2016年10月28日金曜日

文化勲章

遺伝研時代に,また自分の研究テーマにおいて大きくお世話になった太田朋子先生が2016年の文化勲章を受章されたそうです.おめでとうございます.

太田先生の「ほぼ中立説」については過去に記事の抜粋を載せています.太田先生は去年は「ほぼノーベル賞」であるクラフォード賞も受賞されており,当然の受賞かと思われます.

2016年9月20日火曜日

学会発表

自分が発表にかかわった学会のシーズンが終了しました.

本年度は指導している学生さんに中心となって発表をしてもらいました.事後になりますがまとめておきます.

7月の霊長類学会ではM1の池田君がサルレトロウィルスの分子進化解析についてポスター発表を行いました.優秀ポスター賞を受賞しました.
8月の進化学会ではM2の櫻井君がモーリシャス島のカニクイザルのゲノム解析についてポスター発表を行いました.
9月の遺伝学会では,M2の高田君がゲノムインプリンティングの新規解析法について,研究生のRatnayakeさんがヘモグロビン遺伝子で疾患を起こす遺伝的変異の解析についてそれぞれ口頭発表を行いました.

みなさんお疲れ様でした.

2016年6月23日木曜日

過去最高のロークオリティ

百聞は一見に如かず.

もちろん論文は取り消されるようです.



http://www.nature.com/articles/srep24172

 *図中の番号は,コピーを見破るために後で付けられたものではなく,著者が同じ状態の細胞であるということを言いたいがためにつけられた目印です.

2016年5月2日月曜日

Encyclopedia of Evolutionary Biology

Elsevier社から発刊される予定のEncyclopedia of Evolutionary Biology (進化生物学辞典)という本の一節を担当させていただきました.Compensatory Evolutionという項目です.

ちょっと個人として手が出る値段の本ではないですが (4巻セットで約15万円!),著名な先生方も含め,ものすごくたくさんの人が関わっており,読みごたえは十分あると思いますので,図書館や研究室で購入していただければと思います.

驚いたことに,自分の項目のために何の気なしに書いたRNA分子進化の模式図がちゃっかり表紙として採用されています.進化の王様シクリッドと並ぶのも落ち着かないところがありますが,論文の宣伝としては良かったのではないかと思います.

2016年4月4日月曜日

【実現なるか?!4月12日(火)23:00までにあと約300万円!「国立科学博物館新たな冒険!3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」】

https://readyfor.jp/projects/koukai

すでに目標を達成したようですが,人類学に関するクラウドファンディングのお知らせです.ご協力をお願いいたします.

「3万年前に人類は南西諸島経由で日本列島に渡ることができたのか?」 それを本当に試してみようという夢のある試みです.

一見すると何の役にも立たない研究ですが,潜在的な人の「知りたい力」がとても重要であると認識できるイベントであるかと思います.純粋な学術的なイベントに2千万というお金が集まったのは特筆すべきところだと思います.10万円は出せないけど5,000円くらいだったら役に立たない基礎研究にもお金を出してみたい,という人が世の中にはいるのです.

と言ってしまうと,「役に立たない研究は寄付で賄ってね」と言われてしまいそうで怖いですが,ここはあくまでも「潜在的な力」ということを強調しておきます.

2016年3月23日水曜日

本棚:進化の謎を数式で解く

邦題は「進化の謎を数学で解く」. 進化学者A.ワグナーさんが書いた本で,原題は「Arrival of the fittest:  Solving evolution's greatest puzzle」となっています.邦題の「数式で解く」というのは間違ってはいないと思うのですが,数式よりもコンピュータで解くといったほうがわかりやすいのではないかと思います.表紙に数式が載っていますが,本文に数式は1つも出てきません.

この本の主題は「どうやって新しい機能を持つ代謝機構・タンパク質・遺伝子調節機構が生まれてきたか」ということで,生物が持つネットワーク構造に関する著者らの研究を中心に,一般的な進化に関する解説や生物進化と技術の進化の類似性など,読み物としても面白く構成されています.ところどころ入ってくる冗長な表現(たとえ話)さえ気にならなければ面白く読めるでしょう.生物がこれまでの機能を維持したまま全く新しい表現型を獲得するカギは,代謝機構・タンパク質・遺伝子調節機構などのさまざまな場面で登場するネットワーク構造であるというのが話の筋です.

著者のように遺伝子1つ1つを研究するのではなく,それらが作り出すネットワークの総体を研究する領域を一般的には「システム生物学」と呼んだりします. このような比較的新しい分野の研究者はしばしば古典的な(進化の総合説のような)還元論的な考えを徹底的にこき下ろしますが,この著者は進化学に関して十分なバックグラウンドを持ち過去の研究について十分な敬意を払っていますので,一般的な生物学者にも受け入れやすい内容になっているのではないかと思います.訳者解説では「衝撃的」と書かれていますが,むしろ還元論的な進化の総合説をむやみやたらと否定せず,その延長として自説を展開しており,非常にバランスが取れている本だと感じます.

少し専門的なところで1点だけコメントを.冗長性がイノベーションのカギという著者の議論は説得力があります.ではなぜその冗長性が生まれたのでしょうか.本の後半で著者は変化する環境への適応がその答えであるといっています.この議論も証明は難しいですが理に適っているようには聞こえます.

ところが,その直前で中立進化の役割について述べている箇所における考えについては少々疑問が残ります.表現型に現れない中立な進化を用いてネットワークを探索することができるので,生物のイノベーション能が保たれているというような考え方です.この考えは進化学者の間でもしばしば議論になる「進化しやすさの進化(evolution of evolvability)」に関わっています.つまり,進化しやすさはそのために進化してきたのか,それとも何かの副産物なのかという問題です.

一般的に進化は行き当たりばったりでその場しのぎです.将来起こる「かもしれない」変化に対応するための選択圧,将来起こる「かもしれない」突然変異に対する選択圧というのは,今現在起こっている生存に対する選択圧よりもずっと弱いはずです.従って最も強い力を持つのは今現在の力,短いスパンでの環境の変化や若しくは熱力学的な分子の揺らぎに対する選択圧がネットワーク構造による冗長性を作り,突然変異へ頑健性を作り新しい表現型を作り出すシステムはその副産物であろうという考えが僕の好みです.昨年発表した論文でも少しだけその考えをまとめさせてもらいました.

というわけで,少々読みずらいですが面白い本であることは間違いないので興味がある方は一読することをお勧めします.既に古典となりつつあるカウフマンの「自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法則 (ちくま学芸文庫) 」をに読んでおくとより理解が深まるかもしれません.