確率微分方程式で有名な伊藤清先生のエッセイ及び講演集です.正直,数学の説明は難解でほとんど理解できませんでしたが,その他の部分は平易で含蓄もあり,気軽に読み進めることができます.
確率論というと僕らが道具として日常的に使っているもので,ウィーナー過程とか伊藤の公式というのはしばしば目にすることがあります.やはり日本人の名前がついた定理などは親近感がわきます.面白いのはやはり数学者としての視点で,実用から数学が生まれ,それが数学の世界を発展させるということに伊藤先生がことさらこだわっていたことです.
確かに,数学が如何に純粋な抽象的・論理的な学問であっても,最初に数学的に取り扱う題材は現実の現象から着想を得ているわけです.+の記号もリンゴの数を数えるといった現実世界の加算というものがあって初めて人々の意識に上り,そこから抽象化されていくわけです.この視点はあまり考えたことがなかったので勉強になりました.
恐らく,多くの生物学者は大学の数学をもっと真面目にやっておけばよかったと思っているのではないでしょうか.僕も幾度か高等数学を一から勉強しようと思ったことがあるのですが,何度も中途半端なところでやめてしまっています.相当根気が必要な学問であることは間違いないので,やはり寝食を忘れてのめりこめる若いうちにやっておくべきだったと後悔しています.さらっとした顔で「バナッハ空間」とか言ってみたいものです.
2011年4月15日金曜日
DNAの遺伝様式
先日TVで体細胞キメラだった母親が,子供のDNA型と一致しないので親権を取り上げられそうになったという話を見ました.どんな技術にも弱点はありますので,仕組みを理解して正しく使うことが重要でしょう.
さておき,その映像の中で,親から子にDNAが受け継がれるアニメーションがあったのですが,DNAの二重らせんがパカッと割れて半分が子供に伝わるようになっていました.これまで何度か専門外の方がこう勘いう違いしているのを見てきたのですが,親から子供に伝わるのは二重らせんの半分ではなく,二つある二重らせんの遺伝子のうち片方です.
また,一瞬だったので定かではないですが,DNAが左巻きだったように見えました.昔のエントリーでも書きましたが,DNAは右巻きということになっています.
さておき,その映像の中で,親から子にDNAが受け継がれるアニメーションがあったのですが,DNAの二重らせんがパカッと割れて半分が子供に伝わるようになっていました.これまで何度か専門外の方がこう勘いう違いしているのを見てきたのですが,親から子供に伝わるのは二重らせんの半分ではなく,二つある二重らせんの遺伝子のうち片方です.
また,一瞬だったので定かではないですが,DNAが左巻きだったように見えました.昔のエントリーでも書きましたが,DNAは右巻きということになっています.
安全を決めるのは
放射線のリスクの話が出るたびに,安全に対する基準というものに対する人間の認識の難しさを感じます.
100%死ぬとか100%安全とかいう極端な場合を除き,危険の度合いは確率的になるからです.確率論ほど人生に密着した理論はないのですが,これほど人間の直感に反している理論もないのです.生命保険やギャンブルは確実に胴元が儲かるような仕組みになっていますが,人間に安心を求める欲望や射幸心があるおかげで多くの人が参加しています.保険は人生のランダム性を下げることになるし,ギャンブルは逆にあげることになります.われわれは確率の振れ幅を変えるためににお金を払っているということになるでしょう.
放射線の話に戻ると,科学者であればどれくらい安全かということを決めることができると考えている方がいるかもしれませんが,科学的な立場から言えるのは,例えば数年後に癌で死ぬ確率がこれだけ上がるとかいうような客観的な数値のみです.それが安全かどうかを決めるのは科学ではなく政治の仕事です(もちろんその過程には科学者が深くかかわっています).
100%死ぬとか100%安全とかいう極端な場合を除き,危険の度合いは確率的になるからです.確率論ほど人生に密着した理論はないのですが,これほど人間の直感に反している理論もないのです.生命保険やギャンブルは確実に胴元が儲かるような仕組みになっていますが,人間に安心を求める欲望や射幸心があるおかげで多くの人が参加しています.保険は人生のランダム性を下げることになるし,ギャンブルは逆にあげることになります.われわれは確率の振れ幅を変えるためににお金を払っているということになるでしょう.
放射線の話に戻ると,科学者であればどれくらい安全かということを決めることができると考えている方がいるかもしれませんが,科学的な立場から言えるのは,例えば数年後に癌で死ぬ確率がこれだけ上がるとかいうような客観的な数値のみです.それが安全かどうかを決めるのは科学ではなく政治の仕事です(もちろんその過程には科学者が深くかかわっています).
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