Natureの記事です.
クジャクの羽やシカの角など,雄が明らかに生存に不利そうな形質を持っている生物は多く知られています.そういったものを説明するためにダーウィンは性選択という概念を提唱しましたが,実際にどのような形で淘汰が行われているかについては様々な説があり,議論の的になっています.特に,性選択がとても強ければその形質はすぐに集団中に広まってしまい,集団中に変異が見られなくなってしまうのではないかというパラドックスが存在します.
それが今回の野生のヒツジ(Ovis aries)の場合は割と簡単に説明できてしまったという話です.オスのヒツジの角の遺伝的変異はRXFP2という遺伝子の変異で大半が説明できてしまうそうです(実はそっちの発見の方がすごい気もしますが).そこで,RXFP2の遺伝子型と生存率,繁殖率の差を調べたところ,大きな角を持つタイプの遺伝子をヘテロで持つ雄が,生存率と繁殖率を合わせた適応度が一番高い(ヘテロ雄は交配では不利だが生存率が高い)ことがわかりました.つまり,この遺伝子に多様性があるのはヘテロ接合体が有利である超優性という単純なメカニズムで説明できるということです.
ただ,この研究はなぜ「性選択に関わる形質に多様性があるのか」というかなり狭い範囲の質問に答えているだけなので,そもそもなぜ角の大きいヒツジはモテるのか,という根本的な問題はまだまだ謎のようです.ともあれ,シークエンス技術の発達で色々な野生生物の遺伝子が比較的簡単に決められるようになりました.こういった面白い研究が今後さらに増えていくのではないかと思います.
2013/8/23追記
よく考えてみると,角の大きさは見てわかるので,適応度の計算は遺伝子を知らなくてもできますね.ということはこの論文のポイントはメスでは遺伝子型による生存率が変わらなかったというところでしょうか.