随分昔にアナウンスがあったきり忘れていたのですが,
Molecular Biology and Evolutionの姉妹誌が創刊されるようです.2009年中に投稿した論文はタダでオープンアクセスになるとのことです.エディトリアルボードにもなかなか良いメンバーがいらしゃるようですが,どのようにMBEと住み分けていくのか.
Genomeという言葉がポイントだと思いますが,現在のMBE自体ゲノムを扱った論文は多いんですよね.MBEに蹴られたらゲノムを扱っているものはGBE,個々の遺伝子が対象ならJMEとかになるんでしょうか.それともMBEを超えることを目指しているのでしょうか.創刊号を見てみるまでわかりませんね.
とにかく,この時期にわざわざ雑誌を作るのですから,MBEへの投稿自体は盛況なのでしょう.機会があったら投稿してみたいところです.
雑誌のサイトはこちら.
2009年1月29日木曜日
Hotspots of Biased Nucleotide Substitutions in Human Genes
二日ほど風邪で寝込んでいました.戻ってきたら山のように新着論文が... その中の一本.
PLoS Biologyの論文.
最初はよくあるタイプの論文かと思いましたが,読んでみると非常に興味深い論文です.
遺伝子内で起こったアミノ酸の変異が進化的に有利になってその結果急速に集団に広まるーアミノ酸レベルでの正の淘汰ーというものがよく研究されています.特に,ヒトとチンパンジーが分かれてからどの遺伝子に起こった変異が原因で現在のような表現型の違いが生まれたかという疑問は多くの人が興味を持っているでしょう.
ヒトの進化に限らず,分子進化学で頻繁に用いられる方法に,Ka/Ks(dn/ds)と呼ばれる統計値があります.二種の遺伝子を比較して,アミノ酸を変える非同義置換が起こる割合とアミノ酸を変えない同義置換が起こる割合の比です.これが1より大きいと,非同義置換が同義置換よりも高い割合で起こったのですから,正の淘汰が遺伝子に働いた,と一般的に解釈されてきています.アミノ酸の置換様式を数理モデルに置き換えて尤度比検定を行うバージョンなども存在します.
ところが,色々な方法でこのようなシグナルを示す遺伝子を集めてきたところ,そのトップ遺伝子には(A,T)>(G,C)の置換が多く起こったということがわかりました.こういったパターンでよく思い出されるのは,CGという2続きの塩基(CpG)がメチル化によってTGまたはCAに置換される現象です.この現象はこれとは全く逆です.
ここで,Biased Gene Conversion(BGC)という現象が原因として提案されます.これは減数分裂の時に染色体が組み換えを起こした時,アリル間で起こったミスマッチの修復が(A,T)>(G,C)に偏るという現象で,色々な研究で証明されている現象です.外から見ると,対立遺伝子の片方の遺伝子だけが子孫に伝わっているように見えます.
しかし,BGCは同義置換にも非同義置換にも同じように働くので,直感的にはKa/Ksは特別高くならないような気がします.しかし,ここで思い出されるのはCpGの変異です.哺乳類,特に霊長類などは同義置換のCG含量が高い遺伝子と低い遺伝子とが不均一に分布しています.つまり,もともとGC含量が高い遺伝子は同義サイトでBGCの影響を受けにくく,非同義置換の方がより強く影響を受けるということです.したがって,広がる変異は他と比べて生存に有利でなくても構わなく,むしろ不利であっても広がることが可能です.直感的にはわかりにくいかもしれませんが,論文では集団遺伝学のモデルを用いて現実的なモデルであることが示されています.
というわけで,これからKa/Ksを調べる時は置換パターンの偏りまで考慮に入れる必要がありそうです.面白いのは,この研究で最も強くシグナルが出た遺伝子はOlfactory Receptor(OR)遺伝子なのですが,これはよくヒトでKa/Ksが高いといわれる割には,霊長類はむしろORは偽遺伝子となっているものが多いと言われていて矛盾するなと感じていたところです.しかも,ORはよく行われる遺伝子機能のクラス分けでは神経関係の遺伝子にも分類されます.ヒトの系統で神経関係の遺伝子が早く進化したという論文は著名なものもいくつかありますが,ここらへんももう一度見直した方がよいものがあるかもしれません.
PLoS Biologyの論文.
最初はよくあるタイプの論文かと思いましたが,読んでみると非常に興味深い論文です.
遺伝子内で起こったアミノ酸の変異が進化的に有利になってその結果急速に集団に広まるーアミノ酸レベルでの正の淘汰ーというものがよく研究されています.特に,ヒトとチンパンジーが分かれてからどの遺伝子に起こった変異が原因で現在のような表現型の違いが生まれたかという疑問は多くの人が興味を持っているでしょう.
ヒトの進化に限らず,分子進化学で頻繁に用いられる方法に,Ka/Ks(dn/ds)と呼ばれる統計値があります.二種の遺伝子を比較して,アミノ酸を変える非同義置換が起こる割合とアミノ酸を変えない同義置換が起こる割合の比です.これが1より大きいと,非同義置換が同義置換よりも高い割合で起こったのですから,正の淘汰が遺伝子に働いた,と一般的に解釈されてきています.アミノ酸の置換様式を数理モデルに置き換えて尤度比検定を行うバージョンなども存在します.
ところが,色々な方法でこのようなシグナルを示す遺伝子を集めてきたところ,そのトップ遺伝子には(A,T)>(G,C)の置換が多く起こったということがわかりました.こういったパターンでよく思い出されるのは,CGという2続きの塩基(CpG)がメチル化によってTGまたはCAに置換される現象です.この現象はこれとは全く逆です.
ここで,Biased Gene Conversion(BGC)という現象が原因として提案されます.これは減数分裂の時に染色体が組み換えを起こした時,アリル間で起こったミスマッチの修復が(A,T)>(G,C)に偏るという現象で,色々な研究で証明されている現象です.外から見ると,対立遺伝子の片方の遺伝子だけが子孫に伝わっているように見えます.
しかし,BGCは同義置換にも非同義置換にも同じように働くので,直感的にはKa/Ksは特別高くならないような気がします.しかし,ここで思い出されるのはCpGの変異です.哺乳類,特に霊長類などは同義置換のCG含量が高い遺伝子と低い遺伝子とが不均一に分布しています.つまり,もともとGC含量が高い遺伝子は同義サイトでBGCの影響を受けにくく,非同義置換の方がより強く影響を受けるということです.したがって,広がる変異は他と比べて生存に有利でなくても構わなく,むしろ不利であっても広がることが可能です.直感的にはわかりにくいかもしれませんが,論文では集団遺伝学のモデルを用いて現実的なモデルであることが示されています.
というわけで,これからKa/Ksを調べる時は置換パターンの偏りまで考慮に入れる必要がありそうです.面白いのは,この研究で最も強くシグナルが出た遺伝子はOlfactory Receptor(OR)遺伝子なのですが,これはよくヒトでKa/Ksが高いといわれる割には,霊長類はむしろORは偽遺伝子となっているものが多いと言われていて矛盾するなと感じていたところです.しかも,ORはよく行われる遺伝子機能のクラス分けでは神経関係の遺伝子にも分類されます.ヒトの系統で神経関係の遺伝子が早く進化したという論文は著名なものもいくつかありますが,ここらへんももう一度見直した方がよいものがあるかもしれません.
2009年1月20日火曜日
2009年1月19日月曜日
新規遺伝子の創出
Shintaro Iwashita, Kentaro Nakashima, Motoki Sasaki, Naoki Osada, Si-Young Song. Multiple duplication of the bucentaur gene family, which recruits the APE-like domain of retrotransposon: identification of a novel homolog and distinct cellular expression. Gene accepted (2009).
何度か共著で発表している遺伝子についての研究で,最新の結果がアクセプトされました.
この論文では非常に面白い遺伝子の進化プロセスを明らかにしています.遺伝子の多様性を生み出す一つのメカニズムに遺伝子重複が挙げられます.一つしかない遺伝子の機能が進化によって変わってしまうと機能を損なうことになります.したがって遺伝子のコピー数が増えれば,もともとの機能を保持したままもう一方のコピーは新しい機能を獲得できるようになります(neo-functionalization).大野乾先生が強く提唱したのが有名です.また,もともと一つの遺伝子が果たしていた役割(発現パターン)を,重複後の遺伝子がそれぞれ分担しているような例(sub-functionalization)も多数見つかっています.
もう一つ,遺伝子の多様性に重要だと考えられている仕組みとして,エキソンの挿入や入れ替えなどによる,exon-shufflingという現象が知られています.このような現象には反復配列の相同組み換えのような仕組みが重要であると考えられています.
bcnt遺伝子では,ウシやシカなどの反芻類の系統でのみ遺伝子重複を起こし,その片方にLINE配列と呼ばれる反復配列の一部が挿入されています.面白いのは,LINE配列は自ら逆転写酵素をコードし自らを増殖させていく利己的な反復配列なのですが,この逆転写にかかわるドメインが丸ごとbcnt遺伝子の途中に挿入されてしまっています.ドメインはどの反芻類でも保存されているので,重複した遺伝子がこのドメインを取り込んで新しい機能を獲得したのは明らかです.つまり,所謂ガラクタと呼ばれている反復配列が立派な機能を持った遺伝子に進化したと言えるのです.
ところが,さらにゲノムの解析を続けたところ,LINEを取り込んだ方のコピーがもう一回遺伝子重複を起こしていることがわかりました.また,遺伝子の発現様式や細胞内局在がコピー間で異なっていることを示されました.
非常に珍しくて奇麗なシナリオが描ける遺伝子進化の例ですが,惜しむらくは機能についての解明が十分に進んでいないことです.反芻類特異的というのがネックになっているわけですが,これから研究を進める価値は十分にあると思われます.
何度か共著で発表している遺伝子についての研究で,最新の結果がアクセプトされました.
この論文では非常に面白い遺伝子の進化プロセスを明らかにしています.遺伝子の多様性を生み出す一つのメカニズムに遺伝子重複が挙げられます.一つしかない遺伝子の機能が進化によって変わってしまうと機能を損なうことになります.したがって遺伝子のコピー数が増えれば,もともとの機能を保持したままもう一方のコピーは新しい機能を獲得できるようになります(neo-functionalization).大野乾先生が強く提唱したのが有名です.また,もともと一つの遺伝子が果たしていた役割(発現パターン)を,重複後の遺伝子がそれぞれ分担しているような例(sub-functionalization)も多数見つかっています.
もう一つ,遺伝子の多様性に重要だと考えられている仕組みとして,エキソンの挿入や入れ替えなどによる,exon-shufflingという現象が知られています.このような現象には反復配列の相同組み換えのような仕組みが重要であると考えられています.
bcnt遺伝子では,ウシやシカなどの反芻類の系統でのみ遺伝子重複を起こし,その片方にLINE配列と呼ばれる反復配列の一部が挿入されています.面白いのは,LINE配列は自ら逆転写酵素をコードし自らを増殖させていく利己的な反復配列なのですが,この逆転写にかかわるドメインが丸ごとbcnt遺伝子の途中に挿入されてしまっています.ドメインはどの反芻類でも保存されているので,重複した遺伝子がこのドメインを取り込んで新しい機能を獲得したのは明らかです.つまり,所謂ガラクタと呼ばれている反復配列が立派な機能を持った遺伝子に進化したと言えるのです.
ところが,さらにゲノムの解析を続けたところ,LINEを取り込んだ方のコピーがもう一回遺伝子重複を起こしていることがわかりました.また,遺伝子の発現様式や細胞内局在がコピー間で異なっていることを示されました.
非常に珍しくて奇麗なシナリオが描ける遺伝子進化の例ですが,惜しむらくは機能についての解明が十分に進んでいないことです.反芻類特異的というのがネックになっているわけですが,これから研究を進める価値は十分にあると思われます.
2009年1月13日火曜日
共同研究
先日に共著者の話題が出たばかりですが,ひょんなことから昔お世話になった方に我々の論文に加わってもらうことになりました.一度は一緒に仕事をしたいと思っていた方なので嬉しく思います.まだ論文投稿には至っていませんが,これでアメリカ留学中に一緒だったメンバーとはすべて共同研究が進んでいます.
最近は仕事を頼まれて共著に加わるだけでなく,他の方に協力してもらった共著も多いのでいい感じです.自分と同じレベルで徹底的に批判してくれる友人は貴重です.慣れ合わず適度に刺激があった方が良い関係を築けるのは確かでしょう.
知恵と努力を寄せ合った共同研究ほど気持ちの良いものはありません.
最近は仕事を頼まれて共著に加わるだけでなく,他の方に協力してもらった共著も多いのでいい感じです.自分と同じレベルで徹底的に批判してくれる友人は貴重です.慣れ合わず適度に刺激があった方が良い関係を築けるのは確かでしょう.
知恵と努力を寄せ合った共同研究ほど気持ちの良いものはありません.
2009年1月7日水曜日
BioMedExpertsに登録
検索でたまに引っ掛かるので気になっていたのですが,BioMedExpertsというバイオ系研究者用のSNSサイトに登録してみました(タダだったので).PubMedから論文を自動的にサーチしてくれて,自分と共著者とのネットワーク図なんかをつくってくれます.
自分の場合は共著者が44人,共著者の共著者が1697人,その先になると43165人.ダブっている人も多いとは思いますが,世界は狭いのか,それとも研究者が巷に溢れているのか,どちらか悩んでしまうところです.PubMedでは同姓同イニシャルで区別できない著者も多いので,こういったものがあると便利です.
今月のPLoS Computational Biologyには研究者の総背番号制に関する論文も載っていました.僕はこういった試みには賛成です.ちなみにこのブログもそういった試みの一環だと思っています.
I Am Not a Scientist, I Am a Number
2009年1月9日追記
ふと思い出したのですが,レベル2の共著者である1697人には天皇陛下や秋篠宮殿下も入るわけですね.やはり世の中は狭いということでしょうか.
自分の場合は共著者が44人,共著者の共著者が1697人,その先になると43165人.ダブっている人も多いとは思いますが,世界は狭いのか,それとも研究者が巷に溢れているのか,どちらか悩んでしまうところです.PubMedでは同姓同イニシャルで区別できない著者も多いので,こういったものがあると便利です.
今月のPLoS Computational Biologyには研究者の総背番号制に関する論文も載っていました.僕はこういった試みには賛成です.ちなみにこのブログもそういった試みの一環だと思っています.
I Am Not a Scientist, I Am a Number
2009年1月9日追記
ふと思い出したのですが,レベル2の共著者である1697人には天皇陛下や秋篠宮殿下も入るわけですね.やはり世の中は狭いということでしょうか.
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