確率微分方程式で有名な伊藤清先生のエッセイ及び講演集です.正直,数学の説明は難解でほとんど理解できませんでしたが,その他の部分は平易で含蓄もあり,気軽に読み進めることができます.
確率論というと僕らが道具として日常的に使っているもので,ウィーナー過程とか伊藤の公式というのはしばしば目にすることがあります.やはり日本人の名前がついた定理などは親近感がわきます.面白いのはやはり数学者としての視点で,実用から数学が生まれ,それが数学の世界を発展させるということに伊藤先生がことさらこだわっていたことです.
確かに,数学が如何に純粋な抽象的・論理的な学問であっても,最初に数学的に取り扱う題材は現実の現象から着想を得ているわけです.+の記号もリンゴの数を数えるといった現実世界の加算というものがあって初めて人々の意識に上り,そこから抽象化されていくわけです.この視点はあまり考えたことがなかったので勉強になりました.
恐らく,多くの生物学者は大学の数学をもっと真面目にやっておけばよかったと思っているのではないでしょうか.僕も幾度か高等数学を一から勉強しようと思ったことがあるのですが,何度も中途半端なところでやめてしまっています.相当根気が必要な学問であることは間違いないので,やはり寝食を忘れてのめりこめる若いうちにやっておくべきだったと後悔しています.さらっとした顔で「バナッハ空間」とか言ってみたいものです.