2010年12月28日火曜日

2010年仕事納め

本日で2010年の仕事も終わりです.遺伝研に来て一年がたちましたが果たして仕事は順調に進んだのかどうか.

先日一年分のメモを整理していたら,色々と忘れかけていたことがたくさん書いてありました.何もやっていないというよりやったことをすっかり忘れているようです.

論文と締切間近のレビューはなんとか年内に投稿終了,さらに正月に読む論文と資料を大量に印刷.なんとか,すっきり一年を終わることができそうです.

本棚:知の欺瞞

所謂ポストモダン主義といわれる思想,学派が如何に適当に自然科学の概念を使っているかということを丁寧に解説している本です.進化学などは攻撃を受けることが多い立場なのですが,反対者がこういった立場をとってくることもしばしば見受けられます.

面白い本ですが,さすがに途中の部分は読むのがつかれます.何故ならこの本は引用がかなり多く,もともとまともな意味をなさないとわかっている難解な文章をかなりの分量読まなければいけないからです.難解であるが頑張って読めば意味が分かる文章を根気よく読むのは大切なことですが,意味がないとあらかじめ知らされているものを読むのは相当な苦痛です.

この本の攻撃対象はポストモダン主義ですが,「知の濫用」という面においては我々科学者も色々と考えなければいけないところがいくつかあると思います.難しいことを言っているようで何も言っていない文章,専門用語の濫用,アナロジーに基づいた厳密でない考察などは,大学の先生が書いた著作(多くは一般向けの本ですが)においても数多く見ることができます.

また,専門分野の論文にもナンセンスなものがかなり紛れ込んでいます.査読というプロセスがかなりのフィルタリング機能を持っているのは確かですが,ソーカルの例の通り,いい加減な論文が有名な雑誌に載ってしまうこともあります.どうやって本物と偽物を見抜くことができるのか,簡単な方法はなく,我々は常に自分で納得するまで読み込むか,ある程度は著者を信用して読み飛ばすのかについて葛藤し続けなければいけないのではないでしょうか.


2010年12月20日月曜日

本棚:偶然と必然

年末が近づいてきて忙しい日が続いています.どうせクリスマス休暇でしばらく編集者の机の上に放置されるのでしょうが,年内には投稿したい論文もあります.早く終わらせてすっきりと年を越したいものです.

先日読んだジャック・モノーの一般向け著書について紹介します.順序が逆になりますが,先日のカウフマンの本はかなりこのジャック・モノーの一般向けの本に関連した部分が見受けられます.カウフマンは偶然を強調することが嫌いだったようです.

偶然か必然かというのはなかなか難しい概念ですが,突然変異が偶然で起きることについては間違いなく,偶然であっても長い時間がたてば必然(P≒1)となりうるのかというのが議論になっているのでしょう.我々が観察できる生命の起源がひとつしか無ければその答えを決して知ることはできないのですが,個人的な考えとしてはその確率は天文学的に低いことはないのだろうと思います.ただし,その後の要素については偶然の要素が大きいのではないでしょうか.カウフマンのモデルはネットワークが進化をがんじがらめにしているイメージがありますが,実際の生物はもう少しいい加減に適応度の山を下りたり登ったりしているのだと思います.

今読むと少々古いところもありますが,基本的なところは色あせて無く,いかに生命機能を担うタンパク質の複雑な機能が進化しうるかということが筋道だてて説明されています.

後半の思考や思想の進化についての考察については判断が付きにくいこともありますが,読んでいて面白いことは間違いないです.ドーキンスのミームのようなアイデアを彼がすでに持っていることに気づきます.


2010年12月8日水曜日

複雑さの獲得

カウフマンの理論についてもう少し.

複雑な形態がどのように進化したのか,というのは進化学の長年の課題であり,かつ進化論を攻撃する一般的な常套句となっていると思います.

漸進的な進歩が,互いに制御しあっているシステムで発展しうるかどうか.彼の理論は,どのような条件下で複雑なものが自然選択によって生まれるかについて考察しているということができるでしょう.ただ,モデルというのは具体的なパラメータがわからないとどうしようもないので,何かしら測定可能なデータを使ってモデルの検証をしていく過程が必要であると思います.

本棚:自己組織化と進化の理論

最近は有名だけど読んでいなかった一般向けの本を何冊か読み進めています.

で,今回感想を書くのは,いわゆる複雑系の研究者であるカウフマンの代表的著作です.彼の仕事についてはNKモデルなんかは軽く勉強したことはありますが,まともに本を読んだことはありませんでした.

内容は一部哲学的ですが,非常にわかりやすくネットワーク理論の基本について説明してくれています.また,生物から文化に至るまでの彼の進化論的解釈は読み物としては面白いと思います.

ただ,彼の主張である自己組織化の進化における役割については今一つ理解できないところがあります.

彼は自己組織化の力が秩序を作り出しているといい,例えば自然界では水滴とかそういったものに形が表れているといいます.しかし,僕にとってはそれはやはり物理的な力でしかなく,進化を考える時に果たしてそれが重要なのかについては疑問が残ります.

例えば,水が無かったら生物が進化しなかったからというのを,「ダーウィン以来科学者は自然選択しか考えてこなかったが,自然選択だけではなく水が大事なのだ!」,と言っているだけのような気がするのです.たぶん彼の考えはもっと深いところにあるのは伝わり,なんとなく言いたいことはわかるのですが,なかなか判断が難しいところにあります.

生命の起源についての彼のモデルは,ありえないこともないが,本当かなという印象です.結局,生命の起源の研究というのは現在地球上に存在する生物を見ただけではサンプル数が1なので想像の域を出ないのではないかと思います.先日リンの代わりにヒ素を使う面白生物が見つかりましたが.DNAとは全く違う遺伝物質を持つ地球外生命体がいくつか見つからない限り,科学的な検証は難しいのではないかと思われます.


2010年12月7日火曜日

うぶんつ

今年はいつも参加している分子生物学会には参加しないことにしました.

僕のPC環境は基本的にWindowsで,必要であればCygwinでLinuxのプログラムを動かす程度だったのですが,必要に迫られてLinux環境を整えています.

学生のころにえらい時間をかけてLinuxをインストールした記憶がありますが,それに比べると随分楽になりました.Ubuntuを使ってみたのですが,ほとんど何もせずにセットアップが終わるという感じです.とはいえ色々といじらなければいけないところは出てきますが.

現在のところ,Win上でVMwareを使ってUbuntuを入れたのが1台,デュアルブートが1台です.いっそのこと環境をすべてMacに変えてしまえという誘惑もあるのですが,しばらくはこれで行く予定です.フォントの汚さを除けば特にWindows7に不満はないですし.

それにしても最近は研究発表でもMacが本当に多いです.