2007年7月20日金曜日

マッチョ犬の遺伝子変化

自然選択よりも強い選択に人為選択があげられます.ダーウィンは,人工的に選択された品種が変種と同レベルの特徴的な形質を示すのなら,それが自然による選択まで延長して,自然界に見られる種の多様性を自然選択で説明しようとしました.人為選択が如何に強いのかを知るのに一番身近な例はイヌの品種でしょう.チャウチャウとチワワは自然には交配できないですから,ヒトによっては別種と定義するかもしれません.あれだけの多様で特殊な形態を生み出したのはヒトによる選択に他なりません.

A Mutation in the Myostatin Gene Increases Muscle Mass and Enhances Racing Performance in Heterozygote DogsMosher et al. PLoS Genetics.
http://genetics.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1371/journal.pgen.0030079.eor

イヌのウィペット種というのがあって,グレイハウンドに近く早く走るのが得意なイヌだそうです.その中でもBullyタイプというマッチョなイヌがいます.このイヌに健康的な重大な問題は見られないのですが,多くは子供のうちに処分されてしまいます.そのイヌの遺伝子を調べたところ,MSTNという遺伝子にフレームシフトを起こす突然変異が見つかりました.これは筋肉の発生に関わる遺伝子です.実際にレースをさせると,この遺伝子の片方に欠損があるタイプが有意に速いという結果がでました.ホモで変異を持ってしまうと,ムキムキになりすぎてレースどころではないのでしょう.面白いことに,同じような変化がウシやヒツジで見つかっています.これらは独立に選択されてきたようです.マスチフなんかの別の大型犬にはこの突然変異は見つからなかったそうです.

目的は別ですが,肉をたくさん取るためにウシを選択し,速く走らせるためにイヌを選択した結果が同じ遺伝子に行きついたというのは面白い示唆を含んでいると思います.

少し前の論文ですが,実際の
Bully Whippetの写真を見て衝撃を受けたので紹介しました.ミスターオリバはこの遺伝子が欠損しているに違いません.