2007年3月27日火曜日

クローンオオカミ

韓国の黄教授を含むグループがクローンオオカミを作ったようです。

絶滅の危機がある生物を救うことに異議はありませんが、二匹のクローンを作るためにどれだけの胚が無駄になったのかが気になるところです。余程繁殖が難しい動物ではない限り、遺伝的に均質なクローン動物を作って絶滅を防ぐよりは、繁殖技術と環境整備にお金を費やしたほうが現実的です。

さて、生態学の英語訳はecologyですが、ecologyとは一般的には自然を保全するという意味ができてきます。このような学問の本当の英語訳は厳密にはconservation biologyと呼びます。ちなみに、ecologyという言葉を最初に考えたのは、かの有名な生物学者ヘッケルだそうです。

生態学、すなわちecologyとは環境を含む生態系の記述と解析にあり、生態系を守るかどうかという判断に対しては中立です。同じような関係では、生物学と医学の違いがあります。医学は人の命の大切さを前提としていますが、生物学をいくら学んでも、生命の不思議さは学べても大切さについての結論は出ません。

ほとんどの生態学者は動物の生態系を大切にするでしょうし、生物学者も人や動物の命を大切だと思っていますが、それと学問の立場は関係ないでしょう。

2007年3月22日木曜日

Tamiflu問題

タミフルの青少年への副作用が問題となっています。今週のNatureのNewsでも取り上げられています。
http://ealerts.nature.com/cgi-bin24/DM/y/ec530SoYnI0HjB0BOpc0Ee

と、専門ではないので初めて英語で読んでみて気づいたのですが、Tamifluというのは化学物質名Oseltamivirとインフルエンザ(flu)の造語なんですね。2005年には日本では年間900万件が処方されましたが、残りの世界を全部併せても300万件の処方件数のようです。副作用の問題が日本で大きくなったのにも理由があるようです。

早急に科学的な結論を、という声は大きいですが、何でも科学的に決定できるというのは大きな間違いです。今回の場合は、研究者が製薬会社の寄付を受けていたというのは確かに問題ですが、だからといって簡単に答えが導ける類の問題ではありません。もともとのインフルエンザ患者にも異常行動が見られることが更に話をやっかいにします。調査する数を上げれば相関が見つかるかもしれませんが、何処まで上げれば良いかというのはわかりません。薬を飲まなかったから死亡する患者もいるかもしれません。

「科学的に」証明するには、適切な作法にのっとることが基本です。「俺がそう思うから」というのは客観的とは言えません。適切な作法とはここでは、異常行動と薬物の摂取の有意な相関、を統計的に示すことです。

しかし、自然科学におけるデータは客観的ですが、それを判断するのは人間の主観です。薬の副作用を安全側な基準と危険な基準のどちらで判断するか。これもケースによって違います。抗がん剤など、明らかな延命効果があるものはたとえ副作用が強くても使わざるをえません。その基準を決めるのは科学ではなく行政です。科学的なデータというのは確率計算なのですから。

というのもいかにも投げやりだと思ってしまったので、自分の考え方を書いておきます。

より常識的に考えると、薬を飲むことによって症状が緩和されるなら、薬を飲んだほうが異常行動は少なくなくてはいけません。こちらの方がより安全なテストとなるでしょう。有意な差が見つからなかったということは、逆に言うと、同じ異常行動率であることを否定できなかったということです。つまり、異常行動率が上がることを否定できません。

一般的にはどうすれば良いのか。

自分を守るためにはヒステリックに騒がず、自分で判断する力を身に付けることです。「うちは一階だし、きちんと看るから処方してくれ」と頼んだ方は非常に理性的であると感じます。リスクとリターンという概念と知識を持つことが重要だと思います。

2007年3月13日火曜日

数字のお勉強

プログラミングをしなければならず、ここ二週間ほどは数学に没頭していました。何とか目処がたったので嬉しいです。久しぶりにPerlなどという邪道な言語から離れて、お行儀の良いC言語を使いました。

思えば大学の線形代数の授業はサボりまくっていました。まさか将来研究で使うことになるとは思いもよらず。生物学は特に数学が苦手な理系の人が集まっている感じがしますが、避けては通れません。

とりあえず、偏微分やら二重積分のおさらいからスタートしなければならない羽目に。しかし、数学の良いところは2次元までのイメージができてしまえば、3次元以上はそのまま繰り返していけばなんとかなるところです。が、調子に乗って19次元のデータをぶち込んだら、プログラムが動いているのか止まっているのかわからない状態に... 高速化は別の問題ですが、それだけでも数日使っちゃいそうな予感です。

人生、一番に必要な勉強を科目で言うと国語でしょう(国語というか、国語力)。次に大事なのは... やはり理系なら数学は避けて通れないようです。一応、論理も数学の一部ですね。でも、付け焼刃は日常に戻るとすぐ忘れてしまうのが辛いところです。


2007年3月6日火曜日

DNAは右巻きらせん

「DNAは右巻きらせん」と、どこの教科書にも書いてると思います。

具体的には図のようなんですが、僕はこれを右巻きと呼ぶのか左巻きと呼ぶのか未だに覚えられません。右巻き、左巻きというのは見る方向によって違います。自分から右に巻きながら離れていくものは、左に巻きながらこちらへ向かってきます。しかし、これを右巻きと呼ぶのは、自然科学の中では一般的な定義です。ネジを巻く方向と覚えておくと良いでしょう。これについては実際に間違いは多く、左巻きのDNAが載っているウェブサイトや出版物も数多くあるようです。

右と左って、こどもの頃はなかなか判別できないですよね。箸を持つほうが右という言葉は良く聞きます。僕は小学校に入るまで、ほとんどの文字を鏡字でしか書けませんでした。自分の名前も全部鏡字でした。両親に怒られて直した記憶があります。ダ・ヴィンチは生涯鏡字を書いていたとか。右と左が区別できない脳の構造はどうなっているのか、興味があります。

2007年3月4日日曜日

ヒトとサルの種分化 - 4

前回の続き。

説明が長くなってしまいましたが、論文の説明に戻ります。ヒトのゲノムの中には、いろんな祖先のものが混ざっていると書きました。その状態をHidden Markov Model(HMM)をもとに解析したというのが最初に紹介した論文の内容です。

HMMとは、ある状態が他の状態に変わる確率をモデル化し、実際のデータの状態を推測する方法です。バイオインフォマティクスの領域ではタンパク質のドメインの予測など、様々なものの推測に用いられている方法です。この場合の状態とはDNAの系統関係を指します。たとえば、ある塩基配列が、ヒトでA、チンパンジーでA、ゴリラでT、オランウータンでTだとすると、ヒトとチンパンジーがその塩基配列に関しては一番近縁である確率が高くなります(前回の図Bの赤の部分)。組み換えが何度も起こった場合に、その断片の長さは負の指数分布を取ることが知られているので、状態はそれを条件に切り替わります。

そのようにして計算した場合、ヒトとオランウータンの分岐を1800万年とすると、ヒトとチンパンジーは410万年に分岐したのだろうと結論付けています。この年代は今までの予測と比べても随分近い年代です。また、ヒトとチンパンジーの共通祖先の集団サイズは約65,000で特別に大きい数ではないとしています。

2007年3月1日木曜日

ヒトとサルの種分化 - 3

前回の続き。

極めて短い時間に種分化した三種の関係を考えてみます。これにあてはまる例はヒトーチンパンジーーゴリラの関係です。図Aの太い枝分かれは種の系統樹を示しています。赤、青、緑の線は、DNAの系統樹を示しています(genealogy)。二回の種分化が比較的短い時間に起きると、祖先集団の多型により、DNAの系統樹は種の系統樹とは違ってくることがあります(青と緑の線)。この確率は二つの種分化の間の時間(T)が短いほど、祖先集団の多型が多いほど(集団サイズNeが大きいほど)高くなることが直感的にもわかりますし、理論的にも示されています。

したがって、私たちのゲノムを見た場合には、Bの図のようにヒトとチンパンジーがもっとも近い領域(赤)、ヒトとゴリラがもっとも近い領域(緑)、チンパンジーとゴリラがもっとも近い領域(青)がモザイク状になっていると考えることができます。ヒトともっとも近い種はチンパンジーと言われていますが、それは種という概念によるもので、ゲノムの構成要素をみていくとより複雑に構成されていることがわかります。

つづく。