2007年2月26日月曜日

ヒトとサルの種分化 - 1

Genomic Relationships and Speciation Times of Human, Chimpanzee, and Gorilla Inferred from a Coalescent Hidden Markov Model
Hobolth A, Christensen OF, Mailund T, Schierup MH (2007) Genomic relationships and speciation times of human, chimpanzee, and gorilla inferred from a coalescent hidden Markov model. PLoS Genet 3(2): e7. doi:10.1371/journal.pgen.0030007

ヒトーチンパンジーゴリラの三種の関係におけるゲノム進化の研究論文です。 Coalesent Hidden Markov Modelという方法を使って、ヒトーチンパンジーゴリラがいつ分かれたかを論じています。別の方法を使って似たような題材を扱ったものが既に発表されていますが、
目的結果が若干異なっています。

統計的な洗練さに加えて、一般にはわかりにくい現象を扱っているので説明しながら解説しようと思います。

まず、ヒト集団中のゲノムの個人差を見てみましょう。あるゲノム領域について、集団中から任意の染色体を一組取り出してきます。

取り出した二つの領域は共通祖先を持ちます。この二つの領域を共通の祖先までさかのぼって行きましょう。共通祖先から分かれたあと、二つの領域はそれぞれ突然変異を蓄積していきます。
祖先までの道のりは非常に短いかもしれませんし(図A)、長いかもしれません(図B)。共通祖先までの道のりが長ければ長いほど、たくさんの突然変異が蓄積すると考えられます。つまり、祖先が遠くにある二つの領域のDNA配列を比べた場合、多くの場所が違ってきます。

共通祖先までの道のりを示した系統樹をgenealogyと呼びます。phylogenyは種の系統樹、genealogyは遺伝子の系統樹と呼ばれます。遺伝子の系統樹というのは少々昔の定義なので、DNAの系統樹とでもしたほうがわかりやすいでしょうか。ところが、同じ染色体上の領域でも、祖先までの道のりは異なってきます。減数分裂のときに組み換えがあるために、染色体上の領域はバラバラにされて遺伝していきます。2本の染色体を比べた場合に、ある領域はとても近くに祖先を持っていますが、ある領域はとても古い祖先を持ちます。ここまでの考え方はCoalescent Theoryという理論でとても詳細に研究されています。coalescentとは二つのものが合体することを意味します。集団中から二つのゲノムを取ってきた場合、二つは
似ている部分と似ていない部分のモザイク状の構造を取ることになります(図C)。

つづく。