2010年10月28日木曜日

WH比

Meta-analysis identifies 13 new loci associated with waist-hip ratio and reveals sexual dimorphism in the genetic basis of fat distribution
Nature Geneticsの論文です.

WH比と書くと難しく聞こえますが,ウエストとヒップの大きさの比についてのゲノムワイドアソシエーションスタディです.少しいやらしいことを想像していましたが,肥満の尺度としてこの値が使われているようです.

やはり男女の性差があるようなのが面白いところです.しかし,人類学的見地から言わせてもらうと,あまり医学に役立たなそうな表現型ももっとGWASで解析されると良いのになと思います.

2010年10月20日水曜日

Reproductive Success

何やら色々と忙しいのですが,子供が予定より早く生まれてしまいました.

さて,最近は少し植物の勉強もしているのですが,植物は二次代謝のおかげで人間には不可能なものを色々と作り出すことができます.今年のノーベル賞はカップリング反応でしたが,それに頼らず色々なものを作り出せるということはある意味我々よりも優れているのではないでしょうか.まあ,生き物に優劣をつける考え方自体間違っているのですが...

植物ではゲノム重複が簡単に起きてしまうのも複雑さを生み出す一つの原因になっているのかもしれません.何故簡単に倍数体ができてしまうかは,メチレーションの仕組みとか発生のシステムとかいろいろと原因があるのかもしれませんが,非常に興味深いところです.

2010年9月21日火曜日

2010年遺伝学会

ただ今札幌で行われている日本遺伝学会に参加中です.

最近は割と抽象的な研究(ナマのものを扱わない研究)を行っているので,実際に生物を扱っている研究を見ると色々と刺激を受けます.

2010年9月19日日曜日

ヒトの集団サイズ

先日は国際霊長類学会で少し話をさせていただきました.内容はヒトの集団サイズとそれにともなう進化の強さの変化について,そして現在進めている核-ミトコンドリア遺伝子間の新しい進化モデルについてでした.

他の霊長類と比べた時のヒトの特徴は色々とありますが,僕が一番重要視しているのは集団サイズです.ヒトの人口は現在約69億人ですが,それに比べるとヒトという種が持つ遺伝的多様性は驚くほど少なく,有効な集団サイズが約10,000程度と見積もられています.この値はチンパンジーやゴリラと比べても少なく,遠くない過去に集団サイズのボトルネックがあったのではないかと推測されています.現在の人口の増加はヒトが農耕文化を獲得してから爆発的に増えた結果で,高々数千年の歴史の結果です.したがって,まだヒトの遺伝的多様性に全体的な影響を及ぼすほどの効果はないようです.

ただ,ヒトが他の霊長類より集団サイズが小さいといっても,霊長類自体の集団サイズは他のほ乳類,特にげっ歯類のような小型の哺乳類に比べると小さいようです.僕が以前研究を行ったマカクでは,過去の集団サイズは30,000-50,000くらいです.それに比べて,最近発表された野生マウスのデータでは集団サイズは600,000くらいであると言われています.

では,霊長類,特にヒトがもつ少ない遺伝的多様性はどのような結果を引き起こすのでしょうか.60-70年代の集団遺伝学の理論的研究によって得られた一つの結論は,自然選択は集団サイズが大きい集団により効率よく働くというものです.これは直感的にも正しく,集団サイズが小さいと遺伝的浮動の効果が大きく,良い突然変異であっても偶然の結果集団から除かれたり,悪い突然変異が偶然によって集団中に広まったりします.また,集団サイズが大きいということはそれだけ集団に入ってくる突然変異の数が多いことになりますので,有利な変異が生まれる確率が上がるはずです.

実際にヒト,サル,マウスのそれぞれの系統で色々な遺伝子のアミノ酸配列を調べた研究がいくつかあります,それぞれの系統で蓄積したアミノ酸の変異の量を期待値で割ってあげると,ヒト>サル>マウスの順にアミノ酸配列の変化量が高くなっています.もちろん,ヒトの系統で正の自然選択が強くかかっていてヒトが特殊化したという説は考えられますし,否定もできませんが,より説得力のある説明としては,集団サイズが小さいヒトの系統では有害な変異にかかる淘汰が弱く,より多くの有害な変異が蓄積したというものがあげられます.これが太田朋子先生が提唱したほぼ中立説を支持するデータの一つです.

ヒトの集団にかかる淘汰圧が全体的に弱いと仮定した場合にどのようなことが予想されるでしょうか.現在までに多くのゲノム解析が行われてきました.その中で,ヒトをヒトと足らしめる遺伝的要因の発見というのは一つの大きなテーマになってきました.多くの研究は,正の自然選択によって起こった違いに注目します.実際に僕も学生の時にはヒトとサルの遺伝子を比べてどのような遺伝子が正の選択を受けたのかという研究を行っていました.どのような過程でわれわれは優れた方向に進化してきたのかというのは確かに重要なテーマです.おそらく数十,数百の遺伝子は正の自然選択を受けているでしょう.しかしそれ以外にも偶然の結果固定した中立な変異や有害な変異も存在するはずです.

僕が最近思っていることは,ヒトの特徴というのはこれらの変異すべてひっくるめて捉えないといけないのではないかということです.もちろんわれわれヒトが優れた形質を獲得したことも大事ですが,悪いものを獲得してしまったことも同じく大事だと思います.もちろん,どのような遺伝的機構によってその形質が獲得されたのかを区別することは重要ですが,そのどちらが重要かということを決めることは不可能だと思うのです.

また,変異が固定するかどうかは自然選択によって左右されますが,いったん固定してしまったものがそのあとどのようになるのかはまったくわかりません.例えば,霊長類のうち真猿類はビタミンC合成酵素が欠失しているのでビタミンCを合成できません.色々な理由が想像できますが,中立説で説明すると,ビタミン豊富な果実を主食にしていた霊長類はビタミンCが合成できなくても生存でそれほど不利にならず,欠損型の遺伝子が偶然によって集団に広まったと考えることができます.とはいえ,ビタミンC合成欠損というのは明らかな表現型です.過去の人類は十分なビタミンCを摂取できていたのでしょうか.今のわれわれがビタミンCを合成できたとすると,壊血病もなく,レモネードもオロナミンCもなかったはずです.反対に,過去は生存に有利であり集団中に広まった形質が,その後意味がなくなっている例もたくさんあると思います.

集団サイズと淘汰の話になると,ではなぜ集団サイズが小さいヒトや他の大型ほ乳類のような生物が複雑な体制と行動様式を持っているかという話になるかと思います.すでにいくつかの似たような説が提唱されていますが,僕はやはり集団サイズが小さいほど淘汰が弱くなり,適応の局所的な最適値を抜け出すことができるのではないかと思います.ライトの平衡遷移説は,分断された小集団で局所的ではない別の最適値への適応が起こり,それが大集団に広まっていくことを仮定していますが,われわれはすでに集団サイズの小さい種では多くの有害な変異が蓄積していることを知っていますから,分断された小集団ではなく,種レベルでそういったことが起こる可能性を考えることもできます.局所解を求めながらファインチューニングをしていく方法と,アドホックに大きなジャンプを繰り返していく方法と両方があり,生物種によって(おそらくライフサイクルと関連して)どちらかに偏った進化をしているのではないでしょうか.

2010年8月30日月曜日

ミトコンドリアを用いた生物多様性解析

ちょっと前になりますが,進化学会では,生物の多様性を解析する場合には一座位のみを用いた解析では偶然の結果によるバラつきが大きいので,解析する座位数を増やしましょうという話を簡単にさせていただきました.

要は,組み換えが起こらないと,遺伝子の系統の歴史というものは,ある条件で与えられたいくつもの可能な系統パターンの中のたった一つしか反映することができないということです.どのパターンが選ばれるかは過去の偶然によってきまり,今現在どのくらいの個体をサンプルするかには依存しません.サンプル数を増やしても,歴史のサンプル数はたったひとつだということです.この問題は,組み換えを起こしてそれぞれバラバラに継承されている領域を取り,歴史のサンプル数を増やすことによって克服できます.

この点に関してはいくつもの良いレビューがありますが,Ballard and Whitlockのレビューは分子生態学者向けに書かれているので読みやすいのではないかと思います.

もう一つミトコンドリアの解析で気にしなければいけないのは,ミトコンドリアにselective sweepがあるかどうかということでしょう.これは未だに議論の余地があるところですが,基本的なアイデアはGillespieのgenomic draftという,常にselective sweepが起こっていると仮定するモデルです.時間当たり一定の量のselective sweepが起こっていれば,集団サイズが大きいほどより頻繁にsweepが起こり,集団に入ってくる突然変異の量と打ち消しあって集団内の変異量が一定になるというモデルです.BazinらのScienceの論文が有名だと思います.

2010年8月20日金曜日

どうしても打ち間違えてしまう単語

何100回打ったかわからないはずなのですが,"reviewer"という単語を何度やってもミスタイプしてしまいます.スペルミスではなくて手が勝手に間違うようです.

よく考えると"i"と"o"もしばしば順番を間違えて打ってしまうので("statoin"のように)薬指と中指を交互に動かす時にうまくコントロールできていないようです.

試しに,"reviwew"でGoogle検索をしてみたら15,100件,"reviwer"で122,000件がヒットしました.みなさんやっていることは同じようです.

2010年8月11日水曜日

過去を知る

進化学会も無事に終わりました.

僕は割と仮説の検証の妥当性など細かいことを聞いてしまう癖があるので,クレーマーのような印象を与えてしまうかもしれませんが,基本的にはリスペクターです.ただ,どんなに面白い論文でも基本的なことに穴があると残念なので,気が付いたときは指摘することにしています.

最近は紹介できるような新しい論文は見つけていないのですが,いくつか古い論文を読んでいました.分子生物学の分野なら30年前の論文から得られることはあまりないかもしれませんが,進化の分野は古い論文の中にも新たな発見が色々とあります.方法論やデータはものすごい勢いで発展していますが,基本的なアイデアは昔からそれほど変わっていないのです.そこが遺伝学,進化学の醍醐味でしょうか.

2010年7月13日火曜日

2010年学会シーズン

学会シーズンも迫り,色々と忙しくなってきました.学会の準備もしつつ,秋までにはまとめたい仕事がいくつかあります.8月からはラボのメンバーも増えるので,少しは賑やかになりそうです.

今年度の秋は以下の三つに参加します.

8月:進化学会,9月:国際霊長類学会,遺伝学会

あと,11月の日本DNA多型学会のシンポジウムでも発表予定です.できるだけそれぞれ違う内容で話したいと思っています.

2010年7月5日月曜日

カニクウサル

昨晩のTV番組でシルバーリーフモンキーが尻尾でカニを釣って食べるという紹介がありました.結局その番組ではシルバーリーフモンキーはカニを食べず,サイノモルガスモンキーというのが本当のカニを釣るサルだというところで終わっていました.

サイノモルガスモンキー(cynomolgus monkey)というのはカニクイザル(crab-eating monkey)の別名で、いつもいろいろとお世話になっているサルです.他にもしっぽが長いことからlong-tailed monkeyとも呼ばれています.何故いろんな名前があるのかはよくわかりませんが,種内の多様性が高いのでもともと別の名前がついていたのだろうと勝手に想像しています.

僕は学生の時のボスがcynomolgusに拘っていたのでそのまま使い続けていますが,アメリカの研究者なんかはcrab-eatingと呼んでいる人が多いように感じます.ヒトによって呼び方が違うのは面倒なので,最近は学名を書いて済ませてしまっています.

で,このサルは名前の通りカニを食べるらしいのですが,尻尾で釣りをするというのは流石にないだろうというのを図鑑で読んだ記憶があります.本当だったら見てみたいところですが...

2010年6月28日月曜日

本棚:人類が消えた世界

今夜のテレビで「人類ZEROの未来!」という番組が放映されていましたが,たぶんそのネタ本です.

人類が突然居なくなったら 地球はどうなるかという想像の世界を描いた本ですが,実際には人類がこれまでどのように環境を変えてきたかということが話の中心になっています.

未来の予想なので科学的な検証が出来るたぐいのものではないのですが,割とまともなことを言っているし,読み物としては面白いかと思います.