2012年11月19日月曜日

おめでとうございます

カニクイザルゲノム解析論文の筆頭著者である京大霊長研の東濃さんが,予防衛生協会研究奨励賞を受賞したとのことです.

東濃さん,おめでとうございます.

2012年10月5日金曜日

Retractionの基準

PLOSのブログ記事より

http://blogs.plos.org/speakingofmedicine/2012/09/25/the-role-of-retractions-in-correcting-the-scientific-literature/

PLOS MedicineとPathogenのエディターが最近あったリトラクションの例をあげて次のように述べています.

"We work with authors (through communication with the corresponding author) to publish corrections if we find parts of articles to be inaccurate. If a paper’s major conclusions are shown to be wrong we will retract the paper."

明らかな不正があった場合は議論の余地はありませんが,著者の意図に反する不幸なエラーがあった場合に必ずしも論文を取り下げなければいけないかは判断が難しいところです.

あげられているXMRVというウィルスの例では,ラボでのコンタミが原因だったということで取り下げになりました.社会的なインパクトも大きくかつ原因がお粗末な場合はリトラクションは仕方のないことかもしれませんが,単なる間違いの論文をすべて取り下げるような表現はどうかと思います.

個人的には,間違いの程度によっては訂正記事もしくは論文を載せれば十分で,必ずしも記録を抹消しなければいけないことはないのではと思います.間違いを決して認めない著者が有利になるだけではないでしょうか.

訂正記事があったときに,別のジャーナルであってもわかりやすい注釈がつくようなシステムがあればよいのですが.

2012年10月4日木曜日

読んだのか?

実に2469本の論文が引用されているレビューです.どこかに世界記録があるのでしょう.

http://www.biomedcentral.com/1755-8794/2/2


2012年10月2日火曜日

本棚:JBSホールデン

両方ともかなり古い本ですが,かの有名なホールデン先生に関する本です.一冊は伝記,もう一冊は一般向けの生物学に関する話題を集めたものです.

一般向けの本のほうは今となっては取り立てて面白いところは無いのですが,内容は非常にわかりやすく,生命科学について,進化についてまとめられています.その一方,伝記の内容はすばらしく濃いです.そして長いです.

彼の半生については断片的に聞きかじって知っていたのですが,おそらくこれ以上詳しい伝記は見つからないのではと思います.遺伝学者としてのホールデンだけでなく,自己犠牲的な人体実験,戦争での勇敢さ,権力との戦い,共産主義への傾倒などの事柄が時系列に沿って仔細に述べられています.彼の本質は何だったのかというといろいろと疑問もわいてきますが,一人の人間がこれだけ波乱万丈の人生を送られるのかという驚きがあります.
 
 

2012年10月1日月曜日

バックアップの大切さ

先週は遺伝学会には出られず,台湾に一週間ほど滞在していました.台南の成功大学でのシンポジウムに加えて,3000m級の山での野外調査(3000mを越えた山でも気軽にドライブで行けます),台北ではアカデミアシニカ(中央研究院)を訪ねました.

さて,戻ってくるとメインで使っているワークステーションのHDDが壊れていました.実は1ヶ月ほど前に同じPCの別のドライブが壊れて交換してもらったばっかりです.残り二つもそのうち逝ってしまわないか心配です.

大事なデータのバックアップは常にとっておくことが重要だと改めて感じました.

2012年8月24日金曜日

PLOS or PLoS

今まで気づかなかったのですが、今年からPLoSがPLOSになっていたようです.変な感じがしますが、すぐ慣れるでしょう.

昨日まで東京の進化学会に参加していました.来週は統数研で行われる研究会のためにもう一度東京に向かいます.

2012年7月24日火曜日

本棚:Elements of Evolutionary Genetics

今年度は集団遺伝学のテキスト輪読会でこの本を採用しています. Elementsと呼ぶには分厚すぎる本ですが,これを全部読むことができたら集団遺伝学の基礎はマスターしたと言っていいのではないかというくらい基礎的なことをカバーしています.

他の教科書に比べると数式が多いので,数学が好きな人は計算を楽しみながらできるのではないでしょうか.まじめにやるとかなり時間がかかると思います.

ただ,一つ気をつけなくてはいけないことは,集団遺伝学の教科書には学問の歴史的には重要であるが,現実には何の役にも立たない理論や仮説がたくさん出てきます.もちろん現代の科学者が共通に持つ考えはすべて歴史的な経緯を経てきているので,それらを知ることは重要です.

しかし,初学者が教科書に書いてあるからと言って正直に信じてしまう可能性もあります.例えば,この教科書の最初の数章は,如何に集団中に遺伝的多様性が保たれているかのモデルについて多くのページを割いています.初期の集団遺伝学がこのことをテーマにして,多くの理論を発展させたことは事実です.しかし,現代を生きるわれわれは多様性の多く(もちろんすべてではなく,自然選択によって維持されているものも無視できないくらいはあるでしょうが)はいわゆるmutationとdriftのバランスによって維持されていることを知っています.

歴史は歴史ということがわかっていて,かつそれを学ぶのに時間をかけることを惜しまなければ,非常に広い範囲をカバーしている良くまとまった教科書であると思います.

 

2012年7月18日水曜日

ドクチョウのゲノム

Butterfly genome reveals promiscuous exchange of mimicry adaptations among species, The Heliconius Genome Consortium Nature (2012)
 
今日は集団遺伝学のジャーナルクラブでこれをやりました.

毒を持つチョウでは一般的にベイツ型擬態( 毒の無い種がある種のマネをする)とミューラー型擬態(毒のある種が模様を共有する)が知られていますが,Heliconiusという南米に住むミューラー型擬態をするチョウのゲノム解析に関する論文です.

この属は割とよく研究されているので,基本的な発見は過去のものの焼き直しなのですが,ゲノム配列が決まったことによってより詳細に解析できるようになったというのがアピールポイントです.
同じところに住む別々の種がどうやって見た目を共有できるのかは大きな謎ですが,この種では翅 のパターンを大きく決める二か所の座位が知られています.

割と近縁な種間では,これらの座位において選択的な遺伝子流入があるということが,今回の研究でも確かめられました.捕食者(鳥)は食べてまずいチョウの模様を学習しますので,集団内に同じ模様のものがいればそれだけ食べられるリスクは減るはずです.別種から交雑により今の種にない翅パターン遺伝子が入ってきた場合,雑種の適応度が一時的に下がったとしても,生存に有利な座位だけが組み換えを経て集団中に広まることができます.したがって,ゲノム全体では分化していても,ある領域だけで見ると,別種の方が近くなっていることが予想され,実際に確認されています.

間違いなくハエよりは飼いづらい種ですが,実験室の中で交配もできるため,擬態だけでなく交配様式や毒の代謝など生物学的におもしろそうなことがいっぱいできそうな予感がします.

2012年7月4日水曜日

Mann-Whitney U test

Wilcoxon rank sum testとも言いますが,ウェブを見ると「中央値の比較」と書いてあるものが多いのですが,これってよくある誤解なのでしょうか.比較の代表値として中央値を使うのはいいと思うのですが.

中央値が同じでも順位の分布が違う例はいくらでも出せます.

例えば,

サンプル1: 1,2,5,6,7
サンプル2: 3,4,5,8,9

2012年7月3日火曜日

サルゲノム

Whole-genome sequencing and analysis of the Malaysian cynomolgus macaque (Macaca fascicularis) genome

現在京大の霊長研にいる東濃さんが基盤研にいる間に行ったカニクイザルのゲノム解析結果がGenome Biology誌にパブリッシュされました.本当は1番のりでカニクイザルゲノムを発表したかったのですが,投稿中に他のグループからのゲノム配列が2つ発表されてしまったので色々と苦しみました.

後発とはいえ今回の解析対象(マレーシア産個体)には大切な意義があります.これまでの2配列はモーリシャス産とベトナム産の二つの産地由来の個体が使われていました.実はこれらの二つはかなり特殊なサルと言われています.モーリシャスのサルは数頭の個体が近代になって船に乗って渡ったものとされ,遺伝的多様性が極端に低くなっています.また,ベトナムのカニクイザルは近所に住むアカゲザルとの交配が進んでいると言われています.そういった意味では,インドネシアおよびマレーシアに住むカニクイザル集団はよりカニクイザルらしいカニクイザルと言うことができるでしょう.化石の証拠でも,インドネシア・マレーシア集団が祖先集団であると言うことが示唆されています.

カニクイザルは僕が学生のころから対象としてきた生物なので,リシークエンスとはいえ,ゲノム配列の決定には感慨深いものがあります.マカクは実験用の動物と言うだけでなくエコロジーの点からも面白い実験材料なので,これから色々な研究が進んでいくことを期待します.

2012年7月1日日曜日

本棚:偶然とは何か

最近更新をサボっていましたので,SMBEへ行く機内の中で読んだ同じタイトルの二冊です.

両方とも確率論を基礎に,偶然とは何か,そもそも偶然はこの世の中に存在するのかといったような哲学的な問いに答えようとしていきます.同じテーマの本を同時に何冊か読むのは,著者の考え方の違いや細かい内容の違いまでわかるのでとても勉強になります.

一冊目の本は日本人の著者によるもので,より哲学的な思弁が多いのに対し,二冊目は欧米人の著者で,北欧神話を題材とした詩的な表現やアルゴリズムやカオス理論,ゲーム理論など現実的な話題を中心に話が組み立てられています.

細かな違いはありますが,どちらの本でも偶然とは「観察データの不足(精度と次元数)もしくは理論の不完全さにより決定論的に予測不能であること」という考えを基にしています.普段何気なく使っている偶然という言葉や確率論の基礎にもいろいろと深い意味があることに気づかされます.
 

2012年6月18日月曜日

近況報告

最近色々な仕事を引き受けすぎて自滅しそうな感じですが,何とか自我を保ちつつ頑張っています.

学会シーズンも近づいて来ていますが,今年の予定は,

SMBE:ポスターで参加,ダブリンでヒャッホイ.
霊長類学会:参加
遺伝学会:たぶん参加
進化学会:たぶん参加

未定が多いですが,そんなところで.

Genetics誌で連載されているJim Crow先生のメモリアルシリーズのレビューですが,ほんの少しだけ手伝わさせていただいたものがアクセプトされました.太田先生と共著になれるとは思っていなかったので大感激です.

2012年4月20日金曜日

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以前パブリッシュされたミトコンドリア論文がfaculty1000でmust readとして取り上げられました.


Naoki Osada*, Hiroshi Akashi. Mitochondrial-nuclear interactions and accelerated compensatory evolution: Evidence from the primate cytochrome c oxidase complex. Mol. Biol. Evol. (2011) [Link].


アクセスするには残念ながら購読が必要です.

2012年4月16日月曜日

Red Is Not a Proxy Signal for Female Genitalia in Humans

すごい論文を見つけました.PLoS ONEの論文です.

内容についてはノーコメントで.

しかし,研究の方向性として,ありそうもない仮説をわざわざ反証するというのはどうなんでしょうか.もちろん科学的には間違っていない手続きですが.

2012年3月30日金曜日

OBC8

岡崎で行われたOBC8に参加してきました.かなり豪華な参加者が集まり,非常にためになる研究会でした.

ゲノム研究と生態学をうまく取り入れた発表が多く,良い研究がたくさんありました.

自分でどういう研究ができるのか,またどういった研究には興味がないのかを確認するいい機会になりましたので,とても意義のある参加だったと思います.

2012年3月1日木曜日

Strict evolutionary conservation followed rapid gene loss on human and rhesus Y chromosomes

Natureの記事です

アカゲザルのゲノム配列はずいぶん昔から大体は決まっていましたが,研究に使われた個体はメスだったので,Y染色体については解読がされていませんでした.

そこでY染色体の配列を決めたところ,ヒトとアカゲザルのY染色体上の遺伝子は比較的よく保存されていて,Y染色体ができてから起こった急速な遺伝子の脱落は止まっているようだということです.また,ヒトやチンパンジーのY染色体は巨大な反復配列があったりして複雑な構造を取っているのですが,そういったものは少ないそうです.

Y染色体から遺伝子がなくなっているのを見て,よく「そのうち男はいなくなる」といった誤解がされているようですが,別にY染色体がなくなっても性決定システムがなくなるとは限らないので,そういった心配をする必要はないかと思います.ただ,Y染色体にはsexual antagonismにより「男らしさを決める遺伝子」が残っているという説もあります.

研究者としては,アカゲザルのY染色体が読まれていないのは困ったことでしたので, 解析された配列はヒトのゲノム進化を知る良いリソースになるのではと思います.

2012年1月24日火曜日

野人

YOMIURI ONLINEより引用

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未確認大型類人猿「ビッグフット」、真剣に研究

【ワシントン=山田哲朗】北米にいるとされる未知の大型類人猿「ビッグフット」を科学的に研究しようと、米アイダホ州立大が今月、世界初の専門の電子版学術誌を開設した。

ビッグフットは、ゴリラを大きくしたような体格で二足歩行し、北米の太平洋側を中心に目撃や足跡の報告が絶えない。しかし、いたずらや見間違いも多く、科学界では長く、未確認飛行物体(UFO)や幽霊などと同様のたわごととして無視されてきた。

ただ、足跡の中には、地面をけって滑った跡、足紋が全面に残るもの、骨格の発育不全、切り傷が治ったような跡などが見つかっている。一部の研究者は、 ビッグフットは身長2メートル以上で夜行性で、約10万年前に絶滅した身長3メートルの巨大類人猿ギガントピテクスの生き残りが、当時陸続きだったベーリ ング海峡をわたって北米に分布を広げたのではないかなどと真剣に議論している。アジアの「雪男」(イエティ)などは近縁種とみられる。

サイトは「残存ヒト上科の調査」と題され、一般的な学術誌と同じく専門家が投稿を審査する。第1号の論文は、カリフォルニア州のアメリカ先住民の「毛むくじゃらの男」に関する伝承や絵について報告した。

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野人,イエティ,ビッグフットなど色々いますが,今はDNAで真贋が鑑定できるのでいいですね.最近のフロレス人やデニソワ人の例もありますから,古代の人類が生き残っている可能性は否定できませんが,本当にいるならすでにそこそこ見つかっててもおかしくない気もします.

ちなみに,件のオンラインジャーナルはフリーアクセスですので誰でも閲覧可能です.一応査読付き.

http://www.isu.edu/rhi/

2012年1月16日月曜日

メールアドレス変更

遺伝研のメールシステムがgmailに変更されるにしたがってメールアドレスも変わりました.

新しいアドレスは

nosada(あっとまーく)nig.ac.jp

となりますが,前のやつも変わらず受け取ることはできます.

2012年1月5日木曜日

訃報

1月3日に著名な遺伝学者であるJim Crow先生が亡くなられたとのことです.95歳でした.日本ではクロー&木村の遺伝学概説が教科書として有名です.

多くの弟子を育てられた方でした.僕は直接面識はありませんでしたが,ポスドク時代のボスがCrow先生のポスドクをやっていました.

ご冥福をお祈りいたします.

Genetics誌では去年からJim Crowの95歳を祝うレビューのシリーズを始めていたところでした.残念ながら途中で趣旨が変わってしまいましたが,彼の生涯を色々な角度から振り返ることができると思います.

2012年1月4日水曜日

新年のご挨拶

あけましておめでとうございます.

年末はウィルス性の胃腸炎で高熱を出していました.先に実家に帰っていた家族も別口で感染したようで,家族全員が体調を壊すという残念な年末でした.

お正月にはおかげさまで元気になりました.気を取り直して今年も一年頑張っていきたいと思います.次世代シークエンスのデータがたまってきているので,ぼちぼち吐き出していきたいところです.