2011年3月21日月曜日

リスクと確率

原発の事故に対応して,多くのニュースが放射線の生物に与える影響について解説しています.ちなみに僕は放射線取扱主任者の第一種免許を持っていますが,原発についての知識はあまりなかったので(随分前に,結局は蒸気で発電していると聞いて随分原始的だなと思った記憶はありますが),今回の事故で改めて原発というものについて考える機会を持つことができました.

この問題で難しいのは,放射線の影響の多くは確率的影響だということです.臨界事故などで 一度に大量の放射線を浴びれば,放射線を浴びた人にはほぼ確実に健康被害が出ます.それに比べて確率的影響というのは発癌のリスクが浴びた量にしたがって上がるというものです.また,ある人が後々に癌になった時に,それが放射線の影響だったのか,それともそうでなかったかの区別は本質的につきません.ヘビースモーカーが肺癌にならなからかったといって,タバコが体に悪くないという証明にはならないのも癌という病気がそもそも確率的に起こるものであるからです.

もちろん,リスク上昇がかなり高い場合は迷わず避難・防御行動をとった方が良いでしょう.しかし,リスクが比較的低い場合はそれぞれの人に判断が求められます.また,個人のリスクは少なくても公衆全体でみてみると無視できないリスクがある場合もあります.

例えば,隕石が降ってくるかもしれないので外を歩かないとか,交通事故が怖いので一生自動車に乗らないという人がいたら周りから笑われるかもしれませんが,肺がんになりたくないのでたばこを吸わないとか,肥満を防ぐために高カロリーの食事を控えるというのは社会では一般的な考えです.どこかにこういったリスクの一覧表があると便利なのかもしれませんが,われわれは普段からこういったすべての数値についての知識はないわけですから,個人の経験と感覚で判断します.実験動物のデータでは,あまりカロリーを取らずおとなしく生きることが寿命を延ばすことが証明されていますが,じゃあそういう生き方がいいかどうかというのはまた別の話です.

ある程度の量の放射線が体に与える影響については,完全ではないにしろ統計がとられているので,どれくらいの被ばくによりどれくらいの確率でわれわれの寿命が縮むかということがわかっています.現在報告されているレベルの放射線量は,それよりも相当低いレベルですから,東京に住んでいる人が放射線を恐れて家の中でカップラーメンばかり食べていたら,そちらの方が寿命を縮めているという皮肉なことになるかもしれません.

僕自身はリスクにはあまり頓着しないおおざっぱなタイプです.程度の差こそあれ,人間は誰でも寿命を縮めながら生きているからです.何もしなくて寝ているだけでも,寿命は一秒ずつ少なくなっていきます.ただ,まったく頓着しないというのではなく,常にある程度のリスクのイメージを持っていることは,間違いなく将来のリスクを減らす行動であると思います.