2012年7月24日火曜日

本棚:Elements of Evolutionary Genetics

今年度は集団遺伝学のテキスト輪読会でこの本を採用しています. Elementsと呼ぶには分厚すぎる本ですが,これを全部読むことができたら集団遺伝学の基礎はマスターしたと言っていいのではないかというくらい基礎的なことをカバーしています.

他の教科書に比べると数式が多いので,数学が好きな人は計算を楽しみながらできるのではないでしょうか.まじめにやるとかなり時間がかかると思います.

ただ,一つ気をつけなくてはいけないことは,集団遺伝学の教科書には学問の歴史的には重要であるが,現実には何の役にも立たない理論や仮説がたくさん出てきます.もちろん現代の科学者が共通に持つ考えはすべて歴史的な経緯を経てきているので,それらを知ることは重要です.

しかし,初学者が教科書に書いてあるからと言って正直に信じてしまう可能性もあります.例えば,この教科書の最初の数章は,如何に集団中に遺伝的多様性が保たれているかのモデルについて多くのページを割いています.初期の集団遺伝学がこのことをテーマにして,多くの理論を発展させたことは事実です.しかし,現代を生きるわれわれは多様性の多く(もちろんすべてではなく,自然選択によって維持されているものも無視できないくらいはあるでしょうが)はいわゆるmutationとdriftのバランスによって維持されていることを知っています.

歴史は歴史ということがわかっていて,かつそれを学ぶのに時間をかけることを惜しまなければ,非常に広い範囲をカバーしている良くまとまった教科書であると思います.