今まであまり深く考えていなかったのですが,ベイズファクター,というよりベイズ的考え方についての記事です.
とある研究者グループがすでにパブリッシュした超能力(ESP,ここでは予知能力のようなもの)の存在を肯定する論文データの再解析をしたというものです(PubMed).一つの実験結果だけでなく,他の実験結果も考えてベイズファクターを計算したというもので,元の結果ほどESPの存在を支持しなかったのですが,ここでのベイズファクターの解釈が面白いです.
ベイズファクターとは周辺尤度の比くらいにしか考えていなかったのですが,ベイズ的な考えだと,その比の解釈も解釈する人によって変化するということ(と僕は解釈していますが)ということがポイントのようです.この再解析ではベイズファクター=40という結構高い値が出ています.どちらのモデルも同じくらい起こりやすい(事前情報がない)とすると, 40という値は,確率が高い方のモデル,ここでは予知能力の存在,を支持します.
じゃあ,ESPは存在するのかという話になります.細かい話がSpringerのNewsに載っていますが,ベイズファクター40というのはESPがあるというのを40倍高く信じさせるという意味でとらえられるべきだということです.そもそもメカニズムが現在全くわかっていない力なのですから,もともとESPを信じている人にとっては確信をますます高める結果でありますが,完全に疑ってかかっている人,例えばそんな確率は100万分の1(ESPなしの方を100万倍信じている)だと思っている人にとっては100万分の1が2万5千分の1になるだけの効果だろうということです.
何度考えてもベイジアンの考えは僕にとってモヤモヤしているところがありますが,何となく言っていることはあっているのではないかと思います.少なくとも数学的には正しいでしょう.
と,ここで思ったのですが,進化研究のような「推測するしかない」分野では,ベイズ的な考え方はもっと大きな意味を持つのでしょうか.例えばわれわれの分野では,遺伝子に正の自然選択がかかったかどうかというような検定を行いますが,これに対する見方は研究者の間でも意見が分かれています.その時の事前の知識はどうやって評価するのでしょうか.
更に,もしある確率が0%であるという超頑固者がいたらどうなるのでしょうか.数学の世界でなく,自然科学の世界で確率0%というのはあり得ないので無視できるのかもしれませんが, いくらベイズファクターが高くてもそういった人が信頼側に傾くのは不可能なのでしょう.