2007年5月16日水曜日

単一遺伝子の頻度依存型選択による行動の多型の維持・2

ショウジョウバエのforaging遺伝子には自然集団で二つの対立遺伝子、RアリルとSアリルが知られています。Rアリルを持つ幼虫はSアリルを持つ幼虫より餌を探してよく動き回ります。foraging遺伝子の正体はとあるリン酸化酵素のようです。

Sokolowskiのグループは、この二つの遺伝子型を持つ系統を色々な割合で混合し栄養不足の状態で飼うと、お互いに最初の頻度が低いときほど生き残る率が高いということを示しました。片方にGFPを遺伝子導入して、遺伝子型の違いが目で見てわかるようにデザインされています。高栄養条件ではこのような違いは見られませんでした。自分(遺伝子型)の頻度が低いほど適応度が高くなるので、負の頻度依存型選択と呼ばれます。

二つの系統は遺伝型のバックグラウンドが違うので、foraging以外の遺伝子が関わっている可能性があります。これを反証するために、片方のタイプのforaging遺伝子だけを別のタイプに置き換えても、同じような傾向が観察されました。

この論文では、単一の遺伝子によって行動が変化し、更に頻度依存的に選択圧が変わるということが遺伝学的に示されています。自然状態では栄養条件は悪いほうにあると考えられるので、このような行動の多型(戦略)が自然集団に維持されていることの説明になります。その場に居座っている個体が多いと、それを出し抜いて動き回る行動のほうが有利になり、逆にみんなが動き回って食べ物を探している状態では無駄な競争を避けて、我慢して動かずに餌を食べるという戦略が理にかなっています。二つの行動の割合は環境が一定である限りどこかの値に落ち着くでしょう。このような遺伝子はこれからもたくさん見つかってくるのではないでしょうか。