2008年5月1日木曜日

本棚:ヒトの変異

スポラディックな変異で起こる奇形から遺伝性の代謝異常まで,幅広くヒトに起こりうる突然変異とその生物学的,文化的解説を集めた本です.

結合性胎児から両性具有などともすれば俗物的な興味が中心になってしまいそうな内容ですが,それをわかりやすくまとめているのは著者が現役の分子生物学者だからでしょう.それぞれの表現型の突然変異についての分子生物学的説明は,概ね正確で的を射ています.しばしば誤解を持って理解される集団遺伝学についても正しい知識があるようです.また,この著者は歴史(特にヨーロッパの)についてもものすごく造詣が深く,その博識ぶりには驚かされます.

科学的内容もかなり良質でありますが,それとともに語られる著者のヒトの多様性に関するものの見方にも共感できるところがあります.

「私たちはみなミュータントなのだ,ただその程度が,人によって違うだけなのだ」

ヒトの変異―人体の遺伝的多様性について