2007年2月28日水曜日

ヒトとサルの種分化 - 2


(前回の続き)
集団中の二つのゲノム領域が共通祖先にたどり着くまでの時間は様々です。

この理論は、二種のゲノムを比べる場合にも成り立ちます。

図はヒトとチンパンジーのゲノムを比べたものです。二つの遺伝的距離は種分化後の時間と、祖先集団での多型が合体する時間の合計となり、ゲノムの領域ごとに違います。

つづく。

2007年2月26日月曜日

ヒトとサルの種分化 - 1

Genomic Relationships and Speciation Times of Human, Chimpanzee, and Gorilla Inferred from a Coalescent Hidden Markov Model
Hobolth A, Christensen OF, Mailund T, Schierup MH (2007) Genomic relationships and speciation times of human, chimpanzee, and gorilla inferred from a coalescent hidden Markov model. PLoS Genet 3(2): e7. doi:10.1371/journal.pgen.0030007

ヒトーチンパンジーゴリラの三種の関係におけるゲノム進化の研究論文です。 Coalesent Hidden Markov Modelという方法を使って、ヒトーチンパンジーゴリラがいつ分かれたかを論じています。別の方法を使って似たような題材を扱ったものが既に発表されていますが、
目的結果が若干異なっています。

統計的な洗練さに加えて、一般にはわかりにくい現象を扱っているので説明しながら解説しようと思います。

まず、ヒト集団中のゲノムの個人差を見てみましょう。あるゲノム領域について、集団中から任意の染色体を一組取り出してきます。

取り出した二つの領域は共通祖先を持ちます。この二つの領域を共通の祖先までさかのぼって行きましょう。共通祖先から分かれたあと、二つの領域はそれぞれ突然変異を蓄積していきます。
祖先までの道のりは非常に短いかもしれませんし(図A)、長いかもしれません(図B)。共通祖先までの道のりが長ければ長いほど、たくさんの突然変異が蓄積すると考えられます。つまり、祖先が遠くにある二つの領域のDNA配列を比べた場合、多くの場所が違ってきます。

共通祖先までの道のりを示した系統樹をgenealogyと呼びます。phylogenyは種の系統樹、genealogyは遺伝子の系統樹と呼ばれます。遺伝子の系統樹というのは少々昔の定義なので、DNAの系統樹とでもしたほうがわかりやすいでしょうか。ところが、同じ染色体上の領域でも、祖先までの道のりは異なってきます。減数分裂のときに組み換えがあるために、染色体上の領域はバラバラにされて遺伝していきます。2本の染色体を比べた場合に、ある領域はとても近くに祖先を持っていますが、ある領域はとても古い祖先を持ちます。ここまでの考え方はCoalescent Theoryという理論でとても詳細に研究されています。coalescentとは二つのものが合体することを意味します。集団中から二つのゲノムを取ってきた場合、二つは
似ている部分と似ていない部分のモザイク状の構造を取ることになります(図C)。

つづく。

2007年2月22日木曜日

パワーポイントでベン図を描く

「パワーポイントでどうやってベン図を描くの?」

と聞かれて、

「イラストレーター使ったほうが早いですよ」

と答えてしまったのですが、すぐに思いつきました。やってみれば簡単ですね。

オブジェクトのプロパティで透明度を上げれば重なりの部分の色が変わります。どうしても前に出ている円の色が強く出るので、透明度を前から後ろへ徐々にあげていくと良いかと思います。

2007年2月19日月曜日

情報検索

久しぶりに図書館へ行って論文をコピーしてきました。今の研究所には図書はほとんど無いので、阪大にまで足を伸ばさなければなりません。かなり面倒です。とはいえ、いつも同じところに篭っているので、広いキャンパスに出かけるのは息抜きになります。

最近はPDFで大方の論文が読めるようになったので便利ですが、なぜか30年くらい前の論文が必要になってしまったので、本からコピーしないとどうしようもありません。学生時代は図書館に行く機会が多かったのですが、最近は本当に用事が少なくなってしまいました。今はウェブ検索で文献をチラ見することができますが、昔は文献を集めるのにも一日がかりでした。気になる文献を全部コピーするわけにも行かないので、山のように本を積んでは、斜め読みで必要なものだけ抜き出してコピーすることが必要でした。
情報=体力。情報を集めることはそれだけで一仕事だったのです。

研究において一番やっちゃいけないのは人が既にやったことを知らずに研究することです。年をとってくると予備知識が増えていくので簡単に判断できるようになりますが、研究を始めたばかりの学生の時は、何が新しくて何が古いのか全く情報がありません。

今ではネットに情報が洪水のように溢れています。昔一日かけて集めた情報が、コンピュータの前だけで手に入ります。何の知識もない学生がWikipediaを見てすばらしい情報量のレポートを書くこともできます(教官が存在を知らなかったら、ですが)。人々は今まで情報を集めるのにかけた時間を、更に多くの情報を集めることに費やさなければいけません。子供の頃に、未来の歴史の教科書は分厚すぎて困るんじゃないだろうかといらぬ心配をした記憶がありますが、今はまさにそれが現実となっているところでしょう。

専門知識だけでなく、巷に溢れるトリビアのおかげで薀蓄のありがたみが薄れてきているように、タダの物知りである学者は必要とされなくなるでしょう。そうであってはいけないと自分には言い聞かせていますが、なかなか難しいところです。

と、本日コピーした論文ですが、半分ばかりコピー機の横に忘れてきたのに気づきました。気がついてもあとの祭り...

知識よりも短期記憶が欲しい今日この頃です。

2007年2月16日金曜日

渡米覚書

昔のデータを整理していたら、ポスドクでシカゴ大学にいったときのメモが見つかりました。

2002年3月3日に出国しました。セットアップなんかの事務手続きの参考になるかと思います。現在のコメントをつけてみました。古いデータなので現在と違うところがあると思います。

---出国前---

住居
契約が一月一杯だったので、仕方なく8年住んだ家を出る。不動産屋に更新は無しとの旨を告げてFAXで解約届。月8万くらいで探してウィークリーマンションを借りようと思ったのだが、受験シーズンなのか、2月からは割高になる。かつ諸サービス料を含めるとかなり高い。なので綾瀬の兄貴の家に居候。あとでクリーニング料金3万くらいを引いて、11万敷金が帰ってきた。驚き。

住民票
住民票移動の手続きは出国の2週間前から可能。役所に行って提出。同時に国民年金の手続き。海外にいる間は払う必要はないのだが、後のために払っておいてもよい。その場合は、同じ区に代行者がいない場合は、日本国民年金協会に代行して払ってもらう。手続きは結構面倒だが、海外から郵送でも申し込めるとのこと。住民税は、先年度の分を今年払わなければいけないので、親を納税代理人にしてもらう書類をもらってきた。今年分も払うが、向こうでしか所得がないので課税されないはず。

引越し
ほとんどのものは捨てた。貰い手があるものはどんどんあげてしまった。兄貴の家が家具がなくて悲惨な状態なので、ハイエースを借りて運んだ。運んだものはテレビ、ビデオ、テレビ台、ベッド、自転車、本棚、こたつ、電子レンジ。冷蔵庫は捨てるのにお金が取られた。リサイクルセンターだったかで申し込んで業者が取りにきた。5000円くらい。そのほかのものは区の粗大ごみとして捨てた。1500円くらい。

ビザ
DS-2019が2/12日にシカゴからFeDexで届いた。テロ以降、直接アメリカ大使館に行くのはNGになったので、郵送で大使館に送るか、代理店で頼むかの二択。代理店の方が早いと聞いて代理店に。他に必要なのは、パスポート、インビテーションレター(収入が書いてくれてたので助かった)、157,8,9の書類。これらはインターネットでPDFがあった。木曜日に旅行代理店で申し込み。手数料1万円くらい。大体1週間、遅くても2週間で出るらしい。同じ店で航空券も頼んだので、ビザが遅れた場合は自動的に航空券も後にずらしてくれる。ただし、出発の3日前にビザが取れてるのが条件。結局ビザが出るまでに15日間かかってしまい、予定がかなりずれてしまった。イラク情勢辺りが影響したのか。向こうについてから、International Houseを予約してもらってたので、それを何度かずらしてもらった。結局3月3日に出発がずれて、航空運賃も1万円ほど高くなってしまった。

*コメント:
 ビザの事務書類が遅れたおかげで出発が延び、何度もお別れ会をやってもらったのが心苦しかったです。

奨学金
育英会に猶予期間延期願(大学院特例用)を出す。海外ポスドクは5年まで延ばせるみたい。裏に機関の印鑑が必要と書いてあるが、よくわからなかったのでインビテーションレターの写しを添えて出した。同時に住所および連絡先を実家に変更。

お金
三井住友銀行で1万ドル分のトラベラーズチェックを作ってもらった。これを持っていってそのまま向こうで口座を開設する予定。しかし、いきなり店に行ったら、100ドルのT/Cしかなく、1000ドルのやつは取り寄せになった。結局二日後に行って取ってきた。別の話では、新宿かどこかに専門の場所があるらしい。

電気・水道・NHK・携帯・電話
電話、電気、水道は電話一本で解約できた。NHKはオペレーターに話した後に、官製はがきで廃止届というものを出さなければいけなかった。プロバイダはメールで解約届、ADSLのモデムがレンタルだったので宅配便で送る。携帯は出発当日にドコモの店で解約する予定。

---渡米後---

大学の手続き
とりあえず最初にオフィスに行くと、数枚フォームに記入させられた。それから税金用のフォームを渡されて次の日に持ってくるように言われた。次の日には保険関係の書類一式をどっさり渡されて、二日後に持ってくるようにと言われた。読めるわけないじゃん。とりあえず大枠は把握したが、どのフォームに書いたらいいのかさっぱりわからず。それとは別に頼んで、鍵と自前のPCのIPアドレスを取得してもらうことにした。WinXPはプロフェッショナルのほうが大学でサイトライセンスがあるそうだ。保険は、健康保険と歯科保険をそれぞれ2タイプから選ぶ方式。PPOとHMOといい、前者は好きな医者にかかれる代わりに基本料金高。後者はその逆。決まった医者にかからなければいけない。とりあえず健康保険は前者、歯科保険は後者にした。やはり日本語話せる医者にかかれると心強い。そのほかの生命保険、長期休業保険みたいなのは掛け金が安いのでとりあえず入っておく。

銀行口座の開設
Citibankがラボから歩いて2,3分のところにあるので口座を開設しに行った。New accoutの窓口があったのでそこに直行。パスポート、T/C、大学からのインビテーションレターの三つで開設できた。銀行は空いていたし、受付のおっさんがかなり好印象な対応だった。住所を証明するものが必要だということ。International Houseという学生会館みたいなところに泊まっていたので、そこの事務員に宿泊証明見たいのを書いてもらって、二日後に持っていくことにする。1年の期限付きで学生用のサービス口座みたいのに入ることができた。手数料とかがおとくらしい。利息なしのchecking accountと利息ありのsaving accoutがあって自由に移せるようなのでとりあえず半分ずつ入れることにした。その場でカードをもらうことができた。口座はしばらくアクティブにならず、$150しか引き出せないようになっていたが、一週間後には正常になっていた。SSN取得後に知らせに行くと。次の日に電話してデビットカードをアクティブにするようにと言われた。

*彼はシカゴ大のポスドクである、給料はいくらである、ということが書かれたレターは入国のとき必要ですが、入国後もあらゆる場面で活躍しました。水戸黄門の印籠か。

SSN
オフィスの場所がダウンタウンにあって面倒。SSAのインターネットサイトで申請用のフォームがダウンロードできるので先に書いておくと良い。必要なのはパスポートとI-94の半券。場所はダウンタウンの大きなビルの3階。ビルの中にはいろんなオフィスが入ってるようで、SSオフィス自体は小さかった。入ってすぐの守衛さんに新しいのを欲しいと言うと、受付のPCの青いキーを押せと言われて、それで受付の番号をゲットする。椅子で待っていると30分くらいで窓口に呼ばれる。場合によってはかなり待たされるかも。住所の証明を念のため持っていったが必要なかったようだ。パスポート、フォーム、I-94、それからIAP-66(本当は名前が変わったが相変わらずこうやって呼んでるようだ)も必要だった。2週間くらいで発行できるので、レシートを受け取ったらその番号に受け取ったことを電話しろという感じの説明を受けた。後日カードが届いたが、別に電話はかける必要はないようだ。聞き間違い?

日本領事館
在留届を出さなければいけないらしいので出しに行く。ダウンタウンのループから歩くと30分くらいかかった。Michigan Aveを北に歩いてChicago Stとの交差点の東側。誰も人がいなかったので、窓口が開くのを10分くらい待って提出して終了。

住居選び
いきなり電話で交渉するのを避けたかったのでまずはインターネットで探す。条件にあった物件を紹介してくれて、それから個別のマネージメント会社を紹介してくれるようだ。最初の条件で$700までとか書いたら、かなり高級なところを紹介された。もっと安いところをと返信メールを打つが返事はなし。仕方ないので別のサイトで探したところ、なかなかよさそうなところがあったので今度は電話。しかし留守番電話で返事なし。ってことで直接行って交渉することにした。電気、水道、ガス、管理費混み、ワンルームだがクローゼットとダイニングがついて(日本で言うと1Kと1DKの中間くらい)$598/m。建物の小奇麗さ、セキュリティの良さから見てもなかなかリーズナブルな感じ。いろいろとサインして(10枚くらい)Casher's checkで一月+セキュリティデポジット(110%)を払って契約。Casher's checkというのはよくわからないが、両替所(currency exchange)で手数料を払って切ってもらうようだ。毎月の家賃はパーソナルチェックで払える。水周りが調子悪かったり、スチームから変な音がしてたり、火災報知器がアホみたいに敏感だったり(取り外し済み)全く問題がないわけではないが、おおむねリーズナブルで良いアパートだと思う。

*火災報知機をはずすのは違法です。

電話
電話だけは自分で頼まないといけなかった。色々と証明書をコピーしてFAXで送る。が、指定の時間になってもつながらない。ラボから電話して色々と聞いてみるが解決せず。結局、自分がつなげた電話線のジャックが死んでいたようだ。別のジャックにつないだら普通につながった。ああ恥ずかしい。

税金
初めての給料をチェックで貰ったのだが、話ではJ1ビザのポスドクは最初二年間税金は取られないと聞いていたのに取られていたので焦る。どうやら最初に申請しないといけないようだ。オフィスに頼んでフォームを二つ書く。月々$350くらい取られるのは痛い。気づいて助かった。しかし取られた分は確定申告しなければ戻ってこないらしく、3ヶ月くらいかかったとのこと。

*払った税金は後日無事に戻ってきました。


ハイドパーク内で暮らす分には取り立てて必要ないのだが、やっぱりあると便利だということで購入。インターネットのオークションサイトを探して車を決定。Dodge Neon 2000 $4,600。Blue Bookでは$7,000以上はするのでかなりお買い得か。詐欺のための保険もあるし、ディーラーのレーティングもあるので比較的安心して買い物ができる。しかし、問題は輸送費だった。Clevelandから輸送してもらうことになっていたのだが、$3-400くらいかなぁと見積もっていたら$6-700くらいかかるらしい。ってことで週末にドライブがてら車を取りに行くことにする(300マイル以上離れているのだが・・・)保険のほうはカードと一緒にプレミオカードのやつに入る。$1,745/yearとちょっと高めだったが、急ぎで入りたかったのと日本語が通じるのでとりあえず契約。車を取りにいくのに借りたレンタカーは$100くらい。

*e-bayで車を買って
Clevelandに取りに行ったと話したら、crazyと言われました。初めての一人旅で面白かったです。

運転免許
自分の車で試験場まで行く。パスポート、ソーシャルセキュリティーカード、電話の請求書でIDはパスできた。事務手続き(臓器提供と投票権、身長、体重について聞かれる)、料金の支払い($10)、視力検査、そして筆記テストの問題を受け取る。終わったら再び窓口に行き採点してもらう。問題は35問中20問の択一問題。15問の標識のテスト。合計28問以上正解でパスらしい。合格すると車を回して路上試験の順番の列に並ぶ。待っている間に車のチェック(ホーン、シグナル、ブレーキランプ)を受ける。数人はこの段階で落とされていた。順番になると試験官が乗り込んでくるので後は指示通りに運転する。信号を二つほど抜け、何度か右折、左折を繰り返した後に小道に入り、バックで方向転換。5分もかからない簡単なドライブで終了。簡単すぎ。

*運転免許が無いとビールが飲めないので運転免許は必須です。

2007年2月8日木曜日

アブストラクト長すぎ

どこかで「もっとも著者が多い論文」というのが笑いものにされていました(ソースは失念、検索したが見つからず)が、それ以上に怪しい論文をPubMedでたまたま見つけました。

こちら

PubMedは医学生物学関係の論文のデータベース(Medline)の検索システムです。すべての論文が載せられるわけではありません。

思わず吹き出してしまいますね。しかも途中で切られてしまっています。たぶんもっと長かったのでしょう。

アブストラクトとは要旨のことで、普通の場合は文字数に制限があります。論文の内容を短くまとめたものでなければなりません。

然るにこの有様。どうやら本文は中国語で書かれたものですが、雑誌名もなく、論文の中身がそのままぶちこまれています。ここまで書くんだったら最初から英文で出せばよかったのに...