2010年12月28日火曜日

2010年仕事納め

本日で2010年の仕事も終わりです.遺伝研に来て一年がたちましたが果たして仕事は順調に進んだのかどうか.

先日一年分のメモを整理していたら,色々と忘れかけていたことがたくさん書いてありました.何もやっていないというよりやったことをすっかり忘れているようです.

論文と締切間近のレビューはなんとか年内に投稿終了,さらに正月に読む論文と資料を大量に印刷.なんとか,すっきり一年を終わることができそうです.

本棚:知の欺瞞

所謂ポストモダン主義といわれる思想,学派が如何に適当に自然科学の概念を使っているかということを丁寧に解説している本です.進化学などは攻撃を受けることが多い立場なのですが,反対者がこういった立場をとってくることもしばしば見受けられます.

面白い本ですが,さすがに途中の部分は読むのがつかれます.何故ならこの本は引用がかなり多く,もともとまともな意味をなさないとわかっている難解な文章をかなりの分量読まなければいけないからです.難解であるが頑張って読めば意味が分かる文章を根気よく読むのは大切なことですが,意味がないとあらかじめ知らされているものを読むのは相当な苦痛です.

この本の攻撃対象はポストモダン主義ですが,「知の濫用」という面においては我々科学者も色々と考えなければいけないところがいくつかあると思います.難しいことを言っているようで何も言っていない文章,専門用語の濫用,アナロジーに基づいた厳密でない考察などは,大学の先生が書いた著作(多くは一般向けの本ですが)においても数多く見ることができます.

また,専門分野の論文にもナンセンスなものがかなり紛れ込んでいます.査読というプロセスがかなりのフィルタリング機能を持っているのは確かですが,ソーカルの例の通り,いい加減な論文が有名な雑誌に載ってしまうこともあります.どうやって本物と偽物を見抜くことができるのか,簡単な方法はなく,我々は常に自分で納得するまで読み込むか,ある程度は著者を信用して読み飛ばすのかについて葛藤し続けなければいけないのではないでしょうか.


2010年12月20日月曜日

本棚:偶然と必然

年末が近づいてきて忙しい日が続いています.どうせクリスマス休暇でしばらく編集者の机の上に放置されるのでしょうが,年内には投稿したい論文もあります.早く終わらせてすっきりと年を越したいものです.

先日読んだジャック・モノーの一般向け著書について紹介します.順序が逆になりますが,先日のカウフマンの本はかなりこのジャック・モノーの一般向けの本に関連した部分が見受けられます.カウフマンは偶然を強調することが嫌いだったようです.

偶然か必然かというのはなかなか難しい概念ですが,突然変異が偶然で起きることについては間違いなく,偶然であっても長い時間がたてば必然(P≒1)となりうるのかというのが議論になっているのでしょう.我々が観察できる生命の起源がひとつしか無ければその答えを決して知ることはできないのですが,個人的な考えとしてはその確率は天文学的に低いことはないのだろうと思います.ただし,その後の要素については偶然の要素が大きいのではないでしょうか.カウフマンのモデルはネットワークが進化をがんじがらめにしているイメージがありますが,実際の生物はもう少しいい加減に適応度の山を下りたり登ったりしているのだと思います.

今読むと少々古いところもありますが,基本的なところは色あせて無く,いかに生命機能を担うタンパク質の複雑な機能が進化しうるかということが筋道だてて説明されています.

後半の思考や思想の進化についての考察については判断が付きにくいこともありますが,読んでいて面白いことは間違いないです.ドーキンスのミームのようなアイデアを彼がすでに持っていることに気づきます.


2010年12月8日水曜日

複雑さの獲得

カウフマンの理論についてもう少し.

複雑な形態がどのように進化したのか,というのは進化学の長年の課題であり,かつ進化論を攻撃する一般的な常套句となっていると思います.

漸進的な進歩が,互いに制御しあっているシステムで発展しうるかどうか.彼の理論は,どのような条件下で複雑なものが自然選択によって生まれるかについて考察しているということができるでしょう.ただ,モデルというのは具体的なパラメータがわからないとどうしようもないので,何かしら測定可能なデータを使ってモデルの検証をしていく過程が必要であると思います.

本棚:自己組織化と進化の理論

最近は有名だけど読んでいなかった一般向けの本を何冊か読み進めています.

で,今回感想を書くのは,いわゆる複雑系の研究者であるカウフマンの代表的著作です.彼の仕事についてはNKモデルなんかは軽く勉強したことはありますが,まともに本を読んだことはありませんでした.

内容は一部哲学的ですが,非常にわかりやすくネットワーク理論の基本について説明してくれています.また,生物から文化に至るまでの彼の進化論的解釈は読み物としては面白いと思います.

ただ,彼の主張である自己組織化の進化における役割については今一つ理解できないところがあります.

彼は自己組織化の力が秩序を作り出しているといい,例えば自然界では水滴とかそういったものに形が表れているといいます.しかし,僕にとってはそれはやはり物理的な力でしかなく,進化を考える時に果たしてそれが重要なのかについては疑問が残ります.

例えば,水が無かったら生物が進化しなかったからというのを,「ダーウィン以来科学者は自然選択しか考えてこなかったが,自然選択だけではなく水が大事なのだ!」,と言っているだけのような気がするのです.たぶん彼の考えはもっと深いところにあるのは伝わり,なんとなく言いたいことはわかるのですが,なかなか判断が難しいところにあります.

生命の起源についての彼のモデルは,ありえないこともないが,本当かなという印象です.結局,生命の起源の研究というのは現在地球上に存在する生物を見ただけではサンプル数が1なので想像の域を出ないのではないかと思います.先日リンの代わりにヒ素を使う面白生物が見つかりましたが.DNAとは全く違う遺伝物質を持つ地球外生命体がいくつか見つからない限り,科学的な検証は難しいのではないかと思われます.


2010年12月7日火曜日

うぶんつ

今年はいつも参加している分子生物学会には参加しないことにしました.

僕のPC環境は基本的にWindowsで,必要であればCygwinでLinuxのプログラムを動かす程度だったのですが,必要に迫られてLinux環境を整えています.

学生のころにえらい時間をかけてLinuxをインストールした記憶がありますが,それに比べると随分楽になりました.Ubuntuを使ってみたのですが,ほとんど何もせずにセットアップが終わるという感じです.とはいえ色々といじらなければいけないところは出てきますが.

現在のところ,Win上でVMwareを使ってUbuntuを入れたのが1台,デュアルブートが1台です.いっそのこと環境をすべてMacに変えてしまえという誘惑もあるのですが,しばらくはこれで行く予定です.フォントの汚さを除けば特にWindows7に不満はないですし.

それにしても最近は研究発表でもMacが本当に多いです.

2010年11月25日木曜日

Toward Next Generation Studies of Biodiversity and Bioresources

2010/11/29に台湾成功大学からの研究者を招いて遺伝研にて研究集会を行います.皆様の参加をお待ちしております.

NIG Collaborative Research and Research Meeting: Toward Next Generation Studies of Biodiversity and Bioresources

Program

Date: 29, Nov, 2010, 13:30- (2010年11月29日(月)13:30~)
Place: NIG, Mishima, Library 3F (遺伝研図書館3Fセミナー室)

Chair: Tzen-Yuh Chiang and Naoki Osada

13:30-13:35: Opening remarks
Takashi Gojobori, National Institute of Genetics, Japan.

13:35-13:45: Introduction of NCKU
Hao-Jen Huang, National Chen-Kung University, Taiwan.

13:45-14:10: Genetic analysis using multi-locus DNA sequence data for ecology and evolution research
Naoki Osada, National Institute of Genetics, Japan.

14:10-14:35: Back to nature: Evolutionary genomics of non-model, wild species in Asia
Tzen-Yuh Chiang, National Chen-Kung University, Taiwan.

14:35-15:00: Transcriptome analysis of age-related gain of callus formation capability in Arabidopsis hypocotyl explants
Hao-Jen Huang, National Chen-Kung University, Taiwan.

15:00-15:10 Break

15:10-15:35: DDBJ Sequence Read Archive and a cloud-computing based analytical pipeline
Eli Kaminuma, National Institute of Genetics, Japan.

15:35-16:00: Regulatory control of stress response genes in Saccharomyces cerevisiae
Huang-Mo Sung, National Chen-Kung University, Taiwan.

16:00-16:25: RNA-seq analysis of endogenous retrovirus elements in trophoblast cell during placental development in Bos taurus
So Nakagawa, National Institute of Genetics, Japan.

16:25-: Closing remarks and Open discussions
Naoki Osada, National Institute of Genetics, Japan.

2010年11月11日木曜日

最高のゲスト

現在遺伝研にHarverd大学のDaniel Hartl教授がいらっしゃっています.客員教授として10日ほど滞在する予定のようです.

素晴らしいゲストに会えるのは遺伝研にいることのメリットの一つです.更に今年はもう一人の客員教授としてAndrew Clark教授を迎えています.

この二人が同時に遺伝研に所属してくれることのすごさは専門外の方にはなかなか伝わらないかもしれません.研究をやっていない方には「松井とイチローがチームに入ってくれるようなものだ」とたとえると納得してくれましたが,まさしくそんな感じだと思います.

2010年11月5日金曜日

Evolutionary Divergence and Convergence, in Proteins

昔の論文はなかなか実際に読む機会がないのですが, 暇を見つけては目を通してみたりしています.

Zuckerkandl, E., Pauling, L. : Evolutionary divergence and convergence in proteins.
In: Evolving genes and proteins. V. Bryson, & H. J. Vogel eds., p. 97--166.
New York: Academic Press t 965.

少し調べたいことがあって読んでみたZuckerkandl&Paulingの古典的論文です.彼らは進化学者というよりは生化学者の視点からものを書いていますが,最初に分子時計(Molecular Clock)を提唱したことで有名です.

タンパク質の立体構造とか機能の面から考えて,なぜタンパク質を構成するアミノ酸は進化的に変化できるのか,その変化の速さにタンパク質ごとの違いはあるのか,など色々な考察をしています.70ページとかなり長い論文で,時に冗長なのでところどころ飛ばしながら読みましたが,定量的な議論はないものの,アミノ酸の置換パターンに注目してその変化の多くがほぼ中立的だとすでに考察しているところなどは面白いと思います.

2010年10月28日木曜日

WH比

Meta-analysis identifies 13 new loci associated with waist-hip ratio and reveals sexual dimorphism in the genetic basis of fat distribution
Nature Geneticsの論文です.

WH比と書くと難しく聞こえますが,ウエストとヒップの大きさの比についてのゲノムワイドアソシエーションスタディです.少しいやらしいことを想像していましたが,肥満の尺度としてこの値が使われているようです.

やはり男女の性差があるようなのが面白いところです.しかし,人類学的見地から言わせてもらうと,あまり医学に役立たなそうな表現型ももっとGWASで解析されると良いのになと思います.

2010年10月20日水曜日

Reproductive Success

何やら色々と忙しいのですが,子供が予定より早く生まれてしまいました.

さて,最近は少し植物の勉強もしているのですが,植物は二次代謝のおかげで人間には不可能なものを色々と作り出すことができます.今年のノーベル賞はカップリング反応でしたが,それに頼らず色々なものを作り出せるということはある意味我々よりも優れているのではないでしょうか.まあ,生き物に優劣をつける考え方自体間違っているのですが...

植物ではゲノム重複が簡単に起きてしまうのも複雑さを生み出す一つの原因になっているのかもしれません.何故簡単に倍数体ができてしまうかは,メチレーションの仕組みとか発生のシステムとかいろいろと原因があるのかもしれませんが,非常に興味深いところです.

2010年9月21日火曜日

2010年遺伝学会

ただ今札幌で行われている日本遺伝学会に参加中です.

最近は割と抽象的な研究(ナマのものを扱わない研究)を行っているので,実際に生物を扱っている研究を見ると色々と刺激を受けます.

2010年9月19日日曜日

ヒトの集団サイズ

先日は国際霊長類学会で少し話をさせていただきました.内容はヒトの集団サイズとそれにともなう進化の強さの変化について,そして現在進めている核-ミトコンドリア遺伝子間の新しい進化モデルについてでした.

他の霊長類と比べた時のヒトの特徴は色々とありますが,僕が一番重要視しているのは集団サイズです.ヒトの人口は現在約69億人ですが,それに比べるとヒトという種が持つ遺伝的多様性は驚くほど少なく,有効な集団サイズが約10,000程度と見積もられています.この値はチンパンジーやゴリラと比べても少なく,遠くない過去に集団サイズのボトルネックがあったのではないかと推測されています.現在の人口の増加はヒトが農耕文化を獲得してから爆発的に増えた結果で,高々数千年の歴史の結果です.したがって,まだヒトの遺伝的多様性に全体的な影響を及ぼすほどの効果はないようです.

ただ,ヒトが他の霊長類より集団サイズが小さいといっても,霊長類自体の集団サイズは他のほ乳類,特にげっ歯類のような小型の哺乳類に比べると小さいようです.僕が以前研究を行ったマカクでは,過去の集団サイズは30,000-50,000くらいです.それに比べて,最近発表された野生マウスのデータでは集団サイズは600,000くらいであると言われています.

では,霊長類,特にヒトがもつ少ない遺伝的多様性はどのような結果を引き起こすのでしょうか.60-70年代の集団遺伝学の理論的研究によって得られた一つの結論は,自然選択は集団サイズが大きい集団により効率よく働くというものです.これは直感的にも正しく,集団サイズが小さいと遺伝的浮動の効果が大きく,良い突然変異であっても偶然の結果集団から除かれたり,悪い突然変異が偶然によって集団中に広まったりします.また,集団サイズが大きいということはそれだけ集団に入ってくる突然変異の数が多いことになりますので,有利な変異が生まれる確率が上がるはずです.

実際にヒト,サル,マウスのそれぞれの系統で色々な遺伝子のアミノ酸配列を調べた研究がいくつかあります,それぞれの系統で蓄積したアミノ酸の変異の量を期待値で割ってあげると,ヒト>サル>マウスの順にアミノ酸配列の変化量が高くなっています.もちろん,ヒトの系統で正の自然選択が強くかかっていてヒトが特殊化したという説は考えられますし,否定もできませんが,より説得力のある説明としては,集団サイズが小さいヒトの系統では有害な変異にかかる淘汰が弱く,より多くの有害な変異が蓄積したというものがあげられます.これが太田朋子先生が提唱したほぼ中立説を支持するデータの一つです.

ヒトの集団にかかる淘汰圧が全体的に弱いと仮定した場合にどのようなことが予想されるでしょうか.現在までに多くのゲノム解析が行われてきました.その中で,ヒトをヒトと足らしめる遺伝的要因の発見というのは一つの大きなテーマになってきました.多くの研究は,正の自然選択によって起こった違いに注目します.実際に僕も学生の時にはヒトとサルの遺伝子を比べてどのような遺伝子が正の選択を受けたのかという研究を行っていました.どのような過程でわれわれは優れた方向に進化してきたのかというのは確かに重要なテーマです.おそらく数十,数百の遺伝子は正の自然選択を受けているでしょう.しかしそれ以外にも偶然の結果固定した中立な変異や有害な変異も存在するはずです.

僕が最近思っていることは,ヒトの特徴というのはこれらの変異すべてひっくるめて捉えないといけないのではないかということです.もちろんわれわれヒトが優れた形質を獲得したことも大事ですが,悪いものを獲得してしまったことも同じく大事だと思います.もちろん,どのような遺伝的機構によってその形質が獲得されたのかを区別することは重要ですが,そのどちらが重要かということを決めることは不可能だと思うのです.

また,変異が固定するかどうかは自然選択によって左右されますが,いったん固定してしまったものがそのあとどのようになるのかはまったくわかりません.例えば,霊長類のうち真猿類はビタミンC合成酵素が欠失しているのでビタミンCを合成できません.色々な理由が想像できますが,中立説で説明すると,ビタミン豊富な果実を主食にしていた霊長類はビタミンCが合成できなくても生存でそれほど不利にならず,欠損型の遺伝子が偶然によって集団に広まったと考えることができます.とはいえ,ビタミンC合成欠損というのは明らかな表現型です.過去の人類は十分なビタミンCを摂取できていたのでしょうか.今のわれわれがビタミンCを合成できたとすると,壊血病もなく,レモネードもオロナミンCもなかったはずです.反対に,過去は生存に有利であり集団中に広まった形質が,その後意味がなくなっている例もたくさんあると思います.

集団サイズと淘汰の話になると,ではなぜ集団サイズが小さいヒトや他の大型ほ乳類のような生物が複雑な体制と行動様式を持っているかという話になるかと思います.すでにいくつかの似たような説が提唱されていますが,僕はやはり集団サイズが小さいほど淘汰が弱くなり,適応の局所的な最適値を抜け出すことができるのではないかと思います.ライトの平衡遷移説は,分断された小集団で局所的ではない別の最適値への適応が起こり,それが大集団に広まっていくことを仮定していますが,われわれはすでに集団サイズの小さい種では多くの有害な変異が蓄積していることを知っていますから,分断された小集団ではなく,種レベルでそういったことが起こる可能性を考えることもできます.局所解を求めながらファインチューニングをしていく方法と,アドホックに大きなジャンプを繰り返していく方法と両方があり,生物種によって(おそらくライフサイクルと関連して)どちらかに偏った進化をしているのではないでしょうか.

2010年8月30日月曜日

ミトコンドリアを用いた生物多様性解析

ちょっと前になりますが,進化学会では,生物の多様性を解析する場合には一座位のみを用いた解析では偶然の結果によるバラつきが大きいので,解析する座位数を増やしましょうという話を簡単にさせていただきました.

要は,組み換えが起こらないと,遺伝子の系統の歴史というものは,ある条件で与えられたいくつもの可能な系統パターンの中のたった一つしか反映することができないということです.どのパターンが選ばれるかは過去の偶然によってきまり,今現在どのくらいの個体をサンプルするかには依存しません.サンプル数を増やしても,歴史のサンプル数はたったひとつだということです.この問題は,組み換えを起こしてそれぞれバラバラに継承されている領域を取り,歴史のサンプル数を増やすことによって克服できます.

この点に関してはいくつもの良いレビューがありますが,Ballard and Whitlockのレビューは分子生態学者向けに書かれているので読みやすいのではないかと思います.

もう一つミトコンドリアの解析で気にしなければいけないのは,ミトコンドリアにselective sweepがあるかどうかということでしょう.これは未だに議論の余地があるところですが,基本的なアイデアはGillespieのgenomic draftという,常にselective sweepが起こっていると仮定するモデルです.時間当たり一定の量のselective sweepが起こっていれば,集団サイズが大きいほどより頻繁にsweepが起こり,集団に入ってくる突然変異の量と打ち消しあって集団内の変異量が一定になるというモデルです.BazinらのScienceの論文が有名だと思います.

2010年8月20日金曜日

どうしても打ち間違えてしまう単語

何100回打ったかわからないはずなのですが,"reviewer"という単語を何度やってもミスタイプしてしまいます.スペルミスではなくて手が勝手に間違うようです.

よく考えると"i"と"o"もしばしば順番を間違えて打ってしまうので("statoin"のように)薬指と中指を交互に動かす時にうまくコントロールできていないようです.

試しに,"reviwew"でGoogle検索をしてみたら15,100件,"reviwer"で122,000件がヒットしました.みなさんやっていることは同じようです.

2010年8月11日水曜日

過去を知る

進化学会も無事に終わりました.

僕は割と仮説の検証の妥当性など細かいことを聞いてしまう癖があるので,クレーマーのような印象を与えてしまうかもしれませんが,基本的にはリスペクターです.ただ,どんなに面白い論文でも基本的なことに穴があると残念なので,気が付いたときは指摘することにしています.

最近は紹介できるような新しい論文は見つけていないのですが,いくつか古い論文を読んでいました.分子生物学の分野なら30年前の論文から得られることはあまりないかもしれませんが,進化の分野は古い論文の中にも新たな発見が色々とあります.方法論やデータはものすごい勢いで発展していますが,基本的なアイデアは昔からそれほど変わっていないのです.そこが遺伝学,進化学の醍醐味でしょうか.

2010年7月13日火曜日

2010年学会シーズン

学会シーズンも迫り,色々と忙しくなってきました.学会の準備もしつつ,秋までにはまとめたい仕事がいくつかあります.8月からはラボのメンバーも増えるので,少しは賑やかになりそうです.

今年度の秋は以下の三つに参加します.

8月:進化学会,9月:国際霊長類学会,遺伝学会

あと,11月の日本DNA多型学会のシンポジウムでも発表予定です.できるだけそれぞれ違う内容で話したいと思っています.

2010年7月5日月曜日

カニクウサル

昨晩のTV番組でシルバーリーフモンキーが尻尾でカニを釣って食べるという紹介がありました.結局その番組ではシルバーリーフモンキーはカニを食べず,サイノモルガスモンキーというのが本当のカニを釣るサルだというところで終わっていました.

サイノモルガスモンキー(cynomolgus monkey)というのはカニクイザル(crab-eating monkey)の別名で、いつもいろいろとお世話になっているサルです.他にもしっぽが長いことからlong-tailed monkeyとも呼ばれています.何故いろんな名前があるのかはよくわかりませんが,種内の多様性が高いのでもともと別の名前がついていたのだろうと勝手に想像しています.

僕は学生の時のボスがcynomolgusに拘っていたのでそのまま使い続けていますが,アメリカの研究者なんかはcrab-eatingと呼んでいる人が多いように感じます.ヒトによって呼び方が違うのは面倒なので,最近は学名を書いて済ませてしまっています.

で,このサルは名前の通りカニを食べるらしいのですが,尻尾で釣りをするというのは流石にないだろうというのを図鑑で読んだ記憶があります.本当だったら見てみたいところですが...

2010年6月28日月曜日

本棚:人類が消えた世界

今夜のテレビで「人類ZEROの未来!」という番組が放映されていましたが,たぶんそのネタ本です.

人類が突然居なくなったら 地球はどうなるかという想像の世界を描いた本ですが,実際には人類がこれまでどのように環境を変えてきたかということが話の中心になっています.

未来の予想なので科学的な検証が出来るたぐいのものではないのですが,割とまともなことを言っているし,読み物としては面白いかと思います.

2010年6月24日木曜日

インパクトファクター

今年はあまり注意を払っていませんでしたが,MBEの2008年インパクトファクターを見たら10点近くになっていて驚きました.ここ数年で倍になっていますね.

ジャーナルのクオリティ自体は変わっていないと思うので,研究者の層が厚くなったということでしょうか. 同分野の中での位置づけが変わることはないと思いますが,他分野と比べる時には少し張り合いが出るでしょう.

2010年6月21日月曜日

お出かけの予定

ブログのテンプレートがアップデートされていたので変えてみました.古いPCだとつらそうなデザインです.

8月からは学会シーズンとなりますが,今年は8月の進化学会,9月に国際霊長類学会,遺伝学会という順に参加する予定です.お客さんも色々と来る予定なので,暫くは忙しい日が続きそうです.

2010年6月8日火曜日

難産だったがそれもよし

ながいこと揉めていた論文がThe New Phytologistという雑誌にようやく通りました.植物学雑誌の中ではわりと有名なようで,生態から分子まで幅広く扱っています.

Multi-locus analysis of genetic divergence between outcrossing Arabidopsis species: evidence of genome-wide admixture
Wei-Kuang Wang, Chuan-Wen Ho, Kuo-Hsiang Hung, Kuo-Hsiung Wang, Chi-Chun Huang, Hitoshi Araki, Chi-Chuan Hwang, Naoki Osada, Tzen-Yuh Chiang.

内容は他家交配をするArabidopsisの種間交雑の遺伝子解析についてで,長らく台湾のグループと進めてきた共同研究です.使っていたサンプルが台湾にだけいる特別なものだと気付くのに時間がかかり,紆余曲折の末にまとまった感じです.

個人的なポイントとしては,マルチローカスデータから得られた遺伝子系統樹の分布が,種の系統樹と一致するかどうかのexactなテストを開発できたところがあります.Gene flowとincomeplete lineage sortingを分子データから区別するのは難しく,最近論文に書いたサルの雑種の問題のように,2種だけの単純なモデルでもたくさんのデータを使ってヘビーな計算をしなければなりません.種が多い場合にはこういった単純な方法の方が効果的だと思います.

最近の論文はequaly contributedとかco-corresponding authorとかが多く感じます.中国だったかの論文で,3人equal contributionで2人co-correspondingというのも見たことがあります.実はあまり節操がないので好きではないのですが,自分にオファーが来た場合は特に断る理由はありません.来るもの拒まずでco-corresponding authorとなっています.

また,今回の論文で密かな野望が達成されました.シカゴ大学に留学していた時には同じデパートメントに在籍した日本の方に色々とお世話になりました.現在はそれぞれバラバラに研究を続けていますが,分野は同じなので,たまに集まってお互いの研究を知らせ合っています.今回の論文で,3名それぞれと共著を持つことができました.持つべきものは仲間です.

一見不純な動機ですが,統計のBox-Cox検定もBoxさんとCoxさんがノリでコラボレーションしたということですから,そういったノリも案外馬鹿には出来ません.

2010年5月31日月曜日

年の単位

過去の生物の歴史を扱う学問では,100万年前などの表記を良く行います.今までMya(Million Years Ago)のような書き方をしていて怒られたことはないのですが,良く調べてみるとこの表記は最近ではあまり勧められていないようです.

正式にはSI単位系ではないのですが,特に地学ではこれに準じた表記が最近は好まれているようです.その場合.

ka ago = kya (1千年前)
Ma ago = mya (100万年前)
Ga ago = bya (10億年前)

となるとのことです.

2010年5月10日月曜日

顔写真入り

ケモカイン分子の進化についての総説を手伝わせていただきました.
なぜか末尾に著者の顔写真が入るのが少し照れくさいところです.ケモカインリガンド分子は医学分野ではとても重要な遺伝子群で,インターロイキンなどはとても有名な分子です.ところが,これらは種特異的に重複したり,欠失したり,遺伝子変換があったりで,マウスのどの遺伝子がヒトに対応するのかですら未だに混乱があります.

更に,進化的に同じ遺伝子のグループであっても,遺伝子(タンパク質)が見つかった経緯により,同じ遺伝子に複数の名前が付いていることも珍しくありません.

現在は色々な生物のゲノムがわかっていますから,これらのゲノムの対応関係を丁寧に見てあげることによって,遺伝子の進化的関係が良く分かるようになりました.遺伝子を系統関係にしたがって分類していくことはとても重要なことだと思います.僕は個々の遺伝子群についてのエキスパートではないのですが,専門の先生方と協力していくことによって少しでも混乱を収めるお手伝いができればと思っています.

2010年5月7日金曜日

勉強の時間

最近は色々と勉強することが多いのですが,その中でも単なる知識を増やすための勉強に使う時間と,仕組みを学ぶための勉強に使う時間をバランス良くとるように少し気を使っています.

知識を増やす勉強は楽しいですが,それにばかり時間を割いてしまうと単なる物知りで終わってしまいます.

反対に,ルールはいったん学んでしまえば後で色々と応用が利きます.しかし,具体的な知識がないとそのルールをどう応用するのかで行き詰ってしまうでしょう.

最近はインターネットの発達で,単なる知識を得る作業が非常に簡単になってきていますから,ため込んだ知識を有効に使うための方法を学ぶ方が重要であると感じています.

しかし,やはり自分の専門についてディープな話をスラスラと話ができるのは非常にかっこいいですし,このことならこの人に聞け,と思われるのは素敵なことだと思います.研究者として成熟するには,やはりバランスが必要なのでしょう.

自分としての答えはまだ出ていないのですが,最近は野菜ばかり食べてるからちょっと肉を食べるかくらいの軽い気持ちで意識するようにはしています.

2010年4月27日火曜日

マカク論文

長々とお蔵入りしていたマカクの論文がやっとMol. Ecol.誌に決まりました.

色々とあって難産でしたが,通って一安心です.先日別の論文を集中して直して再投稿したので,そちらもなんとか通ってほしいところですが...

とりあえずサルは一段落したので,今年からは植物を材料にしようと思っています.

2010年4月23日金曜日

ディスプレイの見過ぎなのか

読んでいると頭がくらくらしてくるもの.

・日本語の文書の中の全角英数字
・Centuryフォント

気になって気になってしょうがないのです.前までは全角英数字だけだったのですが,最近はCenturyが嫌いで仕方ありません.なぜ日本語のWordはディフォルトがCenturyなのでしょうか.

もちろんWindowsの明朝体とゴシックも気になりますが ,これは気にしたら生きていけないので我慢しています.

病気かもしれません.

2010年4月13日火曜日

サクラサク

最近,サンプルの記録を取るのにフラットヘッドスキャナを使えないかどうか考えていたので,サクラの花を試しに読んでみました.

なかなか鮮明に取れるようです.

2010年4月12日月曜日

“Positive” Results Increase Down the Hierarchy of the Sciences

ちょっと変わったPLoS ONEの論文です.

ハードサイエンスとかソフトサイエンスとかいう言葉は聞いたことがあるでしょうか.一般的に物理学などの歴史があり,理論体系がしっかりとしており,比較的再現性と客観性が高い分野がハードサイエンスと呼ばれ,心理学など人文系の分野がソフトサイエンスと呼ばれていると思います.生物学的には一般的に中間に位置すると皆さんは考えているようです.

ソフトサイエンスと言われるとなんだか馬鹿にされているような気分ですが,確かに一般的に天才というと理数系,特に物理系の人が目立ちます.実際にこの「科学の序列」は存在するのか,というのを調べてみたのがこの論文です.

これら分野の論文の中で仮説検証を行っているものを無作為に抽出し,有意な(正確に言うと帰無仮説の棄却がされた確率)が出た割合を比較してみたところ,実際に,社会学などでは高く物理学では低いということがわかりました.筆者らの結論は,これらの成熟していない領域では方法,データ,仮説などを比較的自由に設定できるので,無意識なうちに有意な結果が出やすいのだろうと推測しています.つまり科学界のヒエラルキーは存在するということです.

最初結果を見る前には,「ネガティブデータが出た時に論文を発表できるのは,いい加減な仮説が多い領域なのでは」と少し思っていたのですが,良く考えると,ある仮説が否定された後に,アドホックな仮説を思いついてそれについてテストをして当てはまったので発表する,というのは我々の分野でも良くあることだと思います.

残念なことに,進化の研究は,生物学の中でもソフトな分野だと思われることが多いです.特に,再現可能であるものを扱う研究だけが自然科学であるという間違った認識を持っている研究者は多いでしょう.進化の研究は歴史を扱うので必ずしも再現性はありませんが,れっきとした自然科学の分野の一つです.確かに,検証不可能な説や実験の結果がどちらにでも解釈できる論文はしばしば目にします.しかし,進化を扱う集団遺伝学は生物学の中でもハードな分野ですし,そもそも純粋な物理学に比べると生物学自体がソフトサイエンスといえるでしょうから,五十歩百歩なのかもしれません.

また,ソフトサイエンスというくくりであるから研究の価値が低いということはないでしょう.現在はまだ成熟していない領域であるということです.測定法や解析方法などの発展により,学問分野自体がどんどん成熟していくことが可能であると思います.もちろん,サイエンスとしてはよりハードな方向に研究を進めることが良いことは明白です.

我々もできる限り自分たちの研究がハードであるか,すなわち,データは客観的か,解析方法は正しいか,検証する仮説は適切か,他に検証すべき仮説は存在するのか,について注意を払う努力をするべきであると思います.そこを怠ると,いつまでもソフトサイエンスのレッテルが張られたままかもしれません.ハードかソフトかというものは相対的なものなので,研究者の努力によってその位置を変えることができるはずです.

で,この論文の皮肉なところは,この論文自体がいわゆる人文学系の研究だということでしょうか.筆者は工学系の方らしいですが,その仮説が正しいかどうかにはやはりバイアスがかかっているのかもしれません.

2010年4月5日月曜日

一般公開,科研費

新年度も始まり,先日遺伝研の一般公開がありました.ものすごい数の人が入れ替わり立ち替わり来てくれたので,一日じゅう立ちっぱなし喋りっぱなしでした.で,帰って体重を計ってみると1キロほど痩せていました.ひたすら喋るだけでも結構なカロリーを消費するようです.

大変だったのは,いきなり「遺伝についてこの子にわかりやすく教えてあげてほしい」といって小さな子を連れてこられた時でした.

「遺伝ってのは子供が親に似ること,でも親に似るかどうかは比べるものによって違うね.髪の毛の色はほとんど遺伝で決まるけど,勉強ができるかどうかは努力の割合が高い.遺伝子によって決められていることもあれば,決められていないこともあるので,子供のうちは親の言うことを聞いて将来の可能性を伸ばせるように頑張ってね.」

と,お坊さんのような説教をしてしまいました.小さい子供にあんまりきついことは言えません.

日にちが変わって,旧所属機関から科研費若手Aの内定通知が来ました.事業仕分けなんかで心配だったのですが,無事に通って一安心.昨年度はスカだったので,やっと取れたという感じです.今までやったことのない分野で大風呂敷を広げてしまったので,実現可能かどうか早くも心配になってきています.

2010年3月31日水曜日

The complete mitochondrial DNA genome of an unknown hominin from southern Siberia

シベリアのDenisovaという洞窟から見つかったおよそ4万年前の古人骨のミトコンドリアDNAを調べたところ,ネアンデルタール人よりもはるか昔,100万年ほど前に分かれた古人類だということが分かりました.つまり,北京原人などのホモ・エレクトゥスとネアンデルタール人の間に出アフリカを果たした古人類の生き残りであると言えます.

フロレス島で見つかった小人もかなり最近まで生きていたということを考えると,意外と最近まで古い人類は生き残っていたのかもしれません. そのうち野人や雪男を捕まえて,DNAを調べてみたいものです.

2010年3月29日月曜日

2009年年度薬学会

岡山で開催されている日本薬学会で,サルの遺伝的多様性をテーマに少し話をさせていただきました.進化的なバックグラウンドをちょっと知るだけでも,実際にサルを用いた研究を行う方には役に立つのではないかなと思います.

今まで参加したことのない大会ですが,規模の大きさに圧倒されます.町全体が学会場という感じです.

2010年3月23日火曜日

論文コピペ

レビューに回ってきた論文のイントロが自分の論文の丸写しだった場合,あなたならどうしますか?

しかも後で読み返して失敗したなと思った文章までそのまま使ってくれています.

まあ,引用してくれてるだけマシなわけですが...

2010年3月18日木曜日

投稿直前のチェック

改定したサルの論文の投稿をやっと終えました.長々と引っ張ってきた仕事なのでそろそろ奇麗に片付いてほしいところです.続きも色々やりたいんですが,現在の状況ではしばらくお預けになっています.誰か興味がある人がいれば引き継いでもらえるのですが.

で,最近の論文の投稿はほぼすべてオンラインで行われています.多くの場合はMSワードで書いたファイルを向こうのウェブサイトにアップロードしてPDFに変換されるのを待ちます.

最近では少なくなったとはいえ,PDFに変換する時のエラーもかなりの確率で起こります.なので,出来上がったPDFに細かく最終チェックを入れるのですが,チェックの時についつい細かいところを色々と直したくなってきてしまいます.

元のファイルをキッチリ直してアップロードを一発で済ませればいいのですが,細かく直して変換,また直して変換,とかなり効率の悪いことをやってしまっています.同じことをやってしまう人も多いのではないでしょうか.

こういった癖は,治そうと思っていてもなかなか治りません.

2010年3月12日金曜日

台南なう

今週は仕事で台南に来ています.毎年一週間ほど滞在をしていて,今年で3年目です.講義や共同研究に関する学生の指導を行っています.


今年はランの研究者とも話をしたのですが,今までしていた間違いに気付きました.

ランの研究は進化研究の教科書に載っているイメージで,まさに知的好奇心を 満たすためだけの研究だと思っていたのですが,台湾ではランの輸出が経済の大きな部分を占めているので,ランの研究は研究費も多いということです.世の中,何が役に立つのかわかりません.

2010年3月6日土曜日

犬山なう

 
京大霊長類研究所の研究会に参加させていただきました.非常に活発な研究会で色々と勉強になりました.

写真は犬山駅すぐそばのモンキー薬局.さすが犬山といったところですが,同行の人類学の先生が,「あれはテナガザルなのでエイプ薬局だ」と鋭く突っ込んでいました.

日本語では類人猿もそのほかの猿もすべてサルでまとめてしまいますが,英語ではテナガザルまでの類人猿はape,そのほかをmonkeyと呼びます.

昔は尻尾の無いサルをapeと呼んでいたので,尻尾のほとんどないニホンザルをJapanese apeと呼んでいたという話も聞いたことがありますが,現在はJapanese monkeyと呼ぶのが普通のようです.

2010年3月2日火曜日

コメント

もともとほとんどコメントはついていませんでしたが,最近スパムコメントが増えてきたのでコメントを非表示にさせていただきます.

2010年3月1日月曜日

ラジオ収録

エフエムみしま・かんなみの遺伝研サイエンスアワーの収録を行ってきました.3/13に放送予定とのことです.

細かいところまで良く覚えていませんが,ちょっとおかしなことを言っていても勘弁して下さい.

今月は色々と忙しく,ブログはなかなか更新できないかもしれません.

3月は4日から6日まで京大の研究会,その次の日から一週間台湾,帰ってきたら研究室の引っ越しで何度か東京を往復,そのあと薬学会のシンポジウムに参加させていただく予定です.

Human and Non-Human Primate Genomes Share Hotspots of Positive Selection

PLoS Geneticsの論文です.

ヒトとチンパンジーの配列を比べたり,ヒトの遺伝的多様性を調べたりすることによってヒト化に関わる遺伝子を見つける試みが行われています.

ただし,我々はヒトが一番進化した存在だとついつい思いがちですが,生命が生まれてから経験した時間はどの生物種も一緒であるとことを忘れてはいけません.また,ほぼ中立説のアイデアにのっとると,有効集団サイズが小さいヒトは,他の霊長類よりもむしろ緩い淘汰を受けているのではないかと考えられます.

この研究では,ヒトで正の淘汰を受けたとされる候補の遺伝子が,他の霊長類でも見られるかということを調べています.興味深いことに,淘汰を受けた遺伝子には統計的に有意な共通性がありました.つまり,ヒトのある遺伝子に早い進化の痕跡がみられたとしても,同じことが他のサルでも見つかった場合には,それはヒトだけの特徴にはならないということです.

驚いたのは,ヒトが言語をしゃべる遺伝的原因の一部になったのではないかといわれるFOXP2遺伝子周辺の多型を見てみると,チンパンジーでもオランウータンでも似たようなパターンがみられるということです.FOXP2に何かが起こったことは確かでしょうが,ヒトにだけ起こったのではないかもしれません.

2010年2月5日金曜日

Competition drives cooperation among closely related sperm of deer mice

Natureの論文

http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature08736.html

ネズミの精子はヒトと少し違って頭が鉤状になっているのですが,それが塊になって受精に向かう意味についての研究です.

精子が受精するまでに経験する競争は苛烈です.無事に生まれてきた私たちは2億分の一の競争を生き残ったのです.

論文では,野生のネズミの精子の集合についての詳細な研究がおこなわれています.精子が協力してひと塊りになることによって,卵まで到達する確率があがるのですが,反面,塊を形成する過程で受精機能をなくしてしまうリスクもしょっています.

ただ,同じ遺伝子型を持った精子同士であれば,たとえ自分が失敗しても同じ遺伝子型を持った仲間が先に進んでくれるので,進化上は有利であると考えられます.したがって,精子が塊になって

面白いことに,乱婚型(一匹のメスが多数の雄と交尾する)であるネズミの別個体の精子を競争させてみると,同じ個体同士の精子が集まり合い易いことが分かりました.つまり,精子が自分の仲間と敵を見分けて協力し合っていることになります.(実際には表面のタンパク質の相互作用か何かで結合能力が決まってくるのだとは思うので,協力というのは擬人的な表現ですが.)

更に面白いことに,この自己,非自己の認識は一夫一妻型のネズミでは見られなかったということです.つまり,精子の敵対・協力システムは,乱婚型にとって有利であるために進化した形質であると考えられます.

この先,どうやって精子が自己・非自己を認識しているのか分子レベルまでさかのぼれると非常に面白いのではないでしょうか.もし見つかったとしたらどのような分子進化のパターンを示すのか興味がわきます.

2010年1月26日火曜日

Human Ancestors Were an Endangered Species

サイエンスのニュースより.

http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2010/119/2

ヒトの祖先は絶滅危惧種だったという刺激的なタイトルですが,ヒトの集団が過去に集団のボトルネックを経験したであろうことは昔からよく言われていますし,有効な集団サイズが10の4乗くらいで,現生のチンパンジーやゴリラと比べると少ないのはこれまでの研究で良く分かっています.

ニュースでも触れられていますが,元の論文に目を通してみるとこの論文の面白いところは結果よりも方法であるということがわかります.

一つ目のポイントは,レアなイベントであるトランスポゾン配列の挿入欠失が集団内で多型的であった場合には,その周辺の領域は他より古い歴史を持つ(共通祖先が古い)ということです.ヒトのゲノムは領域ごとに異なった歴史の長さ(coalescent time)を持つので,若い領域には比較的珍しいイベントである挿入欠失が起こらないだろうということです.したがって,古い歴史を持つ領域を調べれば,最近の集団の変化に影響されないデータが得られ,より正確に過去の出来事を推定できるということです.

実際に,Alu配列の挿入の多型がある場所を調べてみると,その近傍の塩基多様度はゲノム平均の倍くらいで,理論による予測と合致します.

もう一つは,この研究がたった二つのゲノム配列を用いて行われたものだということです.組み換えはゲノムをバラバラにして異なった系譜で遺伝させていきますので,全ゲノムを調べるということは別々の道筋を通ってきた様々な領域の歴史を知ることになります.今後ハプロタイプが正確に推定できるようになると,たった一人のゲノムを調べただけで,人類の歴史がわかるようになることも可能だと思われます.

ただ,ニュースのタイトルのような単純な解釈には注意が必要かと思われます.集団の有効サイズは実際の集団サイズとは異なった基準の数値であり,集団の構造やら何やらで色々と変化します.その時に10,000人しか人類がいなかったと考えるのは早計でしょう.

また,チンパンジーやゴリラの多様性は亜種を含んでいることも考慮に入れるべきかもしれません.100万年くらい前というと,ホモ・エレクトゥスという人類種が旧世界中に拡散して繁栄していました.現在では旧世界のグループはすべて絶滅したと考えられていますので,亜種レベルで階層化された集団があり,その後我々の先祖になったアフリカのグループだけが生き残ったと考えると,それほどおかしくない値であると思います.

2010年1月20日水曜日

研究室のウェブサイト

ウェブサイトをリニューアルしました.ちょこっとだけ日本語もあります.

http://night.nig.ac.jp/labs/EvoGen/index.html

2010年1月5日火曜日

心機一転

新しいメールアドレスも頂き,ちょっとずつ仕事がスタートし始めました.まだ色々とわからないこともあり,勝手がわかるまで暫く時間がかかりそうです.

新年一発目の最重要課題は,年末の仕事納め後ににリジェクト通知が来た論文の再投稿.折角の正月気分がぶち壊しでした.

レビュワーが二人ついて一人はOKだったのですが,もう一人が「方法に問題はないが新規性が足りないので,別の雑誌に投稿せよ」とのこと.色々と手間取っている間に似たような論文が発表されてしまったのが原因の一つです.

丁寧にも他の雑誌の名前までだしてくれてたので,ちょっと手直しして再投稿.レビュワーが変わってボロクソに貶されるという最悪の事態にならないことを願っております.誰かわかりませんが,同じ人に当たってくれるとラッキーなんですが.

2010年1月1日金曜日

2010年

あけましておめでとうございます.

2010年1月より静岡県三島市の遺伝学研究所に勤務することになりました.前の職場では進化の研究は本業ではなかったので,「何の研究をしているんですか」と聞かれて困ることが多かったのですが,これからは晴れて進化生物学者を名乗れるようになります.

反対にきちんとした仕事をしなけばいけないプレッシャーも出てきますが,心配しても仕方ないので落ち着いてやっていきたいと思います.