2009年1月19日月曜日

新規遺伝子の創出

Shintaro Iwashita, Kentaro Nakashima, Motoki Sasaki, Naoki Osada, Si-Young Song. Multiple duplication of the bucentaur gene family, which recruits the APE-like domain of retrotransposon: identification of a novel homolog and distinct cellular expression. Gene accepted (2009).

何度か共著で発表している遺伝子についての研究で,最新の結果がアクセプトされました.

この論文では非常に面白い遺伝子の進化プロセスを明らかにしています.遺伝子の多様性を生み出す一つのメカニズムに遺伝子重複が挙げられます.一つしかない遺伝子の機能が進化によって変わってしまうと機能を損なうことになります.したがって遺伝子のコピー数が増えれば,もともとの機能を保持したままもう一方のコピーは新しい機能を獲得できるようになります(neo-functionalization).大野乾先生が強く提唱したのが有名です.また,もともと一つの遺伝子が果たしていた役割(発現パターン)を,重複後の遺伝子がそれぞれ分担しているような例
(sub-functionalization)も多数見つかっています.

もう一つ,遺伝子の多様性に重要だと考えられている仕組みとして,エキソンの挿入や入れ替えなどによる,exon-shufflingという現象が知られています.このような現象には反復配列の相同組み換えのような仕組みが重要であると考えられています.

bcnt遺伝子では,ウシやシカなどの反芻類の系統でのみ遺伝子重複を起こし,その片方にLINE配列と呼ばれる反復配列の一部が挿入されています.面白いのは,LINE配列は自ら逆転写酵素をコードし自らを増殖させていく利己的な反復配列なのですが,この逆転写にかかわるドメインが丸ごとbcnt遺伝子の途中に挿入されてしまっています.ドメインはどの反芻類でも保存されているので,重複した遺伝子がこのドメインを取り込んで新しい機能を獲得したのは明らかです.つまり,所謂ガラクタと呼ばれている反復配列が立派な機能を持った遺伝子に進化したと言えるのです.

ところが,さらにゲノムの解析を続けたところ,LINEを取り込んだ方のコピーがもう一回遺伝子重複を起こしていることがわかりました.また,遺伝子の発現様式や細胞内局在がコピー間で異なっていることを示されました.

非常に珍しくて奇麗なシナリオが描ける遺伝子進化の例ですが,惜しむらくは機能についての解明が十分に進んでいないことです.反芻類特異的というのがネックになっているわけですが,これから研究を進める価値は十分にあると思われます.