2014年9月2日火曜日

本棚:Mutation-Driven Evolution

Mutation-Driven Evolution

毎年行われている遺伝研DNA分析研究室のサマーセミナーにゲスト参加させていただきました. 毎年泊りがけで一冊の本を読むということで,今年の課題はこの本でした.

これまでの進化学の歴史の中に根井正利先生の研究と進化史観が位置づけられています.色々意見もあるのですが,ここは議論するところではないので良いところを書きます.

  • これまでの進化学の歴史についてはよくまとめられているので, 初習者には非常にためになる内容が含まれています.また,普段あまりスポットライトが当たらないド・フリースの突然変異説や岡先生の種分化モデルなども取り上げられているので,一般の研究者にとっても勉強になります.進化学の歴史に興味がある方にはよい教材です.
  • 実際に行われた分子進化の研究例が豊富に取り上げられています.基本的には長期的な進化が興味の対象なので,集団内の変異や生態学的な視点自体は中心となっていません.
  • 英語ですが,文章はとてもわかりやすいです.
  • 目的論的な考え(teleological thinking)の危うさと陥りやすさについて述べられていますが,これについては僕も非常に同意します.
  • 木村先生は表現型の進化については適応的な説明を残していましたが,根井先生は表現型の進化の中にも中立なものがあるだろうと言っています.これについては同意します.
  • 一般的に言われる自然選択の仕組み無しに,新しいニッチに新しい種が広がることがある,ということには同意します.

最後に,この本のテーマを一般的な集団遺伝学モデルから僕なりに解釈してみると,「適応的な突然変異が起こる確率はどのくらい高いのか」という点になるのではないかと思いました.