2007年6月22日金曜日

インパクトファクター2006

科学論文雑誌の評価基準のひとつにインパクトファクターというものがあります。2年間の論文の被引用回数を総掲載論文数で割ったもので、この値が高いほど他の研究によく引用されている、すなわち注目度の高い雑誌ということになります。

個人的な意見を言わせてもらうと、この数字はひとつの目安にはなるけれども、それだけを追い求めるのは愚の骨頂であると思っています。と、大声でいいたいところなのですが、最近は常に競争原理の導入とかで、一点でも点数の高い論文を出さなければいけないという風潮にあります。

したがって、ある程度自分のポリシーと妥協せざるをえないところがあります。僕は基本的には「できるだけ多くの興味ある人に読んでもらう」ことを目的として雑誌を選んでいます。ある程度研究を続けてくると、この雑誌にはこういった傾向の論文が多いとか、この雑誌は最近質の悪い論文が多い(有名なラボの論文が掲載されていない、逆につまらない論文が有名ラボという理由だけで載っている)とか、そういうことがわかってきます。そういった判断が正しいか間違っているかはともかく、単なる数字ではなく自分なりの基準を持っておくことは大切であると思います。

さて、雑誌の点数に固執することの問題点は他にもあります。それは、この点数が毎年変わるものだということです。最近2年間の成績が反映されるので、色々な条件によって上下降します。基本的には業績の評価は評価時点での点数によって決定しますので、昔点数が高かった雑誌に載ったからといって、必ずしも現時点での評価が高いわけではありません。今週になって2006年度のインパクトファクターが一斉に発表になりました。生物系の歴史がある中堅雑誌は点数が下がっているところが多いですが、Nature、Cellの姉妹紙の増殖やPLoSシリーズなどの存在が大きくなっているのだと思います。実は僕も先日論文を投稿した雑誌の点数がガクッと下がっていたので少しガックリきています。まあ、本命の雑誌に蹴られたあとの敗戦処理みたいなものなので仕方が無いですが。

点数の変化に対応するには、やはり情報収集に尽きるでしょう。最近はE-mailで目次が送信されてくるサービスが多くの雑誌に存在するので、最新の情報は常に入ってきます。雑誌を取っていなくてもアブストラクトなら簡単に読むことができます。それを読んで点数の変化を予想するか、それとも点数などに惑わされずに自分が良いと思った雑誌に投稿するか。どちらの方針も可能性があると思います。

進化の研究は層がそれほど厚くはないので、Nature、Cellやその姉妹紙に蹴られたときの受け皿はそれほど多くはありません。最近少し残念なのはNature GeneticsがHuman Geneticsの記事に偏ってきていることでしょうか。昔はわりとEvolutionの話があった気がするのですが、最近は病気の原因遺伝子の話ばっかりです。その代わり、最近できたPLoS Geneticが進化から病気までわりと幅広く遺伝学の話を載せているようです。Nature Evolutionary Biologyなんてできたら面白いかもしれませんが、その下の中堅雑誌が軒並み死亡しそうで、そこらへんによく論文を出させてもらっている僕のような人間には複雑な気分であります。