界です.誤差を示すエラーバーがどのサンプルでも計ったようにキッチリと一緒だったり,よく査読を通ったなと逆に感心してしまいます.知らずに捏造データを渡された共著者を被害者ととらえることもできますが,ものによっては粗雑なデータを見抜けなかった責任もあるでしょう.



話は変わりますが,本人は不正を行っていなくても,「実は全く別のものを見ていた」または「解釈が全く違っていた」という例は不正の数とは比べ物にならないほど多いでしょう.有名な論文であれば追試によって検証されますが,見過ごされているものも多いでしょう.ただ,後になってみれば間違いであったとわかったことなどはたくさん存在します.というよりもむしろ科学という手法が後の検証によって誤りを見つけていく営みだととらえることができるかもしれません.つまり,明らかに故意の不正がない限りは誤った結論を導いた論文を撤回する必要はないと思います.

そうなると,業績の評価は論文数やIFなどで評価するよりも,研究の内容がわかる専門家が,「あの人の論文は有名だけど再現性が低いからNG」というように研究成果を評価できるのが理想ではないでしょうか.したがって,適切な評価ができるように分野ごとに一流の専門家を集めるべきだと僕は考えています.ただ,人的リソースの少ない日本でそれをやるとお手盛り評価のお山の大将集団になってしまう可能性が心配になりますので気をつけなければいけないでしょう.

2008年5月16日金曜日

アドホックなプログラミング

僕はプロのプログラマでは無いと自認しているので,かなり適当にプログラムを作っていきます.試行錯誤で加えたり,直したり.コメントはほとんどなし.

ちょこちょこやってたつもりでも気がつけば物凄く複雑になっていて,いろいろな関数が絡み合って自分でも何が何だかわからなくなってしまいます.最近,
しばらく中断していた研究を再開させたのですが,前書いたものを理解するのにしばらく時間がかかりました.

まさに単純なものから複雑なものが生まれてくる進化を体現しているのではないでしょうか.進化は試行錯誤によるアドホックな改善なのです.

近況その一
共著論文がアクセプト.ケモカイン遺伝子が淡水魚(ゼブラフィッシュ)で爆発的に増えているのをアノテーションしたものです.淡水魚はバクテリアに浸潤されやすいから,獲得免疫が原始的な魚類はこういった戦略を取っているのかなと予想.
Hisayuki Nomiyama, Kunio Hieshima, Naoki Osada, Yoko Kato-Unoki, Kaori Otsuka-Ono, Sumio Takegawa, Toshiaki Izawa, Yutaka Kikuchi, Sumio Tanase, Retsu Miura, Jun Kusuda, Miki Nakao, Osamu Yoshie, Akio Yoshizawa. Extensive Expansion and Diversification of the Chemokine Gene Family in Zebrafish: Identification of a Novel Chemokine Subfamily CX. BMC Genomics 9: 222 (2008) .

近況その二
再来週から一週間,台湾に出かけてきます.Arabidopsis thalianaの近縁種の遺伝解析についての共同研究です.

2008年5月1日木曜日

本棚:ヒトの変異

スポラディックな変異で起こる奇形から遺伝性の代謝異常まで,幅広くヒトに起こりうる突然変異とその生物学的,文化的解説を集めた本です.

結合性胎児から両性具有などともすれば俗物的な興味が中心になってしまいそうな内容ですが,それをわかりやすくまとめているのは著者が現役の分子生物学者だからでしょう.それぞれの表現型の突然変異についての分子生物学的説明は,概ね正確で的を射ています.しばしば誤解を持って理解される集団遺伝学についても正しい知識があるようです.また,この著者は歴史(特にヨーロッパの)についてもものすごく造詣が深く,その博識ぶりには驚かされます.

科学的内容もかなり良質でありますが,それとともに語られる著者のヒトの多様性に関するものの見方にも共感できるところがあります.

「私たちはみなミュータントなのだ,ただその程度が,人によって違うだけなのだ」

ヒトの変異―人体の遺伝的多様性について

2008年4月27日日曜日

Superwoman

サイエンスの記事
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/320/5875/442

ヒトゲノムの多型情報から,正の淘汰を受けた場所を探すのによくつかわれる,Extended Haplotype Test (Long Range Haplotype Test)を開発したPardis Sabetiさんの特集です.

2002年に発表された論文は人類遺伝学の研究をしている人なら誰もが知っている有名なものです.基本的なフレームワークはFay and WuのH Testと変わらないのですが,単なる代表値の比較ではなく,よりコンピュータの計算を駆使したテストになっていますので,非常に使いやすいテストです.

女性なのも知りませんでしたが,記事では彼女のワーカホリックぶりと幅広い活動が述べられています.フィールドワークを含めた研究のみならず,アルバムを出しているロックバンドの作曲とボーカルもやっているとのこと.机の下の寝袋で三日間で二時間しか寝ていないというのもうなずけます.

これからも燃え尽きずに頑張ってほしいところです.

2008年4月24日木曜日

マーモセットゲノム

マーモセットのドラフトゲノムが公開されました.

マーモセットは新世界ザルで,マカクなどよりはヒトから系統関係が離れていますが,小型で飼いやすく,繁殖能力も高い(毎年双子を産む)ために医学実験によく用いられています.

先日のオランウータンを含めると,残る霊長類の系統はゴリラ,テナガザル,原猿類ということになります.遅かれ早かれ解読されることになるでしょう.

2008年4月15日火曜日

Journal@rchive

最近はJ-STAGEなどで日本の雑誌のPDFも読めたりしますが,Journal@rchiveというのはさらに上を行っています.日本の科学雑誌で古いものを中心にPDF化しているようです.

遺伝学雑誌なんて,1921年,大正10年の創刊号から読めてしまいます.OCRで読んでいるので文字も鮮明です.同じく歴史が古い人類学雑誌も最初から読めます.人類学なんてのは埋もれてしまった貴重なデータなどがあるのではないでしょうか.

流し読みをしていて気に入った,曾田龍雄博士の論文.確かメダカかゼブラフィッシュの体色はいくつか遺伝子が同定されていますよね.結果を比べてみると面白いかもしれません.

肝心の論文は,出だしは格調が高い割には哀愁が漂っています.念のため書いておきますが,これは学術論文です.以下引用(一部漢字は現代漢字に変更).

--

「めだか」の体色の遺伝現象

予が「めだか」に就いて体色遺伝の実験を始めたのは大正二年で爾来年月を経過すること八星霜,随分永い間にも拘わらず得た結果は貧弱である.

これは元より予の菲才の然らしむる所であるが,一つには実験が住宅の片隅の数坪の空き地で小規模で行われ,水槽の如きも四十許の少数なのに因るので,若し大仕掛けで行ふことが出来たのであつたならば同様の結果を二三年は早く得たことと思ふ.

2008年4月10日木曜日

本棚:利己的な遺伝子

有名なドーキンスの代表作です.

僕が初めてこの本に触れたのは高校生の時でしょうか.それまで真面目に進化というものを考えたことはなかったので,なかなか目から鱗が落ちるような本でした.

この本の内容をあえて一言で言うと,

「淘汰の単位は遺伝子である」

ということに尽きます.それ以上でもそれ以下でもありません.集団でも個体でもなく遺伝子(または協調的な遺伝子のユニット)に淘汰はかかるのだということが色々な例をあげて丁寧に説明されていきます.これは現在主流のの集団遺伝学の考え方に一番近いものであると思うし,僕も大いに賛成します.

ただ,一つ問題なのは,そしてしばしば誤解されるのは「協調的な遺伝子のユニット」という言葉の解釈についてです.遺伝子淘汰説に対するよくある反論は,「一つの遺伝子が表現型を決めることはない」,という説明です.これはある意味では正しいでしょう.たしかに,遺伝学的な研究で発見された,一つの遺伝子が一つの表現型をきっちり決めているという例は豊富にありますが,それが生命現象のすべてではありません.したがって遺伝子の組み合わせが表現型を決めているという表現の方が正確に聞こえます.ただし,進化を漸進的なものと考えると,協調的な遺伝子の組み合わせがあったとしても,そのユニットのメンバーが一度に総替わりすることはなく,一つずつ代わって全体の適応度が試されるでしょう.そういう場合にはやはり淘汰の単位は遺伝子(機能的な最小ユニット)であると言ってよいと思います.

ドーキンスについて個人的な感想を述べさせてもらうと,とてもディベートが強そうだという感じ,そして確信犯的に誤解を受けそうな言い回しをしておきながら,決して尻尾を見せないこと,そんな印象を受けます.たとえば,ドーキンスの本を読むと彼が適応万能主義者のように感じることは多々ありますが,彼は「私は適応がすべてだとは思っていない」というような文章も紛れ込ませて書いています.
これだけの分量の著作を綱渡りのように慎重に書きながらかつ大胆な結論を持ってくる,それがこの本がこれだけ有名な理由であると思います.

利己的な遺伝子 <増補新装版>

2008年4月9日水曜日

ホテルの予約と新聞の取材

6月のSMBEの飛行機と宿を予約しました.いつもギリギリまで行動しないので,忘れないうちに.

ネットで検索.安い順にソートしてGoogle Mapに住所を入れて,会場に一番近い所で即決.ホテルの名前も覚えていません.我ながらいい加減な決め方ですが,せっかちな人間には便利な世の中になりました.それにしてもユーロは高すぎですね.

と,本日は産経新聞の取材を受けました.研究とは関係なく,研究所と地域との交流についての取材でした.しばらくしたら関西版の朝刊に載るそうです.

2008年4月5日土曜日

Article access statistics

先日発表した論文はオンラインで誰でもタダで読める雑誌に載せたのですが,その後のサービスでいったい何人が論文をダウンロードしたのかがわかるようです.論文を出した後はその評判も気になるので,良いシステムだと思います.

ただ,編集料と保管料として高額のお金を取っている割には,編集の質が落ちた気がします.1列で表示できる図を2列使って表示したりで,見た目のバランスが非常に悪いです.これまではすべて編集者さん任せでOKだったのですが(たまに解像度と印刷サイズの両方を求められますが),これからは最初から自分で設定済みのファイルを送るべきだと感じました.

まあ,紙媒体でなくスペースの制約がないので,印刷物と同じようなデザインにする必要はないのかもしれませんが.

2008年3月30日日曜日

シンポジウムとダーウィン展

先週末は東京で遺伝研のシンポジウムに出席してきました.留学したラボのボスが来たので会いに行くのも目的の一つでした.いやはや元気な方ですが,いろいろと勉強にもなります.2,3か月こっちに来て仕事をしないかと簡単に言ってきますが,日本での仕事を考えると無理な話.相変わらず無茶を言います.

シンポジウムの翌日は休みだったので上野公園の科学博物館でやってるダーウィン展を見てきました.
生でゾウガメが見られたので満足.いつかガラパゴスに行ってみたいですが,あそこも観光客で荒らされてしまったところが多いので複雑な気分です.

公園は桜のシーズンでお花見客があふれていました.

2008年3月19日水曜日

Author contribution

とある論文を読んでいてふと思ったこと.

最近は,著者の責任と役割を明確にするために,Authors' contributionsというものを明記させる論文が増えました.たとえば,Aさんは実験をして,Bさんは研究をデザインして,Cさんが論文を書いた,みたいな感じです.

その論文は責任著者が大学の教授,筆頭著者がたぶん学生さんか何かだと思うんですが,論文を書いたのも研究をデザインしたのも教授ということになっていて,筆頭の人は実験をしただけという記述になっています.

やはりサイエンスは論文としてきちんと形にするまでがサイエンスであって,先生が大幅に直すにしろ,きちんと学生に論文を書くように指導すべきだと思います.それできちんと貢献度にも加えてあげるほうが良いのではないでしょうか.逆に言うと,研究計画にも執筆にも関わっていないのにファーストオーサーってのは批判の対象になるかもしれません.まあ,ふつうそこまでは細かく読まないですが,学位審査なんかには重要ですよね.

2008年12月18日追記

自分のケースでは,ポスドクの時にボスに論文を書けと言われて急いで書いたのですが,「うん,いいね.じゃあ同じ感じで書き直しておくよ」と言ってボスの原稿に差し替えられました.

どうして使わない原稿を書かせるのか?僕は聞きませんでしたが,間違いなく「ポスドクを満足させるため」と答えるでしょう.自分の書いたものとボスが書いたものは,内容は同じであってもやはりボスが書いた方がとても素敵に見えました.おかげでものすごく勉強になりました.

2008年3月11日火曜日

オランウータンゲノム


http://genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgGateway?hgsid=104784180&clade=vertebrate&org=Orangutan&db=0

昨日データベースを見て中途半端にデータが載っていたので「おや?」と思っていましたが,本日正式にリリースされたようです.6倍の重複度なので悪くないのではないでしょうか.どんどん霊長類のゲノムが増えていくので,いろいろと面白いことがわかってきそうです.あとはゴリラ,テナガザル,新世界ザル(マーモセット),メガネザルが順番を待っています.

オランウータンの学名について以前尋ねられたことがあります.最近はスマトラのオランウータンをPongo pygmaeus abeliiという亜種ではなくPongo abeliiと別種にするような記載があります.しかし,NCBIでは以前から
Pongo pygmaeus abeliiで統一されているようです.したがって今回のゲノム配列はPongo pygmaeus abeliiに入っています.混乱しますね.

2008年3月1日土曜日

未来の論文

木,金曜日と葉山の総研大でのセミナーに参加してまいりました.

初めて行ったので,交通の不便さにはびっくりしましたが,こ綺麗な建物で周りの環境も良く,研究に専念するには良い環境だと感じました.日本では数少ないEvolutionをフォーカスを絞ったDepartmentなので羨ましい限り.

発表の内容も自分が専門の部分に関しては素晴らしいスピーカーが来てくれたので刺激がありました.準備・招待してくれた方々に感謝です.

さて,タイトルは小ネタ.帰ってきて少し気になったことがあったのでGoogle Scolarを漁っていて見つけた論文.

リストの一番上.

なぜか発行が2019年に...


2008年3月3日追記

2010-2099の論文で検索するとこんなことに.キュレーションがない欠点ですね.

2008年2月27日水曜日

ポチっとな

SMBE (Society for Molecular Biology and Evolution) 2008にアブストラクトを登録しました.場所はスペインです.

英語で口頭発表は嫌だなぁ,と思いつつもプログラムをにらんで一番選んでもらえそうなセッションに登録.ああ天の邪鬼.

2008年4月15日追記

...と思ったらオーラルに選ばれてしまいました.合掌...

2008年2月26日火曜日

世代時間と分子進化

Large-scale analysis of Macaca fascicularis transcripts and inference of genetic divergence between M. fascicularis and M. mulatta
BMC Genomics 9: 90 (2008).

長らくリバイスしていた論文がやっとお披露目になりました.どちらかというと記述的な内容です.

論文では愚駄愚駄になるので述べていませんが,論文中では集団遺伝学的手法と分子進化学的手法を合わせた方法でサルの種分岐時間(もしそういったものが存在すれば)を推定しています.そこで問題となるのは突然変異率の定義です.

分子進化学での突然変異率は年あたりの突然変率を用いるのに比べて,集団遺伝学では世代あたりの突然変異率を用います.この二つは何が違うのでしょうか.

論文での例を挙げて考えてみます.

ヒトの世代はおよそ15-20年,ニホンザルなどのマカク類の世代時間はおよそ5年,その差は3倍近くになります.

もし分子進化速度(年あたりの突然変異率)が一定ならば,ヒトの世代あたりの突然変異率はサルよりも3倍(正確には1~3倍)低くなければなりません.年あたりの突然変異率はヒトの系統ではサルの系統より遅くなっていることが知られていますが,現在まで調べられたところでは高々20%-30%低くなっている程度です.

つまり,サルの年あたりの突然変異率を1とするとヒトの年あたり突然変異率は0.8くらい.世代あたりの突然変異率は世代時間をかけてサルで5,ヒトで12.はたしてこんなにも世代あたりの突然変異率が違うでしょうか.このモデルが当てはまると,子供を産む年齢が上がってくると,世代あたりの突然変異率は上がります.

世代あたりの突然変異率は直接求める方法(いろいろな方法があります)と,上のように年あたりの突然変異率に世代時間をかける方法とがありますが,その多くは必ずしも一致しません.

論文では,分岐時間を求めるときには年あたりの突然変異率,集団サイズを求めるときには直接法によって求められたヒトの値を使うというアドホックな方法で済ませてしまいました.残念ながらサルの世代あたりの突然変異率は直接調べられていないので,おそらく推定値はどこか中間的なところにあるのだと思います.そのうち,世代当たりの突然変異率をwhole genome sequenceで決めることができるようになれば,ここら辺の推定も正確になってくるでしょう.

中立説は分子時計の理論を裏打ちしているかのように考えられていますが,実際には中立説が成り立つと,世代あたりの突然変異が種によって違うということになります.逆に,突然変異率が世代時間と正の相関を持ち,かつ中立説が成り立つなら,世代時間の短い種ほど分子進化は速くなります.これを最初に示したのがWu and Li(1987)の研究です.

ここまでは中立な突然変異の話です.有害な突然変異を含めた話(たとえばアミノ酸の分子進化)は,いろいろと議論されています(たとえばMartin and Palumbi 1993Ohta 1987).このような機構により分子時計が担保されていると考えられています.

--追記

Martin and Palumbi 1993
Gillooly et al. 2005
こちらは年あたりの突然変異率はエネルギーの消費量(体重と温度)で決まるという説.

2008年2月21日木曜日

ヨーロッパ人集団ではアフリカ人集団に比べて有害な遺伝的変異の割合が高い

Proportionally more deleterious genetic variation in European than in African populations

タイトルはNature Japanの訳です.

ヨーロッパ由来のアメリカ人とアフリカ由来のアメリカ人のSNPパターンを調べたところ,ヨーロッパ由来の集団にはアミノ酸の機能を大きく変え,有害だと思われる多型をホモ接合で持つ割合が多かった.また,集団特異的なSNPを見ると,ヨーロッパ由来の集団で有意に非同義置換が多かった.という内容です.

非同義置換のうち,タンパク質の機能を大きく変えそうなものをさらに取り出してくると,調べられた人々では平均426個の変異をヘテロで持ち,92個をホモの状態で持っているとのことです.調べた遺伝子は1万個なので,遺伝子の総数が2万だとすると,およそ1000個の有害な変異をヒトは持っていることになります.これらの変異の中にはタンパク質の機能を良くするものも一部あるでしょう.

有害な多型が多いのは,おそらくヨーロッパ集団の集団サイズが小さくなったボトルネックの効果であろうと著者グループは考えています.

タイトルだけみるとヨーロッパ人はアフリカ人より遺伝的に劣っているというような印象を受けますが,この論文で言わんとしていることはそういうことではなく,人口の増加やボトルネックなど集団の歴史により有害な突然変異が集団中から除かれる効率が変わってくることをゲノムレベルで示しているにすぎません.人類でも移住した小集団で有害な表現型が現れることはよく知られています.単に近親婚によりホモ接合の確率が高くなるだけではなく,遺伝的浮動によりやや有害な突然変異が集団中に広まってしまうこともひとつの原因であるでしょう.

前の中立説のエントリーとも重なりますが,ここでの有害な突然変異とは,ほぼ中立説のやや有害な突然変異に当たります.

2008年2月20日水曜日

本棚: 種の起源 (On the Origin of Species)

ダーウィンが書いた「種の起源」です.

僕が持っているのは英語版は初版,日本語訳されたものは第6版です.第6版は初版が発行された1959年の13年後,1872年に出版されています.改訂の度にいろいろと追加変更がなされているようです.

進化を学ぶなら一度は目を通しておいたほうが良い本ですが,さすがに原著はあまりお勧めできません.重要な部分に目を通すくらいならできますが,英語も古いし,なにより言い回しが回りくどい部分が多々あります.せっかく日本語で良い訳があるのですから,こだわらない限りは日本語訳で充分だと思います.気に入った部分だけ英語でじっくり読んでみるとよいと思います.原著を抜き出して発表の時に引用すると賢く見えます.

第6版の日本語訳は「新版・図説・種の起源」という邦題です.これは原著というよりもリチャード・リーキーにより編集,注釈,図版の追加が行われています.非常にわかりやすくまとめられているのでお勧めです.

実際に種の起源を読んでみると,ダーウィンの慎重かつ大胆な考察やその博識ぶりには感動すら覚えます.気の遠くなるような膨大な事例を積み重ねて,種が神によって個別に作られたわけではなく自然選択によってもたらされたものであると論じていきます.

恥ずかしながら,これを読むまで知らなかったこととして,ダーウィンが獲得形質の遺伝を一部認めていることがありました.当時は遺伝の知識が一般になかった(ダーウィンはメンデルの論文については知っていたようですが)ので仕方ありませんが.ダーウィンは遺伝の仕組みについてパンジェン説という奇説を唱えています.(もちろん獲得形質の遺伝がメインであるとダーウィンは考えていませんでしたし,選択の主体は自然選択にあると考えていますが)

そうなると,ラマルクの用不用説とは根本的に何が異なるのかということになります.より根本的な違いはラマルクは生物は直線的に進化すると唱えたのに対してダーウィンは種は分岐しながら進化するとしたことのがあげられるでしょう.ラマルクの進化では生物は下等なものから高等なものまで直線状に並びますが,ダーウィンの考え方では木の枝のように多様性を獲得していきます.ラマルク的な考え方はチャールズの祖父エラズマスや先生のグラントも主張していたようです.

もちろん,遺伝の仕組みや大陸の移動が当時は明らかにされていなかったため,間違った議論を繰り返している部分もあります・しかし,(この本をきちんと読んでないと思われる)反ダーウィニストによる誤解,または極端な適応主義への誤解についてはすでにはかなりの部分に答えています.中立進化や性選択についても既に考察がなされています.

また,巻末にはリチャード・リーキーがダーウィンの発見から今日の進化学に至るまでの概略を解説しています.これも非常によくまとまっているので学習用には最適かと思います.


新版・図説 種の起源
On the Origin of Species a Facsimile of the First (Harvard Paperbacks)

2008年2月19日火曜日

分子進化の中立論

40周年記念講演会に参加してきました.予想以上に多数の人が集まっていて驚きました.久しぶりに母校の校舎を訪れたのですが,周りのお店などが結構変わっているみたいですね.

中立論は生物学で日本人が生み出したセオリーの中では最も有名なものでしょう.生物は複雑なものなので物理学のように完璧に近い理論はありません.例外が少ない理論をより良い理論とするならば,生物の世界は例外ばかりで理論もクソも無いでしょう.そういう意味では進化論は素晴らしいですね,進化してない生物などいないわけですから,例外はありません.

中立論を発展させた考えに太田朋子先生の「ほぼ中立説」があります.英語の"nearly neutral"を訳してるためにやや微妙な名前の説ですが,特に集団内での遺伝子の挙動はこちらの説の方がよりよく当てはまると僕は思っています.

中立説に「やや有害な突然変異」の存在を付け加えたのがほぼ中立説です.ただし,中立説とて「やや有害な突然変異」が全くないとは言っていませんので,検証のしようがありません.なので僕は「厳密な中立状態」と呼んでいます.

厳密な中立状態では分子進化と集団内の多型の分布は集団サイズに依存しません.たとえば,ヒトとハエとの違いは「世代時間」のみになります.ところが実際に分子のデータを見てみるとヒトとハエの進化のパターンや集団内の多型のパターンはかなり違っていて,その違いはやや有害な突然変異の存在でほとんど説明できます.

ここから予測されることは,

1. 集団サイズの小さい生物は,やや有害な突然変異が効率よく集団から除かれないので,集団内の多型で同義置換に対する非同義置換が多い.

2. 集団サイズの小さい生物では,集団内で除かれないやや有害な突然変異が種内で固定する確率が高いので,生物種間を比べた場合に同義置換に対する非同義置換が多い.

もし,生物に起こる有利な突然変異の割合がとても多ければ,上とは全く反対の予測になりますが,実際の観察結果はほぼ中立説を支持します.つまり,ほぼ中立説は選択説に対するより強い反証を挙げることができます.

2008年2月14日木曜日

本棚: ニッポンの大学

自分が読んだ本の紹介でも始めようかと思います.おもに生物学,進化学に関する一般書,教科書について.試しにいつもお世話になっているAmazonのアフィリエイトを使ってみました.

普段のアクセス数をみる限りはほとんど収入がなさそうですが,たまったらどこかに寄付でもしましょう.アフィリエイトから自動的にチャリティーに入るような仕組みがあれば流行ると思うんですよね.自然に関する本を買って森林保護に寄付するとか,医療に関する本を買って難病の子供に寄付するとか,そういったものがあると良いのではないでしょうか.

というわけで,最初なので軽く新書から.最近はやりの大学本ですが,少し違うつくりになっています.

この本は一言で言うと,「ランキング至上主義に対するアンチテーゼとしてのランキング本」ということでしょう.あえて雑多なランキングを示すことによってランキングの本質に迫ろうという意図があるようです.

内容はトリビア的なものも多く,プロ野球選手を多く輩出している大学やらテレビに対する教授の露出度までいろいろとあります.とにかく,大学ってピンからキリまでものすごい数がありますね.僕は理系の学部がある大学しか知りませんからなおさらです.

さて,この本の主題は達成できているのでしょうか.著者はどこかに真のランキングがあるかのように書いていますが,僕は,ランキングの意味はランキング自体にあるのではなく,ランキングを読む人の側にあると思っています.どんな調査であろうとそれを無批判に受け入れる人には調査というものは何の意味も持たないでしょう.

大学がしょうもないランキングに一喜一憂するのも仕方のないことです.なぜなら,「ランキングが良いランキング=良い大学」と判断するナイーブな人々がいるからです.問題なのはランキングを判断する側であって,ランキングを上げる努力をする方にはないと思っています.

研究者も然り.NatureやScienceなど高いIF(被引用率の指標)の雑誌に出したからってその論文の真の価値が高くなるわけではありません.しかし,研究費を取ってさらに質の高い研究をするために高IFの雑誌に投稿すること,そして掲載されて喜ぶことには何ら悪いところはありません.むしろ,最初からIFの低い雑誌を狙った論文はおのずと質も低くなるでしょう.

ランキングを上げるために切磋琢磨することはよいことであるが,ランキングの良しあしだけで判断するな.もちろん,ランキングを上げること自体が目的になってしまうのは避けるべきですが.


矛盾しているようですが望ましい状態だと思います.判断する方とされる方,両方の努力が必要でしょう.

ニッポンの大学 (講談社現代新書 1920)

2008年2月8日金曜日

Mouse or Rat?

英語ではハツカネズミをMouse,ドブネズミをRatと呼びますが,日本語では両方ネズミと認識しますね.

言葉というものは面白いもので,普段二つを区別している英語圏の人々には違う生き物として映っているようです.ミッキーマウスとは呼ぶけどミッキーラットとは呼びませんね.生物学を学んでいるとマウスとラットはまったく違うものとわかるのですが,おそらく一般の人はまったく区別していないでしょう.

今日は中国の旧正月のようで,今年はネズミ年です.これが英語のニュースでRat yearと書かれていたので調べてみると,干支のネズミはRatと訳されているようです.ちなみに,干支はAsian zodiac,zodiacは普段は黄道12宮(所謂星座)を指しますので,それのアジア版ということでしょう.

そうすると,ネズミ年を祝って中国の遊園地に現れたミッキーの偽物はミッキーマウスではなくミッキーラットの可能性が高いわけですね.あ,耳の大きいネコってことになってたんでしたっけ.

名前が違うと認識が変わるというのは面白くて,ネイティブの人にこの話をすると決まって,

「じゃあお前らはそのMice and Ratsをどうやって呼んでるんだ?」

と聞かれて困ってしまいます.

「ネズミはネズミじゃボケェッ!」

と返したくて仕方がないのですが, 適当な言葉がありません.

他にも,昔フィリピンに行った時は種類の違うバナナに固有の名前が付いていてなるほどと思いました.北海道でもいろいろなサケを別の固有名詞で呼びます.一般的に身近にあるものにはたくさんの名前がつくのでしょう.

同じ例として,日本では生物種はイネですが食べ物になるとコメ.英語では両方ライス.イネゲノムプロジェクトはRice Genome Projectです.

反対にトウモロコシは,英語ではMaizeとかCornとか呼ばれます.厳密な使い分け方は知りませんがMaizeの方がイギリス英語らしいので格調が高そうに聞こえます.トウモロコシゲノムはMaize GenomeであってCorn Genomeではありません.反対に,Eat cornとは言ってもEat maizeとは言わない気がします.

2008年2月11日追記

書き忘れましたが,ちなみに中国語でもMouseとRatは区別しません.

2008年2月7日木曜日

Japanese postdocs seek their path

Natureに掲載された日本ポスドク事情記事.
http://www.nature.com/naturejobs/2008/080207/full/nj7179-742b.html

3分の2はポスドクを続けてそうじゃない人の8割は研究職(R&D職)についているという内容です.生物系とは限っていません.真意は読めませんが,もっと多様な進路をということでしょうか.

3分の1の8割ってことは4分の1くらいは職を見つけているということでずいぶん多く感じますが,所謂アカデミックなポストはどれくらいあるのでしょうか.

大学の若手のポストについて任期があるのは仕方ないですが,僕がずっと主張しているのは,アメリカ式に助教を全部PI(ラボのボス)にしなさいということです.中には実質的に独立している方もたくさんいるでしょうけれども.

大学全体のポストは増やせなくても,独立したラボの数は増やせるはずです.研究スペースと研究費獲得が相対的に厳しくなるのは覚悟しなければいけませんが.

興味深いのは,別の記事で海外から見た日本の事情の解説の中で,日本の「論文博士」制度を紹介しているのですが(企業がPhDを採用しない現状の原因の一つとして),

--引用--
Raymond Price, now a manager at the biotech firm Acucela in Bothell, Washington, says that the Japanese drug firm he worked for in Osaka had only two other PhDs in a neuroscience research group of 20 scientists. And those two had earned their doctorates while working for the company, through the 'paper PhD' system, which allows industry scientists to submit their company research as their thesis — almost unheard of in the West.
--終わり--

「paper phD」はひどい訳に聞こえます.しかし,海外から見ればおかしな制度に映るのでしょう.

2008年2月5日火曜日

Natural selection has driven population differentiation in modern humans

http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/abs/ng.78.html

要旨
ヒトの表現型における多様性の多くはさまざまな環境に対する自然選択を反映しているだろう.これまでのいくつかのゲノムワイドな研究が正の選択を受けたゲノム領域を特定してきたが,自然選択がヒトゲノムの多様性にどのように関わっているかはまだ明らかになっていない.われわれはフェーズIIHapMapによる280万個のSNPデータを解析した.われわれは負の淘汰がアミノ酸を変えるようなサイトでは,特に病気にかかわるような遺伝子では,集団の分化が抑えられていることを発見した.反対に,正の淘汰は遺伝子領域,特にアミノ酸を置換するサイトと5'-UTRに働き,集団の分化を速めていることを見つけた.われわれの解析は現在のヒト集団の形態や病気に関連した表現型の多様性に関係した,もしくはまだ関連し続けている領域を同定した.

一言で言うと,集団でよく違っている(高いFst)ところでは他の部分よりも非同義置換の割合が多かった,ということです.非同義置換のFstが高くなるというのはアメリカにいたときハエでやってたけど,他の事に集中してて没にしちゃったんですよね.ざっと見た感じでは予想通りの結果ではありますが丁寧に解析されていて面白い論文だと思います.ただ,経験的にFstが高いサイトやderived allele frequencyが高いサイトは数が少ないので,割合をはかるときにどれくらいの分母になるのかが気になるところ.今解析しているものにも近いところがあるので勉強させていただきます.

2008年1月31日木曜日

右肩に点

つづけてよく間違えるプライムとアポストロフィーの防備録.これもフォントによっては見分けがつかないですが,論文を書くときはきちんと区別したほうがよいでしょう.

・[ ’ ] アポストロフィー(U+0027)
「~の」という所有格や,90年代(90's)などに使う.日本語キーボードだと7+shift.

・[ ‘hoge’ ] シングルクォーテーション(U+2018, U+2019)
引用符,最近のワープロだと’で囲むと勝手に修正してくれます.

・[ ' ] プライム(U+2032)
似ているものを表すときに使う記号.生物だとDNAの方向を5'-endとか3'-endとか書きます.微分の記号もプライムです.フィートとか分もプライムです.

・[ “hoge” ] ダブルクォーテーション (U+201C, U+201D)
引用符,普通の引用はこちらを使う.アメリカ人はカニみたいなジェスチャーをします.

・[ " ] ダブルプライム(U+0022)
インチ,秒,二回微分.あまり使わないかと.

2008年1月29日火曜日

横棒一本

論文を書くときによく間違うのが横棒一本の記号です.

マイナス,ハイフン,ダッシュといろいろな名前があるのですが,フォントによってはどれも同じように見えます.いつも適当に書いて英文校正で怒られるので防備録としてまとめてみました.半角を基本とします.

・[−] マイナス (UNIコード: U+2212)
負の数字を表わしたり,減算をあらわしたりします.テンキーの「-」はハイフンなのでNGです.これが一番紛らわしいです.

・[-] ハイフン(U+2210)
二つの文字をつなげるときや単語の途中で改行するときに使う.(例: cis-reguratory element)

・[–] en dash (U+2213)
エヌダッシュと呼ぶようです.下のエムダッシュよりも若干狭い.数字をここからここまでという時に使います.(例: 5–10 samples)

・[—] em dash(U+2214)
エムダッシュと呼ぶようです.コンマよりも少し強い感じで文章を区切ったり,論文のサブタイトルを示すのに使います.アスキー文字だとダブルハイフン(--)であらわしていたようです.

同じ記号でもさらに別のコードがあったりするみたいです.あとは~(波ダッシュ)なんかもよく使いますが,英語より日本語のほうがよく使われているみたいですね.

2008年1月22日火曜日

Windows Vista

自宅で問題なく使えているので,仕事用のPCをVistaが入った新品にしました.メモリが2Gあればサクサク動きますね.最近ヘビーな計算が多いので,これで仕事がはかどります.本当はクアッドコアのが欲しかったのですが,手ごろな値段のものにしました.

評判が悪いVistaですが,僕はわりと快適に使えています.ただし,こんなことがあるので注意.

Program filesフォルダ以下のプログラムの設定ファイルをメモ帳でいじったりするのが普通にやるとできません.管理者権限でアクセスしているのにパーミッションが無いと怒られるのです.しばらく悩みましたが,ダブルクリックでファイルを開くのではなく,メモ帳を右クリックして管理人権限で起動し,そこからファイルを開くとすんなり行きました.面倒くさいです.

こういったところはさすがに柔軟性を持って設計して欲しいです.WindowsにUnix並みのシステム管理設計を求めている人はいないと思うのですが...

2008年1月18日金曜日

論文リバイス

ここ数日は色々な論文の整理が回ってきます.忙しいことはいいことですが.

と,自分が責任著者の論文のリバイスが来ました.はい,英文校正会社で問題無しとして上がった論文の英語がまだ怒られています.それだけもとの文章が拙かったのでしょうか... それ以外はOKなので,英語さえ少し直せば通りそうです.

お金を払っているのに英語が問題ありでは流石に不味いので校正会社に掛け合ってみました.数人で検討した結果,タダで更に校正してくれるそうです.きちんとフォローしてくれるところで助かりました.

英文校正のサービスをする会社はたくさんありますが,ほとんどが医学や生化学の分野の専門家です.これらの分野はわりと定型化されたスタイルが確立されていると思います.進化などのマイナーな分野を専門とする人はいないし,言わんとすることもより抽象的になってくるため,どうしても完全なフォローは期待できません.最後は自分の力で何とかするしかないのでしょう.

2008年1月9日水曜日

ダブルブラインドの査読は女性の著者を増やす

Double-blind review favours increased representation of female authors

論文の査読のときに,査読者に著者の名前を知らせないシステムをダブルブラインドの査読システムといいます.実際にこれを行なっている雑誌は一般的な生物学の雑誌では少ないと思います.普通は査読者は誰が書いた論文かを知った上で評価します.

明らかにダブルブラインドの方が公正な判断ができるにも関わらず,著者の名前が知らされる理由としては,

1) 研究のバックグラウンド(著者の過去の研究)について査読者がよく知ることができる.
2) 著者の信頼性の担保のため(あいつならこのデータは安心だろうという身内的な判断ができる).
3) そもそも匿名にしても,読む人が読めば誰が書いたか想像がつくし,ついつい想像してしまう.

あとは何かありますかね.まあ,他にも色々とあるでしょう.

しかし,ダブルブラインドを取り入れると女性の著者の割合が他の雑誌に比べて上がったというのが上のレポートです.知らないうちに性別で差別されてリジェクトされる確率が上がっているということでしょうか.日本では特に女性の研究者は少なく,肩身の狭い思いを強いられているかもしれません.

それ以上に研究者の世界で偏っているのは社会層,例えばアフロアメリカンの研究者が少ないことでしょうか.もともと大学に進む割合も低いでしょうし,優秀な人は大学なんかじゃなくてよりお金になる仕事を選ぶのでしょう.生物でも医学や薬学は比較的色々な人種の研究者がいるとは思います.映画とかでも黒人の弁護士とか医者はたくさん出てくるけど,大学の先生は白人男性が多いですね.

2008年1月24日追記

Gender Differences: Need More Data!


僕はちゃんとしたデータを見ていないでコメントをしたのですが,他の雑誌でも女性の著者の割合が上がっているのでそれと比べて有意差は見いだせないだろうという反論です.グラフを見る限りそう見えますね.データを見ることは大事だと改めて勉強になります.

2008年1月8日火曜日

魔法の迷惑メール

迷惑メール,最近多いですね.迷惑メールをフィルターするためにThunderBirdを使っていますが,これで9割くらいの迷惑メールをカットできています.ベイジアンで迷惑メールを判定しているとか.

ところが,最近何通かフィルターを通り抜けてくるメールがあります.なんだかスピリチュアルな霊感商法まがいのメールです.もちろん最初に来たときに迷惑設定をしておいたのですが,その後も次々とフィルターを通り抜けてきます.全く同じアドレスから送信されてきているのに弾けないとはどういうことでしょうか.送信元を特定してフィルターを作ろうと思いましたが,悔しいのでやめて様子をみることにします.

まさに魔法のメールです.これが目的だとすると随分回りくどいことをする人です...

2008年1月7日月曜日

捕鯨について,環境保護について

最近捕鯨の是非について話題になっています.僕はどちらか強い意見を持っているわけではないのですが,「クジラがサカナをたくさん食べるから捕らなければならない」っていうのを理由に捕鯨をしようという意見だけはずっとおかしいと思ってたんですよね.

クジラの先祖は5000万年前くらいのパキシータスという四足獣と考えられています.耳の骨の形がクジラに近いようです.完全に海生になったのはそれからあとです.去年にはより偶蹄類に近いと考えられるマメジカ様の化石が見つかっていますね.ともあれ,ずっと昔からクジラは海にいたわけです,今ほど大型ではなかったとは思いますが.

普通に考えると,魚が減った理由はクジラが増えたからではなく,ヒトが魚を捕りすぎたからですね.クジラの数はエサの資源の量にコントロールされており,それ以上には増えません.自然の生態系が出来上がっているのです.農場で害虫を駆除するレベルでならヒトは環境をコントロールできるかもしれませんが,地表の7割を占める海洋の生態系なんてコントロールできるわけが無いでしょう.このまま行けば,捕鯨をしなくてもクジラは絶滅してしまうかもしれません.恐らく,そのうち漁獲量の制限も国際的に強くなってきて,これから魚は養殖したものが中心になっていくのではないでしょうか.魚好きとしては残念ですが仕方ありません.

グリンピースにみるように,自然保護団体はとかくヒステリックになりがちです.ところが,この件をググってみたら良いサイトを見つけました.

http://www.whalelove.org/whales/facts/fact9

クジラの保護を掲げていますが,意見は非常に冷静です.こういった判断が本当の保護には大切だと思います.

行動を起こすのにきちんとした知識は必要です.先日,原発とか核燃料再処理施設を批判したイメージ映像を人に勧められてYouTubeで見たのですが,放射能と放射性廃棄物の区別もついていないようなお粗末なものでした.何が問題なのか,自分はどうしたいのか,よく勉強して考えてから信念に向かって進んで欲しいと思います.無知で進むことほど怖いものはありません.

2008年1月4日金曜日

A genetic legacy from archaic Homo

Evidence that the adaptive allele of the brain size gene microcephalin introgressed into Homo sapiens from an archaic Homo lineage
A genetic legacy from archaic Homo

個人的には半信半疑なのでコメントは避けますが,面白い可能性なので要旨の日本語訳だけでも.MCPH1対立遺伝子が古人類から遺伝子流入(introgression)したというPNAS論文の(上)流れです.やや補足しながらの訳.

現生人類に対する化石人類の遺伝的な貢献は謎である.古人類は生物学的に現生人類に似ていて,時代的にも地理的にも接触が頻繁にあったと考えられている,そのため二つの過去の集団に交雑があった可能性がある.これら二つの集団は系統的には別なものの,有利な対立遺伝子が片方の集団からもう片方に伝わる可能性がある.もし流入した遺伝子が選択上有利であるなら,交雑がまれであってもその遺伝子はもう一方の集団で広がったり固定したりするだろう.脳の発達に関わるマイクロセファリン遺伝子など,幾つかの遺伝子がこういった古人類からの遺伝子流入を起こした候補として挙げられる.この例は,ヒトの認知能力の一部はネアンデルタール人のような過去の古人類集団から受け継いだものであることを示唆しているかもしれない.

2008年

あけましておめでとうございます.

さてさて,今年はどんな面白い研究があるのか,自分は何をやるのか.新しいことにもチャレンジしたいと思います.

科研費が切れるので頑張って取らないと...