Order in Spontaneous Behavior
Alexander Maye, Chih-hao Hsieh, George Sugihara, Björn Brembs
なかなかセンセーショナルなニュースタイトルなので目にした方も多いと思いますが、幾つか但し書きを。内容は、目隠しをしたハエが非ノイズ的な行動パターンをしたという実験結果です。それが何故自発的意志を示唆するのでしょうか。
まず、この論文が掲載されたジャーナルについて少し説明をします。PLoS ONEというジャーナルです。PLoSシリーズはアメリカの学者が先頭になって作ったジャーナルで、「オープンアクセス」と「オンライン」が合言葉になっています(実際は紙媒体もありますが)。つまり、「タダ」で「インターネット」で読める雑誌ということです。NatureやScienceなどの一流科学雑誌は商業誌ですが、これらに対抗したものと考えても良いかと思います。
その中でもPLoS ONEは最近できた変わり者で、査読は必要最小限(技術的な評価のみ)にして、あとの論文の評判は、オンラインでつけるコメントによって決めていこうというものです。このアイデアはこれまでの、査読審査->論文掲載=研究の評価、というともすれば権威主義になりやすい評価機構ではなく、新しい発見をしたらとにかくウェブでオープンにして、そのあとで評価を決めましょうというものです。最近の記憶では、ポアンカレ予想をしたロシアの数学者の論文は科学論文雑誌ではなく、インターネットで公表されたものでしたが、後に評判を得て信頼性が評価されました。こういったプロセスを目指しているのでしょう。
というわけで、この雑誌に載ったからといってそれが科学権威によってお墨付きを与えられたものではないということは注意すべきです。
さて、問題の自発的意志ですが、著者のブログによると、論文では一言もこの言葉は使われていないのですが、アメリカのマスコミからはこの言葉(free will)を使っても良いかという問い合わせがあったようで、本人はそれを許可したようです。前もって言葉の使用について著者に断るというところはアメリカのマスコミの誠意ある行動と言えるのではないでしょうか。
僕は、非ノイズ的な行動パターン=自由意志というところが勉強不足で理解できないのでコメントは避けますが、一見ランダムに見える複雑な行動の中にパターン性を見出すという方法論では面白いところがある論文だと思います。単なるノイズなのか、それとも意味があるパターンなのか、ともすれば宇宙からの電波を拾って宇宙人からのメッセージを解読するような研究になってしまいそうですが、生物の研究も近いうちにこの問題を深刻に考えなければいけなくなると思います。
兎に角、上記のジャーナルサイトでは査読者のコメントも見ることができるので、こういった賛否両論な論文でこのジャーナルシステムがどう機能するかが楽しみなところであります。