2010年4月12日月曜日

“Positive” Results Increase Down the Hierarchy of the Sciences

ちょっと変わったPLoS ONEの論文です.

ハードサイエンスとかソフトサイエンスとかいう言葉は聞いたことがあるでしょうか.一般的に物理学などの歴史があり,理論体系がしっかりとしており,比較的再現性と客観性が高い分野がハードサイエンスと呼ばれ,心理学など人文系の分野がソフトサイエンスと呼ばれていると思います.生物学的には一般的に中間に位置すると皆さんは考えているようです.

ソフトサイエンスと言われるとなんだか馬鹿にされているような気分ですが,確かに一般的に天才というと理数系,特に物理系の人が目立ちます.実際にこの「科学の序列」は存在するのか,というのを調べてみたのがこの論文です.

これら分野の論文の中で仮説検証を行っているものを無作為に抽出し,有意な(正確に言うと帰無仮説の棄却がされた確率)が出た割合を比較してみたところ,実際に,社会学などでは高く物理学では低いということがわかりました.筆者らの結論は,これらの成熟していない領域では方法,データ,仮説などを比較的自由に設定できるので,無意識なうちに有意な結果が出やすいのだろうと推測しています.つまり科学界のヒエラルキーは存在するということです.

最初結果を見る前には,「ネガティブデータが出た時に論文を発表できるのは,いい加減な仮説が多い領域なのでは」と少し思っていたのですが,良く考えると,ある仮説が否定された後に,アドホックな仮説を思いついてそれについてテストをして当てはまったので発表する,というのは我々の分野でも良くあることだと思います.

残念なことに,進化の研究は,生物学の中でもソフトな分野だと思われることが多いです.特に,再現可能であるものを扱う研究だけが自然科学であるという間違った認識を持っている研究者は多いでしょう.進化の研究は歴史を扱うので必ずしも再現性はありませんが,れっきとした自然科学の分野の一つです.確かに,検証不可能な説や実験の結果がどちらにでも解釈できる論文はしばしば目にします.しかし,進化を扱う集団遺伝学は生物学の中でもハードな分野ですし,そもそも純粋な物理学に比べると生物学自体がソフトサイエンスといえるでしょうから,五十歩百歩なのかもしれません.

また,ソフトサイエンスというくくりであるから研究の価値が低いということはないでしょう.現在はまだ成熟していない領域であるということです.測定法や解析方法などの発展により,学問分野自体がどんどん成熟していくことが可能であると思います.もちろん,サイエンスとしてはよりハードな方向に研究を進めることが良いことは明白です.

我々もできる限り自分たちの研究がハードであるか,すなわち,データは客観的か,解析方法は正しいか,検証する仮説は適切か,他に検証すべき仮説は存在するのか,について注意を払う努力をするべきであると思います.そこを怠ると,いつまでもソフトサイエンスのレッテルが張られたままかもしれません.ハードかソフトかというものは相対的なものなので,研究者の努力によってその位置を変えることができるはずです.

で,この論文の皮肉なところは,この論文自体がいわゆる人文学系の研究だということでしょうか.筆者は工学系の方らしいですが,その仮説が正しいかどうかにはやはりバイアスがかかっているのかもしれません.