2007年12月19日水曜日

ヒトの正確な遺伝子数

The drifting human genome
Genomic drift and copy number variation of sensory receptor genes in humans

ヒトの遺伝子数は一体幾つか,というコンテストがヒトゲノム解析と共にありました.ヒトの遺伝子数は古くは放射線による突然変異などから数万個と予測されてきたのですが,僕が研究を始めた頃は遺伝子の発現データが増えてきた頃で,人によっては10万以上との推定がなされていました.

それがヒトゲノム配列が決まってくると,今まで別の遺伝子産物だと思っていたものが同じ座位からのalternative splicingによるものだというのがわかってきて,ドラフトゲノムが出たときには3万程度,さらに使われなくなった偽遺伝子を除くと数は減り,完全版の配列では20,000~25,000くらいに減りました.コンテストは25,947個と予測したRowenが優勝とされました.

しかし,当然といえば当然ですが遺伝子数にも個人差があります.最近よく研究されるcopy number variation (CNV)というものです.2番目のNozawaらの論文では,遺伝子によっては100コピー以上の個人差が存在すると述べられています.したがってこれがヒトの遺伝子数という正解は存在しません.

さて,問題はこれらの遺伝子数の変化が適応的な結果によるものか遺伝的浮動によるものかということです.Perryらの研究によるとアミラーゼ遺伝子(AMY1)の数には個人差があり,日本人のようなでんぷん質をたくさん食べる集団の方が遺伝子コピー数が高いという相関があるとのことです.

一方,最初の論文でZhangは正常遺伝子と偽遺伝子との間で多型中に存在するコピー数の変異と種間で固定したコピー数の変異の数を比べる方法(MKテストの変形)を行ないました.もし,機能的な遺伝子のコピー数の違いが適応的で正の淘汰を受けるなら,そういった変異は種間差でより顕著に現れるでしょう.しかし,この検定では有意な差が見られなかったと述べています.どちらにせよ,こういった研究はこれからより詳細に進められていくのではないでしょうか.