2008年4月10日木曜日

本棚:利己的な遺伝子

有名なドーキンスの代表作です.

僕が初めてこの本に触れたのは高校生の時でしょうか.それまで真面目に進化というものを考えたことはなかったので,なかなか目から鱗が落ちるような本でした.

この本の内容をあえて一言で言うと,

「淘汰の単位は遺伝子である」

ということに尽きます.それ以上でもそれ以下でもありません.集団でも個体でもなく遺伝子(または協調的な遺伝子のユニット)に淘汰はかかるのだということが色々な例をあげて丁寧に説明されていきます.これは現在主流のの集団遺伝学の考え方に一番近いものであると思うし,僕も大いに賛成します.

ただ,一つ問題なのは,そしてしばしば誤解されるのは「協調的な遺伝子のユニット」という言葉の解釈についてです.遺伝子淘汰説に対するよくある反論は,「一つの遺伝子が表現型を決めることはない」,という説明です.これはある意味では正しいでしょう.たしかに,遺伝学的な研究で発見された,一つの遺伝子が一つの表現型をきっちり決めているという例は豊富にありますが,それが生命現象のすべてではありません.したがって遺伝子の組み合わせが表現型を決めているという表現の方が正確に聞こえます.ただし,進化を漸進的なものと考えると,協調的な遺伝子の組み合わせがあったとしても,そのユニットのメンバーが一度に総替わりすることはなく,一つずつ代わって全体の適応度が試されるでしょう.そういう場合にはやはり淘汰の単位は遺伝子(機能的な最小ユニット)であると言ってよいと思います.

ドーキンスについて個人的な感想を述べさせてもらうと,とてもディベートが強そうだという感じ,そして確信犯的に誤解を受けそうな言い回しをしておきながら,決して尻尾を見せないこと,そんな印象を受けます.たとえば,ドーキンスの本を読むと彼が適応万能主義者のように感じることは多々ありますが,彼は「私は適応がすべてだとは思っていない」というような文章も紛れ込ませて書いています.
これだけの分量の著作を綱渡りのように慎重に書きながらかつ大胆な結論を持ってくる,それがこの本がこれだけ有名な理由であると思います.

利己的な遺伝子 <増補新装版>