2008年2月21日木曜日

ヨーロッパ人集団ではアフリカ人集団に比べて有害な遺伝的変異の割合が高い

Proportionally more deleterious genetic variation in European than in African populations

タイトルはNature Japanの訳です.

ヨーロッパ由来のアメリカ人とアフリカ由来のアメリカ人のSNPパターンを調べたところ,ヨーロッパ由来の集団にはアミノ酸の機能を大きく変え,有害だと思われる多型をホモ接合で持つ割合が多かった.また,集団特異的なSNPを見ると,ヨーロッパ由来の集団で有意に非同義置換が多かった.という内容です.

非同義置換のうち,タンパク質の機能を大きく変えそうなものをさらに取り出してくると,調べられた人々では平均426個の変異をヘテロで持ち,92個をホモの状態で持っているとのことです.調べた遺伝子は1万個なので,遺伝子の総数が2万だとすると,およそ1000個の有害な変異をヒトは持っていることになります.これらの変異の中にはタンパク質の機能を良くするものも一部あるでしょう.

有害な多型が多いのは,おそらくヨーロッパ集団の集団サイズが小さくなったボトルネックの効果であろうと著者グループは考えています.

タイトルだけみるとヨーロッパ人はアフリカ人より遺伝的に劣っているというような印象を受けますが,この論文で言わんとしていることはそういうことではなく,人口の増加やボトルネックなど集団の歴史により有害な突然変異が集団中から除かれる効率が変わってくることをゲノムレベルで示しているにすぎません.人類でも移住した小集団で有害な表現型が現れることはよく知られています.単に近親婚によりホモ接合の確率が高くなるだけではなく,遺伝的浮動によりやや有害な突然変異が集団中に広まってしまうこともひとつの原因であるでしょう.

前の中立説のエントリーとも重なりますが,ここでの有害な突然変異とは,ほぼ中立説のやや有害な突然変異に当たります.