2007年4月15日日曜日

盆と正月、タマゴとニワトリ

論文のアクセプトと研究費の内定が同時にやってきました。最近色々と大変だったので嬉しい限り。
研究者にとっては盆と正月が一度にやってきた感じです。

一般的には、研究費が無いと論文が書けないし、論文が無いと研究費は取れません。

では、研究費が先なのか?論文が先なのか?

なんか、「タマゴが先かニワトリが先か?」の話に似ていますね。

さて、生物学的にはタマゴとニワトリはどちらが先でしょうか?
進化生物学的な見地から書いてみましょう。

生物に起こる突然変異は、生殖細胞(卵細胞や精細胞)に起こったもののみ次の世代に伝えられます。哺乳類の胎児では、すでに始原生殖細胞が分化しています。つまり、妊婦の腹の中には既に将来孫になる予定の細胞が既にできているのです。

仮に、タマゴでは無いものからニワトリが成長したとしましょう。

これは、「ニワトリのタマゴで無いもの」に起こった変化により、ニワトリを生み出します。環境が要因かもしれませんし、体細胞の突然変異かもしれません。しかし、そのような変化は次世代には伝わりません。なぜなら、生殖細胞に起こった変化のみが遺伝的に次世代に伝わるという事実があるからです。

反対に、「ニワトリで無いもの」の生殖細胞に起こった突然変異は、ニワトリのタマゴを産みだしえます。これは簡単には想像できませんが、上の仮説が理論上おかしいなら、こちらが成り立つと考えざるを得ません。最近の定説では、鳥類は恐竜から派生したと言われています。つまり、「ニワトリっぽい鳥の生殖細胞に起こった突然変異がニワトリのタマゴを産んだ」、となります。

というわけで、進化生物学的にはタマゴが先という結論が導けます。

ただし、この場合は「(ニワトリの)タマゴが先か?ニワトリが先か?」という質問の答えです。

より広義に考えてみましょう。

殻がついているタマゴであろうが、それ以外の原始的なタマゴであろうが、タマゴという存在は進化学上、鳥類の存在より遥か昔に存在しています。殻のついたタマゴなら爬虫類がすでに持っていたと考えられますし、殻が無いタマゴは既に両生類や魚類が持っています。つまり、この場合もタマゴが先です。

さて、最初の論文と研究費の話に戻ります。

実際のところ、研究費が無くても論文は書けますし、論文が無くても研究費は獲得できます。したがって前の話のように単純には結論を出せません。ただし、「研究費を取って論文を書く、その成果を用いて次の研究費をとる」、このサイクルが上手く回っている人こそ、優秀な研究者としてサバイバルできるのでしょう。ただし、論文を書くことからサイクルに乗っても良いですし、研究費を取ってからサイクルに乗ることもできます。七転び八起き。

精進したいところです。

2007/7/17追記

もう少し考えて見ました.穴が無いか心配です.

「ニワトリのタマゴでないもの」が発生を始める前に突然変異が起こり,ニワトリになったとしましょう.この場合,生殖細胞が分化する前にそのもとになる細胞に突然変異が起これば,その変異は伝わります.

しかし、この変異は「ニワトリでないもの」の胚に起こった変異が「ニワトリ」を生み出しているのです.タマゴの殻を見てみましょう.これは間違いなく「ニワトリでないもの」のタマゴの殻です.

さて,ここでジレンマがあります.ニワトリでないもののタマゴの殻に入ったニワトリの胚,果たしてこれをニワトリのタマゴと呼ぶのでしょうか.

こう考えて見ましょう.ガチョウのタマゴに穴を開けて中身を抜き取ります.中にニワトリのタマゴの黄身を入れてフタをします.これはガチョウのタマゴか,ニワトリのタマゴか.

正確に言うと「ガチョウのタマゴの殻に入ったニワトリ」なのですが,ほとんどの人はニワトリのタマゴと答えるのではないでしょうか.そもそもこの段階ではタマゴの殻から出すということは個体の死を意味します.つまりタマゴの殻と中身をわけて考えることはできません.死んでしまえば子孫は残しませんから,次の世代にはその変異は伝わりません.過去にそういったことがあっても現在の我々は観察することができませんから,進化失敗です.

と,長くなりましたがやはりニワトリのタマゴが先ということで証明終わり.

2007/7/18追記

と,昨日寝ている間に考えたのですが,ガチョウのタマゴの殻を破ってニワトリのヒヨコが出てきたら,ガチョウのタマゴからニワトリが生まれた,ように見えるかもしれません.

というわけで更に考察します.

細胞がキメラになっている生物のアイデンティティはどうなっているのでしょう.深く考えると哲学的にハマりますので,半数より多くの細胞がニワトリの細胞なら,その生物はニワトリと定義しましょう.

つまり,受精卵が最初の細胞分裂を起こす前,もしくは最初の細胞分裂のためのDNA合成期に突然変異ができたときは,その後の個体はニワトリと呼べるかもしれませんが,それ以降に起こった突然変異によってニワトリにはなりません.突然変異の多くは細胞分裂の際に起こります.その後,細胞が生殖細胞になるまでは無数の細胞分裂を繰り返します.つまり,発生に従う突然変異率は一定とすると,ニワトリのものでないタマゴからニワトリが生まれてくる確率のニワトリがニワトリでないもののタマゴを産む確率に対する相対確率は,1÷(生殖細胞ができるまでの細胞分裂回数)になるでしょう.したがって,ニワトリが先というモデルの確率は限りなく低くなります.