PLoS Geneticsの記事です.最近のNature Geneticsは所謂人類遺伝学的な疾患原因遺伝子の同定に関する論文に偏っている印象を受けます.確かに医学として人類の健康に役立つというインパクトは強いのですが,もっと生命現象に直結した遺伝学の論文の方がインテレクチュアルで僕の好みです.そういった意味ではPLoS Geneticsには良い論文が集まっていると思います.
表題の論文ですが,少しマイナーながら現在研究している事柄と近いのと,自分の論文を引用してくれていたので紹介します.シロイヌナズナ(A. thaliana)の近縁種でA.halleriとA.lyrataという種がいるのは前にも紹介しましたが,ヨーロッパで生息域が重なっているこの二種のDNAについてmulti-locus解析をしたというものです.
その結果,ゲノムのバックグラウンドでは両者には遺伝子交流はほとんど見られなかったが,自家不和合にかかわる座位では両者に共通に見られるアリルが多かったとのことです.自家不和合にかかわる遺伝子のアリルはMHCとも近い感じで,多くのアリルが集団内にあることが有利になります.したがって,遺伝子交流が有利になるような状況では,たとえバックグラウンドの遺伝子交流の確率が低くても,一度多種に移ったアリルが反対の種で有利になる選択圧がかかるので,結果としては種間で共通のアリルを多くもつようになります.
同じようなことをヒトとヒトの古代種の間で起こったと言っているのが,別のグループの論文であります(過去の記事).この場合は,種間を超えた遺伝子が,急速に他種で広まるというのを仮定しています.
先日の遺伝学会で僕が話させていただいたのは,「遺伝子交流があると,環境に適応した遺伝子は種間の壁を越えられずに高い種差を持つ」というものでした.隔離がゲノム全体に働くと,種を超えるアリルが自然選択の証拠となり,遺伝子交流がゲノム全体に働くと,種を超えらないアリルが自然選択の証拠になる.裏表のような話だと思います.