2007年10月29日月曜日

論文取り下げについて

http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2007061647266

実際の記事は読んでいないですが,サイエンスの論文を取り下げた教授の反論コメントです.

ひとつ間違っているのは,不十分なデータから強引に結論を出すことと,そのあと裏が取れる実験ができたことは別のことです.論文とは,正確性の高いデータからどのように妥当な結論を導き出すかという過程を問われるものであって,その結論が真であるかどうかについての責任はありません.完全な真実などわかるわけがないのですから.

もし間違ったことを言っているのがわかった論文をすべて取り下げなければいけないとしたら,歴史的な過去の論文の多くも取り下げられなければいけないでしょう.100年後に正しいと認められた論文は歴史に残りますが,100年後になってみると間違っていた論文など星の数ほどもあります.

実際に結論が真実であるかどうかは別として,その過程に問題があると指摘されているのですから,問題は論文の中にこそあるのでしょう.捏造に対しては著者がすべての責任を負うでしょうけれども,ずさんなデータを通したのは雑誌サイドの責任も含まれていると思います.

2007年10月21日日曜日

ワトソンの人種差別発言

Watson Loses Cold Spring Harbor Post

人種差別発現が問題になったワトソン博士がコールドスプリングハーバーでの役職を失いました.偉い人は発言に気をつけなければいけません.

人種で能力に差があるかー特に知能についてーはタブー視されている問題でもあります.人種によって様々な生物学的特長が違う,これは事実です.ただし,人種は人が思うほど完全に分かれているわけではないので一般論にはなりません.

僕はこの手の議論は嫌いなのですが,二点だけ

1) 知能の厳密な定義はできない
ある問題を解く能力の優劣は決められますが,それぞれに重み付けして総合点を出すことは不可能です.ボクサーとプロレスラーのどちらが強いかを比べるようなものです.例えばDSの脳トレーニングみたいに動体視力が重要なテストが入るなら,一般的に賢いと呼ばれる人が高得点を取れるとは限りません.アフリカ人の知能が低いのというのは印象であって科学的事実にはなりません.

2) 誰かが馬鹿だと証明するものほどつまらない仕事は無い
これは自分の研究のスタンスです.研究は楽しく行いたいものです.

2007年10月18日木曜日

ネアンデルタール人はもっと東にもいた

Neanderthals in central Asia and Siberia

南シベリアや中央アジアから出土した骨がネアンデルタール人である証拠が得られ,彼らが住んでいたと思われる地域が広がった,という内容の論文です.

結論はともかく,面白いのは方法です.これまでの研究ではネアンデルタール人であるという形態的な特徴を持つ骨からDNAを抽出し,彼らが現代人とどのような関係にあるかが議論されてきました.ところがこの論文は断片的なために形態からネアンデルタール人と断定できない骨からミトコンドリアDNAを増幅し,ネアンデルタール人であることを示しました.

面白い発想ですが,前提(ネアンデルタール人と現生人類の間に交雑は無かった)の上に成り立っている話なので注意が必要です.大変な仕事だろうと思いますが,古代のDNA解析が進むと色々新しいことがわかりそうで面白いですね.

2007年10月17日水曜日

発表行脚終了

8月あたりから色々と歩き回って発表行脚でしたが,先週末の北大を最後に一区切りしました.12月はまた忙しくなりますが11月は比較的のんびりできます.のんびりといってもデータ集めが大変なわけですが...

発表は手を変え品を変え,普段講義などが無いポストなので人前で話すときの手の抜き加減がイマイチわかりません.おかげで発表が終わって飲みに行ったりするとクタクタです.

夏から話してきたネタはとりあえずこれで一段落かと思います.続きの部分の論文も書きたいのですが,とりあえず現状では不満なのでしばらくお蔵入りです.いわゆる一般的な分子生物学の研究というのはひとつテーマを見つけたらとことん発展させていくという形が多いと思いますが,僕の研究内容はわりと単発の論文が多いんですよね.ひとつ結論を出したらまた別のことを考えてというように,わりとフラフラとテーマが変わっていきます.本人は共通のテーマを扱っていると思っているのですが.周りから見ると節操が無く映るかもしれません.

夏ごろ書いたヒトーチンプ脳間での遺伝子発現差に関するレビューの原稿がアクセプトされました.レビューとはいえ査読があったので一安心です.マイナーな媒体ですが,英語でレビューは初めての仕事だったので気合いを入れて書きました.教科書に載っているようなことはともかく,いまだはっきりとした結論が出ていない題材は偏り無く書くのが難しいですね.今まで出ているレビュー記事は実際に実験を行ったグループのものが多かったので,第三者の立場のものとして面白いのではないでしょうか.

2007年10月9日火曜日

2007年ノーベル生理学医学賞

今年のノーベル賞はES細胞とのこと.特定の遺伝子のノックアウトマウスを作ることにより,哺乳類での遺伝子機能が詳しく調べられるようになりました.

生物学者ならノーベル賞についてはもっと注目していいのかもしれませんが,僕は過去の受賞者とかもあまりよく知らないんですよね.内容は知っていても誰が研究したのとかはサッパリです.この賞のポイントはノーベル生理学医学賞であって純粋な生物学賞ではないこと.より医学に役立った研究でないと評価されないのでしょう.

進化の分野では日本が出している国際生物学賞やイタリア・スイスのバルザン賞なんかが有名かと思います.

ノーベル賞は無理なので,イグ・ノーベル賞でも目指してみましょうか.こちらも最近はすっかり有名になってしまったので意外と競争が厳しそうです.

2007年10月7日日曜日

Junkからの遺伝子

NatureのJournal Clubからのパクリです.

Novel genes derived from noncoding DNA in Drosophila melanogaster are frequently X-linked and exhibit testis-biased expression

一般的な遺伝子進化のシナリオは,もともとあった遺伝子が遺伝子単位またはエキソン単位で重複したり移動をしたりすることによって新しい遺伝子が誕生するというものであります.つまり,遺伝子は突然生まれるものではなく,もともとあったパーツの組み合わせであり,起源をさかのぼると遺伝子の重複によって生まれたのであろうという考えです.このアイデアを広めたのは(起源はもっと古いですが)日本人の大野乾先生であります.

何故この考え方が重要かというと,進化は漸進的に起きるというダーウィンの考えにピタリと当てはまるからです.ある日突然新しい遺伝子が生まれるよりも,今ある遺伝子のコピー数が増え,それを改良して使うほうがより妥当であると考えられます.増えたほうの片方のコピーはもとの機能を保ち,もう一方のコピーが新しい機能や発現パターンを持つことにより,遺伝子の分業が効率的に進むと考えられます.

ところが,上にあげた研究ではショウジョウバエのゲノム中から,遺伝子をコードしていない配列から遺伝子配列が生まれてきた例を示しています.このシステムが生物学的にどれだけ重要な役割を持っているのかは定かではありませんが,無から有を生み出すような遺伝子進化も確かに存在するということになります.

最近の研究成果では遺伝子をコードしていない領域の多くが転写され,non-coding RNAとして機能するポテンシャルを秘めているとも言われていますが,遺伝子をコードしていない部分は一般的にはJunk DNAと呼ばれています.

ガラクタ(Junk)から偶然に遺伝子が生まれる.この例はややもするとガラクタの山からジェット旅客機が出来上がるといった進化のよもやま話につながると思うかもしれませんが,実際には全く違うレベルの話であると思います.ここで出来上がっているのはあくまでも一つの遺伝子であり,機械でいうと一つのネジにしか過ぎません.

スロットマシンを回して一度の回転で7が並ぶ確率はとても低いものですが,10,000人くらい同時に回せば一人くらいは777が揃いますが,全員一度に777が揃うことは限られた時間では難しいでしょう.一つの遺伝子が作られるのと,全部の遺伝子が一度につくられるのとでは天と地ほどの差があります.

また,このような例は明らかに遺伝子重複による遺伝子進化に比べればマイナーなものでしょう.ショウジョウバエは遺伝子重複が少ない生物ですが,それでも百以上の遺伝子が数百万年の間に遺伝子重複によって生まれています.

2007年10月1日月曜日

二日酔いにご用心

4-week headache after 60 pints of beer

Lancet誌は医学系では一流紙ですね.IF28.5.これは症例報告です.

1パイントは約473ml,ジョッキ60杯で一ヶ月の二日酔い(?)ということになります.