2007年6月19日火曜日

系統樹オーム

以前のエントリーで話題にした系統樹がらみの話を見つけたので紹介します。

The human phylome. Genome Biology 2007, 8:R109.

39のゲノム配列が解析された生物の遺伝子を全部ぶち込んで系統樹を作りました、というものです。方法は最尤法とベイズ推定、とても計算量の多い方法です。140個の64ビットプロセッサのクラスターで2ヶ月、シングルプロセッサだと23年かかる計算のようです。まさに力技。

しかし、モデルを複雑にして、数も増やして、とやっても結果は微妙のようです。特に以前も話題にした霊長類-げっ歯類-ローラシア獣類(イヌ、ウシ)の関係は、ネズミが一番根元に来るという結論のようですが、次のようにも断っています。

>Here too, differences in the relative evolutionary rates, and the possible long-branch attraction effect, might have an effect on the high proportion of trees showing rodents at a basal position, since rodent sequences have been shown to have the highest rates of substitutions when compared with primates and artiodactyls.

従来の方法ではなく、何か別の考え方が必要かもしれません。僕の意見では、哺乳類の拡散が一度にどっと起こった、または祖先集団の集団サイズがとても大きかった、という感じがしますが、化石などの証拠からはこのような説のサポートがどこまでできるのかが気になります。

2007/7/17追記

極端な種の分化が起こるためには,集団のサイズは十分大きくなければいけない.というようなアイデアを既にダーウィンは「種の起源」で考えていました.なぜなら,種が適応する原因となる突然変異のインプットがある程度多くないと,有利な変異は後の交配でどんどん薄まってしまうと考えていたからです.現在の理論ではこの理論は少し修正されています.ダーウィンは変異のインプットの大小だけを考えていましたが,大集団では遺伝的浮動の効果が減少するので,有利な変異はより確実に固定することが理論的に示されています.

2007/7/18追記

http://www.nature.com/nature/journal/v447/n7147/full/447918a.html
有胎盤類の共通祖先が今までの予想よりずっと最近ではないかという化石証拠が見つかったという論文です.あまりにも従来のデータと離れているので再考が必要かもしれませんが,爆発的な拡散を示す興味深い示唆です.

2007/7/19追記

http://mbe.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/msm094v1

Rates of Genome Evolution and Branching Order from Whole Genome Analysis
別のグループの論文.こちらは霊長類に近いのは食肉類という結果.