2007年7月26日木曜日

ミトコンドリア・イブについての誤解

ミトコンドリアは母系遺伝をします.受精卵の中にはミトコンドリアが詰まっていますが,精子のミトコンドリアは基本的には受精卵の中には入ってきません.したがって,子供は母親のミトコンドリアだけを受け継ぎます.さて,現代の人類のミトコンドリア配列を調べていくと,約15-30万年前のアフリカ系の女性にたどり着きます.この女性をミトコンドリア・イブと一般的に呼んでいます.

この現象を,「一人の女性を祖先として現生人類は誕生した」と誤解させるような解説も存在しますが,誤りなので解説したいと思います.WikiPediaにも同様の解説がありますが,これは自分なりの解説です.

先ず最初に,「祖先を持つ」ということと「祖先の遺伝子(ゲノム)を受け継ぐ」は必ずしも等価ではないということを知らなくてはなりません.

例えば,あなたの6世代前には64人の先祖がいたことになります.それではあなたのゲノムはその64人のゲノムを1/64ずつ均等に受け取っているかというと,そうではありません.生殖細胞ができるときに遺伝情報の半分が子孫に伝えられますが,そのときどの半分が伝えられるかはランダムです.具体的に言うと,あなたは遺伝子の片方を母親,片方を父親から受け継いでいますが,その二本の染色体はあなたの生殖細胞の生成過程で組みかえられてシャッフルされ,あなたの子供には片方だけが伝えられます.
子孫に伝えられなかった遺伝子は「絶滅」します.この絶滅とは遺伝子の絶滅であり,家系の断絶ではありません.

したがって,64人の祖先のうち,ある人の遺伝情報を20%受け継いでることもあるかもしれないし,まったく遺伝子を受け継いでいない可能性もあります(実際は組み替えはもっと高頻度に起こるのでそんなことはありませんが).全く遺伝子を受け継いでいないからといって,その人があなたの祖先ではないということはできません.

同じように考えると,「ミトコンドリアを次世代に伝える」ということと「子孫を残す」ことは等価ではありません.例えば,生まれた子供がすべて男の子だったらその母親のミトコンドリアは途絶えますが,子孫は残ります.こういった確率的な遺伝子頻度の変化は遺伝的浮動と呼ばれています.