2011年5月23日月曜日

本棚:生命とは何か (2)

先日に続き同じタイトルの本ですが,こちらは東大の金子先生の本です.物理をバックグラウンドに持つ研究者はこのような問いを常に持っているのでしょう(もちろん僕も持っていますが,研究対象にはしていません).

複雑系から生命現象を理解するというのが目的で,主に著者らのグループが行ってきた研究の紹介と,今後それを発展させるための実験の提案から成りますが,ものすごくクリエイティブな内容であると思います.集団遺伝学はある程度下敷きとなるものが豊富にある分野ですが,この本の内容は熱力学や統計力学を土台にした新しいアプローチで生命現象に迫っています.

表現型のノイズやロバストネスについては最近色々と考える機会があったのですが,色々と勉強していくうちになんとなく自分の考えが固まりつつあります.

ロバストネス(攪乱に対するシステムの頑強性),つまり無用の用がどうやって進化したかというのはなかなか難しい問題です.環境や突然変異に対するロバストネスが重要という単純な意見は良く議論されるのですが,ロバストネスが確立される過程と,あとになって役に立つ時との時間的な差が進化性を考える場合のネックとなります.結局,すべてパラメータ次第という話になって,実際にそうだったかどうなのかというのは僕には判断がつきかねていました.

ただ,この本のテーマの一つでもありますが,物理法則に由来する表現型が個体単位でそもそも揺らいでいるものならば,そういったものに対するロバストネスは,即時に個体の利益になるはずであり,進化によって確立される可能性は十分にあると考えられます.こちらの考えの方が僕にはすっきりと受け入れることができました*.

非常に興味深い本でしたが敢えて物足りなかった点を挙げると,僕のような門外漢がこのような分野をざっと眺めるには,著者及び日本人の研究内容の紹介にかなり偏っていた印象があります.もしかすると日本が圧倒的に突っ走っている分野なのかもしれませんが.





2011/5/30追記

*内在的な要因に対するロバストネスが先で,環境に対するロバストネスはバイプロダクト(副産物)だということ.ただしこれも時間的なスケールの程度に依りますが.