2010年1月26日火曜日

Human Ancestors Were an Endangered Species

サイエンスのニュースより.

http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2010/119/2

ヒトの祖先は絶滅危惧種だったという刺激的なタイトルですが,ヒトの集団が過去に集団のボトルネックを経験したであろうことは昔からよく言われていますし,有効な集団サイズが10の4乗くらいで,現生のチンパンジーやゴリラと比べると少ないのはこれまでの研究で良く分かっています.

ニュースでも触れられていますが,元の論文に目を通してみるとこの論文の面白いところは結果よりも方法であるということがわかります.

一つ目のポイントは,レアなイベントであるトランスポゾン配列の挿入欠失が集団内で多型的であった場合には,その周辺の領域は他より古い歴史を持つ(共通祖先が古い)ということです.ヒトのゲノムは領域ごとに異なった歴史の長さ(coalescent time)を持つので,若い領域には比較的珍しいイベントである挿入欠失が起こらないだろうということです.したがって,古い歴史を持つ領域を調べれば,最近の集団の変化に影響されないデータが得られ,より正確に過去の出来事を推定できるということです.

実際に,Alu配列の挿入の多型がある場所を調べてみると,その近傍の塩基多様度はゲノム平均の倍くらいで,理論による予測と合致します.

もう一つは,この研究がたった二つのゲノム配列を用いて行われたものだということです.組み換えはゲノムをバラバラにして異なった系譜で遺伝させていきますので,全ゲノムを調べるということは別々の道筋を通ってきた様々な領域の歴史を知ることになります.今後ハプロタイプが正確に推定できるようになると,たった一人のゲノムを調べただけで,人類の歴史がわかるようになることも可能だと思われます.

ただ,ニュースのタイトルのような単純な解釈には注意が必要かと思われます.集団の有効サイズは実際の集団サイズとは異なった基準の数値であり,集団の構造やら何やらで色々と変化します.その時に10,000人しか人類がいなかったと考えるのは早計でしょう.

また,チンパンジーやゴリラの多様性は亜種を含んでいることも考慮に入れるべきかもしれません.100万年くらい前というと,ホモ・エレクトゥスという人類種が旧世界中に拡散して繁栄していました.現在では旧世界のグループはすべて絶滅したと考えられていますので,亜種レベルで階層化された集団があり,その後我々の先祖になったアフリカのグループだけが生き残ったと考えると,それほどおかしくない値であると思います.