2007年12月29日土曜日

仕事納め

今年のお仕事も終了しました.

年末はしっかり休みたいと思います.

来年は何本論文を出せるか.世知辛い世の中ですが,本数だけでなく内容も良いものを出せたらなと思います.

2007年12月19日水曜日

ヒトの正確な遺伝子数

The drifting human genome
Genomic drift and copy number variation of sensory receptor genes in humans

ヒトの遺伝子数は一体幾つか,というコンテストがヒトゲノム解析と共にありました.ヒトの遺伝子数は古くは放射線による突然変異などから数万個と予測されてきたのですが,僕が研究を始めた頃は遺伝子の発現データが増えてきた頃で,人によっては10万以上との推定がなされていました.

それがヒトゲノム配列が決まってくると,今まで別の遺伝子産物だと思っていたものが同じ座位からのalternative splicingによるものだというのがわかってきて,ドラフトゲノムが出たときには3万程度,さらに使われなくなった偽遺伝子を除くと数は減り,完全版の配列では20,000~25,000くらいに減りました.コンテストは25,947個と予測したRowenが優勝とされました.

しかし,当然といえば当然ですが遺伝子数にも個人差があります.最近よく研究されるcopy number variation (CNV)というものです.2番目のNozawaらの論文では,遺伝子によっては100コピー以上の個人差が存在すると述べられています.したがってこれがヒトの遺伝子数という正解は存在しません.

さて,問題はこれらの遺伝子数の変化が適応的な結果によるものか遺伝的浮動によるものかということです.Perryらの研究によるとアミラーゼ遺伝子(AMY1)の数には個人差があり,日本人のようなでんぷん質をたくさん食べる集団の方が遺伝子コピー数が高いという相関があるとのことです.

一方,最初の論文でZhangは正常遺伝子と偽遺伝子との間で多型中に存在するコピー数の変異と種間で固定したコピー数の変異の数を比べる方法(MKテストの変形)を行ないました.もし,機能的な遺伝子のコピー数の違いが適応的で正の淘汰を受けるなら,そういった変異は種間差でより顕著に現れるでしょう.しかし,この検定では有意な差が見られなかったと述べています.どちらにせよ,こういった研究はこれからより詳細に進められていくのではないでしょうか.

2007年12月15日土曜日

2007年分子生物学祭り

学会から帰ってまいりました.

分生は規模が大きいので業者さんも気合が入りまくりです.96穴のプレートにマルチピペットで分注するスピードを競うピペッティング大会に誘われました.ピペドという自虐的蔑称が問題になっている昨今この企画は正直どうかと... ピペッティング速度はわりと自信があるのですが,上には上がいそうだし,成績が良くてもそれはそれで寂しい気がするので遠慮しておきました.他にも抽選による豪華景品が目白押しです.

と,今回の戦利品はなんといっても写真のとおり...

「荒木飛呂彦が表紙を描いたッッッッッ!

CELLをッ!

手に入れたゾォォォォォォォッッッッッ!」

ジョジョラー生物学者必涎の一品です.自腹で買おうか悩んでいたのでサンプルが貰えてラッキーでした.ちなみに,先月号のユリイカ誌で荒木飛呂彦特集をやっており,この表紙が描かれた経緯を著者の瀬藤先生が解説されています.

2007年12月6日木曜日

40th anniversary

「分子進化の中立論40周年」という講演会が来年の2月17日にあると知らされました.中立説ではなくて中立論というところにはおそらく意図があるのでしょう.

自分の誕生日ではないかと思ってよくよく見てみると,1968年2月17日が木村先生の中立説Nature論文が掲載された日のようです.未だに誤解されることの多い理論ですが,40年間に果たした功績は大きいでしょう.日曜日なので時間を作って聞きに行こうかと思っています.

中立説の功の部分についてはここに書ききれないほどあるので,罪の部分について少し書いてみます.それは分子進化を簡単にしすぎたことだと思います.

木村先生は非常に高度な数学的考察を経て中立論を確立したわけですが,得られた結論から突然変異の固定速度は突然変異率に等しいという実に単純ですばらしい予測が導かれました.したがって種差を考える場合(一般的なイメージの進化),
固定する変異のほとんどが中立なのですから,突然変異が集団中に広がる過程についてはブラックボックスとして扱うことができます.その後の日本の分子進化研究は木村先生の功績を追うかたちで中立論に重きを置いたため,相対的に集団中でのプロセスについての研究が弱くなってしまったのではないかと思っています.

しかし,自分の誕生日が中立説の日だとは嬉しいですね.ちなみに,他の2月17日生まれの有名人やイベントはこんな感じ

こういうのはとても便利です.雪の特異日なんてのは初めて耳にしました.

2007年11月26日月曜日

科学イベント

日曜日に近所の小学校で科学イベントがあったので参加してきました.DNA鑑定の実験です.

遺伝子やDNAという言葉は巷に溢れていますが,それが実際どういう意味を持つのが,学校ではなかなか触れる機会がありません.少しでも興味を持ってもらえると嬉しいと思います.個人の遺伝情報を使った医療などの実現には国民の理解が必要であると感じます.図らずも失敗したのは遺伝子組み換え作物についてでしょう.

問題なのは学校できちんと教えるカリキュラムが無いこと.先生が学校で習っていないから教えられないのです.メンデル遺伝とセントラルドグマくらいは中学校までに覚えていて損はないと思います.ちゃんと話せば小学生にも理解できるのですから.

2007年11月16日金曜日

大会賞

先日岡山での遺伝学会で発表した内容がベストペーパー賞に選ばれました.

One of the bestということで一等賞ではないですが,非常に光栄なことです.この先きちんと英文で発表できるかどうかわからない未発表の部分も出したので努力した甲斐もでてきます.他の演題を見てみるとすべて実験系のものだったので,少し異色の内容かもしれません.

2007年10月29日月曜日

論文取り下げについて

http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2007061647266

実際の記事は読んでいないですが,サイエンスの論文を取り下げた教授の反論コメントです.

ひとつ間違っているのは,不十分なデータから強引に結論を出すことと,そのあと裏が取れる実験ができたことは別のことです.論文とは,正確性の高いデータからどのように妥当な結論を導き出すかという過程を問われるものであって,その結論が真であるかどうかについての責任はありません.完全な真実などわかるわけがないのですから.

もし間違ったことを言っているのがわかった論文をすべて取り下げなければいけないとしたら,歴史的な過去の論文の多くも取り下げられなければいけないでしょう.100年後に正しいと認められた論文は歴史に残りますが,100年後になってみると間違っていた論文など星の数ほどもあります.

実際に結論が真実であるかどうかは別として,その過程に問題があると指摘されているのですから,問題は論文の中にこそあるのでしょう.捏造に対しては著者がすべての責任を負うでしょうけれども,ずさんなデータを通したのは雑誌サイドの責任も含まれていると思います.

2007年10月21日日曜日

ワトソンの人種差別発言

Watson Loses Cold Spring Harbor Post

人種差別発現が問題になったワトソン博士がコールドスプリングハーバーでの役職を失いました.偉い人は発言に気をつけなければいけません.

人種で能力に差があるかー特に知能についてーはタブー視されている問題でもあります.人種によって様々な生物学的特長が違う,これは事実です.ただし,人種は人が思うほど完全に分かれているわけではないので一般論にはなりません.

僕はこの手の議論は嫌いなのですが,二点だけ

1) 知能の厳密な定義はできない
ある問題を解く能力の優劣は決められますが,それぞれに重み付けして総合点を出すことは不可能です.ボクサーとプロレスラーのどちらが強いかを比べるようなものです.例えばDSの脳トレーニングみたいに動体視力が重要なテストが入るなら,一般的に賢いと呼ばれる人が高得点を取れるとは限りません.アフリカ人の知能が低いのというのは印象であって科学的事実にはなりません.

2) 誰かが馬鹿だと証明するものほどつまらない仕事は無い
これは自分の研究のスタンスです.研究は楽しく行いたいものです.

2007年10月18日木曜日

ネアンデルタール人はもっと東にもいた

Neanderthals in central Asia and Siberia

南シベリアや中央アジアから出土した骨がネアンデルタール人である証拠が得られ,彼らが住んでいたと思われる地域が広がった,という内容の論文です.

結論はともかく,面白いのは方法です.これまでの研究ではネアンデルタール人であるという形態的な特徴を持つ骨からDNAを抽出し,彼らが現代人とどのような関係にあるかが議論されてきました.ところがこの論文は断片的なために形態からネアンデルタール人と断定できない骨からミトコンドリアDNAを増幅し,ネアンデルタール人であることを示しました.

面白い発想ですが,前提(ネアンデルタール人と現生人類の間に交雑は無かった)の上に成り立っている話なので注意が必要です.大変な仕事だろうと思いますが,古代のDNA解析が進むと色々新しいことがわかりそうで面白いですね.

2007年10月17日水曜日

発表行脚終了

8月あたりから色々と歩き回って発表行脚でしたが,先週末の北大を最後に一区切りしました.12月はまた忙しくなりますが11月は比較的のんびりできます.のんびりといってもデータ集めが大変なわけですが...

発表は手を変え品を変え,普段講義などが無いポストなので人前で話すときの手の抜き加減がイマイチわかりません.おかげで発表が終わって飲みに行ったりするとクタクタです.

夏から話してきたネタはとりあえずこれで一段落かと思います.続きの部分の論文も書きたいのですが,とりあえず現状では不満なのでしばらくお蔵入りです.いわゆる一般的な分子生物学の研究というのはひとつテーマを見つけたらとことん発展させていくという形が多いと思いますが,僕の研究内容はわりと単発の論文が多いんですよね.ひとつ結論を出したらまた別のことを考えてというように,わりとフラフラとテーマが変わっていきます.本人は共通のテーマを扱っていると思っているのですが.周りから見ると節操が無く映るかもしれません.

夏ごろ書いたヒトーチンプ脳間での遺伝子発現差に関するレビューの原稿がアクセプトされました.レビューとはいえ査読があったので一安心です.マイナーな媒体ですが,英語でレビューは初めての仕事だったので気合いを入れて書きました.教科書に載っているようなことはともかく,いまだはっきりとした結論が出ていない題材は偏り無く書くのが難しいですね.今まで出ているレビュー記事は実際に実験を行ったグループのものが多かったので,第三者の立場のものとして面白いのではないでしょうか.

2007年10月9日火曜日

2007年ノーベル生理学医学賞

今年のノーベル賞はES細胞とのこと.特定の遺伝子のノックアウトマウスを作ることにより,哺乳類での遺伝子機能が詳しく調べられるようになりました.

生物学者ならノーベル賞についてはもっと注目していいのかもしれませんが,僕は過去の受賞者とかもあまりよく知らないんですよね.内容は知っていても誰が研究したのとかはサッパリです.この賞のポイントはノーベル生理学医学賞であって純粋な生物学賞ではないこと.より医学に役立った研究でないと評価されないのでしょう.

進化の分野では日本が出している国際生物学賞やイタリア・スイスのバルザン賞なんかが有名かと思います.

ノーベル賞は無理なので,イグ・ノーベル賞でも目指してみましょうか.こちらも最近はすっかり有名になってしまったので意外と競争が厳しそうです.

2007年10月7日日曜日

Junkからの遺伝子

NatureのJournal Clubからのパクリです.

Novel genes derived from noncoding DNA in Drosophila melanogaster are frequently X-linked and exhibit testis-biased expression

一般的な遺伝子進化のシナリオは,もともとあった遺伝子が遺伝子単位またはエキソン単位で重複したり移動をしたりすることによって新しい遺伝子が誕生するというものであります.つまり,遺伝子は突然生まれるものではなく,もともとあったパーツの組み合わせであり,起源をさかのぼると遺伝子の重複によって生まれたのであろうという考えです.このアイデアを広めたのは(起源はもっと古いですが)日本人の大野乾先生であります.

何故この考え方が重要かというと,進化は漸進的に起きるというダーウィンの考えにピタリと当てはまるからです.ある日突然新しい遺伝子が生まれるよりも,今ある遺伝子のコピー数が増え,それを改良して使うほうがより妥当であると考えられます.増えたほうの片方のコピーはもとの機能を保ち,もう一方のコピーが新しい機能や発現パターンを持つことにより,遺伝子の分業が効率的に進むと考えられます.

ところが,上にあげた研究ではショウジョウバエのゲノム中から,遺伝子をコードしていない配列から遺伝子配列が生まれてきた例を示しています.このシステムが生物学的にどれだけ重要な役割を持っているのかは定かではありませんが,無から有を生み出すような遺伝子進化も確かに存在するということになります.

最近の研究成果では遺伝子をコードしていない領域の多くが転写され,non-coding RNAとして機能するポテンシャルを秘めているとも言われていますが,遺伝子をコードしていない部分は一般的にはJunk DNAと呼ばれています.

ガラクタ(Junk)から偶然に遺伝子が生まれる.この例はややもするとガラクタの山からジェット旅客機が出来上がるといった進化のよもやま話につながると思うかもしれませんが,実際には全く違うレベルの話であると思います.ここで出来上がっているのはあくまでも一つの遺伝子であり,機械でいうと一つのネジにしか過ぎません.

スロットマシンを回して一度の回転で7が並ぶ確率はとても低いものですが,10,000人くらい同時に回せば一人くらいは777が揃いますが,全員一度に777が揃うことは限られた時間では難しいでしょう.一つの遺伝子が作られるのと,全部の遺伝子が一度につくられるのとでは天と地ほどの差があります.

また,このような例は明らかに遺伝子重複による遺伝子進化に比べればマイナーなものでしょう.ショウジョウバエは遺伝子重複が少ない生物ですが,それでも百以上の遺伝子が数百万年の間に遺伝子重複によって生まれています.

2007年10月1日月曜日

二日酔いにご用心

4-week headache after 60 pints of beer

Lancet誌は医学系では一流紙ですね.IF28.5.これは症例報告です.

1パイントは約473ml,ジョッキ60杯で一ヶ月の二日酔い(?)ということになります.

2007年9月25日火曜日

英語の勉強

学会中に論文リジェクトを食らいました.よくあることとはいえ毎回へこみます.英語も直せとか書かれています.校正に出すと真っ赤になって返ってくるし,校正に出したあとでも書き方が悪いところはレビュワーに怒られてしまいます.

僕は自分では英語はまだマシなほうだと思っているのですが,やはりネイティブと比べると天と地ほどの差があります.冠詞も未だに迷うことがたくさんあります.「科学英語論文の書き方」みたいのは何度も読んで勉強しましたが,ネイティブはどうなのかが気になったので,先日ネイティブ向けの論文の書き方の教科書を買ってみました.

Essentials of Writing Biomedical Research Papers.

まだ全部読んでいませんが,かなりわかりやすく書かれた教科書です.

数量などで曖昧な表現は使わない.
無駄な名詞(-mentとか)を使わず動詞で動きを表現せよ.
意味の曖昧なBuzz-wordは使わずに正確に簡潔に.

なんて書かれてて,日本語の教科書とあまり変わりません.ネイティブも初めて論文を書くときは結構苦労するんでしょうかね.

2007年9月21日金曜日

2007年遺伝学会

岡山大学での遺伝学会が無事終了しました.

発表も概ね好評で,ためになるアドバイスもいただきました.学会は冬の分子生物学会までお預けなので,秋のうちにデータを貯めておきたいと思っています.

2007年9月15日土曜日

DNA模型

毎年研究所の一般公開を行うのですが,今年はこんなのを考えてみました.

ゾムツールという模型(LEGOブロックみたいなもの)でDNAの二重らせんを作れます.Aが緑,Tが赤,Cが青,Gが緑となっています.完成には10分くらいあれば十分なので,右巻きと左巻きの違い,ATGCの四種類の塩基のペアーなどについて理解して帰っていただこうと思っています.

ワイヤーフレームのモデルであれば色々なものが作れるので,子供の学習にも良いのではないでしょうか.僕も子供の時はパズルとかブロックとか大好きでした.

よく見ると写真の完成図は左巻き螺旋ですね.下手こいたー.

2007年9月13日木曜日

クモのプレゼント

チンパンジーがメスに贈り物,というニュースがあったのを振られて,「それなら虫だってプレゼントしてますよ」と答えたのが先日のこと.

と窓から外を見るといたるところに張り巡らされたジョロウグモの巣に小さな別のクモがいます.これはオスだなと思って調べてみたらそのとおりでした.

ジョロウグモのオスは餌をメスにプレゼントするようです.まあ,この場合は餌を食べているうちにコッソリ交尾するってのが正しい表現でしょうか.昆虫はこういうのが多いですね.

人間で真似をすると犯罪になりますのでくれぐれも気をつけてください.

2007年9月11日火曜日

霊長類研究所

先日は初めて京大の霊長研にお邪魔してきました.

普段研究の話をする相手が少ないので,人が多いとついはしゃいでしまいます.

写真はバイオリソースプロジェクトで放し飼いにされているニホンザル.檻の中で飼われるよりは良いでしょう.やはりニホンザルはかなり丸っこくて寒冷地に適応しているという印象を受けます.

熱帯のマカクより栄養状態は悪いはずなのに太っているということは,エネルギー代謝に関わる遺伝子が何か変わっているのではないでしょうか.

2007年9月10日月曜日

ベンター氏のゲノム配列

The Diploid Genome Sequence of an Individual Human

ベンター氏のゲノム配列が発表されたわけですが,最初にニュースを見て0.5%の差異と書いてあったので心臓が飛び出しそうになりました.今までは約0.07%のSNPがあると言われていたわけですから,これは大発見です.

と思って読んでみると,indel(挿入や欠失)を加えた数字のようですね.SNP自体は大体0.06%くらいで今までの推定とあまり変わりません.indelを見つけるのは,ヘテロで持っている時の同定がとても大変です.そこを初めて詳しく解析したということが科学的には重要な発見なのでハイライトにしたのでしょうが,少し紛らわしい表現です.

「ドナーは1946年10月生まれ,自己申告で白人男性」と書いてあるあたりにはユーモアを感じさせます.

見つかったSNPの85%はdbSNPにカバーされていたとか.こちらの方はなかなか興味深いです.

2007年9月3日月曜日

2007年進化学会

出席してまいりました.発表は色々詰め込みすぎたのか消化不足だったかも.テーマをひとつ削ってもう少し時間をかけても良かったかなと.ただ,再来週の遺伝学会での発表をメインに考えていたので,今回説明しきれなかった部分はそちらで詳しくやろうと思います.

発表でも少し触れましたが,長い時間スケールの進化と短い時間スケールの進化研究の断絶が日本では強いような気がします.これらには本来連続性があるので切り離して考えることはできないと思うのです.断絶というか素養の違いというか,生態学やっている人は分子進化や形態学に詳しくなかったり,その逆があったり.

自分の専門分野だけでなく,色々なものを学べる環境にある人は幸せだと思います.そういった意味では,進化を軸に色々な研究があつまる進化学会は見識を広めるいいチャンスではないでしょうか.

京大でドラマのロケをやっていて,正門が「帝都大学」になっていました.久しぶりに来た人はビックリしますね.

2007年8月28日火曜日

自生大麻

刑務所グラウンドに大麻草=受刑者が発見-北海道・網走

生物の話題ということで.たまにはどうでもいい話を.

北海道出身ですが,大麻は普通に茂みに生えています.子供の頃は知りませんでしたけどね.

野生とはいえ,大麻は大麻なので決して手を出さないように...

2007年8月27日月曜日

中学生からの勘違い

英語を書いていたんですが,ふと急に最上級に'the'をつけるかどうかわからなくなりました.中学生のときに習ったのは.

He is tall. -> He is the tallest.

くらいの決まりだったと思います.理由も知らず'the'をつけていました.一番はひとつしかないから'the'なのよって.

おかしな感覚は名詞が無いのに'the'がついていることでしょうか.これは,"He is the tallest one."の'one'が省略されているとも取れますが,'the tallest'で「一番でかいヤツ」という名詞になっているということでしょうか.それなら'the'がつくのも納得できます.

恥ずかしながら今頃気づきましたが,英語の先生もこれくらいちゃんと教えるべきですよね.

と,副詞の場合にはつけてもつけなくても良いとか.でも感覚的には要らない感じがします.


2007年8月23日木曜日

革新と科学

Natureの記事
http://www.nature.com/nature/journal/v448/n7156/full/448839a.html

アメリカに行って驚いたことは,基礎科学にかなりの重点が置かれていたことです.それまではぼんやりと,西洋的な科学は功利主義的なものだと思っていました.実際には,基礎科学の重要性は先進国ほど理解されているのではないでしょうか.

しかし,科学にかけるお金は経済的な事情が大きいようです.アメリカのここ20年は景気も良く,基礎科学にも十分なお金が支払われてきました.しかし,これからは基礎科学予算が削られていくだろうという不安が研究者の間で広まっています.現に,イラク戦争のツケが今年度のグラントには回ってきていて多くのラボが資金難に陥っているという話をよく聞きます.こうなると,科学に対する評価(予算)は基礎的なものよりも直接的に役に立つ研究に偏っていくでしょう.イギリスでは既に方向性の転換がみられているとのことです.

このタイトルを読んで初めて知ったのですが,innovationとは産業に結びつくという意味が暗黙的に込められているんですね.一見,innovationとscienceは対立関係にはなり得なさそうですが,英語では違うようです.

こういった問題には色々な意見があると思いますが,税金を払う人の立場で考えてみても良いかと思います.すぐ役に立つ研究よりも,知的好奇心を満足させてくれるような発見.こういったものに研究費を使って欲しい国民もいるでしょう.そのためには一般的な科学知識の啓蒙活動を行うことも重要であると思います.寿命の延長よりも精神世界の豊かさを求める人もいるし,少なくとも僕にとっては精神世界の満足度は自然に対する理解によって深まっていると言えます.

最後にこの引用を.

"Researchers have at least two weapons that they should keep well honed: a compelling historical narrative showing the unpredictable paths from science across all disciplines to economic and other benefits; and a demonstration that those best-placed to innovate on the basis of science — and, in turn, to stimulate scientific ideas — are well set up to do so."

2007年8月20日月曜日

評論家

改定した論文を投稿終了,やれやれです.

実験のほうも条件設定がすべて終わったのであとは馬車馬のようにルーチンワークをすれば良い段階になりました.これで頭脳をレビューの方に持っていけます.色々勉強してまとめるのは知的に楽しいことなのですが,のちの自分に向けて戒めのメッセージを残しておきます.よいレビューを書くには深い理解と知識が必要だと思いますが,新しい知識を生み出すのはそれよりももっと困難で挑戦的です.更には危険も伴います.

「評論するだけで満足してはいけない」

色々な意味で当てはまる言葉だと思います.

2007年8月14日火曜日

ひとりごと

相変わらず忙しく,メールで入ってくる論文のヘッドラインも流し読みくらいしかできません.

夏休みも終わりましたが,結局改定中の論文で手が一杯でした.最初は諦めていましたが,考えに考えてなんとかなりそうな気がしてきました.結局一章分まるまる書き足した感じ.方法論の限界を指摘されているのがキツイ.そりゃあ誰でもお金と人さえあったらやりますよ.はやく終わって忘れたいです.

僕は基本的には短くてスパッとした論文が好きです.仮説があってそれを証明するために図一枚に表一枚.なんてのが理想です.

今回も極力表に出すデータの数を減らしていたのですが,レビュワーのツッコミに答えているうちに図が5枚,表が4つ,サプリメントで図が2枚にテーブル4つととんでもない量になってしまいました.すごい大プロジェクトみたいじゃないですか.今の雑誌は図は何枚つけてもタダなのでカラーをふんだんに使わせて貰いましたが,リジェクトされたらカラーの図からお金を取る雑誌には出せなくなりますね.お願いだから通ってください.

と,追加データも追加実験も終わったのでやれやれ,と思っていたらデータの一部に不整合が.調べてみたら片方のデータベースが古いバージョンだったみたいです.計算やり直しはいいとして,図も書き直し.図は基本的にRでベクトルにしたデータをイラストレーターでいじっています.Rの方はスクリプトを書いてあるから良いとして,イラストレーターはまたチマチマやらないといけないですね.

あとは,10月末が締め切りだと聞いていたレビューの締め切りが9月半ばということが判明.どうやらレビューのレビューがあるようで,それにかかる時間も含めて10月末だということらしいです.一気に辛くなりました.図は他の論文からそのままとってきたいところだけど,版権の許可を取らなきゃいけないですよね.自分で他人のデータから起こして図を描くのとどちらが速いか悩むところです.さすがにレイアウトも一緒の図を描いたらパクったと言われますよね.スライドの発表だと皆さん平気でパクるけど,出版物になると急に厳しくなります.

どうでもいいですが,最近「Уважаемые господа!」みたいなスパムがたくさん届きます.なんとかならないものか.ベイズで学習するスパムフィルターがThunderBirdにはついていますが,最近はかなり賢くなってきました.育成ゲームみたいで楽しいですね.俺のフィルター最強,みたいな.

2007年8月3日金曜日

大車輪

先日投稿した論文の結果... レフェリーは一勝一敗で再投稿推奨.最近はアクセプトまでの時間を早くするために,改定が多い場合は投稿しなおしのところが多いみたいです.

再投稿なのに「レフェリーへのコメントにすべて答えれば考えなくもない」とか書いていますから,ここは条件付アクセプトと前向きに捉えてリバイスします.レフェリーの意見は厳しいものが多いですが,真面目に答えていくとホントに論文が良くなるから不思議です.とりあえず再解析の方針は立ちました.自分で自分が書いた論文のアラを探すのには限界がありますし,リジェクト無しだったら何回でも厳しい意見を貰って改定したいところです.散々リバイスして結局リジェクト食らったら泣けますけどね.

さて,最近は本格的に実験を始めたのでとても忙しいです.初めて個人で取った研究費なので,真面目に結果を出そうと思っています.改定論文のデータを取り直して,実験と解析をして,9月中に三回も発表があるし,レビューも頼まれてるし,書類作りの雑用もどさっと溜まっています.

来週は北海道に帰って,のんびり書類でも作ってます.夏バテしないように気合いを入れていかないとダメですね.どんなに暑くても食欲がなくなったりはしないので大丈夫だとは思います.

2007年8月2日木曜日

基本はタダが良い

統計解析用のソフトは多々ありますが,僕はフリーのものを中心に使っています.

ちょっとしたものはエクセルで,あとは自分でperlのスクリプトを書いたり,Rを使ったり.Rはフリーでものすごい機能が豊富なので重宝していますが,大きな不満がひとつ.

名前が一文字だから,使い方がわからなくてGoogleでサーチしてもなかなか狙ったものが出てこない.これはかなり痛いです.

グラフはかなり色々描けるのでこれで十分です.エクセルのグラフよりはよく見えます.

たまにエクセルのグラフで,背景灰色,ディフォルトの色(水色,紫,クリーム色)の棒グラフがそのまま論文に載ってたりしますが,あれはもうちょっと工夫しても良いかと思います.せめて背景は白で,余計な横線は入れない.意味の無い3D表示も無駄.プレゼンじゃなくて論文なのだから,データの理解されやすさを優先すべきだと思います.

2007年7月31日火曜日

これは笑えない

何かと思ったら,オフィシャルなサイトなんですね,これ.笑えません.
http://www.spring8.or.jp/ja/for_kids/topic017.html

まあ,物理とかの分野に比べると生物ってNatureとかScienceに通りやすい分野ですよね.

新発見があるということはそれだけわかっていないことが多いということです.

2007年7月27日金曜日

夏休みか

提出していた論文のレビューが期限を過ぎたので催促のメールを出してみたんですが,2日経っても返事は無し.週末にかかって来週になりそうです.経験上,催促のメールを送ると「レビュワーの一人と連絡が取れないからちょっと待ってくれ」とか,何らかの返事が返ってくることが多いのですが.

レビューの速さが売りの雑誌なのですが,これはレビュワーか編集者が夏休みに入ってますね.欧米ではがっちりバカンスを取りますから.

ちなみに,僕も今年は何年かぶりに夏休みを取って実家に帰ります.

2007年7月26日木曜日

ミトコンドリア・イブについての誤解

ミトコンドリアは母系遺伝をします.受精卵の中にはミトコンドリアが詰まっていますが,精子のミトコンドリアは基本的には受精卵の中には入ってきません.したがって,子供は母親のミトコンドリアだけを受け継ぎます.さて,現代の人類のミトコンドリア配列を調べていくと,約15-30万年前のアフリカ系の女性にたどり着きます.この女性をミトコンドリア・イブと一般的に呼んでいます.

この現象を,「一人の女性を祖先として現生人類は誕生した」と誤解させるような解説も存在しますが,誤りなので解説したいと思います.WikiPediaにも同様の解説がありますが,これは自分なりの解説です.

先ず最初に,「祖先を持つ」ということと「祖先の遺伝子(ゲノム)を受け継ぐ」は必ずしも等価ではないということを知らなくてはなりません.

例えば,あなたの6世代前には64人の先祖がいたことになります.それではあなたのゲノムはその64人のゲノムを1/64ずつ均等に受け取っているかというと,そうではありません.生殖細胞ができるときに遺伝情報の半分が子孫に伝えられますが,そのときどの半分が伝えられるかはランダムです.具体的に言うと,あなたは遺伝子の片方を母親,片方を父親から受け継いでいますが,その二本の染色体はあなたの生殖細胞の生成過程で組みかえられてシャッフルされ,あなたの子供には片方だけが伝えられます.
子孫に伝えられなかった遺伝子は「絶滅」します.この絶滅とは遺伝子の絶滅であり,家系の断絶ではありません.

したがって,64人の祖先のうち,ある人の遺伝情報を20%受け継いでることもあるかもしれないし,まったく遺伝子を受け継いでいない可能性もあります(実際は組み替えはもっと高頻度に起こるのでそんなことはありませんが).全く遺伝子を受け継いでいないからといって,その人があなたの祖先ではないということはできません.

同じように考えると,「ミトコンドリアを次世代に伝える」ということと「子孫を残す」ことは等価ではありません.例えば,生まれた子供がすべて男の子だったらその母親のミトコンドリアは途絶えますが,子孫は残ります.こういった確率的な遺伝子頻度の変化は遺伝的浮動と呼ばれています.

2007年7月20日金曜日

トライアルアンドエラー

生物系ブログの有名人,柳田先生のブログより.新潟の地震による車の部品生産への影響と生命システムの違いを考察していました.システムのロバストネス(頑強さ)がどれだけあるかということでしょう.

> 最後の興味は結局、人間はこのような場合、細胞のような生命体よりも賢くふるまっているのだろうか、ということになります。

進化生物学的視点から見てみます.人間の賢さがいわば「予測的」であるのに対して,進化の賢さは「トライアルアンドエラー(試行錯誤)」的です.良い方向にでも悪い方向にでも変わって,生き残ったものが次の世代に伝えられます.突然変異に方向性が無くても,結果には方向性がある.ここが自然選択説の一番神秘的なところだと思います.

進化による変化は多くの場合,ごく微量です.そのかわり,その少しの変化が次世代に伝えられます.

人の学習は,予測と言う意味では賢く働きますが,過去の記憶・経験すべてを引き出すことはできません.歴史のすべてをひっくり返して最適解を導き出すような演算を人間は行っていません.自分の知っている範囲,自分の経験した範囲で得た答えを他人の意見とつき合わせて結論を出します.そして,世代が変わるたびに知識はリセットされ,いちから学習しなくてはなりません.

どちらが賢く働くのか.試行錯誤的戦略は時間の積み重ねにより,少しずつ,着実に賢くなっていきます(賢いという擬人的な言葉は不適当だとは思いますが).その時間の積み重ねは本当に長く続いています.

今まで生命が歩んできた時間と人が知恵をつけてから経た時間は比べるべくもありません.少なくとも,今現在は時間の長さには人類の英知はかなわないといったところでしょうか.

マッチョ犬の遺伝子変化

自然選択よりも強い選択に人為選択があげられます.ダーウィンは,人工的に選択された品種が変種と同レベルの特徴的な形質を示すのなら,それが自然による選択まで延長して,自然界に見られる種の多様性を自然選択で説明しようとしました.人為選択が如何に強いのかを知るのに一番身近な例はイヌの品種でしょう.チャウチャウとチワワは自然には交配できないですから,ヒトによっては別種と定義するかもしれません.あれだけの多様で特殊な形態を生み出したのはヒトによる選択に他なりません.

A Mutation in the Myostatin Gene Increases Muscle Mass and Enhances Racing Performance in Heterozygote DogsMosher et al. PLoS Genetics.
http://genetics.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1371/journal.pgen.0030079.eor

イヌのウィペット種というのがあって,グレイハウンドに近く早く走るのが得意なイヌだそうです.その中でもBullyタイプというマッチョなイヌがいます.このイヌに健康的な重大な問題は見られないのですが,多くは子供のうちに処分されてしまいます.そのイヌの遺伝子を調べたところ,MSTNという遺伝子にフレームシフトを起こす突然変異が見つかりました.これは筋肉の発生に関わる遺伝子です.実際にレースをさせると,この遺伝子の片方に欠損があるタイプが有意に速いという結果がでました.ホモで変異を持ってしまうと,ムキムキになりすぎてレースどころではないのでしょう.面白いことに,同じような変化がウシやヒツジで見つかっています.これらは独立に選択されてきたようです.マスチフなんかの別の大型犬にはこの突然変異は見つからなかったそうです.

目的は別ですが,肉をたくさん取るためにウシを選択し,速く走らせるためにイヌを選択した結果が同じ遺伝子に行きついたというのは面白い示唆を含んでいると思います.

少し前の論文ですが,実際の
Bully Whippetの写真を見て衝撃を受けたので紹介しました.ミスターオリバはこの遺伝子が欠損しているに違いません.

2007年7月19日木曜日

PLoS ONEにレイティング機能

以前何度か話題にした,オープンレビュータイプの雑誌,PLoS ONE.まだまだ実験段階の雑誌ですが,自由度が高いのが強みでしょうか.実は隠れた良論文があったりします.

記事の質の低下が心配でしたが,今朝宣伝のメールが来まして,早くもテコ入れを始めたようです.どうやら,ユーザーが3つの項目について5点満点でレイティングすることができるようになった模様.これは正直恐ろしいですね.自分の論文に星ひとつとか付けられたらへこんで飯が喉を通りません.

ただ,今まで実名のユーザーしかコメントやレイティングを投稿できないのかと思ってましたが,身元を保証する登録さえあれば,表示自体は匿名で良いようです.面白い試みなので様子を見ようと思います.

ただ,「科学者は歯に衣着せず批判的な文章を書く」という一般のイメージがあるかもしれませんが,実際は科学者も結構気を使います.もともと自然科学ってのは金持ちの趣味みたいなところがありましたから,ある程度の礼儀と節度が必要なわけです.

「著者の言っていることにも一理あるが,私はこういう見方もできることを提案する.その点で言うと,この論文は完全なものであるとは言えない」とか,「この論文は非常に面白いけれども,他の人がそう思うとは断言できない」とか,意外とみなさん気を使っています.点数付けがこの習慣に馴染むのか,気になるところです.

なんで宣伝メールが来るのかな,と思ってたら,雑誌の創刊のときにTシャツが抽選で貰えるとか書いてたのでつられて応募したのを忘れていました.まだ届かないところをみると,とうの昔に外れていたようです.

追記

科学英語メモ
厳しい批判(ボロクソにけなすこと): brutal (harsh) criticism

2007年7月18日水曜日

20%ルールについて

政治的な話はあまり取り上げない方針ですが,一言.

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「博士余り」解消へ「20%ルール」!?物理学会が提言
 若手の研究者は、仕事時間の20%を自由に使って好きな研究を――。日本物理学会(坂東昌子会長)が、こんなユニークな提言を発表する。 「20%ルール」は米企業「グーグル」などが取り入れて、社員のやる気を引き出しているが、学会が呼びかけるのは異例。背景には、博士号を取得しても、希 望する研究職につけない「博士余り」の問題がある。若手博士の視野と発想力を広げ、企業など幅広い分野で活躍させるのが狙いだ。(読売新聞)
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偉い人の理屈は良くわかりませんが,別の観点から僕は20%ルールに賛成です.現在,多くの若手の研究者がプロジェクト型の研究に携わっています.これらの研究プロジェクトの中には論文の生産性が高いものから全く無いものまで色々とあります.最初から学術的発見をすることを目的としていないタイプの研究プロジェクトもたくさんあります.

現在の若手研究者のサバイバルレースには論文発表の業績が欠かせません.良いのか悪いのかは言いませんが,生物系では特に発表論文数とそのインパクトファクターが重視されます.

論文生産性の低いプロジェクトに一度でもポスドクで入ってしまうとレース脱落,では話になりません.ある程度はプロジェクトに縛られない時間(できれば予算も)を与えられないと不公平でしょう.極論ですが,ボスがポスドクを雇う場合には一人頭の研究費の20%をポスドクに好きに使わせる,くらいで丁度いいと思います.ポスドクじゃなくて助教なんかでも同じで,雑務や教授の下請けから開放された時間と金が20%でもあると随分やる気がでてくるのではないでしょうか.ある程度余裕があってこそ,新しくて面白い発見の下地ができるのではないかと思います.

*冒頭で政治的な話は好きでないと書いたのには色々事情があります.僕自身,結論の出ない議論は嫌いです.政治的な話は議論になりやすく,いつも賛否両論で結論はありません.もちろん,議論することによって自分の認識と相互の理解が向上することもありますが,今はネットを歩き回るだけで簡単に色々な人の意見を目にすることができるでしょう.そのなかから自分なりの答えを出していけば良いかと思います.「そういうことを言っている人もいる」くらいの認識で結構じゃないでしょうか.実際に政治を動かす偉い人の立場だと他人のコンセンサスを取らなければいけないので別であると思いますが,われわれ下々のものにとっては他人を説得する過程にはあまり意味は無く,自分なりの結論さえあれば十分です.というわけでこの手の話題はすべてコメント不許可にします.

2007年7月17日火曜日

業務連絡

コメント書き込めないぞ(#゚Д゚)ゴルァ!!

というお叱りをいただいたので確認してみたら,確かにいつの間にかコメント不許可に設定されていました.辺鄙なブログなのでコメントを貰うことなど少ないと思いますが,修正しましたので何かあったらよろしくお願いします.ミス(誤記・誤解)の指摘をしてもらえると一番助かります.

最近仕事でわからないこと出てくると先ずはGoogleかWikipediaを調べるのですが,かなりの確率でヒットするブログがあります.とある大学の先生のブログなのですが,研究の方法論が重なっているのでとても参考になります.そういった地味に役立つところを目指していますが,どうでしょうか.

最近忙しくて,論文紹介ができないのが残念です.我を忘れるほど刺激的な論文が少ないせいもあります.HartlのラボでGene expressionのEvolvabilityを扱った論文がScienceで発表され興味深かったのですが,残念ながら理解に少し時間がかかりそうなので,少ししか目を通していません.遅くなりますがいつかコメントしたいと思っています.
EvolvabilityのEvolution(笑)に関してはまだ自分の中でスッキリした絵が描けていないせいもあります.

2007年7月16日月曜日

2007年学会夏の陣

3連休でしたが,日本霊長類学会に出席してきました.初めての参加です.

普段あまり話さないような研究者の方と情報交換できたことは有意義だったと思います.自分の発表もありましたが,予想通り詰め込みすぎの内容でした.今回の話の目的は,細かい内容を理解して貰うというよりも,これまで色々と研究を行っていることを認知していただくお披露目式だと思って発表いたしました.慌しくて申し訳なく思います.おそらく次回も参加させていただいて今年の研究内容を発表すると思いますが,次からはゆっくりと話すことができるかと思います.

学会賞,最優秀発表,学会誌賞の表彰があったのですが,同級生と後輩がそろって受賞しました.どれも素晴らしい研究で良かったと思います.おめでとうございます.

ちなみに,秋の進化学会ではまったく別のことを発表する予定です.進化学会ではとある有名人が参加するようですが,帰ってきてネットを見てみると末期的な症状になっていました.できればかかわりあいたくないので,当日白い服を着ていくのだけはやめにします.煽って楽しんでいる人もいるようですが,そろそろ自粛したほうが良いのでは無いでしょうか.

2007/7/17追記

学会で思い出しましたが,冬には分子生物学会と生化学会の合同大会があります.分子生物学会はあまり重視していないですが,一応毎年発表を行っています.今年は懇親会があるようですが,果たしてどこでどうやってやるのやら.2~3千人くらい出席するんじゃないですか.入る箱があるのでしょうか.本当にやるのかな.8千円とってあまりにもショボいものが出てきたら暴動が起きますよ.懇親会費は自腹ですからね.

この大会は毎年数千人が参加するまさにカオスな学会です.ポスター発表だけで4千題近くあります.間口が広く色々な人と会えますし,ここぞとばかりに業者さんが販促グッズを配ってくれるのでそれが楽しみで参加しています.ただ,今度からは「分子生物学祭り」と名前を変えるべきだと思っております.


2007年7月11日水曜日

くとうてん

あまり日本語でちゃんとした文章を書くことが少ないのですが,縦書きのときの句読点は「、」と「。」,横書きのときは「,」と「。」もしくは「,」と「.」,というのが一般的なようです.昔教えてもらったことがありました.

今までは普通に日本語入力すると「、」と「。」が真っ先に出てくるのでそのまま使ってましたが,今回は「,」と「.」を使ってみました.ただし,横書きから縦書きに直すときはすべて変換しないといけないですね.それならば最初から「、」と「。」で通したほうがいいのか.確かに横書きに「、」と「。」は違和感があるような気もしますが,縦書きに「,」と「.」を使うことに比べればマシでしょう.

情報の構造からすると,内容と見え方は独立させて保存したほうがのちのち有効に活用できると思います.つまり,文章さえ独立して保存しておけば,縦書きだろうが斜め書きだろうが,見え方を決めるプログラムをいじるだけで中の文章に影響を与えず変える事ができます.ブログなんてのは典型的で,ボタンをポチポチ押すだけで全体のデザインを簡単に変更できてしまいます.

社保庁じゃないですが,データの移管というのはデータ管理の中でもっとも大変な仕事です.できるだけのちのちに楽な仕組みで保存しておくのが良いポリシーだと思います.代案としては,横書きの「,」と「.」はすべて全角を使う.そうすれば文章中にあらわれる「0.01」などと区別できるので,一括で変換できるでしょう.

と,句読点はいい加減にやっていますが,気になるのは全角の英数字.全角英数字を見ただけでじんましんが出そうになります.送ってきた文書に全角英数字があった場合にはすべて修正しないと気が済みません.こういう人,結構いますよね?


2007年7月10日火曜日

売り込みメール

バングラデシュで学校の講師をやってる方からphDコースに入りたいとのメールが来ました。学生やポスドクの働き先を探すこの手のメールは結構あります。ほとんどは宛名が"Dear Sir"で始まり、内容はこちらの研究内容に全く触れていないものが多いです。恐らくコピーでウェブ上の研究者に配りまくっているのでしょう。僕が学生の時に「ポスドクにしてくれ」ってメールも来たことがあります。こっちは学位すら取ってないのに...。酷いときには、送り先が100件くらい全部ccに入っていたのもあります。そういったメールは即ゴミ箱行きです。

今回のメールはきちんと研究内容にも触れていてくれてたのですが、残念ながらうちのラボは学生は取れません。きちんと返信しておきました。

しかし、アメリカもそうですが、みなさん売り込みに非常に力を入れています。出る杭は打たれる日本の文化はなんとかならないでしょうか。もう少し自分から売り込みやすい世の中になれば、現在巷に溢れかえって問題になっている博士の専門性も少しは消費されると思っています。

2007年7月4日水曜日

準備怠慢

最近、プライベートでもそうなんですが、ギリギリまで宿泊やチケット予約をしない癖がついてしまいました。インターネットでポチポチとやるだけで予約ができるようになったのは便利です。しかし、「面倒だなぁ」と心にのしかかってくるものが無いために、思い出したように予約すると既に良い宿や便が無かったりするんですよね。

今回も然り、学会の発表準備はほとんど終わってるんですが、宿を取るのを忘れていました。インターネットも使えないし駅からも遠いところしか取れませんでした。次からは気をつけろ自分。

2007年7月2日月曜日

カマキリの雨宿り

先日夕立が降ってきたので窓を見ると、カマキリの幼生がガラスの上で雨宿りをしていました。雨の間だけ捕獲して観察。

カマは少し小さいようですが、他の部分は小さいのにしっかりしたかたちをしています。カメラを向けるとカマを持ち上げてユラユラと威嚇してきます。この大きさだと小さい獲物しか捕まえられませんね。

生物学を学んでいる人には多いと思いますが、僕も子供の頃は昆虫が大好きでした。綺麗な虫だけじゃなくて、ゴミムシとかオサムシとかそんなのまで捕まえては虫かごに放り込んでいました。機会と時間があればムシの研究もしたいですね。留学先ではショウジョウバエのこともやったんで、一応昆虫の研究ってことになるのでしょうか。ハエの世話は他の人がやってくれてたので、頭をすりつぶしてRNAを取っただけですけど。

行動やら形態やら、哺乳類よりは少ない数の遺伝子で決まっている形質が多い気がします。面白そうなものが山のようにあるのではないでしょうか。ただし、多くの人がモデル生物としてショウジョウバエを扱っているように、ミュータントを取って遺伝子の機能を調べる仕事にはあまり興味がありません。自然界にある変異こそが自然について教えてくれるのだと思っています。興味のベクトルが生命の還元的理解にあるか、自然史の理解にあるのか、似たようなことをやっていても大きく違っているのではないでしょうか。

2007年6月28日木曜日

オープンレビューは何故上手くいってないのか

Natureの記事です。以前PLoS Oneの紹介もしましたが、それら新しいレビューシステムに対するコメント。
http://www.nature.com/nature/journal/v447/n7148/full/4471052d.html
こちらはもう少し前の記事。
http://www.nature.com/nature/peerreview/debate/nature05005.html
簡単なコメントですので、もう少し掘り下げてみます。

現在の論文査読システムは、編集者が論文を受け取ったあと、匿名の査読者数名に論文の査読を頼み、意見を聞いてから論文の受理を決定するというシステムです。

このシステムの欠点を一部あげると、
1. 査読審査に時間がかかる
2. 匿名の査読者が、公開前に論文の内容を知ることになる
3. 匿名の査読者が自分の都合の良い、またはいい加減な評価を下すことがある

ということがあげられるでしょう、ポイントは査読者に全くリスクが無いということです。

そこで考えられたのは、論文をWebで公開して、それに対して非匿名のコメントを集めることによって論文の是非を決めようというものです。これならば投稿後ただちに論文を公開することもできますし、非匿名の査読者が足を引っ張ることもありません。

一見これこそが次世代の論文評価システム、というように聞こえますが、実際に行われた結果は必ずしも上手くいっていません。Natureはオープンレビューのテストを打ち切りましたし、既に発信しているBiololgy DirectやPLoS Oneは論文の数こそ順調なもののコメントはほとんどありません。ただ、査読者のコメントが非匿名で公開されているので、興味を持って深く読む分には読者の助けになるでしょう。両者とも、問題点(1)であげたような、査読のスピードがメリットになる種類の論文よりも、一般の雑誌では採用されにくそうな仮説を立てた論文が多く見受けられます。

問題点はどこにあるか。やはり、自分の名前を晒してコメントをつけたがたる科学者が少ないからでしょう。もともと査読というものから直接的な利益というものは発生せず、完全なボランティアの仕事になります(ただし、悪意を持てば他人の論文を盗むこともできます)。匿名でノーリスクであるのならともかく、リスクを背負ってわざわざ他人の評価などしたくないというのが本音でしょう。自分のコメントが見当違いであった場合には自分の立場すら危うくします。

Natureのケースは更に違う事情があります。論文の公開が受理につながらないので、論文が不採用であった場合には一般に登校中の論文の内容を公開しただけという結果になってしまいます。これは投稿者にとって大きなリスクです。Biology DirectとPLoS Oneの問題は論文の質の維持といえるでしょうが、Natureのケースでは投稿が無くなって終了というのも納得できる結果です。

時間をかけて練った自分の論文ならば公の批判も受けることができますが、他人の論文を読んでコメントするのに地雷を探しながら進むようなマネはしたくないでしょう。口頭で議論をするのと文字として議論が一般に公開されるのとでは、気分は随分違います。これは個人的な意見ですが、政治家は言った言葉を大切にしますが、科学者や文筆を生業とするものは書かれた言葉を大切にします。

捏造を見抜けないシステムであるなど、色々問題点もありますが、なかなか良い代案を得られないのがこの匿名査読者によるレビューシステムのようです。ただ、色々と新しい試みをすることは良いことであります。そのうちすばらしい代案が出てくるのでしょうか。インパクトファクターに追い立てられる毎日の研究生活はできるだけ早く終わって欲しいところです。

2007年6月22日金曜日

インパクトファクター2006

科学論文雑誌の評価基準のひとつにインパクトファクターというものがあります。2年間の論文の被引用回数を総掲載論文数で割ったもので、この値が高いほど他の研究によく引用されている、すなわち注目度の高い雑誌ということになります。

個人的な意見を言わせてもらうと、この数字はひとつの目安にはなるけれども、それだけを追い求めるのは愚の骨頂であると思っています。と、大声でいいたいところなのですが、最近は常に競争原理の導入とかで、一点でも点数の高い論文を出さなければいけないという風潮にあります。

したがって、ある程度自分のポリシーと妥協せざるをえないところがあります。僕は基本的には「できるだけ多くの興味ある人に読んでもらう」ことを目的として雑誌を選んでいます。ある程度研究を続けてくると、この雑誌にはこういった傾向の論文が多いとか、この雑誌は最近質の悪い論文が多い(有名なラボの論文が掲載されていない、逆につまらない論文が有名ラボという理由だけで載っている)とか、そういうことがわかってきます。そういった判断が正しいか間違っているかはともかく、単なる数字ではなく自分なりの基準を持っておくことは大切であると思います。

さて、雑誌の点数に固執することの問題点は他にもあります。それは、この点数が毎年変わるものだということです。最近2年間の成績が反映されるので、色々な条件によって上下降します。基本的には業績の評価は評価時点での点数によって決定しますので、昔点数が高かった雑誌に載ったからといって、必ずしも現時点での評価が高いわけではありません。今週になって2006年度のインパクトファクターが一斉に発表になりました。生物系の歴史がある中堅雑誌は点数が下がっているところが多いですが、Nature、Cellの姉妹紙の増殖やPLoSシリーズなどの存在が大きくなっているのだと思います。実は僕も先日論文を投稿した雑誌の点数がガクッと下がっていたので少しガックリきています。まあ、本命の雑誌に蹴られたあとの敗戦処理みたいなものなので仕方が無いですが。

点数の変化に対応するには、やはり情報収集に尽きるでしょう。最近はE-mailで目次が送信されてくるサービスが多くの雑誌に存在するので、最新の情報は常に入ってきます。雑誌を取っていなくてもアブストラクトなら簡単に読むことができます。それを読んで点数の変化を予想するか、それとも点数などに惑わされずに自分が良いと思った雑誌に投稿するか。どちらの方針も可能性があると思います。

進化の研究は層がそれほど厚くはないので、Nature、Cellやその姉妹紙に蹴られたときの受け皿はそれほど多くはありません。最近少し残念なのはNature GeneticsがHuman Geneticsの記事に偏ってきていることでしょうか。昔はわりとEvolutionの話があった気がするのですが、最近は病気の原因遺伝子の話ばっかりです。その代わり、最近できたPLoS Geneticが進化から病気までわりと幅広く遺伝学の話を載せているようです。Nature Evolutionary Biologyなんてできたら面白いかもしれませんが、その下の中堅雑誌が軒並み死亡しそうで、そこらへんによく論文を出させてもらっている僕のような人間には複雑な気分であります。

2007年6月19日火曜日

系統樹オーム

以前のエントリーで話題にした系統樹がらみの話を見つけたので紹介します。

The human phylome. Genome Biology 2007, 8:R109.

39のゲノム配列が解析された生物の遺伝子を全部ぶち込んで系統樹を作りました、というものです。方法は最尤法とベイズ推定、とても計算量の多い方法です。140個の64ビットプロセッサのクラスターで2ヶ月、シングルプロセッサだと23年かかる計算のようです。まさに力技。

しかし、モデルを複雑にして、数も増やして、とやっても結果は微妙のようです。特に以前も話題にした霊長類-げっ歯類-ローラシア獣類(イヌ、ウシ)の関係は、ネズミが一番根元に来るという結論のようですが、次のようにも断っています。

>Here too, differences in the relative evolutionary rates, and the possible long-branch attraction effect, might have an effect on the high proportion of trees showing rodents at a basal position, since rodent sequences have been shown to have the highest rates of substitutions when compared with primates and artiodactyls.

従来の方法ではなく、何か別の考え方が必要かもしれません。僕の意見では、哺乳類の拡散が一度にどっと起こった、または祖先集団の集団サイズがとても大きかった、という感じがしますが、化石などの証拠からはこのような説のサポートがどこまでできるのかが気になります。

2007/7/17追記

極端な種の分化が起こるためには,集団のサイズは十分大きくなければいけない.というようなアイデアを既にダーウィンは「種の起源」で考えていました.なぜなら,種が適応する原因となる突然変異のインプットがある程度多くないと,有利な変異は後の交配でどんどん薄まってしまうと考えていたからです.現在の理論ではこの理論は少し修正されています.ダーウィンは変異のインプットの大小だけを考えていましたが,大集団では遺伝的浮動の効果が減少するので,有利な変異はより確実に固定することが理論的に示されています.

2007/7/18追記

http://www.nature.com/nature/journal/v447/n7147/full/447918a.html
有胎盤類の共通祖先が今までの予想よりずっと最近ではないかという化石証拠が見つかったという論文です.あまりにも従来のデータと離れているので再考が必要かもしれませんが,爆発的な拡散を示す興味深い示唆です.

2007/7/19追記

http://mbe.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/msm094v1

Rates of Genome Evolution and Branching Order from Whole Genome Analysis
別のグループの論文.こちらは霊長類に近いのは食肉類という結果.

2007年6月8日金曜日

ポッサムとオポッサムの違い

読んでくれと頼まれた論文にオポッサムのゲノム配列を利用したものがあったのですが、ポッサムと書かれています。気になったので調べてみました。

・ポッサムは有袋類フクロギツネ科、オーストラリア、ニュージーランドに分布
・オポッサムは有袋類オポッサム科、南北アメリカ大陸に分布

有袋類はカンガルーやコアラなどと一緒で胎盤が発達しない哺乳類の仲間です。主にオーストラリア大陸に住んでいますが、オポッサムはアメリカ大陸にも分布しています(正確に言うとオーストラリアとアメリカ大陸だけで生き残った)。

ということで、オポッサムとポッサムは違う生物を指しているのですが、

・英語ではopossumをpossumと略して呼ぶこともある(狸寝入りのことをplay possumと呼ぶ)
・Colloquially, the Virginia opossum is frequently called simply possum.
英語WikiPediaより引用

ようです。なので慣用的にはopossum=possumであるが、学術的には違います。

ちなみに、最近ゲノム配列が決定されたのはオポッサム(
Monodelphis domestica)のほうですので、ポッサムと書くのは不適切でしょう。

--

2012年8月28日追記

ふとしたはずみで上の文章が間違っていたのに気づきましたのでお詫びして訂正します.

ゲノムが読まれたのは,Monodelphis domestica,これはOKですで,これはアメリカに住んでいるタイプです.でもってポッサムにはもう一つ使い方があるようです.慣用的にアメリカでポッサムと呼ばれるほかに,wikipediaによると,

"A possum (plural form: possums) is any of about 70 small to medium-sized arboreal marsupial species native to Australia, New Guinea, and Sulawesi (and introduced to New Zealand and China)."


ということで,前者の意味ではゲノムが読まれたのはポッサム,後者の意味ではオポッサムということになります.

2007年6月6日水曜日

クリティカルシンキング

病気の原因の話の続き。文章を書いたときはまだ書き足りなくて続くと書くのですが、後になってみると何を続けたかったのか忘れてしまうことがあります。先週のコメントのつづく...は何に続くのか。BSEが発症してきたようです。

覚えている限りは続けていきます。その代わり脱線します。

病気の原因である遺伝的変異を見つけるには様々な方法がありますが、その一つにアソシエーションスタディというものがあります。図をみると一目瞭然です。



病気になる病気にならない
変異を持っていない1040
変異を持っている4010

変異を持っていないの20%(10/50)が病気になるのに対して、変異があると80%(40/50)の人が病気になります。しかし、変異があるからといって必ずしも病気になるとは限りません。こういうときには、この変異は病気に対してリスクが高いといいます。これが統計的に有意かどうかを確かめる方法は幾つかありますが、例えばFisherの検定法を用いると、観察結果が起こる確率は10のマイナス8乗以下、つまり1000万分の1以下になります。ただし、この表が必ずしも適切な比較とは限りません。それも疑ってかかる必要がありますが、それについては次回書きます。

さて、この2×2の表はクロス集計表とも言って、客観的考え方の基礎になります。

ある薬を飲んだら、50人のうち40人の病気が治ったとしましょう。さて、この薬は有効かどうか?

答えは「わからない」です。本当の結果を見てみます。



病気が治らない病気が治る
薬を飲む1040
薬を飲まない1040

薬を飲んでも飲まなくても80%の人が治るので、薬を飲んだから治ったとは言えません。これは極端な例ですが、客観的に何かを判断しなければいけないときにはこういった考えが役に立ちます。日常的にこういった考えができる人は良いのですが、巷に溢れる俗説や疑似科学、安易な健康志向などをみていると、そうでない人は多そうです。また、普段は論理的な考えができても、物事が複雑になってくると途端に思考停止におちいることもあります。こういって批判的に現象を読み解くことをクリティカルシンキングと呼びます。

大事なことは、常にこういった視点でものを見るには、訓練が必要だということです。こういった感覚は、論理的に解釈して、それを他人に伝えて、それを批判されて、という仮定を経て身についてくるものだと思います。僕の好きな定義は、一人前の科学者とは、「問題を提起し客観的にそれを評価することができるような訓練を受けた人間」、であります。人間の能力も関係しますが、それ以上に正しい教育と実践の過程が重要ではないでしょうか。

ただし、どこまで実生活にこの考えを持ち込むかは人によりけりです。科学の基本は「常に疑え」ですから、その精神で毎日を暮らしていくのは随分と辛いことだと思います。職業によっては、理屈など屁のつっぱりにもならない分野もあるでしょう。理屈じゃないところがあるから人間社会は成り立っているのではないでしょうか。まあ、そこらへんの解釈は社会心理学者にでも任せるとしましょう。

つづく...

2007年5月31日木曜日

生物の複雑さは適応の結果かどうか

Michael Lynch The frailty of adaptive hypotheses for the origins of organismal complexity PNAS 2007 104: 8597-8604
実際の講演の様子がストリーミングで視聴できます。


先日の僕のエントリーでもたまたま述べたのですが、表現型の進化を何でも適応的に解釈してしまうことに対する反論です。少々議論が飛躍しているところもありますが、考え方としては面白いと思います。

彼の考え方は非常にシンプルです。集団遺伝学の理論に基づくと、集団サイズの大きい生物ほど遺伝子にかかる淘汰圧は強くなり、小さくなると弱くなります(ヒト-チンパンジーの話を参照)。集団遺伝学の理論は突然変異とその集団中での頻度の変化という概念に基づいた理論です。これは現代的な進化の解釈そのものになっています。すなわち、バクテリアからヒトまですべてがこのルールに従って動いていると仮定されます。

バクテリアなどの原核生物から哺乳類のような複雑な生物を見渡してみて何が違うか。集団遺伝学の立場からは集団サイズの大きさと突然変異率の違いがもっとも大きいものであると考えられます。突然変異率は、ある方向への偏りが無い限りは相対的な淘汰の強さには影響しないので、生物の複雑さとより強い相関関係にあるのは集団サイズのほうであるということができます。自然界を見渡してみると、生物が複雑になればなるほど、その集団サイズは小さくなっていく傾向が見られます。例えば、ヒトは約0.1%程度のDNAの個体差を持つ集団を形成していますが、ショウジョウバエの個体差は約1%程度、酵母などの単細胞生物は10%くらいDNAが違っていても平気で遺伝子を交換します。

Michael Lynchは、「生物の複雑さは単なる淘汰圧が弱まったことだけでも説明可能であるから、あえて適応的解釈を持ち込まなくても良い」、と主張しています。真核生物の遺伝子はエキソンーイントロン構造を持ち、非翻訳領域や複雑なプロモーター、多数の重複した遺伝子族を持ちます。我々はついつい、これらの複雑性が持つメリットのみを考えてしまいますが、ゲノム構造が複雑になれば負の淘汰圧(コスト)は大きくなり逆にデメリットとなります。Lynchは色々な例を挙げて、これらが必ずしも適応を必要しないと説明しています。

ここで問題になっているのは、「果たして本当はどうだったのか?」、ということではありません。もし検証により適応的な証拠があがるのならば、適応的な結果だったと結論づけることができます。しかし、中立的に証明できることにわざわざ適応という仕組みを持ち出すことはないということは、不必要な説明はできるだけ省く(オッカムの剃刀と呼ばれる考え方)のが科学的に正しいだろうというスタンスに立っての発言なのです。

僕は、彼の主張はもっともであるが、複雑さが適応的だという仮説を立てて何かしら研究を行うのは良いことだと思います。色々な生物のゲノムがわかってくると、更に面白いことがわかっていくでしょう。ただし、それはあくまでも仮説だということを理解していなくてはなりません。盲目的に適応を当てはめていっては、真に進化を理解することはできないのではないでしょうか。

つづく...

2007年5月24日木曜日

DNA鑑定の限界

たまには息抜きの記事でも紹介します。

Who's Your Daddy? Paternity Battle Between Brothers


最近ではすっかり法廷でも定着したDNA鑑定ですが、現在の科学手法にも限界はあります。

ことの発端は双子の男性が同じ女性と関係を持って子供ができたことに始まります。残念なことに二人共に責任を相手に押し付け、自分は関係ないと言い張りました。

問題は法廷にまで持ち込まれDNA鑑定が行われましたが、予想通りというかなんというか、DNA鑑定では一卵性双生児の区別はつきません。子供と母親のためにも早いところ法廷闘争が終わると良いですね。どちらの子供にしても遺伝的には自分の子供と変わらないわけですから。

2007年5月21日月曜日

ハエの「自発的意志」

Order in Spontaneous Behavior
Alexander Maye, Chih-hao Hsieh, George Sugihara, Björn Brembs

なかなかセンセーショナルなニュースタイトルなので目にした方も多いと思いますが、幾つか但し書きを。内容は、目隠しをしたハエが非ノイズ的な行動パターンをしたという実験結果です。それが何故自発的意志を示唆するのでしょうか。

まず、この論文が掲載されたジャーナルについて少し説明をします。PLoS ONEというジャーナルです。PLoSシリーズはアメリカの学者が先頭になって作ったジャーナルで、「オープンアクセス」と「オンライン」が合言葉になっています(実際は紙媒体もありますが)。つまり、「タダ」で「インターネット」で読める雑誌ということです。NatureやScienceなどの一流科学雑誌は商業誌ですが、これらに対抗したものと考えても良いかと思います。

その中でもPLoS ONEは最近できた変わり者で、査読は必要最小限(技術的な評価のみ)にして、あとの論文の評判は、オンラインでつけるコメントによって決めていこうというものです。このアイデアはこれまでの、査読審査->論文掲載=研究の評価、というともすれば権威主義になりやすい評価機構ではなく、新しい発見をしたらとにかくウェブでオープンにして、そのあとで評価を決めましょうというものです。最近の記憶では、ポアンカレ予想をしたロシアの数学者の論文は科学論文雑誌ではなく、インターネットで公表されたものでしたが、後に評判を得て信頼性が評価されました。こういったプロセスを目指しているのでしょう。

というわけで、この雑誌に載ったからといってそれが科学権威によってお墨付きを与えられたものではないということは注意すべきです。

さて、問題の自発的意志ですが、著者のブログによると、論文では一言もこの言葉は使われていないのですが、アメリカのマスコミからはこの言葉(free will)を使っても良いかという問い合わせがあったようで、本人はそれを許可したようです。前もって言葉の使用について著者に断るというところはアメリカのマスコミの誠意ある行動と言えるのではないでしょうか。

僕は、非ノイズ的な行動パターン=自由意志というところが勉強不足で理解できないのでコメントは避けますが、一見ランダムに見える複雑な行動の中にパターン性を見出すという方法論では面白いところがある論文だと思います。単なるノイズなのか、それとも意味があるパターンなのか、ともすれば宇宙からの電波を拾って宇宙人からのメッセージを解読するような研究になってしまいそうですが、生物の研究も近いうちにこの問題を深刻に考えなければいけなくなると思います。

兎に角、上記のジャーナルサイトでは査読者のコメントも見ることができるので、こういった賛否両論な論文でこのジャーナルシステムがどう機能するかが楽しみなところであります。

2007年5月16日水曜日

単一遺伝子の頻度依存型選択による行動の多型の維持・2

ショウジョウバエのforaging遺伝子には自然集団で二つの対立遺伝子、RアリルとSアリルが知られています。Rアリルを持つ幼虫はSアリルを持つ幼虫より餌を探してよく動き回ります。foraging遺伝子の正体はとあるリン酸化酵素のようです。

Sokolowskiのグループは、この二つの遺伝子型を持つ系統を色々な割合で混合し栄養不足の状態で飼うと、お互いに最初の頻度が低いときほど生き残る率が高いということを示しました。片方にGFPを遺伝子導入して、遺伝子型の違いが目で見てわかるようにデザインされています。高栄養条件ではこのような違いは見られませんでした。自分(遺伝子型)の頻度が低いほど適応度が高くなるので、負の頻度依存型選択と呼ばれます。

二つの系統は遺伝型のバックグラウンドが違うので、foraging以外の遺伝子が関わっている可能性があります。これを反証するために、片方のタイプのforaging遺伝子だけを別のタイプに置き換えても、同じような傾向が観察されました。

この論文では、単一の遺伝子によって行動が変化し、更に頻度依存的に選択圧が変わるということが遺伝学的に示されています。自然状態では栄養条件は悪いほうにあると考えられるので、このような行動の多型(戦略)が自然集団に維持されていることの説明になります。その場に居座っている個体が多いと、それを出し抜いて動き回る行動のほうが有利になり、逆にみんなが動き回って食べ物を探している状態では無駄な競争を避けて、我慢して動かずに餌を食べるという戦略が理にかなっています。二つの行動の割合は環境が一定である限りどこかの値に落ち着くでしょう。このような遺伝子はこれからもたくさん見つかってくるのではないでしょうか。

2007年5月15日火曜日

単一遺伝子の頻度依存型選択による行動の多型の維持・1

Maintaining a behaviour polymorphism by frequency-dependent selection on a single gene
Nature 447, 210-212 (10 May 2007) | doi:10.1038/nature05764; Received 12 January 2007

表題の日本語訳はNature Japanによるものですが、論文のオフィシャルな日本語訳って難しいですね。直訳すると表題のようにわけがわからなくなるし、かといって意訳するのも本来の目的から考えてどうかなといったところです。

このブログでは単なる日本語訳ではなく、僕の解釈を添えて論文を引用していきます。というわけで、最初に自分のスタンスを明確にしておくことが必要だと思ったので、まずはそこから始めます。

ダーウィン的な進化生物学の命題の一つに、生物の表現型がどれだけ、またはどうやって環境に適応しているかを明らかにするということがあります。表現型というのは生物の形態だけでなく、行動も含まれるすべてのものです。ダーウィンの自然選択説では、生存に有利な個体が多くの子孫を残す確率が高くなり、そのような形質が遺伝することにより、生物の多様性が作り出されます。

したがって、現在に生きている生物の形質は多かれ少なかれ自然選択を受け環境に適応していると考えられます。キリンの首が長いのは高いところの葉っぱを食べるのに有利だったからでしょうし、イルカが四つ足を失ったのも海での生活に適応した結果でしょう。

しかし、ここに落とし穴があります。進化学者はついつい「生物の形態・行動は適応的である」ということを前提にしてしまいがちです。なぜなら、それが仕事であるし、興味の対象でもあるからです。しかし、適応的でなくともたまたま決まってしまった形態や行動は存在するでしょう。遺伝学者のLewontinが遺伝子決定論者に対して挙げた例を真似てこういう質問をしてみましょう。「子供がホウレンソウを嫌いで大人は嫌いではないというのは生物学的に適応している結果ですか?」

もちろん適応的な説明はできます。子供の成長に必要なカルシウムの吸収はホウレンソウに含まれるシュウ酸によって阻害されるので、ホウレンソウの苦味を幼年期に嫌いになるようにヒトの味覚は進化してきた、ということはできます。しかし、この説明を聞いて「なるほどな」と思ってしまってはダーウィン教の信者と呼ばれても仕方ありません。科学的には説得力のあるデータを与えてこれを証明しなければいけません(自然科学と進化学の話はここでは割愛)。特に、行動は形態よりも複雑なものです。生物の行動もすべて適応的であると解釈すること、特にそれをヒトに直接当てはめることは危険です。飲み屋で一杯飲みながらする分には面白い話ではありますが。

さて、以上の文章は行動の進化学について否定するものではありません。きちんとしたデータと真面目な解釈が大事であるということです。

僕は遺伝子を用いて進化を検証するという立場で研究を行っています。とすると、行動の進化を調べるには「行動を決定する遺伝子」というものが存在しなければなりません。本当にそういった遺伝子は適応的に進化しているのでしょうか。

もう一つの疑問は、ゲーム戦略という行動に関わる遺伝子が本当にあるかどうかです。ゲーム理論とは行動の進化と多様性を説明する重要な理論ですが、一つ大きな問題があります。それは、タカ派、ハト派などと呼ばれる戦略を決定する遺伝子が本当にあるかどうかということです。そういう行動をする個体はこれまでに観察されていますし、生態学者によって様々な研究が行われています。しかし、そのメカニズムはなんであるのか、ということの証拠は乏しいとしか言えません。おそらく、ヒトを含む哺乳類などでは単一の遺伝子によってある行動が制御されているという例は想像が難しいでしょう。行動というものはいくつかの遺伝子が強調的に働いて決定されており、「ホウレンソウを嫌う遺伝子」や「人見知りの遺伝子」といったものは存在しないはずです。

表題の論文では、ショウジョウバエを実験に用いています。大腸菌の走化性も行動の一種ですが、昆虫などは遺伝的にプログラムされた複雑な行動をとるので、行動の遺伝的研究にはおあつらえ向きです。単一の遺伝子が行動に影響を与え、その行動は主に他者との競争に関わります。そのような遺伝子が存在すること、更に頻度に依存して自然選択を受けているのではないかというデータが示されています。

つづく...

2007年5月10日木曜日

遺伝子の参照名を使おう

Natureのコメント
Human reference sequence makes sense of names. Douglas L. Crawford

遺伝子にはいくつもの名前があります。なぜかというと、遺伝子を発見した人がそれぞれ好きな名前をつけてきたからです。ある人はタンパク質の結合性からX結合タンパクと呼ぶかもしれませんし、ある人は細胞内の代謝系に注目してX化合物リン酸化酵素と呼ぶかもしれませんし、またある人は遺伝子の変異体が行動へ影響を与えるので「恥ずかしがり屋」遺伝子とか呼ぶかもしれません。

ところが、研究がどんどん進んでくると色々な人が研究した遺伝子が実は同じ遺伝子であることがわかってきます。「同じ遺伝子」という定義は厳密には難しいですが、ここでは、「ゲノムの同じ場所から転写されている機能ユニット」としましょう。この概念は、色々な生物のゲノム配列が解読されたことにより決定的になります。ゲノム配列の決定とは、それぞれの遺伝子に住所と番地を与えるものです。つまり、今まであかの他人だと思っていた人たちが実は一つ屋根の下で暮らす家族の一員であったということがわかってきます。そうであれば、個々の家を個人の名前ではなく表札の名前で呼んで住所と一対一で対応させることによって色々な研究者が情報を交換できるようになります。

しかし、この考えはゲノム指向の研究者には受け入れやすい提案ですが、遺伝子指向の研究者にはなかなか受け入れられません。やはり、自分で見つけて名づけた遺伝子や慣れ親しんだ遺伝子の名前には愛着があります。実際のところ、論文では統一的な名前よりも、昔から使われている名前を使われることがよくあります。そもそも、統一名が何なのかすら知らない研究者は数多く存在します。

遺伝子の統一的な命名は、HUGOという組織が古くから推進しています。実際は「統一」という言葉よりも「参照」という言葉が適切でしょう。遺伝子の色々な名前はそれぞれの一面を示していますから、どれが本物でどれが間違いであるかという問題ではありません。ある参照をデータベースで引けば、それがどのような別名を持っているのかがすぐにわかります。中立的には単なる番号で呼べば良いのでしょうが、便宜的に代表的な名前の
アルファベット3~5文字程度になる省略形が用いられています。

また、現在はNCBIがEntrez Geneというデータベースを作製しており、基本的にHUGOの名称に基づいて独自のIDを振り、PubMed、RefSeq、OMIMなどのNCBIデータベースと統合されています。他にもヨーロッパのEnsemblや日本のH-Invなどが代表的な統合データベースとして知られています。これらの大規模なデータベースは相互の関係もしっかりと構築され、どれとどれが対応するのかが整理されています。

一つの遺伝子の機能を追い求めることも重要ですが、その生物学的意義はその遺伝子だけを見ていてもわかりません。読者の立場を考えても、パブリックな論文に身内だけの名前を使うことはお勧めできませんし、将来の発展の可能性も失うでしょう。ただ、どうしてもHUGOの遺伝子名が気に入らない場合は申し立てもできるようです。

2007年4月30日月曜日

おとりによるウィルスからの生体防御

夏に大会が近くであるので、霊長類学会に入会しました。今まで参加していなかったのが不思議ですが、分子関係の人はどれくらいいるのでしょうかね。

それとは別に、共同研究を行っていた遺伝子に関する論文が通りました。僕は端っこの方の仕事を手伝わせていただいただけなので、論文の中心となる話については正式な情報は出版を待つとしましょう。ここでは論文本体では中心ではなかった進化的なお話を書きます。

さて、材料となったのはげっ歯類特異的な遺伝子で、アデノウィルスレセプター遺伝子が遺伝子重複により増えたものです。しかし、本来の遺伝子がもっている膜貫通領域が無く、ウィルスの結合領域が三つに重複しています。

一般的にウィルスなど病原菌は細胞の膜にくっついているタンパク質を足がかりにして細胞の中に入っていきます。例えばエイズウィルスのレセプターにはCCR5などが知られています。ところが、これらのレセプターはそもそもウィルスを中に呼び込むために存在しているわけではありません。細胞接着やシグナル伝達など、細胞が生きるのに必要な役割を果たしています。ウィルスはそれを狙って細胞の中に入ってきます。

いくつかの遺伝子はウィルスの進入を防ぐための巧妙な仕掛けを持っています。選択的スプライシングにより、ウィルスの結合部位を持ち、膜貫通領域を持たないタンパク質を放出するのです
参考論文。ウィルスが細胞内に入るためには、細胞膜にくっつかなければいけないわけですから、膜貫通領域が無く溶液中に溶けているレセプターはいわゆる「おとり」として働くと考えられています。すなわち、細胞に入ろうと結合してきたウィルスを捕まえるトラップとして働きます。最初にこの仕組みを知ったときは感心しました。生物が持つすばらしい防御メカニズムです。

このような仕組みに加えて、マウスには遺伝子重複を使ったシステムがあるのではないかということが示唆されました。実験によりこの遺伝子を余計に発現させてみると、確かにウィルスへの感染率が下がります。どうしてげっ歯類特異的なのか、上記のASを介するモデルと遺伝子重複による防御の戦略は進化的にどう違ってくるのか。遺伝子重複により、結合ドメインが増えて、より多様なウィルスの変異体をトラップできるようになっているのか。

遺伝子重複と選択的スプライシングの適応的な意味を調べるのに良いモデルとなるかもしれません。

2007年4月23日月曜日

チンパンジーの方が進化しています

More genes underwent positive selection in chimpanzee evolution than in human evolution. Bakewell et al. PNAS 2007.

「ヒトとチンパンジーが共通祖先から分かれてから正の淘汰を受けた遺伝子を数えてみたところ、チンパンジーの方におこったものの方が多かった。」

という内容です。当然といえば当然ですが、集団遺伝学の知識が無いと、当然という答えは導くことはできません。一見、ヒトとチンパンジーではヒトの方がより進化した形質を持っているような印象を受けますが、目に見える形質がすべてではありません。

正の淘汰とは何か?というところから始めましょう。正の淘汰とは、有利な形質を現す突然変異が、後の世代に急速に広がっていくことを指します。そのような突然変異を持った個体はより多くの子孫を後世に残しやすいからです。良い形質に対して淘汰が働くので、正の淘汰(positive selection)と呼ばれます。所謂ダーウィン的な進化概念の中心となるものです。

ヒトとチンパンジーを比べてみましょう。ヒトは高度な知性を持っていますし、複雑な操作、毛の無い肌、直立二足歩行など、先祖のサルには見られない多くの形質を持ちます。しかし、生物学的にみてこれらは中立な目印なのでしょうか?我々は人間です。我々は自分自身を見る場合に、自分に特徴的なものをついつい過大評価してしまう傾向にあります。

これまでの研究で、分子データ(DNA配列データ)をもとにして、正の淘汰を受けた遺伝子を発見する手法が確立されてきました。もし、タンパク質のアミノ酸置換が生存上有利に働き、急速に集団中に広まったとすると、そういった遺伝子では、アミノ酸の置換を行う非同義置換が、アミノ酸配列に影響を与えない同義置換より高頻度で集団中に固定します。ヒトとチンパンジーのゲノム配列がわかった現在、どちらの遺伝子により正の淘汰が働いたのかを調べることができるようになりました。上記の論文では、最尤法を用いて正の淘汰を受けた遺伝子を探し出し、それがヒトの系統で起きたのか、チンパンジーの系統で起きたのかを比べています。

その結果、チンパンジーの系統でより多くの遺伝子が正の淘汰を受けているという結果が出ました。集団遺伝学の理論では、淘汰の強さは集団サイズが大きくなると強くなります。集団が大きくなると、偶然によって突然変異が固定する確率が少なくなり、逆に有利な突然変異の固定する確率が上がっていきます。これまでの調査では、チンパンジーの有効な集団サイズ(生殖に関わる個体数の理論値)は現在のヒト集団のおよそ倍だとされています。したがって、集団サイズの大きいチンパンジーでは、淘汰の影響はヒトよりも大きくなります。これらの結果は当然予想されうるものであり、なんら意外性はありません。しかし、これまで論文ではっきりと述べられたことはありませんでした。

ここでは正の淘汰について述べましたが、負の淘汰についても同じことが言えます。負の淘汰とは、突然変異が悪い方向に働く結果、そのような変異が集団中か ら除かれることを指します。ヒトの系統では集団サイズが比較的小さいため、有害な突然変異が効率よく淘汰されていきません。したがって、ゲノム全体を比べ た場合にはヒトの系統でより多くのアミノ酸の変異が固定しています。たとえアミノ酸の置換が有害(致死ではない)であっても、集団サイズが小さければ偶然によって固定する確率が高くなるからです。このような理由以外にも、近年のヒトの生活環境の変化により、有害な変異にかかる淘汰圧は減少しているからとも考えることができます。しかし、それらの効果が長いヒトという種の歴史にどれだけ影響しているかはまだわかりません。

実際に正の淘汰を受けた遺伝子というものはどういったものでしょうか?

タンパク質の修飾・代謝、転写因子など、どれも直接形態的な特長には結びつきがたいものです。これは当然の結果ですが、我々はつい表面的な形質に注目しています。代謝など身体の内部で行われている環境への適応は直接は目で見えなくても生物のゲノムに大きな足あとを残しているのです。

ただし、ヒトがヒトであるための形質をつかさどるような遺伝子の中にも正の淘汰を受けたとされる候補が見つかっています。ヒトで小頭症を引き起こすMCPH1やASPM、言語障害を引き起こすFOXP2などがこれまでに挙げられています。

2007年4月19日木曜日

Thunderbird

インターネットのブラウザにはFireFox、メーラーにはThunderbirdを使っています。

FireFoxはIEより圧倒的に軽く、機能もほとんど変わりません。Thunderbirdにはベイズ推定による迷惑メール学習フィルタがついています。どちらも使いやすいのですが、不満が一つ。

Thunderbirdはディフォルトだと署名が一つしか使えないんですよね。メールによって名乗る名前を変えるようないかがわしい仕事はしていませんが、日本語と英語の署名を使い分けたいときには不便です。

と、さっき間違えてオーストラリアに日本語の署名で送ってしまってしまいました。最近のOSは文字化けしないで読めると思いますが、向こうにはチンプンカンプンですね。

漢字などはガイジンの目にCoolに映るらしいですが、英語と日本語両方併記しておくとウケが良かったりするのでしょうか。署名が倍の長さになってしまいますが、事故を防ぐためにやってみます。

2007年4月15日日曜日

盆と正月、タマゴとニワトリ

論文のアクセプトと研究費の内定が同時にやってきました。最近色々と大変だったので嬉しい限り。
研究者にとっては盆と正月が一度にやってきた感じです。

一般的には、研究費が無いと論文が書けないし、論文が無いと研究費は取れません。

では、研究費が先なのか?論文が先なのか?

なんか、「タマゴが先かニワトリが先か?」の話に似ていますね。

さて、生物学的にはタマゴとニワトリはどちらが先でしょうか?
進化生物学的な見地から書いてみましょう。

生物に起こる突然変異は、生殖細胞(卵細胞や精細胞)に起こったもののみ次の世代に伝えられます。哺乳類の胎児では、すでに始原生殖細胞が分化しています。つまり、妊婦の腹の中には既に将来孫になる予定の細胞が既にできているのです。

仮に、タマゴでは無いものからニワトリが成長したとしましょう。

これは、「ニワトリのタマゴで無いもの」に起こった変化により、ニワトリを生み出します。環境が要因かもしれませんし、体細胞の突然変異かもしれません。しかし、そのような変化は次世代には伝わりません。なぜなら、生殖細胞に起こった変化のみが遺伝的に次世代に伝わるという事実があるからです。

反対に、「ニワトリで無いもの」の生殖細胞に起こった突然変異は、ニワトリのタマゴを産みだしえます。これは簡単には想像できませんが、上の仮説が理論上おかしいなら、こちらが成り立つと考えざるを得ません。最近の定説では、鳥類は恐竜から派生したと言われています。つまり、「ニワトリっぽい鳥の生殖細胞に起こった突然変異がニワトリのタマゴを産んだ」、となります。

というわけで、進化生物学的にはタマゴが先という結論が導けます。

ただし、この場合は「(ニワトリの)タマゴが先か?ニワトリが先か?」という質問の答えです。

より広義に考えてみましょう。

殻がついているタマゴであろうが、それ以外の原始的なタマゴであろうが、タマゴという存在は進化学上、鳥類の存在より遥か昔に存在しています。殻のついたタマゴなら爬虫類がすでに持っていたと考えられますし、殻が無いタマゴは既に両生類や魚類が持っています。つまり、この場合もタマゴが先です。

さて、最初の論文と研究費の話に戻ります。

実際のところ、研究費が無くても論文は書けますし、論文が無くても研究費は獲得できます。したがって前の話のように単純には結論を出せません。ただし、「研究費を取って論文を書く、その成果を用いて次の研究費をとる」、このサイクルが上手く回っている人こそ、優秀な研究者としてサバイバルできるのでしょう。ただし、論文を書くことからサイクルに乗っても良いですし、研究費を取ってからサイクルに乗ることもできます。七転び八起き。

精進したいところです。

2007/7/17追記

もう少し考えて見ました.穴が無いか心配です.

「ニワトリのタマゴでないもの」が発生を始める前に突然変異が起こり,ニワトリになったとしましょう.この場合,生殖細胞が分化する前にそのもとになる細胞に突然変異が起これば,その変異は伝わります.

しかし、この変異は「ニワトリでないもの」の胚に起こった変異が「ニワトリ」を生み出しているのです.タマゴの殻を見てみましょう.これは間違いなく「ニワトリでないもの」のタマゴの殻です.

さて,ここでジレンマがあります.ニワトリでないもののタマゴの殻に入ったニワトリの胚,果たしてこれをニワトリのタマゴと呼ぶのでしょうか.

こう考えて見ましょう.ガチョウのタマゴに穴を開けて中身を抜き取ります.中にニワトリのタマゴの黄身を入れてフタをします.これはガチョウのタマゴか,ニワトリのタマゴか.

正確に言うと「ガチョウのタマゴの殻に入ったニワトリ」なのですが,ほとんどの人はニワトリのタマゴと答えるのではないでしょうか.そもそもこの段階ではタマゴの殻から出すということは個体の死を意味します.つまりタマゴの殻と中身をわけて考えることはできません.死んでしまえば子孫は残しませんから,次の世代にはその変異は伝わりません.過去にそういったことがあっても現在の我々は観察することができませんから,進化失敗です.

と,長くなりましたがやはりニワトリのタマゴが先ということで証明終わり.

2007/7/18追記

と,昨日寝ている間に考えたのですが,ガチョウのタマゴの殻を破ってニワトリのヒヨコが出てきたら,ガチョウのタマゴからニワトリが生まれた,ように見えるかもしれません.

というわけで更に考察します.

細胞がキメラになっている生物のアイデンティティはどうなっているのでしょう.深く考えると哲学的にハマりますので,半数より多くの細胞がニワトリの細胞なら,その生物はニワトリと定義しましょう.

つまり,受精卵が最初の細胞分裂を起こす前,もしくは最初の細胞分裂のためのDNA合成期に突然変異ができたときは,その後の個体はニワトリと呼べるかもしれませんが,それ以降に起こった突然変異によってニワトリにはなりません.突然変異の多くは細胞分裂の際に起こります.その後,細胞が生殖細胞になるまでは無数の細胞分裂を繰り返します.つまり,発生に従う突然変異率は一定とすると,ニワトリのものでないタマゴからニワトリが生まれてくる確率のニワトリがニワトリでないもののタマゴを産む確率に対する相対確率は,1÷(生殖細胞ができるまでの細胞分裂回数)になるでしょう.したがって,ニワトリが先というモデルの確率は限りなく低くなります.

2007年4月11日水曜日

間違ったリスク要因

NatureのNewsで取り上げられた記事についての紹介
Tests for heart-disease risk could be misleading
http://www.nature.com/news/2007/070409/full/070409-4.html

心臓病のリスク要因とされていた遺伝的変異を多くのサンプルを用いて確かめたところ、
85箇所について再現性が得られなかった。そのうち少なくとも7つは商業的な試験に持ちいられているものである。

という内容です。

「研究者はネガティブなデータを発表せず、ポジティブなデータを追い求めるために、少なく偏ったサンプルで決定された擬陽性の結果が発表される」といった趣旨の面白いコメントもあります。

もちろん、いい加減な解析しか行われていない研究は多々あります。しかし、理想的なデータを得ることがどれほど難しいかということは研究者自身が一番よくわかっています。特に心臓疾患は様々な遺伝的要因が絡み合って起こることが多いですから解釈は難しいです。「あなたはこの遺伝子を持っている人より3%心臓病になる確率が高い」と医者に言われるとショックかもしれませんが、人生設計に影響を与えるほどの違いはないと僕は思います。

さて、間違った因子同定の原因は何か。ここではサンプルサイズの大きさが一番の要因として取り上げられていますが、実際には様々な原因が関係します。面白いものを取り上げてみましょう。

まずは研究者の数。

自然科学の検定法では、5%の棄却水準を採用することが多くあります。つまり、「100回やって偶然では5回以下しか起こらないようなことが観察できたら、観察結果は偶然ではないだろう」と結論付けることです。

確かに100回に5回以下しか起こらないことを観察できた研究者は興奮します。しかし、逆に言うと、同じ実験を行っている研究者が100人いたら、たとえデータがデタラメでも、5人は偶然ではない結果を見つける(見つけたと思い込む)でしょう。
例えば、コインを10枚投げて全部同じ面が出る確率は約1/500です。これはめったに起こりませんが、500人が同時にコインを投げたら一人くらい出てきてもおかしくありません。

荒っぽく言うと、「論文が100本あったらそのうち5本は疑え」、ということです。
ただし、上のコインの問題を考えればわかりますが、500人に投げさせても一人も全部同じ面が出ないかもしれないですし、5人が出るかもしれません。このような確率をあらかじめ計算しておかなければいけません。

もちろん、一つの結論を導くために幾つかの方法で検証すれば、間違いの確率は減っていきますので、そのような論文は信頼度が高いとされます。

このような影響は、研究が盛んに行われている分野ほど大きいでしょう。論文に出た1本の陰に隠れて、ネガティブなデータしか出ない研究者が1000人はいるのですから。

工業的には抜き取り検査というものがしばしば行われます。工場で作った製品のうち、いくつかを抜き出して不良品をチェックするものです。工業製品にはより厳密なチェックが必要です。ネジ一つが不良であるために使用者に深刻なダメージを負わせるかもしれません。検出力と検査の手間はトレードオフの関係にあります。念入りにすべての製品をチェックするとコストがかかりすぎますし、不良品が多すぎても消費者からのクレームがきます。このようにして製品の品質をコントロールしていかなければなりません。

生物学でも、検出力の問題は重要です。ただし、工業製品と違って、すべての研究結果の質を均一に保つことは難しいでしょう。研究者にできることは、より偏りの少ないデータを使って、より詳細な考察結果を加えることにつきます。そのための知識は必要でしょう。客観的なデータさえつけておけば、後の人が別の解釈をすることもできます。上に挙げた擬陽性率などは、その後の応用にも非常に有用なものになるでしょう。

つづく...

2007年4月7日土曜日

学会費滞納

ほとんどの学会には学会費というものが存在します。学会というと研究発表の場を想像しますが、それは厳密には学会の大会で、学会と呼ぶと単なるサークルのことです。大会は研究発表の場として参加費が経費として請求できますが、学会自体は単なるサークル活動ですから、学会費は自腹で払わなければなりません。

学生の頃から入っていたとある学会ですが、留学を機に脱会したはずだと思っていたら抜けていませんでした。その結果滞納された学会費6年分を、先日、重い腰を上げて全額払いました。計5万円也...

と思ったら早速5年分の学会誌が段ボール箱で送られてきました。土曜日到着は勘弁です。本は場所がかさむから大変なんですよね。WebでPDFを落とせるようにならないでしょうか。

2007年4月3日火曜日

拠点形成

エイプリルフールに嘘をつく暇も無く4月が始まってしまいました。これで現在の研究所は3年目になります。交通機関もやっと整備されてきたので、気分も一新です。

さて、ポスドクで居候させてもらったシカゴ大学の進化生態学分野が、来年度に向けた研究大学の格付け(U.S. News and World Report)でEcology & Evolutionの分野で一位を確保したようです。他の大学に比べるとサイズの小さい大学ですが、ここでは、一箇所に世界的な研究者を集めるという理想を掲げて実行に移しています。権力のある人間はついついお山の大将になってしまいますが、研究者として成長するには常に切磋琢磨しているのが理想です。

日本の大学院なども重点領域を設けていますが、果たしてそれが如何に作用するか。アメリカの大学との大きな違いは、日本の大学の偏差値による序列です。

アメリカでは、「私は○○の研究をしたいから、その分野で有名な○○大学に行こう!」といったことが決められますが、偏差値を気にしてしまう日本では、入るときの難しさ優先で大学を選んでしまう人が多いでしょう。国立大を一度解体して序列を無くす、官僚の学閥を全部廃止する、なんてくらい滅茶苦茶やらないとそこらへんは直らないかもしれません。

2007年3月27日火曜日

クローンオオカミ

韓国の黄教授を含むグループがクローンオオカミを作ったようです。

絶滅の危機がある生物を救うことに異議はありませんが、二匹のクローンを作るためにどれだけの胚が無駄になったのかが気になるところです。余程繁殖が難しい動物ではない限り、遺伝的に均質なクローン動物を作って絶滅を防ぐよりは、繁殖技術と環境整備にお金を費やしたほうが現実的です。

さて、生態学の英語訳はecologyですが、ecologyとは一般的には自然を保全するという意味ができてきます。このような学問の本当の英語訳は厳密にはconservation biologyと呼びます。ちなみに、ecologyという言葉を最初に考えたのは、かの有名な生物学者ヘッケルだそうです。

生態学、すなわちecologyとは環境を含む生態系の記述と解析にあり、生態系を守るかどうかという判断に対しては中立です。同じような関係では、生物学と医学の違いがあります。医学は人の命の大切さを前提としていますが、生物学をいくら学んでも、生命の不思議さは学べても大切さについての結論は出ません。

ほとんどの生態学者は動物の生態系を大切にするでしょうし、生物学者も人や動物の命を大切だと思っていますが、それと学問の立場は関係ないでしょう。

2007年3月22日木曜日

Tamiflu問題

タミフルの青少年への副作用が問題となっています。今週のNatureのNewsでも取り上げられています。
http://ealerts.nature.com/cgi-bin24/DM/y/ec530SoYnI0HjB0BOpc0Ee

と、専門ではないので初めて英語で読んでみて気づいたのですが、Tamifluというのは化学物質名Oseltamivirとインフルエンザ(flu)の造語なんですね。2005年には日本では年間900万件が処方されましたが、残りの世界を全部併せても300万件の処方件数のようです。副作用の問題が日本で大きくなったのにも理由があるようです。

早急に科学的な結論を、という声は大きいですが、何でも科学的に決定できるというのは大きな間違いです。今回の場合は、研究者が製薬会社の寄付を受けていたというのは確かに問題ですが、だからといって簡単に答えが導ける類の問題ではありません。もともとのインフルエンザ患者にも異常行動が見られることが更に話をやっかいにします。調査する数を上げれば相関が見つかるかもしれませんが、何処まで上げれば良いかというのはわかりません。薬を飲まなかったから死亡する患者もいるかもしれません。

「科学的に」証明するには、適切な作法にのっとることが基本です。「俺がそう思うから」というのは客観的とは言えません。適切な作法とはここでは、異常行動と薬物の摂取の有意な相関、を統計的に示すことです。

しかし、自然科学におけるデータは客観的ですが、それを判断するのは人間の主観です。薬の副作用を安全側な基準と危険な基準のどちらで判断するか。これもケースによって違います。抗がん剤など、明らかな延命効果があるものはたとえ副作用が強くても使わざるをえません。その基準を決めるのは科学ではなく行政です。科学的なデータというのは確率計算なのですから。

というのもいかにも投げやりだと思ってしまったので、自分の考え方を書いておきます。

より常識的に考えると、薬を飲むことによって症状が緩和されるなら、薬を飲んだほうが異常行動は少なくなくてはいけません。こちらの方がより安全なテストとなるでしょう。有意な差が見つからなかったということは、逆に言うと、同じ異常行動率であることを否定できなかったということです。つまり、異常行動率が上がることを否定できません。

一般的にはどうすれば良いのか。

自分を守るためにはヒステリックに騒がず、自分で判断する力を身に付けることです。「うちは一階だし、きちんと看るから処方してくれ」と頼んだ方は非常に理性的であると感じます。リスクとリターンという概念と知識を持つことが重要だと思います。

2007年3月13日火曜日

数字のお勉強

プログラミングをしなければならず、ここ二週間ほどは数学に没頭していました。何とか目処がたったので嬉しいです。久しぶりにPerlなどという邪道な言語から離れて、お行儀の良いC言語を使いました。

思えば大学の線形代数の授業はサボりまくっていました。まさか将来研究で使うことになるとは思いもよらず。生物学は特に数学が苦手な理系の人が集まっている感じがしますが、避けては通れません。

とりあえず、偏微分やら二重積分のおさらいからスタートしなければならない羽目に。しかし、数学の良いところは2次元までのイメージができてしまえば、3次元以上はそのまま繰り返していけばなんとかなるところです。が、調子に乗って19次元のデータをぶち込んだら、プログラムが動いているのか止まっているのかわからない状態に... 高速化は別の問題ですが、それだけでも数日使っちゃいそうな予感です。

人生、一番に必要な勉強を科目で言うと国語でしょう(国語というか、国語力)。次に大事なのは... やはり理系なら数学は避けて通れないようです。一応、論理も数学の一部ですね。でも、付け焼刃は日常に戻るとすぐ忘れてしまうのが辛いところです。


2007年3月6日火曜日

DNAは右巻きらせん

「DNAは右巻きらせん」と、どこの教科書にも書いてると思います。

具体的には図のようなんですが、僕はこれを右巻きと呼ぶのか左巻きと呼ぶのか未だに覚えられません。右巻き、左巻きというのは見る方向によって違います。自分から右に巻きながら離れていくものは、左に巻きながらこちらへ向かってきます。しかし、これを右巻きと呼ぶのは、自然科学の中では一般的な定義です。ネジを巻く方向と覚えておくと良いでしょう。これについては実際に間違いは多く、左巻きのDNAが載っているウェブサイトや出版物も数多くあるようです。

右と左って、こどもの頃はなかなか判別できないですよね。箸を持つほうが右という言葉は良く聞きます。僕は小学校に入るまで、ほとんどの文字を鏡字でしか書けませんでした。自分の名前も全部鏡字でした。両親に怒られて直した記憶があります。ダ・ヴィンチは生涯鏡字を書いていたとか。右と左が区別できない脳の構造はどうなっているのか、興味があります。

2007年3月4日日曜日

ヒトとサルの種分化 - 4

前回の続き。

説明が長くなってしまいましたが、論文の説明に戻ります。ヒトのゲノムの中には、いろんな祖先のものが混ざっていると書きました。その状態をHidden Markov Model(HMM)をもとに解析したというのが最初に紹介した論文の内容です。

HMMとは、ある状態が他の状態に変わる確率をモデル化し、実際のデータの状態を推測する方法です。バイオインフォマティクスの領域ではタンパク質のドメインの予測など、様々なものの推測に用いられている方法です。この場合の状態とはDNAの系統関係を指します。たとえば、ある塩基配列が、ヒトでA、チンパンジーでA、ゴリラでT、オランウータンでTだとすると、ヒトとチンパンジーがその塩基配列に関しては一番近縁である確率が高くなります(前回の図Bの赤の部分)。組み換えが何度も起こった場合に、その断片の長さは負の指数分布を取ることが知られているので、状態はそれを条件に切り替わります。

そのようにして計算した場合、ヒトとオランウータンの分岐を1800万年とすると、ヒトとチンパンジーは410万年に分岐したのだろうと結論付けています。この年代は今までの予測と比べても随分近い年代です。また、ヒトとチンパンジーの共通祖先の集団サイズは約65,000で特別に大きい数ではないとしています。

2007年3月1日木曜日

ヒトとサルの種分化 - 3

前回の続き。

極めて短い時間に種分化した三種の関係を考えてみます。これにあてはまる例はヒトーチンパンジーーゴリラの関係です。図Aの太い枝分かれは種の系統樹を示しています。赤、青、緑の線は、DNAの系統樹を示しています(genealogy)。二回の種分化が比較的短い時間に起きると、祖先集団の多型により、DNAの系統樹は種の系統樹とは違ってくることがあります(青と緑の線)。この確率は二つの種分化の間の時間(T)が短いほど、祖先集団の多型が多いほど(集団サイズNeが大きいほど)高くなることが直感的にもわかりますし、理論的にも示されています。

したがって、私たちのゲノムを見た場合には、Bの図のようにヒトとチンパンジーがもっとも近い領域(赤)、ヒトとゴリラがもっとも近い領域(緑)、チンパンジーとゴリラがもっとも近い領域(青)がモザイク状になっていると考えることができます。ヒトともっとも近い種はチンパンジーと言われていますが、それは種という概念によるもので、ゲノムの構成要素をみていくとより複雑に構成されていることがわかります。

つづく。

2007年2月28日水曜日

ヒトとサルの種分化 - 2


(前回の続き)
集団中の二つのゲノム領域が共通祖先にたどり着くまでの時間は様々です。

この理論は、二種のゲノムを比べる場合にも成り立ちます。

図はヒトとチンパンジーのゲノムを比べたものです。二つの遺伝的距離は種分化後の時間と、祖先集団での多型が合体する時間の合計となり、ゲノムの領域ごとに違います。

つづく。

2007年2月26日月曜日

ヒトとサルの種分化 - 1

Genomic Relationships and Speciation Times of Human, Chimpanzee, and Gorilla Inferred from a Coalescent Hidden Markov Model
Hobolth A, Christensen OF, Mailund T, Schierup MH (2007) Genomic relationships and speciation times of human, chimpanzee, and gorilla inferred from a coalescent hidden Markov model. PLoS Genet 3(2): e7. doi:10.1371/journal.pgen.0030007

ヒトーチンパンジーゴリラの三種の関係におけるゲノム進化の研究論文です。 Coalesent Hidden Markov Modelという方法を使って、ヒトーチンパンジーゴリラがいつ分かれたかを論じています。別の方法を使って似たような題材を扱ったものが既に発表されていますが、
目的結果が若干異なっています。

統計的な洗練さに加えて、一般にはわかりにくい現象を扱っているので説明しながら解説しようと思います。

まず、ヒト集団中のゲノムの個人差を見てみましょう。あるゲノム領域について、集団中から任意の染色体を一組取り出してきます。

取り出した二つの領域は共通祖先を持ちます。この二つの領域を共通の祖先までさかのぼって行きましょう。共通祖先から分かれたあと、二つの領域はそれぞれ突然変異を蓄積していきます。
祖先までの道のりは非常に短いかもしれませんし(図A)、長いかもしれません(図B)。共通祖先までの道のりが長ければ長いほど、たくさんの突然変異が蓄積すると考えられます。つまり、祖先が遠くにある二つの領域のDNA配列を比べた場合、多くの場所が違ってきます。

共通祖先までの道のりを示した系統樹をgenealogyと呼びます。phylogenyは種の系統樹、genealogyは遺伝子の系統樹と呼ばれます。遺伝子の系統樹というのは少々昔の定義なので、DNAの系統樹とでもしたほうがわかりやすいでしょうか。ところが、同じ染色体上の領域でも、祖先までの道のりは異なってきます。減数分裂のときに組み換えがあるために、染色体上の領域はバラバラにされて遺伝していきます。2本の染色体を比べた場合に、ある領域はとても近くに祖先を持っていますが、ある領域はとても古い祖先を持ちます。ここまでの考え方はCoalescent Theoryという理論でとても詳細に研究されています。coalescentとは二つのものが合体することを意味します。集団中から二つのゲノムを取ってきた場合、二つは
似ている部分と似ていない部分のモザイク状の構造を取ることになります(図C)。

つづく。

2007年2月22日木曜日

パワーポイントでベン図を描く

「パワーポイントでどうやってベン図を描くの?」

と聞かれて、

「イラストレーター使ったほうが早いですよ」

と答えてしまったのですが、すぐに思いつきました。やってみれば簡単ですね。

オブジェクトのプロパティで透明度を上げれば重なりの部分の色が変わります。どうしても前に出ている円の色が強く出るので、透明度を前から後ろへ徐々にあげていくと良いかと思います。

2007年2月19日月曜日

情報検索

久しぶりに図書館へ行って論文をコピーしてきました。今の研究所には図書はほとんど無いので、阪大にまで足を伸ばさなければなりません。かなり面倒です。とはいえ、いつも同じところに篭っているので、広いキャンパスに出かけるのは息抜きになります。

最近はPDFで大方の論文が読めるようになったので便利ですが、なぜか30年くらい前の論文が必要になってしまったので、本からコピーしないとどうしようもありません。学生時代は図書館に行く機会が多かったのですが、最近は本当に用事が少なくなってしまいました。今はウェブ検索で文献をチラ見することができますが、昔は文献を集めるのにも一日がかりでした。気になる文献を全部コピーするわけにも行かないので、山のように本を積んでは、斜め読みで必要なものだけ抜き出してコピーすることが必要でした。
情報=体力。情報を集めることはそれだけで一仕事だったのです。

研究において一番やっちゃいけないのは人が既にやったことを知らずに研究することです。年をとってくると予備知識が増えていくので簡単に判断できるようになりますが、研究を始めたばかりの学生の時は、何が新しくて何が古いのか全く情報がありません。

今ではネットに情報が洪水のように溢れています。昔一日かけて集めた情報が、コンピュータの前だけで手に入ります。何の知識もない学生がWikipediaを見てすばらしい情報量のレポートを書くこともできます(教官が存在を知らなかったら、ですが)。人々は今まで情報を集めるのにかけた時間を、更に多くの情報を集めることに費やさなければいけません。子供の頃に、未来の歴史の教科書は分厚すぎて困るんじゃないだろうかといらぬ心配をした記憶がありますが、今はまさにそれが現実となっているところでしょう。

専門知識だけでなく、巷に溢れるトリビアのおかげで薀蓄のありがたみが薄れてきているように、タダの物知りである学者は必要とされなくなるでしょう。そうであってはいけないと自分には言い聞かせていますが、なかなか難しいところです。

と、本日コピーした論文ですが、半分ばかりコピー機の横に忘れてきたのに気づきました。気がついてもあとの祭り...

知識よりも短期記憶が欲しい今日この頃です。

2007年2月16日金曜日

渡米覚書

昔のデータを整理していたら、ポスドクでシカゴ大学にいったときのメモが見つかりました。

2002年3月3日に出国しました。セットアップなんかの事務手続きの参考になるかと思います。現在のコメントをつけてみました。古いデータなので現在と違うところがあると思います。

---出国前---

住居
契約が一月一杯だったので、仕方なく8年住んだ家を出る。不動産屋に更新は無しとの旨を告げてFAXで解約届。月8万くらいで探してウィークリーマンションを借りようと思ったのだが、受験シーズンなのか、2月からは割高になる。かつ諸サービス料を含めるとかなり高い。なので綾瀬の兄貴の家に居候。あとでクリーニング料金3万くらいを引いて、11万敷金が帰ってきた。驚き。

住民票
住民票移動の手続きは出国の2週間前から可能。役所に行って提出。同時に国民年金の手続き。海外にいる間は払う必要はないのだが、後のために払っておいてもよい。その場合は、同じ区に代行者がいない場合は、日本国民年金協会に代行して払ってもらう。手続きは結構面倒だが、海外から郵送でも申し込めるとのこと。住民税は、先年度の分を今年払わなければいけないので、親を納税代理人にしてもらう書類をもらってきた。今年分も払うが、向こうでしか所得がないので課税されないはず。

引越し
ほとんどのものは捨てた。貰い手があるものはどんどんあげてしまった。兄貴の家が家具がなくて悲惨な状態なので、ハイエースを借りて運んだ。運んだものはテレビ、ビデオ、テレビ台、ベッド、自転車、本棚、こたつ、電子レンジ。冷蔵庫は捨てるのにお金が取られた。リサイクルセンターだったかで申し込んで業者が取りにきた。5000円くらい。そのほかのものは区の粗大ごみとして捨てた。1500円くらい。

ビザ
DS-2019が2/12日にシカゴからFeDexで届いた。テロ以降、直接アメリカ大使館に行くのはNGになったので、郵送で大使館に送るか、代理店で頼むかの二択。代理店の方が早いと聞いて代理店に。他に必要なのは、パスポート、インビテーションレター(収入が書いてくれてたので助かった)、157,8,9の書類。これらはインターネットでPDFがあった。木曜日に旅行代理店で申し込み。手数料1万円くらい。大体1週間、遅くても2週間で出るらしい。同じ店で航空券も頼んだので、ビザが遅れた場合は自動的に航空券も後にずらしてくれる。ただし、出発の3日前にビザが取れてるのが条件。結局ビザが出るまでに15日間かかってしまい、予定がかなりずれてしまった。イラク情勢辺りが影響したのか。向こうについてから、International Houseを予約してもらってたので、それを何度かずらしてもらった。結局3月3日に出発がずれて、航空運賃も1万円ほど高くなってしまった。

*コメント:
 ビザの事務書類が遅れたおかげで出発が延び、何度もお別れ会をやってもらったのが心苦しかったです。

奨学金
育英会に猶予期間延期願(大学院特例用)を出す。海外ポスドクは5年まで延ばせるみたい。裏に機関の印鑑が必要と書いてあるが、よくわからなかったのでインビテーションレターの写しを添えて出した。同時に住所および連絡先を実家に変更。

お金
三井住友銀行で1万ドル分のトラベラーズチェックを作ってもらった。これを持っていってそのまま向こうで口座を開設する予定。しかし、いきなり店に行ったら、100ドルのT/Cしかなく、1000ドルのやつは取り寄せになった。結局二日後に行って取ってきた。別の話では、新宿かどこかに専門の場所があるらしい。

電気・水道・NHK・携帯・電話
電話、電気、水道は電話一本で解約できた。NHKはオペレーターに話した後に、官製はがきで廃止届というものを出さなければいけなかった。プロバイダはメールで解約届、ADSLのモデムがレンタルだったので宅配便で送る。携帯は出発当日にドコモの店で解約する予定。

---渡米後---

大学の手続き
とりあえず最初にオフィスに行くと、数枚フォームに記入させられた。それから税金用のフォームを渡されて次の日に持ってくるように言われた。次の日には保険関係の書類一式をどっさり渡されて、二日後に持ってくるようにと言われた。読めるわけないじゃん。とりあえず大枠は把握したが、どのフォームに書いたらいいのかさっぱりわからず。それとは別に頼んで、鍵と自前のPCのIPアドレスを取得してもらうことにした。WinXPはプロフェッショナルのほうが大学でサイトライセンスがあるそうだ。保険は、健康保険と歯科保険をそれぞれ2タイプから選ぶ方式。PPOとHMOといい、前者は好きな医者にかかれる代わりに基本料金高。後者はその逆。決まった医者にかからなければいけない。とりあえず健康保険は前者、歯科保険は後者にした。やはり日本語話せる医者にかかれると心強い。そのほかの生命保険、長期休業保険みたいなのは掛け金が安いのでとりあえず入っておく。

銀行口座の開設
Citibankがラボから歩いて2,3分のところにあるので口座を開設しに行った。New accoutの窓口があったのでそこに直行。パスポート、T/C、大学からのインビテーションレターの三つで開設できた。銀行は空いていたし、受付のおっさんがかなり好印象な対応だった。住所を証明するものが必要だということ。International Houseという学生会館みたいなところに泊まっていたので、そこの事務員に宿泊証明見たいのを書いてもらって、二日後に持っていくことにする。1年の期限付きで学生用のサービス口座みたいのに入ることができた。手数料とかがおとくらしい。利息なしのchecking accountと利息ありのsaving accoutがあって自由に移せるようなのでとりあえず半分ずつ入れることにした。その場でカードをもらうことができた。口座はしばらくアクティブにならず、$150しか引き出せないようになっていたが、一週間後には正常になっていた。SSN取得後に知らせに行くと。次の日に電話してデビットカードをアクティブにするようにと言われた。

*彼はシカゴ大のポスドクである、給料はいくらである、ということが書かれたレターは入国のとき必要ですが、入国後もあらゆる場面で活躍しました。水戸黄門の印籠か。

SSN
オフィスの場所がダウンタウンにあって面倒。SSAのインターネットサイトで申請用のフォームがダウンロードできるので先に書いておくと良い。必要なのはパスポートとI-94の半券。場所はダウンタウンの大きなビルの3階。ビルの中にはいろんなオフィスが入ってるようで、SSオフィス自体は小さかった。入ってすぐの守衛さんに新しいのを欲しいと言うと、受付のPCの青いキーを押せと言われて、それで受付の番号をゲットする。椅子で待っていると30分くらいで窓口に呼ばれる。場合によってはかなり待たされるかも。住所の証明を念のため持っていったが必要なかったようだ。パスポート、フォーム、I-94、それからIAP-66(本当は名前が変わったが相変わらずこうやって呼んでるようだ)も必要だった。2週間くらいで発行できるので、レシートを受け取ったらその番号に受け取ったことを電話しろという感じの説明を受けた。後日カードが届いたが、別に電話はかける必要はないようだ。聞き間違い?

日本領事館
在留届を出さなければいけないらしいので出しに行く。ダウンタウンのループから歩くと30分くらいかかった。Michigan Aveを北に歩いてChicago Stとの交差点の東側。誰も人がいなかったので、窓口が開くのを10分くらい待って提出して終了。

住居選び
いきなり電話で交渉するのを避けたかったのでまずはインターネットで探す。条件にあった物件を紹介してくれて、それから個別のマネージメント会社を紹介してくれるようだ。最初の条件で$700までとか書いたら、かなり高級なところを紹介された。もっと安いところをと返信メールを打つが返事はなし。仕方ないので別のサイトで探したところ、なかなかよさそうなところがあったので今度は電話。しかし留守番電話で返事なし。ってことで直接行って交渉することにした。電気、水道、ガス、管理費混み、ワンルームだがクローゼットとダイニングがついて(日本で言うと1Kと1DKの中間くらい)$598/m。建物の小奇麗さ、セキュリティの良さから見てもなかなかリーズナブルな感じ。いろいろとサインして(10枚くらい)Casher's checkで一月+セキュリティデポジット(110%)を払って契約。Casher's checkというのはよくわからないが、両替所(currency exchange)で手数料を払って切ってもらうようだ。毎月の家賃はパーソナルチェックで払える。水周りが調子悪かったり、スチームから変な音がしてたり、火災報知器がアホみたいに敏感だったり(取り外し済み)全く問題がないわけではないが、おおむねリーズナブルで良いアパートだと思う。

*火災報知機をはずすのは違法です。

電話
電話だけは自分で頼まないといけなかった。色々と証明書をコピーしてFAXで送る。が、指定の時間になってもつながらない。ラボから電話して色々と聞いてみるが解決せず。結局、自分がつなげた電話線のジャックが死んでいたようだ。別のジャックにつないだら普通につながった。ああ恥ずかしい。

税金
初めての給料をチェックで貰ったのだが、話ではJ1ビザのポスドクは最初二年間税金は取られないと聞いていたのに取られていたので焦る。どうやら最初に申請しないといけないようだ。オフィスに頼んでフォームを二つ書く。月々$350くらい取られるのは痛い。気づいて助かった。しかし取られた分は確定申告しなければ戻ってこないらしく、3ヶ月くらいかかったとのこと。

*払った税金は後日無事に戻ってきました。


ハイドパーク内で暮らす分には取り立てて必要ないのだが、やっぱりあると便利だということで購入。インターネットのオークションサイトを探して車を決定。Dodge Neon 2000 $4,600。Blue Bookでは$7,000以上はするのでかなりお買い得か。詐欺のための保険もあるし、ディーラーのレーティングもあるので比較的安心して買い物ができる。しかし、問題は輸送費だった。Clevelandから輸送してもらうことになっていたのだが、$3-400くらいかなぁと見積もっていたら$6-700くらいかかるらしい。ってことで週末にドライブがてら車を取りに行くことにする(300マイル以上離れているのだが・・・)保険のほうはカードと一緒にプレミオカードのやつに入る。$1,745/yearとちょっと高めだったが、急ぎで入りたかったのと日本語が通じるのでとりあえず契約。車を取りにいくのに借りたレンタカーは$100くらい。

*e-bayで車を買って
Clevelandに取りに行ったと話したら、crazyと言われました。初めての一人旅で面白かったです。

運転免許
自分の車で試験場まで行く。パスポート、ソーシャルセキュリティーカード、電話の請求書でIDはパスできた。事務手続き(臓器提供と投票権、身長、体重について聞かれる)、料金の支払い($10)、視力検査、そして筆記テストの問題を受け取る。終わったら再び窓口に行き採点してもらう。問題は35問中20問の択一問題。15問の標識のテスト。合計28問以上正解でパスらしい。合格すると車を回して路上試験の順番の列に並ぶ。待っている間に車のチェック(ホーン、シグナル、ブレーキランプ)を受ける。数人はこの段階で落とされていた。順番になると試験官が乗り込んでくるので後は指示通りに運転する。信号を二つほど抜け、何度か右折、左折を繰り返した後に小道に入り、バックで方向転換。5分もかからない簡単なドライブで終了。簡単すぎ。

*運転免許が無いとビールが飲めないので運転免許は必須です。

2007年2月8日木曜日

アブストラクト長すぎ

どこかで「もっとも著者が多い論文」というのが笑いものにされていました(ソースは失念、検索したが見つからず)が、それ以上に怪しい論文をPubMedでたまたま見つけました。

こちら

PubMedは医学生物学関係の論文のデータベース(Medline)の検索システムです。すべての論文が載せられるわけではありません。

思わず吹き出してしまいますね。しかも途中で切られてしまっています。たぶんもっと長かったのでしょう。

アブストラクトとは要旨のことで、普通の場合は文字数に制限があります。論文の内容を短くまとめたものでなければなりません。

然るにこの有様。どうやら本文は中国語で書かれたものですが、雑誌名もなく、論文の中身がそのままぶちこまれています。ここまで書くんだったら最初から英文で出せばよかったのに...

2007年1月31日水曜日

猫の目

さて、論文の解説などはどうしても専門用語が多くなってしまいますが、同じ分野を学ぶ学生さんが勉強になるレベルを想定して書いています。それ以外のことはもっとわかりやすく書くよう努力したいと思っています。

で、タイトルの「猫の目」は生物の話じゃなくて、人の意見は変わるもの、ということ。
「首尾一貫したコメントはできないかもしれないけど許してね」、ということです。

あまりにも意見がコロコロ変わって焦点が定まらないのは論外ですが、自分の間違いに気づいたときは、昔の意見に固執してはいけないというのが僕のポリシーです。なにも研究に限ったことではないですが、客観的な判断力が必要な分野では特に重要です。

僕のアメリカでの恩師は典型的な朝令暮改タイプでした。アイデアがどんどん出てくる。前の日に用意しろと言われたデータを持っていくと、次の日には解釈が違います。前の日に彼が言ったことを繰り返すと、それが如何に間違っていたかを熱っぽく語ってくれます。まるで自分が怒られているかのよう。そして一度方針が決定すると、あとは一気に仕事を進めていきます。

企業などでは嫌われるタイプの上司かもしれませんが、研究の分野では彼のような人物が必要とされますし、まさに尊敬すべき先生です。

隣の部屋のポスドクは、「彼の頭の中はスパゲッティだ」、と言っていましたが、そのおかげでとてもエキサイティングな研究生活を過ごせました。自分には無いエネルギーなので、なんとかその秘密を盗んでやろうと思いましたが、願いは叶わず。

突拍子も無いアイデアでも、よく練ってみればそのうち幾つかは大きな花火になるかもしれません。お馬鹿なアイデアを気軽に出せる環境は、叩かれまいとする意識が強い日本にはあんまりないような気がしますね。

馬鹿になれ。

猪木さんが言うとあまり説得力がありませんが(笑)、ノーベル賞取った人が言うと説得力があるような気がします。

2007年1月30日火曜日

ネズミかイヌか

生物種の進化の軌跡を系統関係と呼びます。古くは形態学的特長によって分類が成されていたのですが、最近はDNA解析手法の発達によって遺伝学的な系統関係が決定されています。それでは全遺伝子を解析すれば系統関係は完全にわかるのか?
ところがそんなにすんなり行かないというのが今回の話です。

今週、同時に2本の論文が出ています。


Cannarozzi G, Schneider A, Gonnet G (2007) A Phylogenomic Study of Human, Dog, and Mouse. PLoS Comput Biol 3(1): e2

Nikolaev S, Montoya-Burgos JI, Margulies EH, Program NCS, Rougemont J, et al. (2007) Early History of Mammals Is Elucidated with the ENCODE Multiple Species Sequencing Data. PLoS Genet 3(1): e2

後者の方はAfrotheria(アフリカ獣類:ゾウとかツチブタ)の系統関係の解明を中心に据えているので、直接は比較できませんが、前者の論文は霊長類(ヒト)-食肉類(イヌ)-げっ歯類(ネズミ)の系統関係について解析を行っています。この3つの系統は80~100万年前くらいに分かれたといわれていますが、
現在までその関係には様々な論争がありました。方法やデータによって結果が違ってくるのですが、霊長類-げっ歯類が一番近いという意見が優勢でしょう。

系統樹を描くには主に遺伝子の配列が用いられますが、解析する遺伝子が違うと結果にもバラツキが出てきます。また、げっ歯類は世代時間が短いため、時間当たりの突然変異率が高いと言われています。そのため、Long Branch Attraction (LBA) という統計的な偏りが生み出され、真の系統樹がうまく描き出されないのではないかということが指摘されています。で、使う遺伝子の数が少なくて統計的な誤差がでるのなら、全ゲノムを使って決めてみようではないかというのが上の論文。

上の論文では、有袋類のオポッサム(またはニワトリ)をアウトグループとして、ヒト-イヌが統計的に有意にサポートされるという結論を示しています。目を通してみましたが、方法論的には特に間違いは無さそうです。ところが、下の論文ではより少ない遺伝子、多くの種を用いて、方法も異なっていますが、霊長類-げっ歯類が親戚同士になっています。

遺伝子によって得られる系統関係が違うのは単純な統計的なノイズが原因のほかに、3種の分岐時間が比較的近ければ、祖先集団の多型があることによりしばしば起こります。ヒト-チンパンジー-ゴリラの3種の系統関係はこれまで何度も議論となりましたが、現在ではヒト-チンパンジーが最も近縁であると考えられています。また、種分化の途中に集団間での遺伝子交流があれば同じく偏った観察結果が得られるはずです。ここら辺も含めたモデル化ができれば、全遺伝子というデータはそろっているわけですから、より真実に近い結果が得られるのではないでしょうか。自信を持って答えるにはもう少し時間がかかりそうです。ひとつ言えることは、これら3つの系統の分岐は非常に短い時間で起こった、ということです。最近のトランスポゾンからのデータでもコウモリもかなりの確率で食肉類の中に入るようですし、クジラやイルカもウシやヒツジの兄弟ですから、極めて短い時間にいろんな形態の哺乳類の祖先が生まれたことになります。ただし、トランスポゾンのような直接的な証拠も、上に述べた祖先集団の多型の問題にひっかかるので、今回の問題に関しては十分な数を調べなければいけないと思います。

はじめに

日本語のウェブページが無かったので、研究者としてのブログを作成しました。長々と書くのはあまり好きではないのですが、自身の向学と情報発信のためです。

研究生活
(進化生物学)の雑感や最新のトピックをメインにします。間違いは最善の努力を持って訂正いたしますが、内容の正確さについて保証するものではありません。また、ここでの発言は本人が所属する機関とはなんら関係の無いことを断っておきます。